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40・責任
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セルシュが扉を開けると、薄暗い部屋の隅でこちらを見つめている少年達が見えた。モーリタスは二人を庇う様にして床に座っている。
「…こんばんは」
「ひっ!」
感情の全くこもらない声で言葉を掛けると三人に緊張が走った。
わたしが誰か知らないと取れる彼らの反応にほっとする。今のわたしはただの誘拐犯。三人には、その怖さや緊張でわたしの言葉に集中してもらわなければいけない。
「おっ……お前は誰だ!」
モーリタスは緊張しながらも状況を掴みたいのか、わたしに問いかけた。
「誰でもいいよ」
わたしが敢えて吐き捨てる様にそう告げると、その言葉に三人は更に恐ろしさが増したのかびくりと身を固くした。
薄暗い中だと相手が子供でもこの状況下では不安で怖くなるようで、顔色は悪くなり三人は身体を寄せ合った。その不安な気持ちに便乗して、わたしは暫く無言で三人を睨む様に見下ろしていた。わたしの後ろにはセルシュがいて、彼も三人に威圧をかけている。
三人は薄暗い灯りの中で更に不安と恐怖に襲われていた。
「……俺達を誘拐してどうするつもりだ」
緊張と不安を打ち消す様にモーリタスは声を振り絞る。
手を縛られて動きにくそうなのに、二人をわたし達から少しでも隠そうと身体を動かしている。そのモーリタスに護られているヨーエンとダルトナムは、モーリタスを心配そうに見つめていた。きっとこの三人は本当に仲が良いのだろう。
「身代金を狙っても俺の家からは絞り取れないぞ」
「…何故?」
「父上は自分の意に沿わない者には容赦しない。こんな事したって……お前らも俺も殺されるだけだ」
モーリタスは苦しそうに声を出す。悔しい様な悲しい様な辛い顔だった。
「ふぅん。何故そう言い切れる?」
父親を否定しているモーリタスに、わたしが感情のこもらない口調のまま尋ねた。
「父上は自分の部下も気に入らないと平気で殺すやつなのさ」
やっぱりモーリタスはツィードの言葉を信じきっている。父親に対するやりきれない怒りや苦しさがその言葉には滲んでいた。
モーリタスの立場では従者であるツィードの言葉は疑う余地がないのかもしれない。でもだからといってそれをそのまま信じる事はただの傀儡で駒にしかならないんだよ。そのせいで戦争に一歩近付く可能性があるなんてこの子達は思ってもみないだろう。
これがわたしの勝手な憶測だという可能性もあるけれど、わたしの前にいる彼らが親を貶める為に反抗しているのは事実だ。今彼らはまんまとツィードの駒として掌で踊らされている。
もしかして、ゲームでのモーリタスの悪役令嬢への断罪はこんな風に誰かの甘言に丸め込まれたりしたのだろうか。
……モーリタスはヒロインの虜になって彼女の為にアイラヴェントを貶める訳だから、それもあながち間違いではないのか。
そう考えると、アイラヴェントの為にも今ここでモーリタスを何とかしなければいけないな、と思う。アイラが辛くなるかもしれない未来は徹底的に潰さなきゃいけない。
「君はそれを見たのかな?」
「えっ?」
吐き捨てる様なモーリタスの言葉にわたしは敢えて蔑む様に聞いた。モーリタスはその質問が予想外だったらしく、驚いて目を見開いた。
「自分で直接見たのかと聞いてるんだけど」
「そ、れは……見ては、いない…けど」
モーリタスはわたしの言葉に困惑しているのか、その答えは小さく掠れ、答えた後そのまま床に視線を落とした。
わたしとモーリタスのやり取りをセルシュは何も言わずに聞いていた。どうやらわたしに任せる事にしたらしい。
「見てないなら何の確証があってそんな事を言う?」
「おっ、俺はそう聞いたんだ!父上はそういう男だって!だからっ……!」
「モーリィ……」
モーリタスはわたしの言葉を打ち消す様に叫んだ。彼の中で信じている事が揺らいだのがわかる。チャルシット様への色んな気持ちがモーリタスの叫びに混ざっていた。
彼の後ろにいる二人はとても心配そうにモーリタスを見守っている。
そんな彼にわたしは更に容赦なく言葉を続ける。
「へぇ、聞いただけなんだ。何でそれを信じるの?」
「だ…だって、ツィードがそう言って……」
「ツィード?誰?それは」
「俺の従者だ」
「……何で自分を雇っている家の事を貶めているのに君は疑問に思わないのかな」
わたしはわざとらしく大きなため息を吐いてモーリタスを蔑むような視線を投げた。
「雇い主は君の父親のはずだよね。自分の雇い主をそんな扱いで蔑んでいる君の従者の言葉を、君は信じているんだね」
「あ……」
本当はコランダム侯爵がツィードをモーリタスの家にうまい事ねじ込んできただけだから、厳密にはチャルシット様が直接雇った訳ではないけれど。
そんな事は知らないモーリタスがわたしの言葉を理解してショックを受けているのがわかった。
「君は目先の都合のいい事しか信じられない人なんだね」
「あ…ちっ、違う……」
「何が違う?現に確認もしないでその従者の言葉を君は都合よく信じているじゃない。そんな勝手な気持ちに友達まで巻き込んで」
動揺するモーリタスを見下ろしたまま、わたしはひとつ息を吐いて言葉を続けた。
「君は、君のそんな自分勝手な思いで友達も友達の家も潰すんだ?傲慢だね」
自分が正しいと思うのは勝手だけど、家族や友達、更にその友達の家までこのままだと潰される事になる。その事に気付いて欲しかった。
「そんな……」
モーリタスはがっくりと肩を落とした。先程迄の威勢は全くなくなり混乱して声も震えている。
「どう責任をとるつもり?」
自分のやった事に最後まで責任を持つのはとても大事だ。その行動が最後何処まで行くかの見極めをして行動しなければならない。
この子達は侯爵家の息子なんだからそれは余計に考えなければならない事だった。
「責任……」
思ってもみなかった言葉に愕然としてモーリタスは固まってしまった。
◆ ◆ ◆
読んでいただきましてありがとうございます。
「…こんばんは」
「ひっ!」
感情の全くこもらない声で言葉を掛けると三人に緊張が走った。
わたしが誰か知らないと取れる彼らの反応にほっとする。今のわたしはただの誘拐犯。三人には、その怖さや緊張でわたしの言葉に集中してもらわなければいけない。
「おっ……お前は誰だ!」
モーリタスは緊張しながらも状況を掴みたいのか、わたしに問いかけた。
「誰でもいいよ」
わたしが敢えて吐き捨てる様にそう告げると、その言葉に三人は更に恐ろしさが増したのかびくりと身を固くした。
薄暗い中だと相手が子供でもこの状況下では不安で怖くなるようで、顔色は悪くなり三人は身体を寄せ合った。その不安な気持ちに便乗して、わたしは暫く無言で三人を睨む様に見下ろしていた。わたしの後ろにはセルシュがいて、彼も三人に威圧をかけている。
三人は薄暗い灯りの中で更に不安と恐怖に襲われていた。
「……俺達を誘拐してどうするつもりだ」
緊張と不安を打ち消す様にモーリタスは声を振り絞る。
手を縛られて動きにくそうなのに、二人をわたし達から少しでも隠そうと身体を動かしている。そのモーリタスに護られているヨーエンとダルトナムは、モーリタスを心配そうに見つめていた。きっとこの三人は本当に仲が良いのだろう。
「身代金を狙っても俺の家からは絞り取れないぞ」
「…何故?」
「父上は自分の意に沿わない者には容赦しない。こんな事したって……お前らも俺も殺されるだけだ」
モーリタスは苦しそうに声を出す。悔しい様な悲しい様な辛い顔だった。
「ふぅん。何故そう言い切れる?」
父親を否定しているモーリタスに、わたしが感情のこもらない口調のまま尋ねた。
「父上は自分の部下も気に入らないと平気で殺すやつなのさ」
やっぱりモーリタスはツィードの言葉を信じきっている。父親に対するやりきれない怒りや苦しさがその言葉には滲んでいた。
モーリタスの立場では従者であるツィードの言葉は疑う余地がないのかもしれない。でもだからといってそれをそのまま信じる事はただの傀儡で駒にしかならないんだよ。そのせいで戦争に一歩近付く可能性があるなんてこの子達は思ってもみないだろう。
これがわたしの勝手な憶測だという可能性もあるけれど、わたしの前にいる彼らが親を貶める為に反抗しているのは事実だ。今彼らはまんまとツィードの駒として掌で踊らされている。
もしかして、ゲームでのモーリタスの悪役令嬢への断罪はこんな風に誰かの甘言に丸め込まれたりしたのだろうか。
……モーリタスはヒロインの虜になって彼女の為にアイラヴェントを貶める訳だから、それもあながち間違いではないのか。
そう考えると、アイラヴェントの為にも今ここでモーリタスを何とかしなければいけないな、と思う。アイラが辛くなるかもしれない未来は徹底的に潰さなきゃいけない。
「君はそれを見たのかな?」
「えっ?」
吐き捨てる様なモーリタスの言葉にわたしは敢えて蔑む様に聞いた。モーリタスはその質問が予想外だったらしく、驚いて目を見開いた。
「自分で直接見たのかと聞いてるんだけど」
「そ、れは……見ては、いない…けど」
モーリタスはわたしの言葉に困惑しているのか、その答えは小さく掠れ、答えた後そのまま床に視線を落とした。
わたしとモーリタスのやり取りをセルシュは何も言わずに聞いていた。どうやらわたしに任せる事にしたらしい。
「見てないなら何の確証があってそんな事を言う?」
「おっ、俺はそう聞いたんだ!父上はそういう男だって!だからっ……!」
「モーリィ……」
モーリタスはわたしの言葉を打ち消す様に叫んだ。彼の中で信じている事が揺らいだのがわかる。チャルシット様への色んな気持ちがモーリタスの叫びに混ざっていた。
彼の後ろにいる二人はとても心配そうにモーリタスを見守っている。
そんな彼にわたしは更に容赦なく言葉を続ける。
「へぇ、聞いただけなんだ。何でそれを信じるの?」
「だ…だって、ツィードがそう言って……」
「ツィード?誰?それは」
「俺の従者だ」
「……何で自分を雇っている家の事を貶めているのに君は疑問に思わないのかな」
わたしはわざとらしく大きなため息を吐いてモーリタスを蔑むような視線を投げた。
「雇い主は君の父親のはずだよね。自分の雇い主をそんな扱いで蔑んでいる君の従者の言葉を、君は信じているんだね」
「あ……」
本当はコランダム侯爵がツィードをモーリタスの家にうまい事ねじ込んできただけだから、厳密にはチャルシット様が直接雇った訳ではないけれど。
そんな事は知らないモーリタスがわたしの言葉を理解してショックを受けているのがわかった。
「君は目先の都合のいい事しか信じられない人なんだね」
「あ…ちっ、違う……」
「何が違う?現に確認もしないでその従者の言葉を君は都合よく信じているじゃない。そんな勝手な気持ちに友達まで巻き込んで」
動揺するモーリタスを見下ろしたまま、わたしはひとつ息を吐いて言葉を続けた。
「君は、君のそんな自分勝手な思いで友達も友達の家も潰すんだ?傲慢だね」
自分が正しいと思うのは勝手だけど、家族や友達、更にその友達の家までこのままだと潰される事になる。その事に気付いて欲しかった。
「そんな……」
モーリタスはがっくりと肩を落とした。先程迄の威勢は全くなくなり混乱して声も震えている。
「どう責任をとるつもり?」
自分のやった事に最後まで責任を持つのはとても大事だ。その行動が最後何処まで行くかの見極めをして行動しなければならない。
この子達は侯爵家の息子なんだからそれは余計に考えなければならない事だった。
「責任……」
思ってもみなかった言葉に愕然としてモーリタスは固まってしまった。
◆ ◆ ◆
読んでいただきましてありがとうございます。
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