わたしの可愛い悪役令嬢

くん

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42・父上

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「あれ?父上、何でここに?」
 先程通された部屋に戻ると父上とロンディール様がそこのソファーに座っていた。


「お前とセルシュが変な事に足を突っ込んでいると聞いたから心配でな」
 父上は座ったまま微笑んでわたし達を出迎えてくれた。
 そうか、もう既にシュラフが報告していたんだな。『報告・連絡・相談』は大事だものね。それがきちんと出来るシュラフはやっぱりとても優秀だ。
 ……ただいつそんな暇があったのかが謎だけど。



「あちらは何とか落ち着いた様だな」
「はい。父上、ロンディール様。チャルシット様を連れて来て下さりありがとうございます」
 二人がチャルシット様を連れて来てくれたのであの親子の関係はすぐ修復出来た。
 時間が経ってしまうと、もしかしたら気後れして話し辛くなって修復は難しかったかもしれない。父上とロンディール様の気遣いが有難い。
 わたしとセルシュは二人に深く礼をした。その時。

 ゴン!

「いってーっ‼」
「痛っ!」

 わたし達の頭に強力なゲンコツが落ちた。痛さのあまりわたし達はうずくまってしまう。
「お前達は何でそう急ぐ!何故先に俺達に相談せんのだ!何かあったらどーする‼」

 ロンディール様のゲンコツを食らって呻きながらもとても心配させてしまった事に気が付いた。
 今回の誘拐事件に乗じてコランダムとワイマールが何か事を起こす可能性もあったんだ。そう思うと父上達に心配と迷惑をかけていたと思い当たる。
「う……ごめんなさい」
 まだ痛い頭を押さえながらわたしは謝った。
「だってよぅ……いてっ!」
「だってじゃない‼」
 セルシュは更にキツい一発をもらってしまった。
 もう、弁解なんてしようとするから。
「ごめんなさいロンディール様、僕が急いでしまったんです」
 わたしは慌ててロンディール様に説明をした。
「何故急いだ?」
「このままモーリタスが町で好き勝手をする事によって起こる、チャルシット侯爵家の不名誉な評判が立つのを早急に防がないと、大変な事になると思ったからです」
「俺達がコランダムとワイマールの件に関わるのは危険なのはわかってる。それは親父達に任せればいいと思った。だからモーリタス達だけ何とかしようと思って自分達の出来る事をしたんだ」
 ロンディール様はわたし達の話を聞いて黙ったままこちらを見据えた。わたし達も視線を逸らさずにロンディール様を見た。


 やがて大きなため息がロンディール様から漏れた。
「お前達の言い分はわかった。だが今度からは先に報告しろ。いつでもトニンやシュラフがいる訳じゃないんだぞ」
「……はい、わかりました」
「……今度から気を付ける」
 しゅんとしたわたし達の頭をロンディール様は無言でがしがしと撫でてくる。この人なりの優しさが嬉しい。父上はその様子を黙って見守っていた。


「この馬鹿者どもが。帰るぞ」
 ロンディール様はセルシュの腕をがしっと掴み、引っ張る様にして部屋を出る。
「うわっ!ちょっ、親父!?」
 突然の事にセルシュはそのまま連れていかれ、わたしも驚いて反応が出来ない。
「え、あっ……でっ、でもモーリタス達は……?」
「あれはあれで勝手に帰るわ」
「いてーよ親父っ!」
 困惑したままのわたしの言葉に、セルシュを掴んだままのロンディール様はぶっきらぼうに答えた。もがくセルシュの事などお構いなしにロンディール様は裏に停めてある馬車へと向かう。
「クルーディスもほら、早く馬車に乗って」
 立ち上がった父上に迄急かされて、わたしは慌てて馬車に乗り込みそのままお互いの家路へと向かった。




 馬車の中ではちょっと気まずい空気が流れている。

 父上からは普段見ない怒りのオーラが出ているからだ。




 さっきまで笑顔だったはずなのに……どうやらその笑顔の下には別の感情があったらしい。今は表情もなく、わたしと視線を合わす事もしない。
 うん、これは怖い。普段の父上とは全然違う。わたしはどうやら怒らせてはいけない人を怒らせてしまったらしい。
 ……まぁね、わたし達が勝手な事しちゃったから父上が怒るのも仕方がない話なんだけどさ。ロンディール様の仰ってた通り、やっぱり最初に父上に相談したら良かったんだよね……。


「父上……本当にごめんなさい」
 何だか居たたまれなくなりわたしは頭を下げた。
 父上はふぅと息を吐き、やっとわたしと視線を合わせてくれた。
「もうこんなに心配させないでくれよ。シュラフから話があった時には本当に驚いたんだぞ」
 ……ですよね。
 勢いで行動してたから、わたしから父上に話をする暇ありませんでしたし。あのリストを見てからすぐこんな状況ですしね。
「コランダムとチャルシットの確執の件はいずれお前も知るだろうとは思っていたが……まさかあの息子の愚行を諫めるとは思ってなかったよ」
 父上もあのリストでついていた印は、きっとずっとそのままだと思っていたよね。わたしもそう思っていたもん。最初は顔を見たいだけだったし……。
 でもセルシュから話を聞いてしまったら何とかしなきゃと勢いで動いちゃったんです。心配かけてすみません父上。
「なんというか……成り行きでつい」
「『つい』でこんなに心配させるな!」
「うっ!」
 父上からもゴン!と、ゲンコツをもらってしまった。痛い。
 でも父上のゲンコツは痛かったけどロンディール様のものよりは優しかった。


「トーランスからも怒られていたから俺はこの位にしといてやるさ」
 ふふっと父上はわたしに微笑み、両手でわたしの頬を包んだ。
「さっきのお前の攻撃は凄かったな」
「攻撃、ですか?」
「チャルシットの息子達への『口撃』だよ」
 父上もあの部屋でわたしが話していた事を聞いていたのか。
 父上は先程のわたしの言動を思い出しているのか、それはもう楽しそうに笑っている。あの容赦のなかったわたしの言葉は何故か父上にとても喜ばれたようだ。
「流石俺の息子だな!その辺の子供なんか目じゃないな!」
 あの……父上?そんなにうきうきされても困るんだけど……。
 子供としてあれはおかしいでしょ。引く位容赦なかったと思ってるのに、何でそんなに楽しんでるかな。
 相変わらずの親バカ振りにわたしは諦めて父上にされるがままになっていた。
「うーん、やっぱりクルーディスのほっぺは手触りがいいなぁ。流石我が息子!サフィに似て愛らしいな!」
 父上……さっきと褒める内容変わってますけど?そろそろ離してくれないとほっぺつぶれちゃいますから。


 一頻りわたしを構って満足したらしい父上はわたしの頬の手を漸く放してくれた。……助かった、このまま顔がひしゃげるかと思ったよ。
 やっとひと息ついたわたしは気になる事を聞いてみた。
「……父上はあのツィードとか言う人はどうするんですか?」
「お前達があのエセ従者と広場の警備員を捕獲してくれたから、このままコランダムとワイマールの尻尾を掴みたいんだけどな」
「……僕は戦争は嫌です」

 あの二人を何とかしないと戦争が起こるかもしれない。そう思うと怖かった。早く父上やロンディール様に何とかしてもらわなければいけない。
「うん。俺も戦争は嫌だな」
「これで何とかなりますか?」
「俺やトーランス、それとこの国を大事に思っている者達がみんなで何とかするんだよ。お前は心配するな」
 そう言って父上はわたしの頭を撫でてくれた。その大きい優しい手はいつもわたしを安心させてくれる。



 安心した途端、ふわぁと大きなあくびが出てしまう。わたしは慌てて口を押さえた。
 今これはダメでしょ!心配させて迷惑掛けたのに、欲求に負け過ぎだよ自分!

「……ごめんなさい」
「もう休みなさい。いつもなら寝てる時間だからね、疲れただろう?」
 父上はとても優しい顔をしてわたしの肩を寄せた。そのまま父上は脇にわたしを挟み、寝やすい様に抱きしめる。その状態がとても心地よくて、わたしは素直にそのまま意識を手放した。







◆ ◆ ◆

読んでいただきましてありがとうございます。
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