そして二人は妊娠した...............

鏡恭二

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最終話の前の話。

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 卒業式を目前にした夕暮れ。
吉川渉は、西田好美に呼び出された。

「話したいことがあるの」
「了解」

いつものファミレス。子どもの笑い声、カップルの囁き声。
その中に、ひときわ元気な声が響いた。

「おーい!」

手を振る好美の笑顔は、いつも通りだった。
ショートヘアーにくりくりの目。スレンダーな体。
陸上部時代と変わらないその明るさに、どこか胸がざわついた。

 

席につくと、好美はお腹にそっと手をあて、スマホを差し出した。

「……ねぇ、見てくれる?」

画面には、妊娠検査薬の写真があった。
そこには――陽性の文字。

「……えっ」
「私、お母さんになるの。……渉くんは、お父さんだね」

渉は震える声で答えた。
「……そっか。よかったね。お父さんとお母さんにも……話さなきゃね」

 

その瞬間、脳裏に蘇る声があった。

「吉川くんは、好美さんと仲いいのね……」
「そっか、今日は好美さんと……私、我慢する……友達だもんね」
「……私はどっちも傷つけたくない……」

それは、まどか💛の声だった。

「でも……もう我慢しない。私、渉のこと……好き……!」

 

渉は席を立った。

「……ごめん、ちょっとトイレ行ってくる」

鏡の中の自分を見つめる。
そこには、誰かがいた。

「……君は、誰……?」

自分自身に問いかける声が、かすれた。

 

戻ると、好美の周りに人がいた。
陸上部の男子たち――中には先輩の沖瀬の姿もある。

「おお、渉じゃん。久しぶり」

「呼んだの、さっきLINEしたら近くにいたから」

笑いながら好美が言う。

「もっと近くに来いよ」
沖瀬が好美の腰を引き寄せる。

「ちょっとぉ~💛」
ふざけた調子だが、表情には満更でもない色が見えた。

 

ふいに、沖瀬の手が好美の身体を撫でた。
「きゃっ……もう、孝之ずるい~💛」

笑い声が飛び交う中で、渉だけが黙って立ち尽くしていた。

(……これが俺の“恋人”だったっけ?)

 

ファミレスを出ると、身体が勝手に動いた。
家には帰りたくなかった。電車に乗って、気がつけば降りたことのない駅にいた。

そこには、見慣れない光景があった。

 

薄暗い駅前。
雨が降り始めた中、人影がちらほらと集まっていた。

そして、その中に――いた。

 

まどか💛だった。

黒のノースリーブ、光沢のあるプリーツミニ。
どこか薄暗く、でも眩しい存在。

「ねえ、今日……泊めてくれない?
 泊めてくれたらさ……サービスするよ💛」

スカートの裾を、軽くつまんで見せた。

 

渉は衝動的に彼女の手をつかんでいた。

「ちょっ……何すんのよ!」

「やめてよっ!!」

必死に抗うまどか💛の手を、渉は無言で握ったまま歩き出す。

 

雨が強くなる。
その中で、ついにまどか💛は渉の手を振り払った。

「なんで……そんなことしてるんだよ……!」

声が、雨にかき消されそうになる。

まどか💛は――何も言わなかった。
ただ、静かに涙を流していた。

 

近くにあったホテルの光が、ぼんやりと差す。

「……とりあえず、雨宿りしよう。入ろう」

まどか💛は無言でうなずき、渉のあとについていった。

 

シャワーの音が、遠くで響いていた。

そして、しばらくして――
バスルームから出てきたまどか💛は、濡れた髪のまま、渉の胸に飛び込んだ。

「……私……」

「……いいんだ。まどか💛……」

二人は、ただ抱きしめ合った。
言葉ではどうしようもない感情だけが、体温に変わっていった。

 

ベッドの上で、互いのぬくもりを確かめ合う。
そこには、名前のない痛みと、ささやかな安らぎだけがあった。

終わる。まどか💛と渉は、見つめ合う。
まどか💛「好き?」
渉「・・・・・」渉は目を背けた・・・・
まどか💛はそれで、全てを悟った。
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