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フォルネウス兄弟
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「・・・きて、舵夜くん!起きて!」
「う・・・・・・ん」
頭の中で昨晩出会ったジルドゥさんの声が反響する。
昨日眠りについたのは夜中の3時過ぎ。いつもなら7時間十分に寝たとしても二度寝を始め、結局は朝ご飯と昼ご飯がくっついてしまう時間に起きる。それが春休みの大学生というもので、一人暮らしであれば誰かに叩き起こされる必要もない。宅配の時間を夕方にしている僕にとって、朝からインターフォンが鳴ってもどうせ宗教の勧誘だろうから居留守を決める。むしろ、玄関を開けてやらない方が向こうも仕事が減って楽だろう。
しかし、朝早くから美人なお姉さんに叩き起こされるなんて人生初めてのことで、不思議と僕の体は飛び起き、目をくわっと見開いて目の前の状況を読み込もうとする。
叩き起こされるという表現は誤解を生んでしまったかもしれない。実際には叩かれていない。彼女は鉄格子の外から中にいる僕に声をかけていたようだ。
「えっ・・・・・・ここは?」
「よかった!体に別状はないみたいね!でも時間がないわ。なんとかしてあなたを無事解放してもらえるよう話を付けてくるからここで待ってて!」
「えっ?ちょっと待ってください!ここって檻の中?公園の真ん中に?」
自分がまだ夢の中にいるかと思うほどの強引な舞台設計。象さんの鼻を模した滑り台に、地面に半分埋められたタイヤ。そしてブランコに鉄棒。ビルや道路に埋め尽くされた東京において数少ない子どもの遊び場のようだ。グランドには草が生えており、木も何本か植えてある。そして、そのグランドのど真ん中に僕。檻の中にいる僕。鉄格子は錆びていたが、頑丈そうな造りをしている。実家の山近くにこういう檻があったのを思い出す。きっと鹿やイノシシを捕まえるようの檻だ。
鉄格子の隙間からいろんな情報を得ることができたが残念ながら、周りにあるビルのせいで景色は良くない。東京であることは確かだが、誰がこんなことを?
「昨日の晩、彼らに見つかったのよ。フォルネウスに。このままだと、あなたも彼に洗脳され、操られれてしまうわ。そうなってしまったらあなたは元の世界に戻ることはできない」
そういって、彼女はカバンの中から、菓子パンを取り出し、僕の目の前に置く。
「おなかすいたでしょう?ぜひ食べて。今から私はフォルネウスに話をつけてきて、この鉄格子を開けられるものを持ってくるわ。私が返ってくるまで、ここで待ってて」
「わっわかりました」
僕は体を起こし、菓子パンを取り、鉄格子から手を離した彼女に近づく。
「ジルドゥさん。本当に・・・・・・本当に、ありがとうございます。気を付けてください」
「ええ」
彼女はビルの間に消えていった。
「しかし、どうやってここまで・・・・・・」
一人取り残された僕は、パンの袋を破り、中に入っていたクリームパンを食べる。
ジルドゥさんの話を聞いて気になることがある。フォルネウスはあの浜辺から、僕を一度も起こさずにここまで連れてきたわけだが、そんなことが可能だろうか?車を使ったにしろ、僕を起こさないように運び出すのは難しいだろう。僕を洗脳し、操りたいというならば僕をあの浜辺で起こして洗脳した方が楽で早いのではないか?そもそも洗脳とは?なぜ僕を操る必要がある?
もぐもぐとパンを頬張る。うん。僕がどんだけ考えたとしてもわからない。でもきっとジルドゥさんが何とかしてくれるはずだ。この道20年って言っていたし、信頼して大丈夫だろう。むしろここでは何もできないし・・・・・・。
暇だと感じ、ポケットにずっと入れっぱなしだった携帯とビデオカメラを取り出す。携帯をホーム画面を開く。3月4日。時間は9時。
「もしかして・・・・・・」
ビデオカメラも電源を入れ、日時を確認する。
「やっぱり・・・・・・」
ビデオカメラは同じ時間を表していたが、日にちは3月9日を指していた。
「元の世界での俺はどうなってるんだろう・・・・・・」
おそらく携帯はこの世界の電波を受け取ったことで時間が合ったのだろう。しかし、このカメラの時間は手動で設定しなければならない。つまり、このカメラは元の世界の時間を表している。午前9時。この時間帯にはバイトのシフトが入っていた。きっと今頃、バイト先に僕が来ていないことで店長は怒っているだろうな。店長、パートのおばちゃん、西山先輩の顔を思い浮かべ、一人涙ぐむ。もう二度と会えない可能性だってあるんだ。
僕が、遊び半分でパラレルワールドへ行く方法を試したがために、こんなところへ来てしまった。危険な目に会い、ジルドゥさんに迷惑をかけた。こんなところ、誰も来てはいけない。
カメラに保存していたこの世界で撮った動画を消去していく。もし、元の世界へ戻ることが出来たとしても、この世界で撮った動画を投稿する危険性を考えた。視聴者数は少ないものの、この動画を見たことで、パラレルワールドへ行こうと考える人を一人でも増やすことになってはいけない。現実に帰れたら、また違う動画を撮ろう。いや、しばらく休むか。動画投稿もそうだけど急いだからといっていいことは無い。それは人生においても言えるのではないか。毎日、バイトと動画投稿のことばかり考えていたけど、せっかくの春休み。実家に帰って親孝行しにいくのも悪くはないな。
だが問題は、どうやって帰るかだ。気づいたら帰っていた、寝たら帰ったという話もあったが、そういうことは無かった。恐らく、一番効果があるのはエレベーターの方法を試すこと。普通にやる手順と逆の手順をやることを試す必要がある。
「ん?」
ビルの隙間から人が歩いてくる。その人は公園に立ち入り、僕が入っている檻の前に立つ。
その男は紳士らしい服装で、黒いスーツを着ている。髪質はチリヂリでいかにも手入れをしていない様子。ジルドゥさんの話を聞く限り、この男も人じゃないはずだ。異世界からきた人物だろう。もしかして・・・・・・この人が・・・・・・芸術家?
「あっあの・・・・・・あなたは?」
僕は恐る恐る、男に質問する。何をされるかわからないため、狭い檻の中だが、可能な限り男から距離をとる。
「私の名はフォルネウス。舵夜くん。君とお話がしたい」
その男は、檻を開けつつそう話し、僕の方へ手を差し伸べた。
「う・・・・・・ん」
頭の中で昨晩出会ったジルドゥさんの声が反響する。
昨日眠りについたのは夜中の3時過ぎ。いつもなら7時間十分に寝たとしても二度寝を始め、結局は朝ご飯と昼ご飯がくっついてしまう時間に起きる。それが春休みの大学生というもので、一人暮らしであれば誰かに叩き起こされる必要もない。宅配の時間を夕方にしている僕にとって、朝からインターフォンが鳴ってもどうせ宗教の勧誘だろうから居留守を決める。むしろ、玄関を開けてやらない方が向こうも仕事が減って楽だろう。
しかし、朝早くから美人なお姉さんに叩き起こされるなんて人生初めてのことで、不思議と僕の体は飛び起き、目をくわっと見開いて目の前の状況を読み込もうとする。
叩き起こされるという表現は誤解を生んでしまったかもしれない。実際には叩かれていない。彼女は鉄格子の外から中にいる僕に声をかけていたようだ。
「えっ・・・・・・ここは?」
「よかった!体に別状はないみたいね!でも時間がないわ。なんとかしてあなたを無事解放してもらえるよう話を付けてくるからここで待ってて!」
「えっ?ちょっと待ってください!ここって檻の中?公園の真ん中に?」
自分がまだ夢の中にいるかと思うほどの強引な舞台設計。象さんの鼻を模した滑り台に、地面に半分埋められたタイヤ。そしてブランコに鉄棒。ビルや道路に埋め尽くされた東京において数少ない子どもの遊び場のようだ。グランドには草が生えており、木も何本か植えてある。そして、そのグランドのど真ん中に僕。檻の中にいる僕。鉄格子は錆びていたが、頑丈そうな造りをしている。実家の山近くにこういう檻があったのを思い出す。きっと鹿やイノシシを捕まえるようの檻だ。
鉄格子の隙間からいろんな情報を得ることができたが残念ながら、周りにあるビルのせいで景色は良くない。東京であることは確かだが、誰がこんなことを?
「昨日の晩、彼らに見つかったのよ。フォルネウスに。このままだと、あなたも彼に洗脳され、操られれてしまうわ。そうなってしまったらあなたは元の世界に戻ることはできない」
そういって、彼女はカバンの中から、菓子パンを取り出し、僕の目の前に置く。
「おなかすいたでしょう?ぜひ食べて。今から私はフォルネウスに話をつけてきて、この鉄格子を開けられるものを持ってくるわ。私が返ってくるまで、ここで待ってて」
「わっわかりました」
僕は体を起こし、菓子パンを取り、鉄格子から手を離した彼女に近づく。
「ジルドゥさん。本当に・・・・・・本当に、ありがとうございます。気を付けてください」
「ええ」
彼女はビルの間に消えていった。
「しかし、どうやってここまで・・・・・・」
一人取り残された僕は、パンの袋を破り、中に入っていたクリームパンを食べる。
ジルドゥさんの話を聞いて気になることがある。フォルネウスはあの浜辺から、僕を一度も起こさずにここまで連れてきたわけだが、そんなことが可能だろうか?車を使ったにしろ、僕を起こさないように運び出すのは難しいだろう。僕を洗脳し、操りたいというならば僕をあの浜辺で起こして洗脳した方が楽で早いのではないか?そもそも洗脳とは?なぜ僕を操る必要がある?
もぐもぐとパンを頬張る。うん。僕がどんだけ考えたとしてもわからない。でもきっとジルドゥさんが何とかしてくれるはずだ。この道20年って言っていたし、信頼して大丈夫だろう。むしろここでは何もできないし・・・・・・。
暇だと感じ、ポケットにずっと入れっぱなしだった携帯とビデオカメラを取り出す。携帯をホーム画面を開く。3月4日。時間は9時。
「もしかして・・・・・・」
ビデオカメラも電源を入れ、日時を確認する。
「やっぱり・・・・・・」
ビデオカメラは同じ時間を表していたが、日にちは3月9日を指していた。
「元の世界での俺はどうなってるんだろう・・・・・・」
おそらく携帯はこの世界の電波を受け取ったことで時間が合ったのだろう。しかし、このカメラの時間は手動で設定しなければならない。つまり、このカメラは元の世界の時間を表している。午前9時。この時間帯にはバイトのシフトが入っていた。きっと今頃、バイト先に僕が来ていないことで店長は怒っているだろうな。店長、パートのおばちゃん、西山先輩の顔を思い浮かべ、一人涙ぐむ。もう二度と会えない可能性だってあるんだ。
僕が、遊び半分でパラレルワールドへ行く方法を試したがために、こんなところへ来てしまった。危険な目に会い、ジルドゥさんに迷惑をかけた。こんなところ、誰も来てはいけない。
カメラに保存していたこの世界で撮った動画を消去していく。もし、元の世界へ戻ることが出来たとしても、この世界で撮った動画を投稿する危険性を考えた。視聴者数は少ないものの、この動画を見たことで、パラレルワールドへ行こうと考える人を一人でも増やすことになってはいけない。現実に帰れたら、また違う動画を撮ろう。いや、しばらく休むか。動画投稿もそうだけど急いだからといっていいことは無い。それは人生においても言えるのではないか。毎日、バイトと動画投稿のことばかり考えていたけど、せっかくの春休み。実家に帰って親孝行しにいくのも悪くはないな。
だが問題は、どうやって帰るかだ。気づいたら帰っていた、寝たら帰ったという話もあったが、そういうことは無かった。恐らく、一番効果があるのはエレベーターの方法を試すこと。普通にやる手順と逆の手順をやることを試す必要がある。
「ん?」
ビルの隙間から人が歩いてくる。その人は公園に立ち入り、僕が入っている檻の前に立つ。
その男は紳士らしい服装で、黒いスーツを着ている。髪質はチリヂリでいかにも手入れをしていない様子。ジルドゥさんの話を聞く限り、この男も人じゃないはずだ。異世界からきた人物だろう。もしかして・・・・・・この人が・・・・・・芸術家?
「あっあの・・・・・・あなたは?」
僕は恐る恐る、男に質問する。何をされるかわからないため、狭い檻の中だが、可能な限り男から距離をとる。
「私の名はフォルネウス。舵夜くん。君とお話がしたい」
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