”オマケ”の狐はお暇したいと思います

雨宮天音

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Ceci n'est pas une rêve.(これは夢ではない)

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突然の浮遊感ののち今度はすぐに地面が現れた。
地面が現れたというより尻餅をついたと言った方が正しいかもしれないが。
俺にとっては地面が尻と手の平と足の下にの下に現れたのだ。

突然現れたから受け身もとれず。
元から受け身なんてとれなかったけど。
それはさておき。

尻餅をついた尻が痛い。
思いっきりついた左手も痛い。
挙句の果てにはなぜか飲みかけのペットボトルが戻ってきたせいで右手も捻挫ねんざした。

これ捨てといてくれても良かったのに。
飲みかけはリサイクルに回せないから自分で捨てろってこと?

カラカラと転がるペットボトルの乾いた音と上から落ちてきたブリーフケースのぶつかるドサッという重い音が辺りにむなしく響く。
はぁ。
どうしていつもこうなるんだ。

まずはペットボトルを拾おうと転がった先を見ると黒い大きな塊が転がっている。
よくよく見ればその塊は黒いマントを身につけた人間のようだ。

ヒイッ!!
怖っ!

慌てて右手を軸に立ち上がろうとして手がすべった。
また尻餅をつく。
尻がめちゃくちゃ痛かった。

なぜ滑ったのか。
疑問に思って下を見るとみごとな幾何学模様きかがくもようのタイルがあった。

白地に青い釉薬ゆうやくで絵をつけたタイルを貼った床のようだ。
柔らかくにじんだ青がシノワズリやフローブルーを彷彿ほうふつさせる。

シノワズリとは近世ヨーロッパで流行した中国風の陶磁器とうじきだ。
王族を中心に流行し大きいものでは建物全体を彩る装飾として用いられた。

このシノワズリっぽいタイル。
よく見れば床全体で丸い模様をかたどっているようだ。

家紋かもんみたいだけどもっと複雑でなにやらいろいろな植物が描かれている。
俺はその中心に尻餅をついて座りこんでいるようだ。

あ。
黒マント君はどうなった?

立ち上がって移動したいが尻が痛くて立てそうにない。
仕方なく四つんばいになって移動する。

捻挫ねんざしたせいで痛い右手をかばいながらやっと黒マント君のところに着いた。
ペチペチとマントの上から触ってみるがピクリともしない。

もしもしと言ったところで驚いた。
声が出ない。
空気しか出ない。

タンでもからんだんだろうか?
ケホッとしてみたけどヘホッという気の抜けるような空気音しかしない。
あー。

「はー」

こりゃ困ったぞ。
実際はーという音すら出ていない。
声をかけるのは諦めた方が良さそうだ。

正座…は無理なので足を崩して座る。
それから黒マント君の手を持ち上げて。

あれ?
この人うつぶせ?

揺らさないように慎重に。
黒マント君を仰向けにひっくり返して手首をとる。
青白く張りのない細い腕だ。

親指の付け根を軽く押して。
うーん。
ゆっくりだけど脈はある。

生きてた。
その事実にとりあえずホッとする。
またちょっと疲れた。

抱きかかえている手が疲れてきたのでそろそろ下におろしたい。
でもこの冷たく硬いタイルの上に病人を寝かせるのは気が引ける。

えーと。
ブリーフケースでいっか。

ブリーフケースを枕がわりに横たえる。
仰向けにしたせいでマントのフードが外れていた。

このマント。
フードあったのか。

あらわになった顔は白い。
顔色は悪く血の気が引いており表情も苦しそうだ。
…本当に大丈夫かこの人?

白髪はくはつの前髪をどけて額をさわる。
少し冷たい。

え。
これヤバいんじゃ?

焦ってコートのポケットを探る。
あった!

未開封のカイロを開けてガサガサ振る。
貼らないタイプのデカいやつだ。
一生懸命ガサガサしているうちにカイロが暖まってきた。

そのカイロを首の後ろの少し下。
背中の上のほうに入れる。

それが正解かどうかは知らない。
少しでも体が暖まって持ち直してくれるといいけど。

俺がやれる事はやって一段落いちだんらく
ところで。
なんで俺こんな目立つ場所で黒いマントの人間と一緒に座ってんだ?

白髪はくはつで顔が整っているってとこが宗教家に似ててちょっと怖い。

わけのわからん宗教家にアンケートとられて。
気がついたらその宗教家と同じ白髪はくはつの黒マントのそばに落ちていたとか。
考えたらなんか気味悪くなってきた。

目の前の黒マント君は何も悪くない。
具合はめちゃくちゃ悪そうだけど。

そうじゃなくて。
黒マント君は悪くないけど怖い。
得体が知れないから。

なんか今日は非常に運が悪い。
ってより運が悪いとかそういうレベルを超えてる。
というか夢かうつつかわからん。

あー夢。
そうか。
宗教家のアンケートも今目の前に居る黒マント君も夢か。

だいたい道歩いてて落ちるのおかしいもんな。
落ちた先も宗教家のカウンセリング室みたいな所とかもっとおかしいし。
そこから落ちた先も黒いマントをはおった男が倒れている場所。

現実にしてはおかしすぎる。

それに時間もおかしい。
8本のブルーグレーの柱の間から見えるのは雲一つない青空。
さっきまで夜だったにもかかわらず。

うん。
こんな突拍子とっぴょうしもないのは夢だ。
もしかしたらオレンジティーを飲む前の時点で眠っていたのかもしれない。

気がついたら自販機の前で朝迎えてたりして。
わーうけるー。

外はもう寒いから朝起きたら亡くなってましたなんてあったりして。
うわそれめっちゃ嬉しい。

まあ。
ありえないけど。

どうせ明日も怒鳴られるんだ。
起きてさっさと帰ろ。

そうと決まったら目を覚まそう。
ためしに両頬を思いっきり叩いてみる。
バシンッといい音が響き渡った。

ふつうに痛い。
でも目は覚めない。

どうも寝穢いぎたないせいか朝まで起きれないようだ。
路上で寝るとか初めてだ。
わーい。

明日までにやっておきたい書類を夢の中にまで持ってくるとか社畜だな俺。
ブリーフケースを病人の枕にできたから結果的に良かったけど。

パソコン家だからUSBなんて持ってても意味ないのに。
書類やっても夢の中だからムダだし。

まあいいや。
こうなったら夢を楽しもう。

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