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ジェラード博士の歴史学講義
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あの。
【少しよろしいですか?】
俺が口をはさんだから。
ジェラード君がキョトンとした。
「どうした?なにが知りたい?」
【僕にはお狐様や穢というものについて、わかりかねます。】
ジェラード君は怪訝な顔をした。
どうしてだろう?
言葉の意味なんて。
国境を越えれば違うことが多々あるのに。
明確な説明を外国人が求めるのはおかしなことじゃないだろう。
「トヨミは、オキツネサマとしてオハライを生業にして生きてきたのではないのかい?」
とんでもない勘違いだ。
【いえ、お祓いは受けたことしかないですね】
車のお祓いとかをしてもらったことはある。
住所と名前の入ったお守りは車にずっとつけっぱなしだ。
ご利益がありそうで。
実際。
お祓いしてもらった車に変えてから。
一度も事故はない。
もう二度と乗れなさそうだけど。
「え?今までなにしていたの?」
【普通にサラリーマンです】
「サラリーマン?」
【会社員のことです】
「会社員?なぜまたそんなことを?」
えぇ!
なぜって。
え?
なぜ。
なぜ?
………そこしかなかったから?
返答にこまって周りを見回すと。
ジェラード君は言わずもがな。
リック君も、ジェフさんも、ギャルロンさんも、カル君も、名前を知らない軍人さんたちも。
全員俺の方を向いていた。
思わず叫んで逃げ出したくなるぐらいの注目度だ。
急に緊張してきてのどが乾く。
ティーカップに手を伸ばして。
ふと気づく。
勝手に飲んでいいのかな?
ジェラード君にアイコンタクトで確認すると。
「どうぞ」
とティーカップをすすめてきた。
では遠慮なく。
取っ手を右の親指と人差し指と中指ではさんで。
ゆっくりと持ち上げる。
そのままゆっくりと口に運び。
カップをかたむける。
むせ返るようなマスカットとお茶の腐乱した香りに。
思わずティーカップを落としそうになるが。
しっかり持ち直して。
口に入ってきた琥珀色の液体はちょうどいい温度で。
風味も予想外にいい。
腐り落ちる寸前の。
と言えば聞こえが悪いが。
一番おいしい頃のマスカットの風味がする。
後味はすっきりとした紅茶の香りで。
湯気さえ吸わなければすごく美味しい紅茶だ。
紅茶でちょっと一息入れたところで。
返答を書く。
【そこぐらいしかなかったから、でしょうか】
「そこぐらいしかない?それはないだろう?トヨミはオキツネサマなのだから」
そこだ。
ジェラード君の言うお狐様ってなんなんだ?
【そのお狐様が誰を指すのかも、わかりかねます。僕の知るお狐様は稲荷神社の神使で、お揚げさんが大好きな狐です】
お揚げさんお供えするとこもあるぐらいだし。
説明としては間違ってないだろう。
たぶん。
「私たちも元はイナリジンジャのミコだと聞いているよ。オアゲサン?が好きかどうかは、伝わっていないので不明だね。狐の耳と尻尾を持つ、独特な目の獣人だったと伝わっている」
巫女じゃなくて神使じゃないか?
独特な目?
あー。
モンゴロイド系に掘りはないから独特なのか。
日本に居たころはともかく。
今の俺には全て当てはまる特徴だな。
たぶん。
いやさ。
この耳と尻尾って狐の耳と尻尾なのか?
耳に至っては見たことないし。
【その特徴が僕に当てはまる、とジェラードさんはお考えなのですね?】
「そうだね。カミオロシもしたというトヨミならオハライも可能だと思うよ」
【そのお狐様がするという神下ろしとお祓いとは、どのようなものですか?】
「オキツネサマにオハライを説明する、というのは思いもよらなかったよ。大役を仰せつかったねぇ。オハライとは、オキツネサマが独特な歌をうたって舞をまうものだ、と私は聞いているよ」
独特な歌?
なんだろう?
俺の思ってたお祓いと違う。
俺の思ってたのは。
鈴をうるさいぐらい鳴らしながら。
祓詞をとなえる。
といったものだ。
少々間違えても鈴の音でごまかせる。
と高をくくっていた。
それが。
歌に舞?
知らないよ!
「それをすることによって、ケガレが祓われるという仕組みらしい」
【その穢というのは、昨日仰っていた穢ですか?】
ジェラード君が馬車のなかで昨日言っていた。
生物が巨大化して凶暴化するというあの物質。
インパクトありすぎて覚えていた。
「そう。そのケガレだよ。そのケガレを祓ってもらうために、キミたちミコを喚ぶのさ」
あの超危険物質をなんとかするために刑法第ニニ六条をやぶるわけですか。
あの白髪の女性は。
自分の世界のためとはいえ。
まあ律儀なこって。
「ミコが教会で主教以上の地位の聖職者に対して、やはり歌をうたって舞をまうと、ヌーメナテネが聖職者に乗りうつる、という儀式がカミオロシだそうだ」
ヌーメナテネってこの世界の神だったよな?
それなら。
俺の聞いたことのある神下ろしとそんなに違わないか。
俺が聞いたことがあるのは。
巫女と主教が恐山のイタコか邪馬台国の卑弥呼で。
ヌーメナテネが日本の神々だったけど。
「まあ。これに関しては教会が関わっているから、本当にヌーメナテネが来るのかは眉唾ものだけどね」
それはわかる。
その聖職者がヌーメナテネのフリして。
自分や教会に都合のいいこと言ってもわからないからな。
「オキツネサマはそれ以外にも、オハライをするだけで豊作にすることができるから、どの国も喉から手が出るほど欲しいのさ」
え?
お狐様すごっ。
食糧難が起こっているとか昨日言っていたから。
そりゃ喉から手が出るほど欲しいだろうな。
これまでの話を総括すれば。
お狐様とは。
いや。
この際オキツネサマと呼ぼう。
お狐様とは異なるみたいだから。
オキツネサマとは狐の耳と尻尾を持つ人間で。
お祓いをすれば。
たちどころに穢を祓い。
作物がたくさん実る。
そんなトンデモ人間らしい。
なるほど。
ケモミミと尻尾があるってところは俺に似ている。
【一通りお話を聞かせていただいた限り、お狐様というのは僕の特徴に合致しますね】
「そうだね。トヨミはオキツネサマなのだから、過去のオキツネサマと似ているに決まっているだろう」
【ですが、僕にはお祓いをするだけで豊作にするなんて、そんなことできませんので、残念ながら僕はお狐様ではないですよ】
【少しよろしいですか?】
俺が口をはさんだから。
ジェラード君がキョトンとした。
「どうした?なにが知りたい?」
【僕にはお狐様や穢というものについて、わかりかねます。】
ジェラード君は怪訝な顔をした。
どうしてだろう?
言葉の意味なんて。
国境を越えれば違うことが多々あるのに。
明確な説明を外国人が求めるのはおかしなことじゃないだろう。
「トヨミは、オキツネサマとしてオハライを生業にして生きてきたのではないのかい?」
とんでもない勘違いだ。
【いえ、お祓いは受けたことしかないですね】
車のお祓いとかをしてもらったことはある。
住所と名前の入ったお守りは車にずっとつけっぱなしだ。
ご利益がありそうで。
実際。
お祓いしてもらった車に変えてから。
一度も事故はない。
もう二度と乗れなさそうだけど。
「え?今までなにしていたの?」
【普通にサラリーマンです】
「サラリーマン?」
【会社員のことです】
「会社員?なぜまたそんなことを?」
えぇ!
なぜって。
え?
なぜ。
なぜ?
………そこしかなかったから?
返答にこまって周りを見回すと。
ジェラード君は言わずもがな。
リック君も、ジェフさんも、ギャルロンさんも、カル君も、名前を知らない軍人さんたちも。
全員俺の方を向いていた。
思わず叫んで逃げ出したくなるぐらいの注目度だ。
急に緊張してきてのどが乾く。
ティーカップに手を伸ばして。
ふと気づく。
勝手に飲んでいいのかな?
ジェラード君にアイコンタクトで確認すると。
「どうぞ」
とティーカップをすすめてきた。
では遠慮なく。
取っ手を右の親指と人差し指と中指ではさんで。
ゆっくりと持ち上げる。
そのままゆっくりと口に運び。
カップをかたむける。
むせ返るようなマスカットとお茶の腐乱した香りに。
思わずティーカップを落としそうになるが。
しっかり持ち直して。
口に入ってきた琥珀色の液体はちょうどいい温度で。
風味も予想外にいい。
腐り落ちる寸前の。
と言えば聞こえが悪いが。
一番おいしい頃のマスカットの風味がする。
後味はすっきりとした紅茶の香りで。
湯気さえ吸わなければすごく美味しい紅茶だ。
紅茶でちょっと一息入れたところで。
返答を書く。
【そこぐらいしかなかったから、でしょうか】
「そこぐらいしかない?それはないだろう?トヨミはオキツネサマなのだから」
そこだ。
ジェラード君の言うお狐様ってなんなんだ?
【そのお狐様が誰を指すのかも、わかりかねます。僕の知るお狐様は稲荷神社の神使で、お揚げさんが大好きな狐です】
お揚げさんお供えするとこもあるぐらいだし。
説明としては間違ってないだろう。
たぶん。
「私たちも元はイナリジンジャのミコだと聞いているよ。オアゲサン?が好きかどうかは、伝わっていないので不明だね。狐の耳と尻尾を持つ、独特な目の獣人だったと伝わっている」
巫女じゃなくて神使じゃないか?
独特な目?
あー。
モンゴロイド系に掘りはないから独特なのか。
日本に居たころはともかく。
今の俺には全て当てはまる特徴だな。
たぶん。
いやさ。
この耳と尻尾って狐の耳と尻尾なのか?
耳に至っては見たことないし。
【その特徴が僕に当てはまる、とジェラードさんはお考えなのですね?】
「そうだね。カミオロシもしたというトヨミならオハライも可能だと思うよ」
【そのお狐様がするという神下ろしとお祓いとは、どのようなものですか?】
「オキツネサマにオハライを説明する、というのは思いもよらなかったよ。大役を仰せつかったねぇ。オハライとは、オキツネサマが独特な歌をうたって舞をまうものだ、と私は聞いているよ」
独特な歌?
なんだろう?
俺の思ってたお祓いと違う。
俺の思ってたのは。
鈴をうるさいぐらい鳴らしながら。
祓詞をとなえる。
といったものだ。
少々間違えても鈴の音でごまかせる。
と高をくくっていた。
それが。
歌に舞?
知らないよ!
「それをすることによって、ケガレが祓われるという仕組みらしい」
【その穢というのは、昨日仰っていた穢ですか?】
ジェラード君が馬車のなかで昨日言っていた。
生物が巨大化して凶暴化するというあの物質。
インパクトありすぎて覚えていた。
「そう。そのケガレだよ。そのケガレを祓ってもらうために、キミたちミコを喚ぶのさ」
あの超危険物質をなんとかするために刑法第ニニ六条をやぶるわけですか。
あの白髪の女性は。
自分の世界のためとはいえ。
まあ律儀なこって。
「ミコが教会で主教以上の地位の聖職者に対して、やはり歌をうたって舞をまうと、ヌーメナテネが聖職者に乗りうつる、という儀式がカミオロシだそうだ」
ヌーメナテネってこの世界の神だったよな?
それなら。
俺の聞いたことのある神下ろしとそんなに違わないか。
俺が聞いたことがあるのは。
巫女と主教が恐山のイタコか邪馬台国の卑弥呼で。
ヌーメナテネが日本の神々だったけど。
「まあ。これに関しては教会が関わっているから、本当にヌーメナテネが来るのかは眉唾ものだけどね」
それはわかる。
その聖職者がヌーメナテネのフリして。
自分や教会に都合のいいこと言ってもわからないからな。
「オキツネサマはそれ以外にも、オハライをするだけで豊作にすることができるから、どの国も喉から手が出るほど欲しいのさ」
え?
お狐様すごっ。
食糧難が起こっているとか昨日言っていたから。
そりゃ喉から手が出るほど欲しいだろうな。
これまでの話を総括すれば。
お狐様とは。
いや。
この際オキツネサマと呼ぼう。
お狐様とは異なるみたいだから。
オキツネサマとは狐の耳と尻尾を持つ人間で。
お祓いをすれば。
たちどころに穢を祓い。
作物がたくさん実る。
そんなトンデモ人間らしい。
なるほど。
ケモミミと尻尾があるってところは俺に似ている。
【一通りお話を聞かせていただいた限り、お狐様というのは僕の特徴に合致しますね】
「そうだね。トヨミはオキツネサマなのだから、過去のオキツネサマと似ているに決まっているだろう」
【ですが、僕にはお祓いをするだけで豊作にするなんて、そんなことできませんので、残念ながら僕はお狐様ではないですよ】
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