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返品可能商品
しおりを挟む「返品するのです」
「へん‥‥‥なん、だ、と?」
「ですから、竜神様に返品するのです。クーリングオフ。まだまだ有効期間内でしょう?」
「お前、それ。通信販売じゃないんだぞ!」
「だって、これから未来の夫になるのが、こんなに小さくて自尊心ばかり肥大化した、クソガキだなんて……神様も巫女のことなめてません? わたし、都合のいい女じゃないんです。一生を捧げるのですから、もう少し知的でまともな男性を用意していただかないと困ります」
「そんなバカな話があるか。神が選んだ存在に文句をつけるなど、お前はどれほどの不敬を働いているのか分かっているのか、この異教徒にも等しい‥‥‥」
そう言い、大神官は悔し涙を流し始めた。
同じように周りの信徒たちも、血の涙を流すかのような表情でこちらをにらんでいる。
竜人の巫女に選ばれていなければ、彼らによって不信心者として、この場でとうの昔に撲殺されていたかもしれない。
現実をそう理解すると、ちょっとだけ心がぞっとした。
まあ、とりあえず。
こんな居丈高な御使いなど、百害あって一利なしだ。
「神様、戻します。別の方を」
「おいいいいっ! 神託を受けるのは私の仕事!」
「あ、おじいちゃんは黙ってて。どうせ、まともな仕事できないだろうから」
「きっ貴様――!」
と、大神官がいきりたったところで、返品は認められた。
イシュベルが尾を掴んで差し出したその子ドラゴンは、銀色の光に分解されて消えていった。
再度、呆気にとられる大神官と信徒たち。
ね? 簡単でしょう? と彼女は肩を竦めて見せた。
「要らないものは返品したらいいのよ。あ、じゃあそういうことで」
「……あ?」
また御使い様が天上から降りてくるとは限らない。
竜神様がわたしを新たな巫女に選ぶとも限らない。
ましてや――自分の部下をさんざんな目に遭わせて返品させた巫女、その当人を許すとも限らない。
あと、この神殿から一切のご加護が消えるかもしれない。
だけど、もういいじゃないか。
イシュベルはそう自嘲気味に心でぼやいた。
十六年。
生まれて十六年もこうして身を捧げて来たのだ。
神様第一の生活をしてきた。
そろそろ解放されても――と思っていたら、今度は彼女が燐光に包まれ始めた。
なんだ、これ?
そう叫ぶ間もなく、イシュベルの身はどこか‥‥‥どこか異国の地へと導かれていた。
そこでは竜神から謝罪が行われ、あの子ドラゴンはどうしても頑張るからと言い張って番を辞めようとしない。
そんなこんなで数年経過したいまでは、彼はどうにか家事全般をこなすようになった。
そして、イシュベルは神殿にときたま連絡をしては、主の意向を告げるというそんな生活を送っている。
普段はなにをしているかって?
名前は明かせないけれど、イシュベルは海の沿岸部にあるのんびりとした港町で雑貨屋を営んでいる。
いつまた返品されるかもしれないと危ぶむ、下僕と化した子ドラゴンと共に。
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みんなの感想(3件)
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神の前では猫被ってて、人の前では不遜な態度を表した。
神様は見抜かれたと思うのですが、どういうつもりで使いに出したのか。
主人公で無ければ黙って耐えていたと思うから、神にちょっと怒りを覚える。
まぁ、主人公だからこそ使いを矯正してくれると思ったのかも知れないけど、それでも今まで一緒に切磋琢磨してきた仲間等関係者に恨み辛みをぶつけられて平気な人間は居ない。
神様と使いには十二分に反省して欲しいところですね。
色んな加護を貰って…なら雑貨屋経営も楽しそう( ̄▽ ̄)b
加護を付与したお守り的なものとか爆売れしそうΨ( ̄∇ ̄)Ψ
素敵なお話ありがとうございました。
お読みいただきありがとうございました。
返品可能な神様なので、これからも主人公には有意義に使って欲しいと思います。
あ、返品可なんですねァ '`,、'`,、('ω`) '`,、'`,、
ゆるっと楽しく読ませていただきました。
やはりこういうわからない御方には錫杖がっ!ものを言うのですね( •̀ᄇ• ́)ﻭ✧グッ‼️
ありがとうございます。
返金可能なんです。
的な所が多い作品ですが喜んでいただけると幸いです。
最終話の順番が違いませんか?
ありがとうございます。
変更しておきました。