透明令嬢は、カジノ王の不器用な溺愛に、気づかない。

秋津冴

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プロローグ

学友への挨拶

 伯爵が用意してくれたホテルにアイネが移動したのは、その翌日のことだ。
 嫁ぐ前にせめて最低限の別れは告げようと、アイネは学友たちに会うために久しぶりに学院へと足を運んだ。

 お世話になった講師たちは内々に事情を耳にしていたらしく、職員室に顔を出せば「これから大変だろうが、頑張りなさい」と暖かい言葉をくれた。

 恩師の優しさが身に染みて、アイネは目尻に溜まった涙を拭くことも忘れて、感謝の言葉を告げた。
 学友たちの多くにを告げることができないまま、結婚に関してもそれを言えないでいるアイネに、数少ない友人たちはさよならの言葉をくれた。

 王太子妃補から外された、ということは正式にはまだ発表されていない。
 しかし、学友たちの態度はどこかよそよそしく、疎遠にしたがっているようにも感じられた。
 それがどういう現実を意味しているかを理解できないほど、アイネは愚かではなかった。

 最初は行き止まりを感じるような友人たちとの距離感、辺りに漂う空気感に異常を感じた。
 次に、理由は言えないけれど別れを告げにきた、とアイネが言うと彼らは一様に、「そうなんだ‥‥‥」と同じような返事をしてくる。

 こちらと目を合わせようとはせずに、挨拶もそこそこに席を立とうとする者もいた。
 一人か、二人かは「聞いたから。酷いわ」とだけ言って背を向ける。

 自分に向けられた「酷い」なのか。別の誰かに向けた「酷い」のかを理解するまでにしばし、時間を要した。
 しばし逡巡したアイネは多分、これが正解だろうという言葉を導き出す。

「妹から聞いたのね」

 と、確認するように問うと、何人目かの彼女はぎゅっと唇を噛んでから、悔しそうに首を縦に振った。
 こんな非道な行いが、なされていいはずがないわ、と彼女たちは涙を目に溜めて怒りを見せていた。

「なんで、アイネがそんなことに使われなきゃいけないの!」
「そうよ……貴族の女だからって、なんでも男たちの思い通りにするのは許せない」
「エルメスがあんな最低な女だって知らなかった! アイネ、可哀想。もし、伯爵家に居づらくなったらいつでもうちの屋敷に来ていいからね!」

 友人たちは苦痛を吐くように語り、そして我が身のことのように泣いてくれた。
 友がここにいた。その事実にアイネの心が少しだけ軽くなる。
 温かい何かに包まれていると感じれた。
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