透明令嬢は、カジノ王の不器用な溺愛に、気づかない。

秋津冴

文字の大きさ
13 / 51
プロローグ

友を無くして

 自分でも声が震えているのが分かると、情けない気持ちで心がいっぱいになった。
 数人の友人に肩を抱かれ、輪になってアイネたちはいつしか泣いていた。

 貴族の身分であることに。
 女性として意のままならない現実があることに。

 家のために道具となってこれから生きていく未来を、彼女たちはひしひしと感じていた。
 その最初に旅立つ友人に向けて、別れの涙を流していた。

「ごめんね‥‥‥みんなに、迷惑をかけて……。殿下と私のことでみんなを振り回したかもしれないから」
「迷惑なんて思ってない!」
「そうよ、アイネは悪くない! オリビエートが我が儘すぎるだけなのよ!」
「……アイネ、本当に大丈夫? どこに行っちゃうの……?」
「ごめん、言えないの……」
「おかしいよ、こんなの! アイネがどうして学院を去らないといけないの? なんであんな忌まわしいエルメスが……。あの子、おかしいよ。この世の全ては自分のためにある、みたいな言い方していた。アイネが全部悪いって! そんなのおかしいよ……っ!」

 だからアイネ、謝るなんてそんなことを言わないで、と彼女は言ってくれた。
 俯いて拳を握り、それはふるふると小刻みに震えていた。
 アイネは彼女たちの義憤に駆られる思いに、深い感謝を覚えた。
 だが、もう現実は覆らない。
 怒ってくれたことに申し訳なさを感じつつ、謝罪を口にする。

「ごめんね、みんな。もう決めたことだから。これからは学院に来れないの」
「だって! せっかくアイネが頑張っていたのに。なのに、奪うことないじゃない! 頑張っていたのに、全部、自分の手柄みたいにすることないじゃない」
「ごめん。それはお父様が決められたことだから」
「だって‥‥‥」

 そう言い、友人は一筋流れた涙を手の甲で拭った。
 目を閉じてすうっと息を吸いこむと、大きくはいてからそれを開ける。
 こちらを向いたそこには、なにかを許せない怒りに燃える瞳があった。

「だってじゃない。アイネはもっと怒っていると思っていた。そんなに受け入れてごめんなんて謝るようなあなた、あなたじゃないわよ」
「ごめん‥‥‥。もうどうにもできないの……」

 それ以上、言葉を返せないアイネに向かい、友人たちは最初はアイネの境遇を嘆いてくれたが、最後はみんな苛立ちの混じった顔をする。

「婚約者奪われて、あんな悪い噂のある男をあてがわれて、それでよく平気ね、あなた!」
「どうしてそんなことまで。あの子が喋ったの?」
「殿下と一緒になって、そこかしこであなたの悪行を暴きながら、悪女は去った、なんて言い触れて回っていたわよ。愚かな行いをするから、あんな悪人の妻になるしかないって! そこまで言われてよく平気ね? 私ならエルメスと殿下を刺し殺したいところだわ」
「……もう止めて。その話はしたくないの。みんなと最後に話を――」
「もういいっ。話しかけてこないで‥‥‥結婚、おめでとう」
「待っ――‥‥‥て」

 止めようとする言葉は小さすぎて、教室の向こうに足早に去ろうとしていた友人には届かない。

 アイネは大事な何かを失った気がして、途方にくれた。

感想 2

あなたにおすすめの小説

大嫌いな従兄と結婚するぐらいなら…

みみぢあん
恋愛
子供の頃、両親を亡くしたベレニスは伯父のロンヴィル侯爵に引き取られた。 隣国の宣戦布告で戦争が始まり、伯父の頼みでベレニスは病弱な従妹のかわりに、側妃候補とは名ばかりの人質として、後宮へ入ることになった。 戦争が終わりベレニスが人質生活から解放されたら、伯父は後継者の従兄ジャコブと結婚させると約束する。 だがベレニスはジャコブが大嫌いなうえ、密かに思いを寄せる騎士フェルナンがいた。   

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

婚約者の姉に薬品をかけられた聖女は婚約破棄されました。戻る訳ないでしょー。

十条沙良
恋愛
いくら謝っても無理です。

お飾りの婚約者で結構です! 殿下のことは興味ありませんので、お構いなく!

にのまえ
恋愛
 すでに寵愛する人がいる、殿下の婚約候補決めの舞踏会を開くと、王家の勅命がドーリング公爵家に届くも、姉のミミリアは嫌がった。  公爵家から一人娘という言葉に、舞踏会に参加することになった、ドーリング公爵家の次女・ミーシャ。  家族の中で“役立たず”と蔑まれ、姉の身代わりとして差し出された彼女の唯一の望みは――「舞踏会で、美味しい料理を食べること」。  だが、そんな慎ましい願いとは裏腹に、  舞踏会の夜、思いもよらぬ出来事が起こりミーシャは前世、読んでいた小説の世界だと気付く。

断罪される一年前に時間を戻せたので、もう愛しません

天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私ルリサは、元婚約者のゼノラス王子に断罪されて処刑が決まる。 私はゼノラスの命令を聞いていただけなのに、捨てられてしまったようだ。 処刑される前日、私は今まで試せなかった時間を戻す魔法を使う。 魔法は成功して一年前に戻ったから、私はゼノラスを許しません。

彼女の離縁とその波紋

豆狸
恋愛
夫にとって魅力的なのは、今も昔も恋人のあの女性なのでしょう。こうして私が悩んでいる間もふたりは楽しく笑い合っているのかと思うと、胸にぽっかりと穴が開いたような気持ちになりました。 ※子どもに関するセンシティブな内容があります。

【完】お望み通り婚約解消してあげたわ

さち姫
恋愛
婚約者から婚約解消を求められた。 愛する女性と出会ったから、だと言う。 そう、それなら喜んで婚約解消してあげるわ。 ゆるゆる設定です。3話完結で書き終わっています。

真実の愛の祝福

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
皇太子フェルナンドは自らの恋人を苛める婚約者ティアラリーゼに辟易していた。 だが彼と彼女は、女神より『真実の愛の祝福』を賜っていた。 それでも強硬に婚約解消を願った彼は……。 カクヨム、小説家になろうにも掲載。 筆者は体調不良なことも多く、コメントなどを受け取らない設定にしております。 どうぞよろしくお願いいたします。