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第二章
新たなる襲撃
「信じてくださいとお願いするしかできない。この命をかけて、お嬢様をエルバスへとお連れする。それが私の役割です」
「はあ。ここまで酷い目に遭わせておいて、信じてくれなんて。虫が良すぎる話ね。エリーゼ、先ほどの身のこなしからしても、貴方は戦える女性なのでしょう。ですが、それも一人では無理」
「ですが」
「私も共に行きます。この状況下で最も安全な場所は、本当なら王都の中でも治外法権が適用される、ホテルギャザリックだと思います」
「一番安全な場所のはずが、今となっては一番危険な場所になってしまってます」
「では、まともで安全な場所はこの土地にはないと思った方がいいでしょう。一番安全なのは王宮……」
王宮に逃げ込むことができれば、また話が違ってくるはずだ。
提案をしようとして、アイネが顔を曇らせたから、セーラは言葉を呑み込んだ。
「セーラ、ちょっといいかしら」
「何ですか」
雨の後に耳を傾けると「リテラが関わってるかも」と言われた。
リテラとは、この国を支配する王族の呼び名の一つだ。アイネの家のように古い時代から続く貴族は、こういった暗喩をよく使う。
あいにくとエリーゼはその単語に聞き覚えがなかったらしく、きょとんとした顔をしていた。
旦那様以外が、とそこにはさらに別の主語が隠されていることも、容易に想像がついた。
「もう少し詳しく聴きたいところですが、その時間はもうないようです」
「どういうこと?」
「囲まれました……。アイネ、逃げる準備を」
広い店内にはテーブルが十数個用意されていて、そのいくつかに座っていたはずの客が、いつのまにか姿を消していることに、セーラとエリーゼは気付いていた。
廊下に面した広いガラス窓の向こうからこちらを見ている視線は、十を下らない。
スカート姿のアイネとエリーゼは戦闘に不向きだ。セーラは革のパンツに薄手のセーター、編み上げのブーツを履いた軽装の自分が、二人を逃がして戦った方が最も賢いと考えた。
「そのポシェットの中にお嬢様を入れてはダメよ。敵に奪われてしまったら、元も子もなくなってしまう」
「私ひとりでは不安でしたが、もう一人、仲間がいるのなら、その必要はないでしょう」
カウンター、キッチンへと続く扉を、エリーゼは探していた。
こういった建物は裏側から食材の搬入などを行うものだ。その入り口までたどり着くことができれば、従業員搬入口から、背後に待つ魔導列車へと移動することができるはずだ。
先に駅で乗車券を購入しておかなかったことが、悔やまれるが今となってはどうしようもない。
まずは人が多くいる駅の構内を目指すのが、最善だと思われた。
「調理場から逃げましょう。従業員用の通路に通じているはずです」
「話してる暇ないわ、早く!」
店内にはまだ食事に勤しむ、客が数人いた。
その多くは、アイネたちが入店してきたときからいた人々だ。あらかじめ周囲を確認しておいたセーラには、彼らは無害だと分かっていた。
大変心苦しいけれど、この人々を巻き添えに、盾となってもらうことにしよう。
エリーゼとアイネが立ち上がり、セーラは自分の旅行バッグをさっと手のうちに消して見せた。
ポシェットに似た機能を持つ魔導具をセーラも携行しているのだろう。
その中に入れて運んでくれたら、楽なのに。
「入っても息ができるかの保証ができませんよ」
「……走ります」
「そうしてください。さ、早く」
二人がキッチンに向かって走り出し、セーラは心の中でごめんなさい、と叫ぶとさっきまで座っていた椅子を持ち上げ、廊下に面した巨大なガラス窓にそれをぶつけて、周囲の注目を集める。
盛大な音がして、驚いた食事の客と、壁の向こうでこちらの様子を伺っていた男たち。
その両方の動きが、撹乱され、混乱を生じて、逃げるチャンスが生まれる。
先に調理場に向かった二人の後を追いかけると、そこでは制服を着た料理人ではなく、三人の一般人に扮した男達と向き合って、包丁を片手にアイネを守ろうとするエリーゼの姿があった。
伯爵家にメイドとして雇われて、奉公に上がったとき。
セーラは当時いた料理長から、色々と学び教わったことがある。
元々、傭兵稼業をしていたという彼は、さまざまな局面で危機に遭遇した場合、ありとあらゆるものが武器になると、自らの体験談を含めて楽しそうに面白く話を聞かせてくれた。
そこで学んだ方法がコレだ。
壁に備え付けられた棚から軽くて手持ちしやすい、サラダ皿を一度に掴み取ると、セーラはそれを男たちに向かって投げつけた。
「きゃあっ!」
「ごめんなさい間違えたわ」
セーラの狙いは正確で、男たちの顔面や頭に皿がヒットして、彼らは痛みに身をのけぞらせる。崩れ落ちた男達に向かい、エリーゼは包丁を底の厚い鍋に持ち替えて、撲殺する勢いで殴りつけ、昏倒させた。
たまたまなのか偶然なのかそれとも狙ったのか。
皿の一枚が、エリーゼはのお尻を直撃するも、戦いに集中していた彼女は、痛みを感じなかったらしい。
調理場から従業員用通路口に通じる扉を見つけ、階段を駆け下りる途中でしたたかにぶつけたお尻をさするエリーゼは、後輩いじめに対して無言の非難をぶつけていた。
「はあ。ここまで酷い目に遭わせておいて、信じてくれなんて。虫が良すぎる話ね。エリーゼ、先ほどの身のこなしからしても、貴方は戦える女性なのでしょう。ですが、それも一人では無理」
「ですが」
「私も共に行きます。この状況下で最も安全な場所は、本当なら王都の中でも治外法権が適用される、ホテルギャザリックだと思います」
「一番安全な場所のはずが、今となっては一番危険な場所になってしまってます」
「では、まともで安全な場所はこの土地にはないと思った方がいいでしょう。一番安全なのは王宮……」
王宮に逃げ込むことができれば、また話が違ってくるはずだ。
提案をしようとして、アイネが顔を曇らせたから、セーラは言葉を呑み込んだ。
「セーラ、ちょっといいかしら」
「何ですか」
雨の後に耳を傾けると「リテラが関わってるかも」と言われた。
リテラとは、この国を支配する王族の呼び名の一つだ。アイネの家のように古い時代から続く貴族は、こういった暗喩をよく使う。
あいにくとエリーゼはその単語に聞き覚えがなかったらしく、きょとんとした顔をしていた。
旦那様以外が、とそこにはさらに別の主語が隠されていることも、容易に想像がついた。
「もう少し詳しく聴きたいところですが、その時間はもうないようです」
「どういうこと?」
「囲まれました……。アイネ、逃げる準備を」
広い店内にはテーブルが十数個用意されていて、そのいくつかに座っていたはずの客が、いつのまにか姿を消していることに、セーラとエリーゼは気付いていた。
廊下に面した広いガラス窓の向こうからこちらを見ている視線は、十を下らない。
スカート姿のアイネとエリーゼは戦闘に不向きだ。セーラは革のパンツに薄手のセーター、編み上げのブーツを履いた軽装の自分が、二人を逃がして戦った方が最も賢いと考えた。
「そのポシェットの中にお嬢様を入れてはダメよ。敵に奪われてしまったら、元も子もなくなってしまう」
「私ひとりでは不安でしたが、もう一人、仲間がいるのなら、その必要はないでしょう」
カウンター、キッチンへと続く扉を、エリーゼは探していた。
こういった建物は裏側から食材の搬入などを行うものだ。その入り口までたどり着くことができれば、従業員搬入口から、背後に待つ魔導列車へと移動することができるはずだ。
先に駅で乗車券を購入しておかなかったことが、悔やまれるが今となってはどうしようもない。
まずは人が多くいる駅の構内を目指すのが、最善だと思われた。
「調理場から逃げましょう。従業員用の通路に通じているはずです」
「話してる暇ないわ、早く!」
店内にはまだ食事に勤しむ、客が数人いた。
その多くは、アイネたちが入店してきたときからいた人々だ。あらかじめ周囲を確認しておいたセーラには、彼らは無害だと分かっていた。
大変心苦しいけれど、この人々を巻き添えに、盾となってもらうことにしよう。
エリーゼとアイネが立ち上がり、セーラは自分の旅行バッグをさっと手のうちに消して見せた。
ポシェットに似た機能を持つ魔導具をセーラも携行しているのだろう。
その中に入れて運んでくれたら、楽なのに。
「入っても息ができるかの保証ができませんよ」
「……走ります」
「そうしてください。さ、早く」
二人がキッチンに向かって走り出し、セーラは心の中でごめんなさい、と叫ぶとさっきまで座っていた椅子を持ち上げ、廊下に面した巨大なガラス窓にそれをぶつけて、周囲の注目を集める。
盛大な音がして、驚いた食事の客と、壁の向こうでこちらの様子を伺っていた男たち。
その両方の動きが、撹乱され、混乱を生じて、逃げるチャンスが生まれる。
先に調理場に向かった二人の後を追いかけると、そこでは制服を着た料理人ではなく、三人の一般人に扮した男達と向き合って、包丁を片手にアイネを守ろうとするエリーゼの姿があった。
伯爵家にメイドとして雇われて、奉公に上がったとき。
セーラは当時いた料理長から、色々と学び教わったことがある。
元々、傭兵稼業をしていたという彼は、さまざまな局面で危機に遭遇した場合、ありとあらゆるものが武器になると、自らの体験談を含めて楽しそうに面白く話を聞かせてくれた。
そこで学んだ方法がコレだ。
壁に備え付けられた棚から軽くて手持ちしやすい、サラダ皿を一度に掴み取ると、セーラはそれを男たちに向かって投げつけた。
「きゃあっ!」
「ごめんなさい間違えたわ」
セーラの狙いは正確で、男たちの顔面や頭に皿がヒットして、彼らは痛みに身をのけぞらせる。崩れ落ちた男達に向かい、エリーゼは包丁を底の厚い鍋に持ち替えて、撲殺する勢いで殴りつけ、昏倒させた。
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