透明令嬢は、カジノ王の不器用な溺愛に、気づかない。

秋津冴

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第三章

地下賭博

「旦那様、それを? ええ……つまり、旦那様は幾度も結婚され、お子様たちも多くおられますが、そのほとんどの方々は、このエルバル領内から王都や別の領地へと移り住まれています」
「それはなぜ、フォビオ?」
「アイネ様。それは……旦那様の行われているある行為について、お子様方が認めたくないからでございます」

 ふむ、とアイネは訝し気にブラックを見た。つまりそれは、世間では公にできないものごとの、あれだろう。

「つまり、地下賭博を?」
「それは!」

 悲鳴が上がる。
 執事と、侍女と、少女騎士の三人からだった。

「アイネ様!」
「お嬢様、なんてことを!」

 アイネは三人に手のひらを上げて、「分かってるから」と黙らせる。
 家業がどうあれ、そのおかげで子供たちは生まれて食べて来れたし、いまの立場を維持できているのだろう。

「でも、それは明確に国によって、違法だと処罰されたわけでもなく」
「ま、それはそうだな。しかし、子供たちには嫌われている。おかげでここ数年、連絡もない」

 ふむ。それは辛いだろうなあ、とアイネはブラックの状況に、密やかに自分を置いてみた。

「奥様たちは、嫌われていましたか?」
「いや……。誰もそれはなかったな。家にそれを持ち込まないこと、が結婚の条件だった者もいる。とにかく、俺は家族の前で仕事について話したことはない。愚痴も漏らしたこともない。そこのフォビオ以外にな」

 執事が深々とお辞儀する。多分、肯定しているのだろう。
 セーラとエリーゼは結婚して相手が闇社会の人間だったら……、なんてそっとひそひそ話を始めた。

 妻になった時、夫を支え切れるか、世間の風評に負けてしまうか。
 その点について自信があるかどうか、という話だった。

 エリーゼは貴族社会で生きてきた女だ。夫に従います、家に従います、という意見で。セーラは街娘だから、周囲の親戚や一族から追い出されたら辛い、という別の視点だった。さて、自分はどうだろう。アイネは深く自問自答する。

「これから妻になる身としては、以前の奥様達のお子様たち。義理の家族、義理の私の子供となるわけですから、是非とも仲良くしていただきたい……かな、と。そうアイネは思います」
「しかし、向こうから連絡を、な?」
「確かに、出て行かれた、成人された方々まではそうですね。家を別に独立していらっしゃいますから。そうですね、うーん」

 では、家族についてはこの問題は、一旦、横に置いておこう。
 新婚ともなれば、結婚式で彼ら……ブラックの親族には嫌が応でも、顔を付き合わせることになるだろう。
 
 それさえうまくやり過ごせば、二、三年は静かになるだろう。
 今度、周囲がざわめくとしたら、それは妊娠して出産したときだろう。遺産相続、領地の継承などなど面倒な事柄が増えるに違いない。

「遺産相続などなら心肺は要らん、アイネ。既に配分は済んでいる」
「え……、では?」
「もともと、大公閣下は今から向かうエルバス以外に十四の州や街をお持ちでした。その多くは、お子様方に生前の分与として、すでに配分が終わってございます」

 それはまた、用意が宜しいことで。
 逆にとらえたら、ブラックの寿命はそう長くない、と本人が思ってそうした節が窺える。子供を新しく欲しくないというのも、そういう事情かもしれない。

「お家の事情について知りたいのではないのです、大公閣下! どうしてこのアイネを求められたのかを……それだけが知りたくて、いろいろと騒がしく申しました。申し訳ございません。」
「甥の不手際。勝手な婚約破棄をして、伯爵家に、おまえに恥をかかせたことへの詫びのつもりもあった。兄上、国王陛下はオリビエートに甘い。あれ以上、お叱りもなにもなされないだろう。そういう事情もある。あるが」

 ちょっと歩こう、とブラックアイネに腕を差し出した。
 それに手を絡めると、他の全員を残し、展望台へとブラックは彼女を案内する。

 そこは、ブラックのこの飛行船での自室がある部屋からそう遠くはなく、飛行船の最後尾に作られた透明な半円玉状のドームになっていた。

 自然の一部を切り取って植えたつけたような、四季折々の花々が咲き誇るそこは、時間が止まったかのように静かな場所だった。
 
 人の世界の喧騒など何もない。原初の自然のなかに戻ったほどに静かで、ときおり、虫が鳴く程度のものだった。
 不気味だわ、と自然に慣れていない都会育ちのアイネは、天空の星々の光しか差し込まないその場所を、闇を怖いと感じた。

 闇が自分を食べに寄って来そうで恐れをついつい抱いてしまう。
 ブラックのたくましい腕にしがみつくと、彼はアイネの腰に手を回して支えてくれた。

「これはエルバスの端に位置する、森の妖精王から許しを得て移築した、古い森の一部だ。ここを見ていると、闇の中へと身を投じたような、そんな気分になる。孤独というものかもしれない。おまえはどうだ?」
「似た気分を、最近、幾度か味わいました」
「最初は?」
「……殿下に捨てられたと思った時、でしょうか」

 当時のことを思い出し、思い出し、アイネは星空に視線を彷徨わせる。
 そういえば、あのころから視界は色がなく、白黒に染まっていなかったか? ふと、そう思った。

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