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閑話ー巫女ガナシャ棄教への道
何のため?
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人生とは見直してみると案外遠回りだったりする。自分では一直線にあるいているつもりだったが、実際はぐねぐねと蛇がドグロを巻いているようである。しかし、ごく稀に道を真っ直ぐ歩いているものいる。一つの事に専念し、それを生涯の糧とする者がたまにいるのだ。本来なら失敗を経験することで道が少しづつずれていくのに、そういった稀な人は失敗をした事がない為、道がズレるという事を知らない。故に、転んだ時の立ち直ることが難しい。まるで両サイドが崖の道を歩いているような彼らは、一度でも転ぶ真っ逆さまに下に叩きつけられる。その時の衝撃は普通の人の何倍もでかい。常人ではないが為、常人が耐えきれない程の痛みが未成熟な心に響く。それは、サハランの巫女たるガナシャも一緒であった。
彼女は生まれた時から才能があった。家も父が神官だったので、食うに困るということもなかった。優しい父は自分を無理やり神官の道へ歩ませようとはしなかった。神へは自ずから信じるもの、信じさせるものではないが父の口ぐせだった。だが、それでも彼女はサハランの神官の道を選んだ。それは自分以上の存在への憧れだったのかもしれない。才能があった為、その道はとてもスムーズだった。そしてついにはサハランの頂点にまで上りつめた。しかし、その時にはもう自分を人として見てくれるものは神以外には誰もいなかった。あまりの順風満帆さに周りの人間はあれは同じ人間だと思いたくなかったのだ。彼女を人として見たら、自分が全否定された気持ちになるのだ。敬われば敬われるほど、人との距離は遠のいた。そしていつしか彼女には神に仕えるということしか残っていなかった。道を変えようにも、もうその一本の道しか彼女にはなかったのだ。
「・・・・こんな、ものなのか?私達の神は。私の信じたサハランは」
しかし、その道も儚く崩れいった。目の前でなす術なくやられた起源の四神バーバライクを見て彼女は初めて道で転んだ。
「なら、誰が、私を・・・」
膝から崩れ落ちた彼女にはもう何も見えなかった。何もない真っ暗な
世界が広がっていた。そんな彼女に近く一つの影。現状の全ての原因を作った男だ。彼は片手にバーバライクを担ぎながら話しかけてくる。
「おい、行くぞ。」
こんな状態な彼女にそんな事は出来るはずはなかった。そもそも、彼女が彼について行っていたのは天使コロニエルに殺されかけた為、この場所では命の危険の感じたからだ。しかし、今思えばあの時からだった。自分の中で何かが崩れ始めたのは。そして、何度も天使が殺されるのを見て、とうとう神が倒されるのを見た。この命を捧げる筈の神に会った時、もし、主神シミラーがバーバライクの様に彼にやられるのを見たら本当に自分はどうなってしまうか分からない。つまり、これ以上世界の真理を見るのが恐ろしいのだ。
「はぁ、仕方ないな」
男はいつまでも立ち上がろうとはしないガナシャを片手で持ち上げる。
「それで、何をお前はそんなに落ち込んでいるんだ?」
元凶たる彼にそんな事を言われても、特に何も思い浮かばなかった。もう自分がこれ以上傷つくのが怖いのだ。ただ何もせずに黙っていると、彼は何かを思いついた様な表情を見せた。すると彼は担いでいたバーバライクを下に降ろすと、額に手を当てた。何をするのか分からないガナシャはそれまた傷つくのかと思い、目をそらす。しかし、彼はそれを許さなかった。無理やり彼女の頭ごとバーバライクの方に向ける。
「見てろ。我が問いに答えよ。」
突然、バーバライクの目が見開かれた。だが、先ほどまでと違い目に光がない。
「こいつの体を食ってんのはお前か?」
「違うである。」
まるで人形の様にバーバライクは答えた。どんな力かは分からないが、彼は神の深層心理に干渉して喋らせているのだ。
「じゃあ、誰だ。」
「主神シミラーである。」
「ではなぜ、主神の巫女たるこいつがなぜ天使に殺されかけた?」
「・・・・・」
「知らないか。じゃあ、そいつが一番最後にこいつの事について何と言った?」
「もう、要らないと言っていたのである。」
「っ!?」
バーバライクの言葉にガナシャは雷に直撃したかの様な衝撃が走った。
「それは、何故だ?」
「味に飽きたと言っていたである。そろそろ、新しい肉が欲しいぶはっ」
最後まで言い終わる前に、ガナシャがバーバライクの頬を平手打ちした。
「わ、私が、今まで、どれほど」
目に涙を浮かべ、怒りの表情を浮かべるガナシャは先程とは違い、真っ直ぐ前を見ていた。
「私は!何の!為に!」
パンッという音が何度も辺りに響く。それはまるで駄々っ子がお母さんをポカポカ叩く様な幼い暴力だ。神にそんな一撃が効くはずもなく、ガナシャの手が真っ赤になっていくだけだ。それでも負けじと平手打ちを続ける。
「私は!何の為に!私は何なのだ!私は!私は!」
段々と声は大きくなっていくのに、威力は弱くなっていく。言葉も段々とおかしくなっていく。
「私は!私は・・・」
蚊も潰せないくらいの威力になった時、ガナシャは平手打ちを止めた。バーバライクへの言葉がいつの間にか自分に向けて言葉に変わっていることに気づいたのだ。
「もう、何なのだ。私は、何なのだ」
涙ポロポロと溢れ、声もくぐもっていく。もう頭の中はぐちゃぐちゃで考えが纏まらない。
そんな時、彼女を見ていた彼は唐突に彼女の頭を引っ叩いた。
「いたっ。何をするのだ!」
「自惚れるなバカ。」
「う、自惚れ?」
突然に頭を叩き、その上呆れた様に言う彼にガナシャの頭は余計混乱する。
「神はお前の為にいるんじゃない。」
「っ!」
「ましてや、人間の為にいるんじゃない。神を信じる者の為にいるんじゃない。お前らの生きる目的の為にいるんじゃない。お前ら人間を一から十まで世話をする為にいるんじゃない。」
「・・・・」
彼の言葉が胸の中にストンと落ちるたびに頭がクリアになっていく。暗かった目の前に一筋の光が見えた。
「自分の道は自分で開け。自分の道は自分の足で歩いていけ。1人が嫌なら2人で歩け、2人が嫌ならそれ以上の仲間と歩け。人間は私達におんぶに抱っこされるような柔な存在ではない。」
「・・・うっ、うっ、うううう」
先程とは全く違う涙が溢れる。ドロドロの心が浄化されていく様な感じだった。
「ただでさえ、お前は強いんだ。その手足は飾りではないないのだろう。」
小さくなった拳をギリギリと握る。弱くて、か細い体から力が溢れてくる。小さな足を太い大黒柱の様にずっしりと構え、立ち上がる。涙を拭い、前を見据える。
「もう、1人でいけるな。」
「はい。」
先程までとは生まれ変わった、いや、今生まれたガナシャは強い意志を持っていた。
「なら、行くぞ。」
彼が前へ歩いていこうとする。しかし、ガナシャは違った。
「ん?どうした?」
「先に行ってください。私はあれらの相手をします。」
後方から百を超すほどの数の天使の軍勢が迫っていた。はっきり言って、それは彼の刀の一振りで何とかなる相手ではあったが、ガナシャ1人からしたら絶望的なまでの戦力差だ。それでも、不思議と彼女は負ける気がしなかった。
「そうか。」
そんな気持ちを悟ったのか彼は特に止めることはしなかった。
「ほら、受け取れ。」
彼がガナシャに細長い何かを投げた。受け取ってから、彼女はそれが何なのかに気づいた。
「こ、これは。」
「もう持ち主がいなくなるんだ。お前が使ってやれ。こいつよりかは有意義に使いそうだ。まあ、その前にこの世界が壊れないとは限らないが。」
それは一本の槍だった。しかし、ただの槍ではない。バーバライクが彼に向かって投げた神具の槍だ。異質な力を放つそれにガナシャは一瞬戸惑うが、直ぐに持ち直す。
「ガナシャ、参る!」
後に語られる伝説の巫女が誕生した瞬間だった。
彼女は生まれた時から才能があった。家も父が神官だったので、食うに困るということもなかった。優しい父は自分を無理やり神官の道へ歩ませようとはしなかった。神へは自ずから信じるもの、信じさせるものではないが父の口ぐせだった。だが、それでも彼女はサハランの神官の道を選んだ。それは自分以上の存在への憧れだったのかもしれない。才能があった為、その道はとてもスムーズだった。そしてついにはサハランの頂点にまで上りつめた。しかし、その時にはもう自分を人として見てくれるものは神以外には誰もいなかった。あまりの順風満帆さに周りの人間はあれは同じ人間だと思いたくなかったのだ。彼女を人として見たら、自分が全否定された気持ちになるのだ。敬われば敬われるほど、人との距離は遠のいた。そしていつしか彼女には神に仕えるということしか残っていなかった。道を変えようにも、もうその一本の道しか彼女にはなかったのだ。
「・・・・こんな、ものなのか?私達の神は。私の信じたサハランは」
しかし、その道も儚く崩れいった。目の前でなす術なくやられた起源の四神バーバライクを見て彼女は初めて道で転んだ。
「なら、誰が、私を・・・」
膝から崩れ落ちた彼女にはもう何も見えなかった。何もない真っ暗な
世界が広がっていた。そんな彼女に近く一つの影。現状の全ての原因を作った男だ。彼は片手にバーバライクを担ぎながら話しかけてくる。
「おい、行くぞ。」
こんな状態な彼女にそんな事は出来るはずはなかった。そもそも、彼女が彼について行っていたのは天使コロニエルに殺されかけた為、この場所では命の危険の感じたからだ。しかし、今思えばあの時からだった。自分の中で何かが崩れ始めたのは。そして、何度も天使が殺されるのを見て、とうとう神が倒されるのを見た。この命を捧げる筈の神に会った時、もし、主神シミラーがバーバライクの様に彼にやられるのを見たら本当に自分はどうなってしまうか分からない。つまり、これ以上世界の真理を見るのが恐ろしいのだ。
「はぁ、仕方ないな」
男はいつまでも立ち上がろうとはしないガナシャを片手で持ち上げる。
「それで、何をお前はそんなに落ち込んでいるんだ?」
元凶たる彼にそんな事を言われても、特に何も思い浮かばなかった。もう自分がこれ以上傷つくのが怖いのだ。ただ何もせずに黙っていると、彼は何かを思いついた様な表情を見せた。すると彼は担いでいたバーバライクを下に降ろすと、額に手を当てた。何をするのか分からないガナシャはそれまた傷つくのかと思い、目をそらす。しかし、彼はそれを許さなかった。無理やり彼女の頭ごとバーバライクの方に向ける。
「見てろ。我が問いに答えよ。」
突然、バーバライクの目が見開かれた。だが、先ほどまでと違い目に光がない。
「こいつの体を食ってんのはお前か?」
「違うである。」
まるで人形の様にバーバライクは答えた。どんな力かは分からないが、彼は神の深層心理に干渉して喋らせているのだ。
「じゃあ、誰だ。」
「主神シミラーである。」
「ではなぜ、主神の巫女たるこいつがなぜ天使に殺されかけた?」
「・・・・・」
「知らないか。じゃあ、そいつが一番最後にこいつの事について何と言った?」
「もう、要らないと言っていたのである。」
「っ!?」
バーバライクの言葉にガナシャは雷に直撃したかの様な衝撃が走った。
「それは、何故だ?」
「味に飽きたと言っていたである。そろそろ、新しい肉が欲しいぶはっ」
最後まで言い終わる前に、ガナシャがバーバライクの頬を平手打ちした。
「わ、私が、今まで、どれほど」
目に涙を浮かべ、怒りの表情を浮かべるガナシャは先程とは違い、真っ直ぐ前を見ていた。
「私は!何の!為に!」
パンッという音が何度も辺りに響く。それはまるで駄々っ子がお母さんをポカポカ叩く様な幼い暴力だ。神にそんな一撃が効くはずもなく、ガナシャの手が真っ赤になっていくだけだ。それでも負けじと平手打ちを続ける。
「私は!何の為に!私は何なのだ!私は!私は!」
段々と声は大きくなっていくのに、威力は弱くなっていく。言葉も段々とおかしくなっていく。
「私は!私は・・・」
蚊も潰せないくらいの威力になった時、ガナシャは平手打ちを止めた。バーバライクへの言葉がいつの間にか自分に向けて言葉に変わっていることに気づいたのだ。
「もう、何なのだ。私は、何なのだ」
涙ポロポロと溢れ、声もくぐもっていく。もう頭の中はぐちゃぐちゃで考えが纏まらない。
そんな時、彼女を見ていた彼は唐突に彼女の頭を引っ叩いた。
「いたっ。何をするのだ!」
「自惚れるなバカ。」
「う、自惚れ?」
突然に頭を叩き、その上呆れた様に言う彼にガナシャの頭は余計混乱する。
「神はお前の為にいるんじゃない。」
「っ!」
「ましてや、人間の為にいるんじゃない。神を信じる者の為にいるんじゃない。お前らの生きる目的の為にいるんじゃない。お前ら人間を一から十まで世話をする為にいるんじゃない。」
「・・・・」
彼の言葉が胸の中にストンと落ちるたびに頭がクリアになっていく。暗かった目の前に一筋の光が見えた。
「自分の道は自分で開け。自分の道は自分の足で歩いていけ。1人が嫌なら2人で歩け、2人が嫌ならそれ以上の仲間と歩け。人間は私達におんぶに抱っこされるような柔な存在ではない。」
「・・・うっ、うっ、うううう」
先程とは全く違う涙が溢れる。ドロドロの心が浄化されていく様な感じだった。
「ただでさえ、お前は強いんだ。その手足は飾りではないないのだろう。」
小さくなった拳をギリギリと握る。弱くて、か細い体から力が溢れてくる。小さな足を太い大黒柱の様にずっしりと構え、立ち上がる。涙を拭い、前を見据える。
「もう、1人でいけるな。」
「はい。」
先程までとは生まれ変わった、いや、今生まれたガナシャは強い意志を持っていた。
「なら、行くぞ。」
彼が前へ歩いていこうとする。しかし、ガナシャは違った。
「ん?どうした?」
「先に行ってください。私はあれらの相手をします。」
後方から百を超すほどの数の天使の軍勢が迫っていた。はっきり言って、それは彼の刀の一振りで何とかなる相手ではあったが、ガナシャ1人からしたら絶望的なまでの戦力差だ。それでも、不思議と彼女は負ける気がしなかった。
「そうか。」
そんな気持ちを悟ったのか彼は特に止めることはしなかった。
「ほら、受け取れ。」
彼がガナシャに細長い何かを投げた。受け取ってから、彼女はそれが何なのかに気づいた。
「こ、これは。」
「もう持ち主がいなくなるんだ。お前が使ってやれ。こいつよりかは有意義に使いそうだ。まあ、その前にこの世界が壊れないとは限らないが。」
それは一本の槍だった。しかし、ただの槍ではない。バーバライクが彼に向かって投げた神具の槍だ。異質な力を放つそれにガナシャは一瞬戸惑うが、直ぐに持ち直す。
「ガナシャ、参る!」
後に語られる伝説の巫女が誕生した瞬間だった。
応援ありがとうございます!
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