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第3話「帰宅」
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「もう家か」
気付けば家の前だった。調子は悪くても身体は家までの道を覚えている。僕自身、意識しなくてもこうやって気付けば家に着いてしまうのが何よりの証拠だった。
「ただいま、真雪」
「雪秀にーさま! 大変です!」
「どうしたの?」
「とにかく来てください!」
玄関前に立っていた我が妹、真雪に声を掛けられると腕を引っ張られて連行される。大人しい真雪がここまで血相変えて何かに必死になるのを見るのは初めてかもしれない。それだけ何か重大なことがあったってことか。
「あら、今お帰り? この忙しい時に暢気に学校なんてねぇ……」
「……それで何かあったの? 勢揃いって感じだけど」
真雪に連れて来られたのは広間だ。大勢の客人を招いた時とか一族で何かやる時とか重要な時には決まってこの場所が使われる。広間には家族全員が、いや家族だけじゃなく雪見逸一族、言わば親類勢揃いの状況ってわけだ。
「何でも今日、行われるらしいのよ」
「行われるって何が」
「火の一族の族長抗争よ」
深雪姉さんがはっきりした言い方をしてくれない。だから、更に訊くと意外にもあっさりと言ってくれた。
「火の一族の族長抗争ってそんな突然……」
「私も聞いて驚いたわ。まさか、こんな時期にね」
「そんな素振りはまったく……」
驚きと身体の震えが隠せない。族長抗争は言わば族長候補者同士の争い事だ。死闘と呼んでも大袈裟じゃないくらいにだいたいが血生臭い結果に終わると聞いたことがある。
「その様子だと炎花ちゃんからは何も聞いていないようね」
「そんなの聞いてるわけないよ」
「ふーん? そう。もしかしたら案外、炎花ちゃんの方も知らなかったんじゃないかしら」
「炎花……」
深雪姉さんは興味なさそうに言う。だけど僕は最後に見た炎花の顔が頭を過る。今、炎花は族長抗争の中にいるのかな。心配だ……
「でも雪秀ぇ? あんたも火の一族の小娘を心配している余裕なんてすぐになくなるわよぉ? 何せあんたはもうすぐ――」
「深雪、ちょっとこっちに来なさい」
「あら、お父様。仕方ないわねぇ……じゃあまたあとでね、雪秀」
「ちょ、深雪姉さん! いったい何を言おうとしたんだろう」
深雪姉さんは何か言い掛けていたけど、父さんに呼ばれるとそのまま僕の前から去っていた。
「分からないけど、炎花は大丈夫かな」
炎花は鬱陶しい奴だけど、幼馴染で友達で一族の中で妹と両親以外には嫌われてる僕と幼い頃から闇成も含めた三人で遊んでくれていた。それに炎花は僕と似ている。炎花の火の一族は本来は男しか火の力を持って生まれることはなかった。でも稀に女が火の力を持って生まれたらその力は強大で同じ火の力を持つ者には妬まれ嫌われる。そう、深雪姉さんが僕を嫌っているように。きっと、炎花も――
「にーさま、大丈夫ですか? 顔色、悪いです……」
「ごめんね、真雪。少し疲れてるんだ。ちょっと休むね」
銀髪の長い髪が揺れる。そこには僕の雪女像に限りなく近い少女、妹の真雪の姿があった。心配する真雪の肩を左手で優しめに叩くとその場を後にしようとした。
「待ちなさい雪秀。休息の時間などは今のあなたにはありませんよ」
「母さん? 時間がないってどうして」
「あなたにはこれから雪の力を持つ者全員と雪の族長抗争の一人として戦うのです」
「え? 族長抗争って。僕はそんなの……」
呼び止められた母さんに。そして母さんの信じられない言葉に頭が真っ白になる。族長抗争に僕が加わるだって? そんなの無理だ。だいたい雪の一族の族長は深雪姉さんに決まってるようなもんじゃないか。
「出ないとは言わせませんよ? あなたは族長抗争に加わるだけの力があるのです。それに今日まで、その為に修練を積んできたでしょう?」
「そ、それは……」
確かに族長に必要なことは身に付けてきた。作法はもちろん、特に武術――剣術や薙刀とか槍術の類いを重点にやらされてきた。でも族長抗争には出たくないし何より姉達と戦うのは嫌だ。
「さあ来るのです。集まればすぐにでも始めますよ」
「嫌……僕は出たくない!」
「にーさま!」
「そのような我が儘は通りませんよ?」
「え? あっ、う……」
母さんは無理矢理にでも連れて行こうと僕の右腕を掴んだ。僕は振り払おうと力を入れた。でも母さんと凍るような瞳を見ると身体の身動きが取れなくなった。身体が、口すらも上手く動かせない……
「行きますよ。真雪! あなたもですよ」
「は、はい。お母様……」
しばらく歩かされると雪色のエレベーターが見えてくるとそのまま中に押し込まれる。
「それでは頑張るのですよ? 雪秀、真雪」
「は、はい」
気付けば家の前だった。調子は悪くても身体は家までの道を覚えている。僕自身、意識しなくてもこうやって気付けば家に着いてしまうのが何よりの証拠だった。
「ただいま、真雪」
「雪秀にーさま! 大変です!」
「どうしたの?」
「とにかく来てください!」
玄関前に立っていた我が妹、真雪に声を掛けられると腕を引っ張られて連行される。大人しい真雪がここまで血相変えて何かに必死になるのを見るのは初めてかもしれない。それだけ何か重大なことがあったってことか。
「あら、今お帰り? この忙しい時に暢気に学校なんてねぇ……」
「……それで何かあったの? 勢揃いって感じだけど」
真雪に連れて来られたのは広間だ。大勢の客人を招いた時とか一族で何かやる時とか重要な時には決まってこの場所が使われる。広間には家族全員が、いや家族だけじゃなく雪見逸一族、言わば親類勢揃いの状況ってわけだ。
「何でも今日、行われるらしいのよ」
「行われるって何が」
「火の一族の族長抗争よ」
深雪姉さんがはっきりした言い方をしてくれない。だから、更に訊くと意外にもあっさりと言ってくれた。
「火の一族の族長抗争ってそんな突然……」
「私も聞いて驚いたわ。まさか、こんな時期にね」
「そんな素振りはまったく……」
驚きと身体の震えが隠せない。族長抗争は言わば族長候補者同士の争い事だ。死闘と呼んでも大袈裟じゃないくらいにだいたいが血生臭い結果に終わると聞いたことがある。
「その様子だと炎花ちゃんからは何も聞いていないようね」
「そんなの聞いてるわけないよ」
「ふーん? そう。もしかしたら案外、炎花ちゃんの方も知らなかったんじゃないかしら」
「炎花……」
深雪姉さんは興味なさそうに言う。だけど僕は最後に見た炎花の顔が頭を過る。今、炎花は族長抗争の中にいるのかな。心配だ……
「でも雪秀ぇ? あんたも火の一族の小娘を心配している余裕なんてすぐになくなるわよぉ? 何せあんたはもうすぐ――」
「深雪、ちょっとこっちに来なさい」
「あら、お父様。仕方ないわねぇ……じゃあまたあとでね、雪秀」
「ちょ、深雪姉さん! いったい何を言おうとしたんだろう」
深雪姉さんは何か言い掛けていたけど、父さんに呼ばれるとそのまま僕の前から去っていた。
「分からないけど、炎花は大丈夫かな」
炎花は鬱陶しい奴だけど、幼馴染で友達で一族の中で妹と両親以外には嫌われてる僕と幼い頃から闇成も含めた三人で遊んでくれていた。それに炎花は僕と似ている。炎花の火の一族は本来は男しか火の力を持って生まれることはなかった。でも稀に女が火の力を持って生まれたらその力は強大で同じ火の力を持つ者には妬まれ嫌われる。そう、深雪姉さんが僕を嫌っているように。きっと、炎花も――
「にーさま、大丈夫ですか? 顔色、悪いです……」
「ごめんね、真雪。少し疲れてるんだ。ちょっと休むね」
銀髪の長い髪が揺れる。そこには僕の雪女像に限りなく近い少女、妹の真雪の姿があった。心配する真雪の肩を左手で優しめに叩くとその場を後にしようとした。
「待ちなさい雪秀。休息の時間などは今のあなたにはありませんよ」
「母さん? 時間がないってどうして」
「あなたにはこれから雪の力を持つ者全員と雪の族長抗争の一人として戦うのです」
「え? 族長抗争って。僕はそんなの……」
呼び止められた母さんに。そして母さんの信じられない言葉に頭が真っ白になる。族長抗争に僕が加わるだって? そんなの無理だ。だいたい雪の一族の族長は深雪姉さんに決まってるようなもんじゃないか。
「出ないとは言わせませんよ? あなたは族長抗争に加わるだけの力があるのです。それに今日まで、その為に修練を積んできたでしょう?」
「そ、それは……」
確かに族長に必要なことは身に付けてきた。作法はもちろん、特に武術――剣術や薙刀とか槍術の類いを重点にやらされてきた。でも族長抗争には出たくないし何より姉達と戦うのは嫌だ。
「さあ来るのです。集まればすぐにでも始めますよ」
「嫌……僕は出たくない!」
「にーさま!」
「そのような我が儘は通りませんよ?」
「え? あっ、う……」
母さんは無理矢理にでも連れて行こうと僕の右腕を掴んだ。僕は振り払おうと力を入れた。でも母さんと凍るような瞳を見ると身体の身動きが取れなくなった。身体が、口すらも上手く動かせない……
「行きますよ。真雪! あなたもですよ」
「は、はい。お母様……」
しばらく歩かされると雪色のエレベーターが見えてくるとそのまま中に押し込まれる。
「それでは頑張るのですよ? 雪秀、真雪」
「は、はい」
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