剣と魔法の世界で俺だけロボット

神無月 紅

文字の大きさ
15 / 422
心核の入手

015話

しおりを挟む
「どうやら、私の心核はアランの心核と違って、喋ったりはしないみたいね」

 それが、黄金のドラゴンから人の姿に戻ったレオノーラの口から最初に出た言葉だった。
 なお、ロボットではない以上当然なのだが、レオノーラが黄金のドラゴンから分離といった真似は出来ず、ドラゴンの身体は魔力に戻っていき、最終的にその場に残ったのがレオノーラであり、その点もアランとは大きく違う。
 類い希なほどの力を得たレオノーラだったが、そのレオノーラがアランに向けてくる視線は強い疑問と、それを解消しろという強烈な意思がある。
 とはいえ、まさかアランは自分が異世界で死んでこの世界で転生したなどと言えるはずもない。
 いや、もし言ったとしても、間違いなく誤魔化すための戯れ言だと、そう判断されるだろう。

「なら、その辺はあとで考えるとして……取りあえず、俺もレオノーラも心核を入手するという最大の目的は果たしたんだから、この遺跡をどうにかして脱出する必要があるな」
「……そうね」

 あからさまに話を誤魔化したアランだったが、実際にこの場所から出なければいけない以上、レオノーラとしてもその言葉には頷かざるを得ない。

「そうなると……問題はどうやってここを脱出するかだけど……」
「ぴ!」

 アランの言葉に答えるように、掌の心核が鳴き声を上げる。

(ペットロボットだろうがなんだろうが、こうして自我がある以上、いつまでも心核とは呼べないよな。何か名前をつけてやらないと)

 この世界の人間であれば、心核が自我を持つということに混乱していただろう。
 そんな状況でもすぐそのように考えることが出来たのは、やはりアランが日本で生きていたときはロボットが大好きだったからだろう。

「アラン、向こうを見て」

 心核の名前について考えていたアランは、不意にレオノーラに名前を呼ばれ、我に返る。
 そうしてレオノーラが指さした方向……今いる場所からは随分と離れているが、そこには間違いなく巨大な扉があった。

「あー……ここ、本当ならあの扉から入ってくる場所なんだろうな」

 心核があった場所なのだから、当然のように遺跡の中でもかなり深い部分にあったのは間違いない。
 本来なら、遺跡の奥深くにあるこの場所までやってきて、それからあの扉を潜ってこの部屋に入る……と、そういう流れだったのだろう。

「もしかしたら、この空間は心核の試験場だったのかもしれないわね」

 レオノーラの言葉に、アランも頷きを返す。
 ここがダンジョンであれば、お宝が奥深くにあってもおかしくはない。
 だが、ここはあくまでも遺跡だ。
 そうである以上、この空間は何か必然性があって存在していたということになる。

「もしかして、心核を使ったときに巨大になるというのを前提としているとか?」

 アランが自分の呼び出したゼオンとレオノーラが変化した黄金のドラゴンを思い出し、そう呟く。
 雲海に所属している心核使いは、オーガと白い猿をそれぞれ使うが、そのどちらもそこまで大きくはない。
 それでもオーガはかなりの身長を誇るが……ゼオンや黄金のドラゴンに比べれば、明らかに小さいという表現が相応しい。
 また、ここが広大な地下空間であるというのも、アランの予想の裏付けにもなる。

(遺跡は何だかんだと結構巨大な通路も多いけど……ゼオンだと、自由に動くというのは難しいだろうな)

 遺跡探索者としての最大の仕事は、当然今回のように遺跡に潜ることだ。
 正確には、その遺跡に眠っている古代魔法文明の遺産を見つけ、持ち帰ることか。
 ともあれ、そういう仕事が主である以上、当然遺跡に潜ることが多くなるのだが……全高十八メートル程のゼオンは、当然のように使える場所はどうしても限られてくる。
 特に浅い遺跡、そこまで重要度が高くないような遺跡であれば、とてもではないがゼオンを呼び出すことは出来ないだろう。
 遺跡ではなく、普通に地上で使う分には全く問題ないのだが。
 ……もっとも、それはアランのゼオンだけではなく、レオノーラの黄金のドラゴンにも言えることだ。
 全高はゼオンよりも小さいが、全長という点では明らかにゼオンよりも上で、純粋な質量や体積で考えても黄金のドラゴンの方がゼオンよりも上だ。

「アラン、行くわよ。ここでじっとしていても始まらないわ。とにかく、ここを脱出しないと。多分、上で皆が心配しているわ」
「ぴ!」

 考え込むアランに、レオノーラが行動を急かし、心核もそれに同意するように鳴き声を上げる。

「そうだな。……ああ、それとお前をいつまでも心核って呼ぶのは少し可哀想だから、名前を付けることにしたんだけど、構わないか?」
「ぴ! ぴぴぴ!」

 アランの言葉に、その掌の中で心核は嬉しそうに鳴き声を上げる。
 そして、巨大扉の方に歩きながらも、レオノーラはそんなアランの様子に興味深そうな視線を向けていた。
 当然だろう。心核が自我を持つというのも、レオノーラにとっては初めて見ることなのだから。
 そして、当然ながら心核に対して名前を付けるような相手も、レオノーラにとっては初めて見る相手だ。

「カロ。お前の名前は、カロだ」

 アランが日本にいたときに好きだったロボットアニメ。
 それに出てくるマスコットキャラの名前を参考に、呼びやすい名前として思いついたのだが、カロだった。

「ぴ!」

 その名前が気に入ったのか、カロは嬉しそうに鳴き声を上げる。
 そんなカロの様子に、アランも即興で決めた割には喜んで貰えたようで何よりだと、満足そうに頷く。

『感謝する。異界より来た者よ』
「……え?」

 ふと、聞こえてきたその声。
 一瞬カロから聞こえてきたのかと思ったが、アランが知ってる限りはカロの口からはきちんとした言葉は出てこない。
 何より、今のはまるで耳で直接その声を聞いたのではなく、レオノーラが黄金のドラゴンになったときに使ったテレパシーに似た何かのように思えた。
 特にアランの意識を奪ったのは、やはり『異界』という言葉だろう。
 それはつまり、アランが異世界……日本で死んで、この世界に転生したということを知っている相手がいるということになる。

「どうしたのよ、いきなり止まって」

 レオノーラのその言葉に、アランは今の声……正確にはテレパシーが自分にしか聞こえていなかったということを理解する。
 自分が異世界から転生した存在であることを知られなかったのは、幸いと言うべきだろう。
 そう思いつつ、首を横に振る。
 すると、まるでそれが合図だったかのように、急にアランとレオノーラの足下が光る。
 その光が何なのかというのは、それこそ考えるまでもない。
 アランとレオノーラの二人は、その光に触れることによって強制的に転移させられ、恐らく遺跡の中でもかなり奥の方にあるだろうこの場所までやって来たのだから。

「ちょっ、アラン!?」

 レオノーラもアランと同じことに気が付いたのか、戸惑ったように叫ぶ。
 この期に及んで、再びどこか訳の分からない場所に転移させられては堪ったものではないということなのだろう。
 もっとも、その言葉に絶望的なものがないのは、レオノーラが元々かなりの実力者で、何があっても対応出来るという自信を抱いているから……であると同時に、心核を手に入れたというのも大きい。
 あるいは心核を使えば、もしかしてこの光……転移の光からどうにか回避することも出来たかもしれなかったが、その光はそんな暇を与えるようなことはなく、やがて二人を呑み込もうとし……

「レオノーラ!」

 叫び、心核を持っていない方の手を伸ばすアランに、レオノーラは半ば反射的にその手を握る。
 普段であれば、とてもではないが許さないような行為だったが、このような……それこそ、遺跡の奥深くと思しき場所で、ゼオンによって間違いなく戦力になるだろうアランと離れるのは、絶対に避けたかった。
 そして……二人は、手を繋いだまま光に包まれ……その心核の眠っていた空間から姿を消すのだった。





「きゃあっ!」
「っと!?」

 光に包まれたと思った次の瞬間、いきなりどこかに転移させられた二人は、それぞれに声を上げながら周囲を見回す。
 まず見えたのは、青空と太陽。
 そして、忙しく働いている大勢の人。

「えーっと……なぁ、これって……」
「そうね。何がどうなったのかは分からないけど、向こうは親切にも私たちを遺跡の外まで転移したんでしょうね。……一体、何を考えてるのかは、分からないけど」

 不満そうに呟くレオノーラだったが、アランは何となくこの現象を起こした人物……いや、存在に思い当たることがあった。
 テレパシーか何かで、直接アランの頭の中に話しかけてきた相手。
 そして何より、どのような手段によってかは分からないが、アランが異世界からこの世界に転生してきたということを知っている相手。
 明らかにあの遺跡について何かを知っているだろう相手だったが、アランはそのことをレオノーラに説明する気にはならなかった。
 もしそれを説明すれば、話の流れ上、自分が異世界からの転生者であるということも話さなければならないだろうから。
 二人揃って半ば呆然としながら周囲を見ていれば、当然のようにその存在に気が付く者も出てくる。
 ただでさえ、アランとレオノーラの二人は遺跡を調べている途中で強制的に転移させられたのだから、それも当然だろう。

「アラン! 無事だったのね!」

 アランにとって驚いたことに、周囲に響いた声は母親のリアのものだった。
 てっきり、まだ遺跡の中にいるのかとばかり思っていたのだが……と、意外に思っていると、他にも父親のニコラスや雲海を率いているイルゼン、それ以外にもアランにとっては小さいときから一緒だった仲間たちが走り寄ってくる。
 当然アランたちの方に近づいてくるのは雲海だけではなく、レオノーラの率いる黄金の薔薇の面々もいる。
 いや、むしろ自分たちを率いているレオノーラの姿を見つけたことで、黄金の薔薇の方が喜んでいる面々が多かったのは間違いない。
 そんな風に近づいてきた者たちが見たのは……手を繋いだままでいた、アランとレオノーラの姿で、それが原因でまた一騒動起きるのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

残念ながら主人公はゲスでした。~異世界転移したら空気を操る魔法を得て世界最強に。好き放題に無双する俺を誰も止められない!~

日和崎よしな
ファンタジー
―あらすじ― 異世界に転移したゲス・エストは精霊と契約して空気操作の魔法を獲得する。 強力な魔法を得たが、彼の真の強さは的確な洞察力や魔法の応用力といった優れた頭脳にあった。 ゲス・エストは最強の存在を目指し、しがらみのない異世界で容赦なく暴れまくる! ―作品について― 完結しました。 全302話(プロローグ、エピローグ含む),約100万字。

氷弾の魔術師

カタナヅキ
ファンタジー
――上級魔法なんか必要ない、下級魔法一つだけで魔導士を目指す少年の物語―― 平民でありながら魔法が扱う才能がある事が判明した少年「コオリ」は魔法学園に入学する事が決まった。彼の国では魔法の適性がある人間は魔法学園に入学する決まりがあり、急遽コオリは魔法学園が存在する王都へ向かう事になった。しかし、王都に辿り着く前に彼は自分と同世代の魔術師と比べて圧倒的に魔力量が少ない事が発覚した。 しかし、魔力が少ないからこそ利点がある事を知ったコオリは決意した。他の者は一日でも早く上級魔法の習得に励む中、コオリは自分が扱える下級魔法だけを極め、一流の魔術師の証である「魔導士」の称号を得る事を誓う。そして他の魔術師は少年が強くなる事で気づかされていく。魔力が少ないというのは欠点とは限らず、むしろ優れた才能になり得る事を―― ※旧作「下級魔導士と呼ばれた少年」のリメイクとなりますが、設定と物語の内容が大きく変わります。

クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした

コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。 クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。 召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。 理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。 ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。 これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

処理中です...