剣と魔法の世界で俺だけロボット

神無月 紅

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辺境にて

060話

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「それで、まずはどこに行くんだ? 今回の一件を考えると、迂闊な場所に行くことは出来ないけど」

 ラリアントの街中を移動しながら、アランは隣のレオノーラに声をかける。
 レオノーラは、現在顔が見えないようにフード付きのローブを着ていた。
 絶世の美女という表現に相応しいレオノーラだったが、だからこそどうしても人の目の印象には残りやすい。
 そんな訳で、アランとレオノーラがまずやるべきことはどうにかしてレオノーラの顔を隠すことだったのだが……

(うん、あのチンピラたちには感謝だな)

 ラリアントはそれなりに治安がいいのだが、だからといって全くチンピラの類が存在しない訳ではない。
 ましてや、今は昼ではなく夜だ。
 その手の者たちが動き回ることも多く、結果としてアランとレノオーラは公園から脱出して少ししてから、その手の相手に絡まれたのだ。
 とはいえ、これはチンピラたちにとって絡んだ相手が悪い。
 探索者として高い実力を持っているレオノーラに、その辺のチンピラがどうこう出来る訳もない。
 また、雲海の中では一番実力の低いアランだったが、それでも毎日のように訓練を行っており、結果としてその辺のチンピラ程度ではどうにも出来ないだけの実力を持っていた。
 そんな二人に絡んだチンピラたちは、有り金とレオノーラの美貌を隠すためのローブを奪われたあとで、気絶させられ、その辺に放り出されることとなる。
 ついでとばかりに、持っていた金も奪われたのは……アランとレオノーラは、ほとんど着の身着のままだった以上。ある意味で当然の結果だったのだろう。

「アラン? どうしたの?」
「いや、何でもない。上手い具合にさっきの連中が絡んで来てくれたと思ってな。レオノーラも、おかげで目立たなくていいし」
「そうね」

 レオノーラは素っ気なく言葉を返す。
 レオノーラにしてみれば、あのようなチンピラのことを考えるような真似をする必要性を感じなかったのだろう。

(ああいう連中って、何気に警備兵とかに見つかりにくい隠れ家とかを持ってることも多いんだから、今の俺たちにとってはかなり有益な存在だと思うんだけど)

 雲海と黄金の薔薇の仲間を探すにしても、このラリアントという広い都市の中でどうやって探すのかといった問題がある。
 であれば、取りあえず一時的な拠点は必須となるはずだった。
 その辺の事情をアランが告げると、レオノーラは少し考えてから口を開く。

「そういうものなの?」
「ああ。……知らなかったのか?」

 アランにしてみれば、この世界に生まれてから探索者として色々と活動してきた中で知った、ありふれた情報だった。
 だが、レオノーラは、今は探索者をしているが、元々は王女であるだけに、探索者として働いていてもあのような者たちと接する機会がなかったのだろう。

「ええ、そうね。ただ、考えてみればそれも当然かしら。……とはいえ、今から戻る訳にもいかないでしょ」

 すでに、チンピラと戦った――というか一方的に蹴散らした――場所からはかなり離れている。
 今から戻って気絶したチンピラを目覚めさせ、隠れ家の場所を尋問する。
 そのような真似をすれば、間違いなくかなり時間を消耗してしまうだろう。
 それこそ、場合によってはラリアントに侵入してきた者を探すために動いているだろう警備兵がやってきてもおかしくはないくらいに。
 であれば、今は過去のことよりも未来のこと、と。
 そう告げるレオノーラにアランは頷きながらも、出来ればまた先程のようなチンピラが現れてくれないかなと期待する。
 とはいえ、先程はあくまでもレオノーラが顔を晒していたからこそ、あのようなチンピラが絡んで来たのだ。
 フードを被って顔を隠している今のレオノーラは、美人だからという理由で絡んでくるような相手がいるとは思えなかった。

「取りあえず、母さんや父さん、イルゼンさん……それ以外の仲間を探すとしても、どこかに拠点は必要だろ。かといって、まさか俺たちが泊まっていた宿に戻ることは出来ないだろうし」

 雲海と黄金の薔薇が泊まっていた場所は、当然のように真っ先に調べられているはずだった。
 そこにいる者たちは、まず間違いなく何らかの容疑をでっち上げられて捕まっているだろう。
 もっとも、アランの知っている仲間たちであれば、そう簡単に捕まるようなことがあるとは思えなかったが。
 それこそ、捕らえに来た相手を見て即座に窓から逃げ出したとしても、おかしな話はない。

「俺の仲間は街中で心核を使うような奴は……その、まぁ、いない……と思いたいような気がするけど、黄金の薔薇の方はどうだ?」
「こっちは大丈夫よ」

 オーガに変身する誰かさんを思い出し、言葉を濁しながら尋ねるアランに対して、レオノーラはあっさりとそう告げる。
 黄金の薔薇に所属する心核使いの行儀の良さに、アランは少しだけ羨ましく思う。
 少なくても、雲海の面々と比べるとこういうときの信用の度合いは段違いだと。
 とはいえ、だからといって長年を共にしてきた自分の仲間を無意味に下に見るような真似をするつもりはなかったが。

「そうなると、結局はラリアントの現状を知る必要があるのか。雲海や黄金の薔薇がどうなっているかとか」

 そういう意味でも、さっきのチンピラは勿体なかったか? と、そう思うアランだったが、すぐに首を横に振る。
 チンピラであれば……いや、チンピラだからこそ、ラリアントの現状を理解していないのではないかと、そう思った為だ。
 自分達が楽しければそれでいいというのが、レオノーラに絡んで来たチンピラの性格のように思えた。
 何しろ、現在盗賊たちによって半ば封鎖されているのに、あのような真似をしているのだから。

(いや、もしかして封鎖されてることを知って、自棄になっているとか……そういう可能性もあるのか?)

 どちらもありそうだったが、今はとにかく仲間の情報を得る必要がある。
 ただ、ここで問題なのは、アランもレオノーラも、このラリアントでは親しい相手……頼れる相手がいないということだろう。
 正確にはアランには友人と呼ぶべき相手はいる。
 だが、その友人というのは、雲海や黄金の薔薇が戦い方を教えていた兵士たちだ。
 今の状況でアランがのこのこと兵士の前に出るようなことがあれば、それこそ問答無用で捕まってもおかしくはない。
 多少は躊躇するかもしれないが。

「情報屋を探しましょう。下手な相手から中途半端な情報を集めるよりは、そちらの方がいいわ」
「……いや、けど。いいのか? だって情報屋だぞ? 俺たちが向こうに接触したとなれば、当然のようにその情報屋が俺たちの情報を流すんじゃないのか?」

 それ以前にも、情報屋に支払う対価を持っていないというのもあった。
 先程のチンピラが持っていた金は奪ってきたが、それはあくまでも小銭でしかない。
 食事をするくらいの料金や、安宿に泊まるくらいの金額ではあるが、情報屋から情報を買う代価としてはあまりに低い。
 ……もっとも、そもそもの話として情報屋と接触出来るのかといった問題もあるのだが。

「その辺は、支払う代金次第だと思うわ」
「代金って、さっきのチンピラから奪った金か? あれだと、とてもじゃないけど……」
「違うわよ」

 そう言い、レオノーラはどこからともなく宝石を取り出す。
 アランも探索者として活動している以上、本職にはおよばなくても、ある程度の宝石の目利きは教え込まれている。
 薄明かりの中でも、その宝石が青いのは理解出来た。
 しっかりとした明かりがないので、実際にはどのくらいの鮮やかな青なのかは分からない。分からないが、それでもこうしてレオノーラが自信満々に出したということは、恐らくかなりの高級品なのだろうというのは、容易に予想出来る。

「分かった。そうなると、次の問題はどうやって情報屋を探すかだけど……」

 アランも、情報屋を探せないという訳ではない。
 実際、新しい街や都市に行けば、情報を集めるために雲海のメンバーが情報屋に接触することもあり、そういうときは勉強も兼ねてアランが一緒に連れて行かれることも多かった。
 だがからこそ、アランもラリアントで情報屋を探そうと思えば探せるのだ。
 ……だが、アランが情報屋を探すとなると時間がかかり、同時に酒場のような場所で相手にコンタクトを取る必要がある。
 今の状況でそのような真似をすれば、それは警備兵たちに捕まえてくださいと主張してるようなものだろう。
 そんな相手に情報屋が接触してくるかと言われれば、少なくてもアランは自分が情報屋であれば絶対に接触しないと断言出来た。
 しかし、そんなアランの心配を、レオノーラはあっさりと解決する。

「その辺は問題ないわ。ラリアントに滞在するようになってから、どれくらい経っていると思ってるの? ある程度の目星はついてるわよ」

 あっさりとそう告げられ、アランは驚く。
 だが、すぐに考えてみれば当然だったのだろうと思い直す。
 雲海の一員で、しかも実力的には心核を抜かせば一番下と言ってもいいアランと違い、レオノーラは黄金の薔薇を率いている身だ。
 当然ながら、見知らぬ場所に来たときにはやっておく最低限のことの中に、情報屋との接触というのがあるのだろうと。
 今回の件もそうだが、探索者というのはその力や、何よりも古代魔法文明の遺跡からアーティファクトの類を手に入れることも多く、それを巡って面倒なことになることも多い。
 そのようなトラブルがあったときのために、前もってある程度の情報収集をしておくのは必須の出来事なのだろう。

(そう言えば、イルゼンさんも以前にそんなことを言ってたような、言ってなかったような……)

 以前イルゼンと世間話をしているときに、似たような話を聞いたことがあったような気がするアランだったが、ともあれ今はそれを思い出すよりも早くやるべきことがあった

「それで、レオノーラが知っている情報屋ってのはどこにいるんだ?」
「裏路地にある、ちょっと非合法な酒場よ」
「……非合法な酒場?」

 別に酒場に非合法も何もないのではないか。
 そんな疑問を抱くアランだったが、レオノーラの様子を見る限りでは、何らかの確信があるのは間違いなさそうだったので、そのままレオノーラに案内されるままに道を進むのだった。
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