剣と魔法の世界で俺だけロボット

神無月 紅

文字の大きさ
102 / 422
ラリアント防衛戦

101話

しおりを挟む
 自分たちが不利なときに援軍が来て、一気に戦局が逆転する。
 そうして自分たちが有利になったところで、今までの鬱憤を晴らすかのように撤退していく敵に向かって追撃をしようとしていたところで……不意に敵に援軍が現れ、自分たちに攻撃をしてくる。
 そのタイミングは明らかに最初から狙っていたもので、少しでも頭の回る者であれば、自分たちが敵に嵌められたのだと、すぐに理解してしまうだろう。
 まさに自分たちの勝利が決まっていたと思える状況からの、一転しての危機。
 そんな中で、すぐに危険を察知して追撃を中止し、撤退するという選択を出来た者はそう多くはない。
 中には、何故自分たちが有利な状況なのに、すぐに撤退するのかといったように現状を理解していない……したくない者すらもいる。
 一発逆転したかと思えば、そこからさらに大どんでん返しをされてしまったラリアント軍は、混乱の極みにあった。
 不幸中の幸いなのは、地平線の向こうから姿を現したガリンダミア帝国軍の援軍がここに到着するまでには、まだ相応に時間がかかるということだろう。
 それでも、この状況でここで戦うのが不利なのは明らかだった。
 何故なら、ガリンダミア帝国軍は……正確には殿軍として使われた徴兵された者たち以外の生粋のガリンダミア帝国軍は、元からこうして援軍が来るというのは理解していたためだ。
 それを承知の上で、敵を誘き寄せるための策を考えた。
 その全ては、この時のために。
 自分たちが有利な状況の中で、いきなりの逆襲によって撃退される。
 それは、相手の心を折るという一点においては非常に強力な一手だ。

「うっ、うわああああああああああああああああっ!」
「逃げろ、逃げろ、逃げろ! ラリアントに撤退するんだ!」
「馬鹿野郎! 敵に援軍が来たとはいえ、まだあんなに遠くにいるんだぞ! 今なら、まだこいつらを倒せる!」
「ふざけんな! 見ろよ、あれを! この連中、最初からこうなることを予想しての撤退だったんだよ!」

 そんな風に騒いでいる中でも、徴兵された者たちではない生粋のガリンダミア帝国軍の兵士たちは、ちゃくちゃくと攻撃の準備を整えていた。
 そして……

「殲滅だ」

 ディモの馬の上から獰猛な笑みを浮かべ、動揺しているラリアント軍に視線を向け、呟く。
 その声は決して大きなものではなかった。
 だが、それでもディモに従っている者たちにしてみれば、十分なだけの声の大きさ。 槍を持ち、皆の先頭に立って進むディモに、他の者たちも続く。
 もし先程の撤退が本当の意味での撤退であれば、ディモの命令の一つで反撃するような真似は出来なかっただろう。
 しかし、あの撤退は最初から見せかけのものだった。
 ラリアント軍に王都からの援軍が来ると読んでいたかからこそ、最初から本気で攻めるような真似はせず、消耗戦に持ち込むという形で戦っていたのだ。
 そうして、敵の援軍が来たところで撤退したのだから、この反撃は予定通りの行動にすぎない。
 だからこそ、敵が動揺しているとき、一気に反撃を可能とした。
 ディモが、馬に乗って突っ込んでいく。
 ラリアント軍に向かって突っ込んでいくのだが、その途中には当然のように殿軍として使った徴兵された者たちがいる。
 だが、ディモはそんな相手など知ったことかと言わんばかりに、突っ込んだのだ。
 当然のように、そんな状況ではディモの乗る馬に吹き飛ばされる兵士や、転ぶか何かして地面に転んでいるような者にいたっては、馬の蹄で身体や手足……場合によっては頭部を踏み砕かれる者すら出て来る。
 それでもディモはそのような相手には構わずに部下を率いて徴兵された者たちの間を強引に突っ切り……やがて、ラリアント軍と接触する。

「おりゃああぁっ!」

 豪快な声と共に振るわれる槍。
 その声と同様の豪快な一撃は、それこそ触れた者が誰であれ吹き飛ばし、斬り裂くだけの威力を持っていた。

「うわあああああああああっ! 逃げろ、逃げろ、逃げろぉっ!」

 元々ガリンダミア帝国軍に援軍が来たということで動揺していたところに、この突撃だ。
 自分たちは追撃をしていたのではなく、誘き寄せられて罠に嵌められたのだと気が付いた者たちが、逃げろと叫びながらラリアントに戻ろうとする。
 だが、相手は馬に乗っているのだ。
 追撃部隊としてやって来た者たちの中にも馬に乗っていた者はいたが、やはり自分の足で直接走ってきた者の方が多い。
 そうなると、馬に乗って突撃してくるディモから簡単に逃げられるはずもない。
 そんな状況であっても、今はまずどうにかして逃げようとし、自分の前にいる邪魔な相手を押しのけて逃げるような者も出て来る。
 自分たちが勝利者だからと思っていただけに、そこからの流れは追撃部隊の心を折るのに十分だった。

「わっはっは。ガリンダミア帝国軍に逆らった末路を、その身で味わえ!」

 叫びながら振るわれるディモの槍は、次々と兵士たちを斬り裂き、貫き、吹き飛ばし……だが、不意にその動きを止めたディモは、手綱で馬を操ってその場から素早く退避する。
 ディモが回避した場所を光が通りすぎ、その背後……ディモの行動に追随出来なかった者たちに命中すると、周囲に爆発を起こす。
 一瞬の差で何とか光を回避したディモは、視線の先にいる空を飛ぶゴーレムの姿を発見すると、すぐに指示を出すべく叫ぶ。

「ちぃっ、もう来たか。……ゼオンが出たぞ! こちらの心核使いを出せ! この状況で奴に好き勝手に暴れられる訳にはいかん!」

 そんなディモの指示が届くよりも前に、背後から戦場を眺めていたイクセルは、軍師としての役目を果たすべく指示を出していた。
 本来ならディモの指示もなく心核使いを動かすことは出来ないのだが、ディモの軍に所属している者たちはイクセルの軍略によって今まで勝利を積み重ねてきたという意識があるので、そのことに異論を挟まない。
 命令される心核使いの方は、そんなイクセルに命令されるのが面白くはなかったが、それに反論出来るような状況ではない。
 自分の国から徴兵された兵士たちが敵に消耗戦をさせるための捨て駒にされたり、撤退する際には殿軍を押しつけられて追撃部隊からの攻撃で被害を出したり、それどころか追撃部隊を倒す為に弓を使って一斉に射撃したときはその攻撃に巻き込まれた者も多い。
 そのような意味ではガリンダミア帝国軍に対する恨みはこれ以上ないほどに強いのだが、今の自分の状況でガリンダミア帝国軍に逆らうような真似は出来ない。
 今の自分たちに出来るのは、イクセルの指示に従って心核使いとして戦いに出て、徴兵された兵士たちを守るだけだ。
 イクセルも、そんな心核使いたちの考えは読んだ上で、ゼオンに立ち向かえといった命令をしているのだろうが。
 とにかく、今の自分が出来るのはゼオンを相手にすることだけ。
 そう判断し、徴兵された心核使いたちはモンスターの姿に変身するのだった。





 時は少し戻る。
 王都からの援軍が来たことにより、ガリンダミア帝国軍が撤退していったのを見て安心していたアランだったが、そんな安心した時間も長くは続かない。
 戦いが一段落して休んでいると、モリクからの指示を兵士が伝えに来たのだ。
 曰く、撤退したガリンダミア帝国軍に追撃をしている部隊がいるので、その部隊を止めて欲しいと。
 撤退する敵に追撃をするのは当たり前では? と思わなくもなかったアランだったが、モリクが出した指示となれば、何らかの意味が……そう考えたアランは、ガリンダミア帝国軍の撤退の際の動きが普通よりも素早くなかったか? と思い直す。
 つまり、こちらからの追撃の部隊を誘き寄せるために撤退したのではないか、と。
 明らかに罠だと思ったアランだったが、それでもラリアントを守るための重要な戦力である以上、見捨てる訳にもいかない。
 そのため、アランは一番速く移動出来るということで、ゼオンに乗り込んでラリアントを立った。
 後詰めの援軍を送ると言われていたが、まずは罠に嵌まったのだろう味方を助ける方が先だということで先行したのだが……戦場に到着してみれば、そこでは予想してはいたが、出来れば外れて欲しいと思える光景が広がっていた。
 逃げていたはずのガリンダミア帝国軍が、その場で反転して追撃を行っていたラリアント軍に攻撃していたのだ。
 追撃というのは、あくまでも敵が逃げるところを背後から攻撃出来るからこそ、圧倒的に有利なのだ。
 敵が反撃をするつもりなら、追撃を行っている者が少ない状況では意味がない。
 追撃を行っていた者たちは、それを自分たちの命という代価を支払って体験していた。
 何よりも致命的だったのは、ガリンダミア帝国軍の騎兵隊が追撃部隊を……それどころか、殿軍を任されていたガリンダミア帝国軍の兵士すらも蹂躙するように突撃していたことだろう。
 特に騎兵隊の先頭で槍を振るっている男は、槍を使ったことがないアランから見ても手練れだというのが分かるだけの実力を持っていた。

「うわ、マジかよ。……いやまぁ、こうして前戦に出て来てくれたのなら、ある意味では好機なんだろうけど」

 呟きつつ、アランはゼオンの持つビームライフルで敵を狙いつつ高度を上げる。
 高度を上げるといった真似をすれば、当然のように目立ってしまう。
 目立ってしまうのだが……それでも追撃をしていたラリアント軍の背後からビームライフルを撃てば、そのビームはガリンダミア帝国軍に命中するよりも前にラリアント軍に大きな被害を与えることになる。
 追撃を行ったラリアント軍を助けに来たのに、ここで味方に被害を出すような真似は絶対に避けたいアランとしては、高度を上げるしかなかった。
 いや、左右に移動すれば高度を上げる必要もなかったかもしれないが、それよりも今は高度を上げた方が素早くビームライフルを撃てる。
 すでに味方に大きな被害が出ている以上、可能な限り素早く敵を攻撃する必要があり……ゼオンは上空に上がると、敵に向かってビームライフルを撃つのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。 しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった─── そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。 前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける! 完結まで毎日投稿!

残念ながら主人公はゲスでした。~異世界転移したら空気を操る魔法を得て世界最強に。好き放題に無双する俺を誰も止められない!~

日和崎よしな
ファンタジー
―あらすじ― 異世界に転移したゲス・エストは精霊と契約して空気操作の魔法を獲得する。 強力な魔法を得たが、彼の真の強さは的確な洞察力や魔法の応用力といった優れた頭脳にあった。 ゲス・エストは最強の存在を目指し、しがらみのない異世界で容赦なく暴れまくる! ―作品について― 完結しました。 全302話(プロローグ、エピローグ含む),約100万字。

【完結】剣聖と聖女の娘はのんびりと(?)後宮暮らしを楽しむ

O.T.I
ファンタジー
かつて王国騎士団にその人ありと言われた剣聖ジスタルは、とある事件をきっかけに引退して辺境の地に引き籠もってしまった。 それから時が過ぎ……彼の娘エステルは、かつての剣聖ジスタルをも超える剣の腕を持つ美少女だと、辺境の村々で噂になっていた。 ある時、その噂を聞きつけた辺境伯領主に呼び出されたエステル。 彼女の実力を目の当たりにした領主は、彼女に王国の騎士にならないか?と誘いかける。 剣術一筋だった彼女は、まだ見ぬ強者との出会いを夢見てそれを了承するのだった。 そして彼女は王都に向かい、騎士となるための試験を受けるはずだったのだが……

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

商人でいこう!

八神
ファンタジー
「ようこそ。異世界『バルガルド』へ」

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界召喚は7回目…って、いい加減にしろよ‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
『おぉ、勇者達よ! 良くぞ来てくれた‼︎』 見知らぬ城の中、床には魔法陣、王族の服装は中世の時代を感じさせる衣装… 俺こと不知火 朔夜(しらぬい さくや)は、クラスメートの4人と一緒に異世界に召喚された。 突然の事で戸惑うクラスメート達… だが俺はうんざりした顔で深い溜息を吐いた。 「またか…」 王族達の話では、定番中の定番の魔王が世界を支配しているから倒してくれという話だ。 そして儀式により…イケメンの正義は【勇者】を、ギャルっぽい美紅は【聖戦士】を、クラス委員長の真美は【聖女】を、秀才の悠斗は【賢者】になった。 そして俺はというと…? 『おぉ、伝承にある通り…異世界から召喚された者には、素晴らしい加護が与えられた!』 「それよりも不知火君は何を得たんだ?」 イケメンの正義は爽やかな笑顔で聞いてきた。 俺は儀式の札を見ると、【アンノウン】と書かれていた。 その場にいた者達は、俺の加護を見ると… 「正体不明で気味が悪い」とか、「得体が知れない」とか好き放題言っていた。 『ふむ…朔夜殿だけ分からずじまいか。だが、異世界から来た者達よ、期待しておるぞ!』 王族も前の4人が上位のジョブを引いた物だから、俺の事はどうでも良いらしい。 まぁ、その方が気楽で良い。 そして正義は、リーダーとして皆に言った。 「魔王を倒して元の世界に帰ろう!」 正義の言葉に3人は頷いたが、俺は正義に言った。 「魔王を倒すという志は立派だが、まずは魔物と戦って勝利をしてから言え!」 「僕達には素晴らしい加護の恩恵があるから…」 「肩書きがどんなに立派でも、魔物を前にしたら思う様には動けないんだ。現実を知れ!」 「何よ偉そうに…アンタだったら出来るというの?」 「良いか…殴り合いの喧嘩もしたことがない奴が、いきなり魔物に勝てる訳が無いんだ。お前達は、ゲーム感覚でいるみたいだが現実はそんなに甘く無いぞ!」 「ずいぶん知ったような口を聞くね。不知火は経験があるのか?」 「あるよ、異世界召喚は今回が初めてでは無いからな…」 俺は右手を上げると、頭上から光に照らされて黄金の甲冑と二振の聖剣を手にした。 「その…鎧と剣は?」 「これが証拠だ。この鎧と剣は、今迄の世界を救った報酬として貰った。」 「今迄って…今回が2回目では無いのか?」 「今回で7回目だ!マジでいい加減にして欲しいよ。」 俺はうんざりしながら答えた。 そう…今回の異世界召喚で7回目なのだ。 いずれの世界も救って来た。 そして今度の世界は…? 6月22日 HOTランキングで6位になりました! 6月23日 HOTランキングで4位になりました! 昼過ぎには3位になっていました.°(ಗдಗ。)°. 6月24日 HOTランキングで2位になりました! 皆様、応援有り難う御座いますm(_ _)m

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

処理中です...