剣と魔法の世界で俺だけロボット

神無月 紅

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ラリアント防衛戦

119話

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『う……うわああああああああああああああああああああああああっ!』

 撤退していくガリンダミア帝国軍の姿を見て、ラリアントを守るべく戦っていた者たちの口からは、絶叫と呼ぶに相応しいような歓声が上がる。
 もう駄目だと、このまま戦っていてもいずれは負ける可能性が高いと、そう思いつつ、それでもこれ以上は負けられないと判断しての戦い。
 戦っていた者たちが驚いたのは、援軍としてやって来た者たちも真剣に戦っていたことだろう。
 いや、援軍としてやって来たのだから、それは当然なのだが。
 だが、援軍といっても中には手柄を求めている貴族といった者もいる。
 そのような者たちは、ここに来れば簡単に手柄を得られると思っていた。
 しかし、実際に来てみれば援軍として自分たちがやって来ても、敵は撤退しない。
 それどころか、向こうも援軍を用意しており、ラリアント軍の士気をこれ以上ないほどに下げたのだ。
 ラリアント軍に一度希望を持たせ、そこから叩き落とす。
 普通に援軍を連れてくるのではなく、希望を持たせてからその希望を粉砕するといったようなことをし、結果としてより強い精神的なダメージをあたえよとしたのだ。
 それは、見事に成功した。……いや、成功しすぎたと言ってもいいだろう。
 ラリアントやそこに来た援軍は、極限まで追い込まれたことによって、自然と協力をして生き延びることに全力を傾けた。
 当然その協力をする者の中には貴族やその関係者もいたのだが、戦いというのは身分で生き残れるほどに甘くはない。……いや、身分のある者ほど手柄をして敵に狙われるのを考えれば、身分のある者の方が危ないだろう。
 そんな訳で、皆が一丸となり……それこそ、アランに強いライバル心を抱いていた者たちですら協力し、何とか戦い抜くことが出来たのだ。

「セレモーナ様、追撃はどうしますか?」

 前線に出て、軍を率いる身分でありながら戦っていたセレモーナは、部下の言葉に首を横に振る。

「いや、やめておく。こちらにそんな余力はないからな」
「そうですか? 一応心核使いの方には何人か余裕のある人もいるようですが」

 その言葉は、間違っていない。
 敵の心核使いの大半をアランが引き受けてくれたので、自然とラリアント軍の心核使いは敵の心核使いと戦わなくてもよくなったり、戦うにしても一人の心核使いに二人、三人といったように複数の心核使いで当たることが出来た。
 ガリンダミア帝国軍の心核使いも、何とか敵を倒そうとしてはいたのだが、アランやレオオーラのような突出した心核使いの姿はなく、一人で複数の心核使いを倒すの難しい。
 結果として攻めあぐね、ラリアント軍側の心核使いの多くはそこまで疲労していない。
 そういう意味で、心核使いによる追撃が進言されたのだ。

「それに、アランのゼオンもいますし。……何だか、思い切り姿が変わってましたけど」
「そうだな。……正直、あれには驚いた」

 セレモーナを含め、ラリアント軍にいる多くの者が知っているゼオンの姿というのは、人型機動兵器――この世界の認識ではゴーレム――だったが、現在のゼオンは背中からドラゴンの翼を模したような物が生えており、尻尾も生えている。
 装甲もゼオンの装甲から竜鱗が生えており、ゼオンの元の姿を知らない限り……いや、知っていたとしても、今のゼオンの姿はゼオンと認識するのは難しい。
 それでもゼオン……ゼオリューンを味方だと判断したのは、ゼオンの面影が幾らか残っており、攻撃する対象もガリンダミア帝国軍だったから、というのが大きい。

「あれってやっぱり、黄金のドラゴンが関係してるんですかね?」
「だろうな。あの黄金のドラゴンは、黄金の薔薇というクランを率いてる探索者が心核使いで変身した姿らしい」
「……凄かったですね」

 しみじみと告げる部下。
 先程までは戦闘の真っ最中だったこともあり、余計な感想を口にするような暇はなかった。
 だが、そのような状況の中でも、敵軍の真上を飛んでいるゼオリューンの姿は、目を奪わせるという行為をするのに十分だったのだろう。
 ……そんな状況であったにもかかわらず生き延びているのは、ゼオリューンに目を奪われたのはこの男だけではなく、戦っていたガリンダミア帝国軍の者たちも同様だったからだ。
 いや、ゼオリューンに目を奪われるという意味では、ガリンダミア帝国軍の方が強烈だった。
 何しろ、ゼオリューンはガリンダミア帝国軍の頭上を飛ぶだけでなく、頭上を飛び回りながらも次々と地面に向かって攻撃を行っていたのだから。
 普通なら、そのような攻撃をされた場合は、混乱して反撃し、もしくは一時的に撤退といった真似をしてもおかしくはない。
 だが、ガリンダミア帝国軍の兵士の中には、自分たちが攻撃をされてもその場から逃げるといったことが頭の中に浮かばない者すらいた。
 ゼオリューンの姿は、それだけ圧倒的な衝撃を見ている者に与えたのだ。

「ともあれ、こちらが勝ったのは事実だ。だが、敵も指揮系統が働いて撤退している以上、もし追撃をした場合は、反撃をしてくる可能性は十分にある」

 セレモーナのその言葉に、部下は納得して頷く。

「では、その旨を通達した方がいいのでは? 前回撤退したときは、手柄に焦った者が追撃をして大きな被害を受けたらしいですし」
「ふむ、そうだな。今は多くの者にそれを周知させる必要があるか。……それと、今回の勝利を祝って派手に祝勝会をすれば、そちらに意識を集中するだろう」
「それは……ただ、そうなると、かなりの物資を消耗しますが、それは構わないのですか?」
「構わんだろう。ガリンダミア帝国軍が撤退した以上、こちらとしてもこれ以上の戦闘態勢をとる必要はない。……もちろん、向こうが一度撤退したと見せかけて、また攻撃してくる可能性を考えると完全に安心出来るという訳ではないがな。……それから、ガリンダミア帝国軍の心核使いの方はどうなっている?」
「ゼオンと戦っていた連中ですね。そちらにはもう人をやっているので、そう時間はかからずに、対処出来るかと。……ですが、あれだけの心核、どうするつもりですか? アランに……いえ、雲海に与えるには、あまりに多すぎると思いますが」

 あとで必ず問題になります。
 そう言外に告げる兵士の言葉に、セレモーナは頷く。

「だろうな。あの心核使いの数を考えると、一体どれだけの心核が手に入ることになるのやら」

 全員が死んだり気絶した訳ではなく、何人かはその場から逃げ出した者もいるだろう。
 だが、それを考えても、数十人分の心核……つまり、数十個の心核を手にしたのは確実であり……

「そうですね。うちとしても、それだけの心核を全て受け取るということになれば、少し……いえ、かなり困ります」
『っ!?』

 セレモーナと部下の兵士は、突然聞こえてきた声に半ば反射的に振り向く。
 ここが戦場で、それも戦闘が終わったばかりということもあってか、その手は長剣が収められている腰の鞘に伸びていた。
 もし声を発した相手が襲いかかってこようものなら、それこそ即座に反撃をするつもりで、
 だが……そんなセレモーナの警戒も、次の瞬間には収まる。
 何故なら、視線の先にいる人物は以前モリクに紹介して貰った人物だったからだ。
 それも、ちょうど話をしていた人物にもかかわる相手。

「雲海を率いているイルゼンだったな。……それで、今の言葉は一体どういう意味なのか、聞かせて貰えると助かるのだが?」

 敵対している相手ではないのだが、それでも決して油断は出来ない相手としてイルゼンを認識し、セレモーナは尋ねる。
 そんなセレモーナの視線を向けられても、イルゼンはいつものように飄々とした笑みを浮かべたまま、特に緊張した様子もなく、口を開く。

「セレモーナ様が言ってた件で少し相談がありましてね」
「……心核のことか?」
「はい。本来なら、心核使いを倒した者がその心核を所有権を主張出来るのですが、今回そのような真似をすると、色々と危険です」
「だろうな」」

 イルゼンが何を心配しているのかは、セレモーナにも理解出来る。
 心核は、それこそ何らかの理由で売りに出されれば、それを買おうと巨額の……それこそ普通の家庭なら一生働かなくてもいいような金額が動くことも珍しくはない。
 だからこそ探索者たちは遺跡で心核を手に入れようと必死になっているのだ。
 ……もっとも、よっぽどの事情がない限り、遺跡で見つけた心核はその探索者、もしくはクランが自分たちの戦力として使うために確保するのだが。
 何しろ、心核使いが一人いるだけで戦況を引っ繰り返すことも珍しくはないのだ。
 古代部魔法文明の遺跡を探索するには、これ以上ないほどに頼れる存在だろう。
 また、現在ラリアントで行われているように、この世界では戦いになることも珍しくはなく、そういうときも心核使いが一人いるだけで生き残れる確率は大きく違ってくる。
 それだけの価値のある心核を、正当な理由があったからといってアランが独り占め――正確にはゼオリューンで倒したので、レオノーラと山分けなのだが――したらどうなるか。
 当然のように、この防衛戦に参加していた者たちから強い嫉妬の感情を向けられるだろう。
 そして嫉妬の感情は、相手の足を引っ張るということを躊躇させない。
 そのようになことになれば、アランにとってはかなり痛い。
 雲海としても、他の者の恨みを買いたくはない。

「……なるほど。それで、どうしろと?」
「そうですね。こちらもある程度の心核はいただきますが、大半はそちらに譲ります。その代わり、この戦闘に参加した者にはたっぷりと報酬を渡して下さい。そして……セレモーナ様に対する貸しとして考えて貰えれば、こちらとしては嬉しいです」
「ふむ……なるほど」

 イルゼンの提案は、セレモーナにとっても決して悪いものではない。
 かなり大きな借りを作ることになってしまうが、心核が大量にあれば、その貸しを上回るだけに利益を得られるのは確実だからだ。
 頭の中で素早く計算し……やがて、セレモーナはイルゼンの提案に頷くのだった。
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