剣と魔法の世界で俺だけロボット

神無月 紅

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逆襲

134話

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「貴様ぁっ! これは何のつもりだ! このようなことが、許されると思っているのか!」

 領主の館にある牢屋の中で、一人の男がそう叫ぶ。
 男の名前は、サンドロ・デロピタ。
 元々はこの都市……ザッカランの領主だったものだ。
 ドットリオン王国を下に見ており、根拠もなく自分たちは負けないと判断し、ザッカランが攻められているにもかかわらず、面子を気にして援軍を要請しなかった男。
 今までザッカランを統治してきたことを思えば、決して無能という訳でもないだろうが……ドットリオン王国が自分たちよりも下であると、そのような認識を持っているために、素直に援軍を要請するような真似が出来なかった。
 ……いや、ドットリオン王国軍が普通の軍隊なら、あるいはザッカランに残っていた戦力だけでどうにか出来ていた可能性はある。
 しかし、ドットリオン王国軍にはゼオンを操るアランがいた。
 また、今回出番はなかったが、アラン以外にも黄金のドラゴンに変身することが出来るレオノーラもいた。
 ザッカラン攻略戦は、そんな規格外の能力を持つ心核使い二人に頼ったものであり……逆に言えば、もしラリアントにアランとレオノーラがいなければ、ザッカランを攻略するようなことはなかっただろう。
 ……もっとも、ラリアントにアランがいなければ、そもそもラリアントを防衛することすら不可能だった可能性が高いのだが。
 ともあれ、サンドロは降伏したことによって現在牢屋の中に入れられていた。
 本来なら、元領主ということもあって降伏したからといって、牢屋に入れられるということはない。
 それが何故このようなことになっているのかといえば、少し調べただけでかなりの罪を犯していると判明したためだ。
 領主としての地位を利用した犯罪の数々は、それこそ多岐に渡る。
 大樹の遺跡から発掘された希少なマジックアイテムを、領主としての地位を利用して探索者にありもしない罪を被せて犯罪奴隷として売り払い、持っていたマジックアイテムを奪ったり、そんな自分の横暴に反対する者を密かに暗殺したり。
 それ以外にも様々な方法で私腹を肥やし、結果としてサンドロの有する資産はかなりの量となっていた。
 ……本来なら、その手の証拠は可能な限り人の目につかない場所に隠しておくのが普通なのだが、サンドロの場合はまさかザッカランが占領されるとは……ドットリオン王国軍に負けるとは全く思っておらず、結果としてその手の犯罪の証拠は執務室や領主の館を探した者たによってあっさり発見されてしまう。
 その結果、ドットリオン王国軍の指揮官を務めたボーレスはサンドロを降伏した領主ではなく犯罪者として扱うことを決めた。
 だが、当然のことだがサンドロはそれに納得が出来ず、こうして牢屋の中で幸いでいたのだ。
 だが……

「黙れっ!」

 その叫びと共に、兵士が鉄格子を蹴る。
 周囲に響き渡る強烈な音。
 その音を聞いたサンドロは一瞬驚きと恐怖で身体を震わせる。
 貴族である自分に、今までそのような態度をとるような者はいなかった。
 それだけに、驚きと恐怖が消えると猛烈な怒りが湧き上がってくる。

「ふざけるな! 貴様、誰にそのような態度をとってるのか、分かっているのか!」

 本来なら……それこそ、ザッカランがドットリオン王国に占領される前であれば、そんなサンドロの態度も効果があっただろう。
 だが、今のサンドロは領主ではなく犯罪者だ。
 ましてや、その犯罪者を見張っているのが兄を謀殺された兵士であれば、サンドロの命令など聞くはずもない。
 ……この男ならサンドロの口車に乗せられないだろうと判断し見張りにさせられたのだが、その役目を十分に果たしていた。
 とはいえ、兵士がサンドロに抱く感情を考えれば、場合によってはサンドロが裁かれる前に自分の手で、と。そう考えてもおかしくはない。

「おい、その辺にしておけよ。どうせそいつが待ってるのは、死刑……いや、もしかしたら犯罪奴隷としてどこかに売り払われるんだ。そんな奴の言うことを聞いて苛つくのは、つまらないだろ?」

 そのため、兵士がサンドロを殺さないようにと、ストッパー役の兵士が相棒としてつけられていた。

「ふん、分かってるよ」
「待て! この儂が犯罪奴隷だと!? 正気か!?」
「黙れ」

 がんっ、と。
 再び鉄格子が蹴られる。
 その音にサンドロの動きが止まったのを見て、兵士の一人が口を開く。

「俺にしてみれば、お前のような奴がザッカランの領主をやっていたことの方が、正気かと言いたくなるけどな。……この屑が」

 今にも手にした槍で鉄格子の隙間を通してサンドロに攻撃しそうな兵士を、ストッパー役の兵士は何とか押さえるのだった。





 ザッカランが占領された日の夜。
 ザッカランの住人にとっては予想外なことに、ザッカランの中で混乱はほとんどなかった。
 ……いや、正確にはドットリオン王国軍に占領されたのだから、少なからず混乱の類はある。
 だが、ドットリオン王国軍の兵士は、ザッカランの住人に暴力を振るったり、女に乱暴したりといったような真似はせず、そのおかげで混乱は広まっていなかったのだ。
 この辺はドットリオン王国軍を率いていたボーレスの指示だ。
 これからザッカランを自分達の拠点として使うのだから、そこに住んでいる住人と敵対するのは愚策でしかないと、そう判断したのだろう。
 実際、ザッカランの住人の多くはドットリオン王国軍が横暴な態度をとらないということで、反感はそこまで多くはない。
 ……もっとも、それはあくまでもそこまでの話であって、実際ににはドットリオン王国軍を歓迎しているものなど少数でしかないが。
 ザッカランもガリンダミア帝国の一部であり、これまではずっとドットリオン王国のラリアントを攻める側であった。
 その為、自分たちの方が立場が上だと思っている者は多い。
 自分ではそのように思っていなくても、心の奥底にそう根付いてしまっている者も多いのだ。
 だからこそ、ドットリオン王国軍が乱暴な真似をしなくても、立場が下の者に自分達の住んでいる場所が占領されるということを、許容出来ない者は多い。
 とはいえ、それで何が出来るのかと言えば、そう出来ることは多くはないのだが。
 ドットリオン王国軍も、無闇に暴力を振るうといった真似はしないが、反乱を起こそうとする相手にも優しく接するほどにお人好しではない。
 もしそのような真似をする者がいれば、当然のように容赦なく鎮圧する。

「くそっ! 逃げろ! 連中が嗅ぎつけたぞ!」

 一軒の家の中に飛び込んできた二十代の男がそう叫ぶと同時に、家の中にいた十人近い男たちがすぐに行動を開始する。
 とはいえ、それは戦闘準備をするというものではなく、その場からすぐに逃げるといったものだ。
 それぞれが自分の武器や手荷物を持ち、家から飛び出す。
 男が入ってきた扉から逃げた者もいれば、裏口から逃げた者、中には窓から外に飛び出した者もいる。
 元々敵が来たらすぐに自分達がどのように逃げるのかというのを決めていたこともあり、それぞれの行動に迷いはない。
 とはいえ、ドットリオン王国軍もそう甘くはなく……正面の扉から出て行った者たちは、すぐにドットリオン王国軍の兵士と遭遇する。

「捕らえろ! レジスタンスだ!」

 兵士を率いている人物が指示すると、命令された兵士たちはすぐ行動に移る。
 目の前にいる相手に向かい、長剣や槍という手にしていた武器を向けたのだ。

「降伏しろ! そうすれば、殺したりはしない。だが、反抗するようなら命の保証は出来ないぞ!」

 その声は、レジスタンスの面々に向けた降伏勧告であり……同時に、周辺の住人に対して、自分たちが今どのような仕事をしているのかというのを示すためでもあった。
 占領したばかりである以上、周辺に気を遣う必要があるのだ。
 ……もっとも、そこまで気にしない者もいるのだが。
 ともあれ、兵士たちのすぐ側に出て来たレジスタンスは、躊躇せずに手にしていた物を地面に叩きつける。
 兵士たちがやってきたと言われ、正面から即座に出て行ったのだから、当然のようにすぐに兵士たちと遭遇することは考えていた。
 だからこそ、兵士たちに武器を突きつけられても、即座に対処が可能だったのだ。

「うおっ!」

 兵士の何人かから、そんな悲鳴が上がる。
 当然だろう。男が地面に叩きつけた瞬間、周囲に白い煙幕とも呼べるものが広まったのだから。
 その正体は、小麦粉。
 小麦粉を袋の中に入れておき、それを地面に叩きつけたのだ。
 実際にはそこまで驚くほどの煙幕でもないのだが、それでもいきなりだったこともあり、兵士たちを驚かせ、動きを止めるには十分な威力だった。
 そうして兵士が数秒動きを止めた瞬間、小麦粉の煙幕を作った男はすぐにその場から逃走する。
 煙幕の効果により、兵士たちは男がどこに行ったのか分からず、混乱してしまう。

「くそっ、逃がすな! この煙幕もそこまで広範囲を覆ってる訳じゃない筈だ。追え、追え!」

 叫ぶ声に、兵士たちは即座にその場から離れる。……指揮官の指示に従ったというのもあるが、それ以上にこの煙幕から少しでも早く離れたいという思いの方が強かったのだろう。
 それでも、小麦粉の煙幕から離れると、素早く逃げ出した相手を探す辺り、上からの指示に従っているのは間違いない。

「いた!」

 そんな中の一人が、かなり離れた場所を走っている男を見つけ、叫ぶ。
 仲間の叫びを聞いた兵士たちは、すぐにその男を追う。
 ……ただし、ザッカランで生まれ育ち、裏道まで詳しく知っているレジスタンスと、このザッカランに来たばかりで大きな道くらいしか把握していない兵士では、どちらに地の利があるのかは明らかだった。
 自らを囮として仲間を逃がした男は、勝手知ったるといった様子で細い道を走り続け、兵士たちの追跡から完全に逃れる。

「へっ、ざっとこんなもんだ。このザッカランで好き放題出来ると思ったら、大間違いだぜ。……ドットリオン王国風情が調子に乗ってるから、こんな目に遭うんだよ」

 ドットリオン王国の兵士を虚仮にしてやった。
 そのことに満足しながら、男は仲間と合流すべく夜の街に消えていくのだった。
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