剣と魔法の世界で俺だけロボット

神無月 紅

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逆襲

136話

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 大樹の遺跡。
 アランは現在その中にいた。
 とはいえ、別にアラン一人だけではなく、雲海や黄金の薔薇といったクランの面々と一緒にだが。

「うーん、これはやっぱり俺だと無理だな」
「そうね」
「うおっ!」

 誰に聞かせるつもりでもなく、あくまでも独り言のつもりで呟いたアランだったが、いきなり聞こえてきた声に驚き、そちらに視線を向ける。
 ……とはいえ、そちらに視線を向けるまでもなく、それが一体誰の声だったのかというのは明らかだったが。

「驚かすなよ」
「あら、驚く方が悪いんでしょ? ここはもう遺跡の中なんだから、周囲の気配で相手の位置を理解出来るようにはなりなさい」
「……そう言われてもな」

 元々、アランが住んでいた日本では、気配で相手を察知するといったようなことが出来る者はいない……訳ではないのかもしれないが、少なくてもアランはそんな相手に直接出会ったことはない。
 だが、この世界においては、漫画やアニメ、ゲーム等では頻繁に出て来る、気配や殺気といったものを普通に察知することが出来る者が多かった。
 もちろん、アランもこの世界に生まれた以上はその手の能力が多少なりともある訳だが……それでも前世での常識が足を引っ張るのか、気配の察知の類は決して得意ではない。

「それより、アランはこの手の迷路は得意じゃない……いえ、苦手なんでしょう? なら、少しでも何かあった時に対処出来るようにしておいた方がいいわよ」
「そうだな」

 若干不満そうな色がアランの口調に混じる。
 レオノーラが言ってることは分かるのだが、それに微妙な反発を覚えるのは、やはりレオノーラが美人だからこそだろう。
 そんなレオノーラの言葉に、自分の未熟さを理解してしまうのだ。
 レオノーラはアランの複雑な男心に気が付いた様子もなく、改めて周囲を見る。
 大樹の遺跡。
 その名の通り、この遺跡は様々な植物によって迷路となっていた。
 それでいながら、天井にはかなり強い光を発しており、地下に向かっているのに明かりに困るということはない。

(もしかしたら、蛍光灯とかそういうのの格段に進化した形で、天井そのものが光ってるのかもしれないな)

 何となくそう思いながらも、アランは周囲に視線を向ける。
 大樹の遺跡の通路は、それなりに広い。
 ……とはいえ、それはあくまでもそれなりに広いのであって、アランやレオノーラが心核を使えるだけの広さではないのだが。
 ゼオンも黄金のドラゴンも、全高は十八メートルほどである以上、遺跡の中で使えるという方が珍しいので、特に不思議でも何でもないのだが。
 それでも、アランとしては自分が一番得意なのは心核を使っての行動だと知ってるので、この通路の狭さや天井の低さに、思うところはある。

「おい、こっちに来てみろ! 珍しい花があったぞ!」

 と、そんなアランの考えを中断させるような声が響く。
 アランとレオノーラは顔を見合わせ、声のした方に向かって歩き出す。
 この遺跡は、植物……木の根や蔦、花といった様々なもので迷路を作っている。
 当然ながら、迷路を作っている植物も生きているので、場合によっては珍しい植物……それこそ、ポーションの材料になる薬草の類や、錬金術に使える植物、場合によってはそれだけで薬としての効果もある草や、食用の草、お茶の葉として使える葉……といった具合に、様々だ。
 もちろん、人に有用な植物だけではなく、中には触れただけで腫れてしまったり、強烈な痒みをもたらしたりといったような植物もあるが。
 ともあれ、この遺跡はまだ一階だからということもあってか、そこまで腕に自信のない探索者がそれなりに訪れる場所でもある。
 そのような冒険者にとっての収入は、それこそ迷路を構成している植物そのものなのだ。
 そんな訳で、今こうしてアランに聞こえてきた声も、その言葉通り何らかの有益な植物を見つけたからだろうというのは容易に予想出来た。

「行くわよ」
「ああ」

 アランは先程まで感じていた思いを振り切り、レオノーラの言葉に頷く。
 一体どのような植物を見つけたのかは分からないが、それでも雲海や黄金の薔薇というクランに所属している探索者が、ああして大きな声を上げたのだ。
 それは当然のように、その辺に生えているような普通の植物ではなく、もっと別の植物なのは間違いないだろう。
 そうして声のした方に向かうと、当然ながら他の探索者たちも集まっていた。

「どんな植物が見つかったんですか?」

 アランが雲海の男に尋ねると、その男は驚きと笑みをが混ざったような表情で口を開く。

「グズタフの花があったらしい」
「……嘘でしょ?」

 その男の答えに、唖然として様子で呟くのはレオノーラ。
 いや、実際に言葉にしたのはレオノーラだけだったがグズタフの花という言葉を聞いた他の探索者たちも、かなり驚いている。
 当然だろう。グズタフの花というのは、かなり珍しい花だ。
 特定の病気……いわゆる熱病の類には、大きな効果を発する薬になる。
 それこそ、熱病の類であれば病気の種類も問わず、殆どの病気に効果があるという、非常に希少な花だ。
 そんなグズタフの花がいきなりあったというのだから、それに驚くなという方が無理だった。

「俺も最初はそう思ったけど、実物を見せられるとな。……ともあれ、大樹の遺跡は色々と期待出来そうな場所なのは間違いないな」
「そうね」

 グズタフの花がいきなり見つかったということは、この先も期待は出来るということだ。
 そう告げる男の言葉に、レオノーラは同意するように頷く。

「この調子だと、この迷路を調べればもっと大きな発見があるかもしれないけど……それも無理ですね」
「だろうな。俺たちの目的は遺跡の攻略だ」

 この一階の部分で色々と珍しい素材が入手出来るとしても、広大な迷路となっているこの場所で、素材を探して回る訳にはいかない。
 そのような場合、やはりここで採取するのは偶然に頼る必要があった。
 また、アランたちが希少な素材をここで根こそぎ採取するような真似をした場合、ザッカランにいる探索者たちが素材を採取出来ないという問題になる。
 もちろん、本来ならこのような素材は早い者勝ちだ。
 しかし、ザッカランの占領に協力し、さらにはギルドにも雲海や黄金の薔薇に協力するようにと圧力をかけて貰った以上、一階にある植物で出来た迷路にある素材を根こそぎ採取するというのは、不味い。
 今回の探索に参加している面々も、当然のようにそれを知っているので……

「レオノーラ様、そろそろ先に進むということです」

 黄金の薔薇の探索者の一人が、レオノーラに向かってそう告げる。

「ええ、分かったわ。……なら、行きましょうか」

 話しかけてきた探索者にそう答え、迷路の中を再び進み始めた。

「それにしても、この迷路で迷わなくてもいいってのは本当に楽だよな」
「あのね、何度同じことを言ってるのよ」

 再度アランの口から出た言葉に、若干の呆れと共に告げるレオノーラ。
 雲海と黄金の薔薇という二つのクランで遺跡に入っただけに、当然のようにアランやレオノーラがやるべきことは少ない。
 たまに遺跡に入り込んだモンスターやゴーレム、もしくは迷路になっている植物が攻撃してくるといったことはあったが、そんな中でもアランたちは特に苦戦することなく、地図通りに進む。
 そうして暇になった中で、何故かアランは隣を歩いているレオノーラと言葉を交わしながら迷路を進む。

「そう言っても、今の状況だと俺たちが特にやるべきことはないしな。何となくだよ、何となく」

 そう告げるアランだったが、その言葉に若干の嬉しさが混ざっているのは間違いのない事実だ。
 アランにしてみれば、レオノーラとこうやって話をしながら進むというのは、実はかなり嬉しいことだ。
 そもそも、レオノーラのような美人と一緒にいることに喜びを見いださない男というのは、そんなに多くはないだろう。
 ……もっとも、レオノーラほどの美貌を持つ相手だけに、緊張して上手く話せないということはあるかもしれないが。
 その点では、今まで何度となくレオノーラと話してきたアランは、レオノーラの美貌にある程度の耐性を得ている。
 また、レオノーラがアランの近くにいるのは、同じ心核使い……それも、ただの心核使い同士ではなく、同じ場所に置かれていた二つの心核をそれぞれ手にしているというのも大きい。

「今の状況で私たちが特に何かをする必要がないのは……そうね、否定しないわ」

 アランの言葉にレオノーラはそう返すが……

「っ!?」

 次の瞬間、不意にあらぬ方に視線を向ける。
 突然のその行動に驚いたのは、近くにいたアランだけではなく、周囲にいた他の探索者たちも同様だった。
 それでも動揺したりせず、すぐに何があっても対処出来るようにするのは腕利きが揃っているという証なのだろう。
 腰の鞭を手に取ったレオノーラは、素早くその鞭を振るう。

「ギャピィ!」

 鞭の先端が音速を超え、その音速を超えた部位で打たれたモンスターが悲鳴を上げながら地面に落ちる。

「蜂のモンスター……か?」
「ええ。植物で出来た迷路の中で遭遇するモンスターと考えれば、おかしな話ではないんでしょうけど」

 レオノーラの言葉を聞きながら、アランは地面に倒れた蜂を見る。
 その蜂はアランが知っている蜂とは、大きさが違った。
 普通の蜂が指先程度の大きさだとすると、レオノーラが倒した蜂は握り拳ほどの大きさを持つ。
 ……尻尾の先から生えている針を入れると、さらに大きくなる。
 尻尾から生えている針は、それこそレイピアと言っても間違いないくらいの、代物なのだから。

(というか、蜂のモンスターがあんな鳴き声を上げることそのものが、不思議なんだけど。……今更の話か)

 この世界においては、蜂が鳴き声を……それも先程のような鳴き声を上げるのは、そこまで珍しい話ではない。
 それがモンスターだからなのか、それと元々そのような鳴き声を発することが出来る種類の蜂がモンスターとなったのかは、アランにも分からなかったが。

「おーい、階段を見つけたぞ! 地図にあった通りだ!」

 蜂を見ていたアランは、そんな声で我に返るのだった。 
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