剣と魔法の世界で俺だけロボット

神無月 紅

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ザッカラン防衛戦

188話

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「どきなさい!」

 そんな声と共に、リアの長剣が振るわれる。
 その屋敷の門番は何とかリアを止めようとしたのだが、ただの門番と探索者としても腕利きのリアでは、到底相手になるはずがない。
 ……それでも、リアの振るう長剣が鞘に修められたままだったのは、息子を誘拐されたリアにも最低限の理性が残っていた証か。
 だが……その屋敷の中に入れば、当然のように不法侵入者として屋敷の者には扱われる。
 倒された門番だったが、気絶はしていない。
 何とか懐から笛を取り出し、大きく吹く。
 ピーーーーーーーーッ! と、甲高い音が周囲一帯に響き渡った。
 その音が何を意味しているのかは、それこそ考えるまでもなく明らかだ。
 そして実際、その音が響いてから十秒と経たずに屋敷の中にいた兵士――正確にはこの屋敷の主に雇われている私兵――が姿を現したのだから。

「この女が侵入者か? はっ、この屋敷に忍び込むなんて馬鹿な真似をする。お前みたいにいい女なら、他にやることはいくらでもあるだろうに」

 そう言いながら、兵士の一人がリアに向けて欲情の視線を向ける。
 子供を一人産んだとはいえ、リアの身体のラインが崩れるといったようなことはないし、ハーフエルフでるということもあり、まだ二十代ほどに見えるリアは、その美貌もあって兵士たちの目を惹き付けるには十分だった。
 だが……そのような視線を向けられたリアは、男の視線に軽く眉を顰めただけで口を開く。

「この屋敷の主人が表にいるガリンダミア帝国軍と繋がっているのは分かってるわ。さっさとこちらに引き渡しなさい。それと、誘拐した私の子供についてもしっかりと話して貰いましょうか」

 子供? と兵士たち訝しげな視線をリアに向けるものの、この場合の連れ去ったというのは女が産んだばかりの赤ん坊か何かだと判断する。
 ……まさか、リアに十代の息子がいるとは、到底思えないのだろう。
 だが、リアはそんなことは関係ないといわんばかりに長剣を手に兵士たちに向かって歩を進める。
 先程の門番を倒したときと同じく、長剣が鞘に収まったままなのはせめてもの情けなのだろう。
 実際には、この屋敷の主人がガリンダミア帝国軍と繋がっているという情報をイルゼンが入手したのだが、それはあくまでも情報であって、本当にそうなのかは分からないからというのが大きいのだろうが。

「はぁ? 何を言って……ぐがっ!」

 その兵士が、本当にアランのことを知っていたのかどうかは、リアには分からない。
 だが、こうして目の前にいる敵だというのははっきりしている以上、ここでリアが手を緩めるなどといったことをするつもりはない。
 リアに何かを言おうとした兵士は、瞬時に近付かれて振るわれた長剣の収まった鞘に殴り飛ばされ、地面に倒れ込む。
 リアにしてみれば、目の前にいるのは敵であると……自分の息子を連れ去った相手であると認識している以上、手加減をしてやる可能性は全く考えていなかったのだ。

「なっ!?」

 有無を言わさずといった様子で地面に倒れ込んだ仲間を見て、兵士の一人が驚きの声を上げる。
 まさか、ここまで直接的に攻撃してくるとは思わなかったのだろう。
 だが、リアにしてみればここにいるのは愛する息子――それを表に出すことは滅多にないが――のアランを誘拐した者……もしくは、誘拐した者と繋がっている者の屋敷だ。
 そうである以上、穏便にといったようなことは考えられない。
 もしかしたら相手がアランを人質にする可能性もあったが、そうなったらむしろアランを取り戻すことが出来る好機だけに、リアとしてはアランを人質にしてくれるのなら大歓迎といったところだ。

「てめえ……ここがどこだか、分かってるのか? 洒落や冗談じゃすまねえぞ」

 仲間が倒されたことで、リアを侮れる相手ではないと判断したのだろう。
 兵士たちがそれぞれ武器を手に、リアを囲むように移動する。

「気をつけろ、こいつの動きを見た限りだと、相当強いぞ。全員で協力して戦うんだ」

 リアの強さを見てとった兵士の一人がそう告げ、他の兵士たちはその言葉に不満を口にするでもなく、素直に従う。
 そんな動きを見て、リアは指示を出した男がこの場の指揮を任されている人物なのだろうと判断する。
 自分を囲むような隊形をとる兵士たち。
 当然ながら、ここで時間をかければリアに動く隙を与えることになる。
 そうである以上、相手を囲むときは素早く動く必要があった。
 そして実際、リアを囲む動きはスムーズに行われたのだが……

「なっ!?」

 兵士の一人が、気がつくと目の前にいたリアの姿にそんな声を漏らす。
 いつの間に動いたのか、本当に理解出来なかったからだ。
 そして次の瞬間には、リアの振るう長剣の鞘が鳩尾を突き、一瞬にして意識を失い、地面に崩れ落ちる。
「なっ!?」

 崩れ落ちた男と全く同じ驚きの声を上げたのは、リアを囲むようにと指示を出した兵士。
 リアが倒した兵士は、指示を出した兵士の前にいたからこそ、最初にリアの餌食となったのだ。
 それこそ、リアにとっては通り道を塞いでいる邪魔者として。
 そして驚きの声を上げた指揮官の兵士は、次の瞬間後ろに向かって跳ぶ。
 これで何とか間合いを取れば、他の者達が何とかしてくれる。
 そう思ってのことだったが……何故か自分の目の前に長剣の鞘があるのに気がつき、驚き……リアが自分にも負けないほどの速度で地面を蹴って間合いを詰めたのだと知ったときには、そのまま長剣の入った鞘で一撃を受け、意識を闇に沈めるのだった。
 そしてこの場の指揮官……一番上の者があっさりと倒されてしまったのを見た兵士たちは、自分たちの前に立っている女の強さを見誤っていたことに気がつく。
 強いというのは分かっていたたが、実際に目の前にしてみれば予想以上の強さを持っていたのだ。
 だが……だからといって、兵士たちはこの場から逃げ出すといった真似は出来ない。
 自分たちはあくまでもこの屋敷の主人に雇われている私兵なのだから。
 ……それでもこの仲間を放ってこの場から逃げ出そうとしない辺り、律儀ではあるのだろう。
 もしくは、この屋敷の主人から貰っている報酬がそれだけ大きいのか。
 ともあれ、リアとしては目の前の兵士たちを可能な限り早く排除する必要があった。
 こうしている間にも、この屋敷の主人が何を察して逃げ出さないとも限らないのだから。

(もっとも、そんな真似をしても……無駄だけどね)

 リアは兵士たちを眺めつつ、表情を変えないようにして内心で呟く。
 この屋敷に突入したのは自分だけだが、それは何も独断でこの屋敷に来た訳ではない。
 あくまでも、雲海の一員としての行動である以上、ここ屋敷の周辺には他の雲海の探索者たちが待ち構えているのだ。
 そうである以上、もしこの屋敷の主人がここから逃げ出そうとしても、それこそリアにしてみれば手っ取り早く捕まえるという意味では望むところだった。
 そして数分後……この場に立っているのは、リアだけとなっていた。
 地面に倒れている兵士たちは、死んでいる訳ではない。
 骨の一本や二本は折れているだろうが、それでも命に別状はないはずだった。
 それを行ったリアは、兵士たちを尋問するような真似はせず――雇われた者たちが重要な情報を持っているとは思えないため――に屋敷の中に入っていく。
 屋敷の中には、当然の話だが兵士以外にこの屋敷で働いている者もいる。

「ひぃっ!」

 そんな働いている者……メイドの一人が、屋敷の中に入ってきたリアを見て悲鳴を上げる。
 年齢としては、二十代半ばといったくらいか。
 リアが兵士たちを圧倒した光景を見ていたのか、その目には恐怖の色が濃い。
 目の前のメイドを可哀想だとは思ったが、今は少しでもこの屋敷の主についての情報が必要な以上、リアはメイドに尋ねる。

「この屋敷の主人はどこにいるの?」
「わ……分かりません。少し前は応接室で誰かと会っていたようですが……」

 応接室という言葉を聞いたリアは少し疑問に思い……もしかして応接室で会っていた人物というのは、今回の一件に関わっている者ではないかと、そう考える。
 リアは応接室の場所を聞くと、そちらに向かって進む。
 堂々と廊下を歩いているからか、それともまだリアの件はそこまで知られていないのか……もしくは、かかわって被害を受けたくないのか。
 その辺りの事情はリアにも分からなかったが、特に誰に声をかけられることもないまま、目的の場所……応接室に到着する。
 扉に手を伸ばし……不意にその動きを止めた。
 扉の向こう側、応接室にいる人物は、間違いなく強者だと理解したからだ。
 扉越しにでも理解出来るその強さは、だがリアの手を止めることが出来たのは一瞬だった。
 これがもし何でもないときなら、もしかしたら一度退くといった手段をとっていたかもしれない。
 だが、今回は違う。
 大事な家族を……一人息子のアランを連れ去った相手から取り戻さなければならない以上、ここで躊躇するといったことは絶対に出来なかった。
 いつでも対処出来るよう、長剣に意識を向けてから扉を開く。

「おう、お前が侵入者か。……ええ? お前が? 本当にか?」

 扉を開けて応接室の中に入ってきたリアを見て、戦う気満々といった様子で話しかけた男だったが、その相手がリアという美女だと知ると、少し戸惑う。

「あら、貴方くらいの実力者なら、私の実力を読み間違えるようなことはないと思うけど。……それで、アランはどこにいるのか教えて貰えるのかしら?」
「何だよ、そんなに必死なって。……もしかして、あの坊主はお前の男だったりするのか?」
「男……そうね、まぁ、男かどうかと言ったら男ね。私が産んだ子なんだし」
「……は?」

 リアのその言葉に、男は間の抜けた表情を浮かべる。
 当然だろう。男の前にいるのは、せいぜい二十代といった女で、アランのような年齢の子供がいるようには、到底思えないのだから。
 そんな男の様子に、リアは耳を覆っている髪を掻き上げる。
 そこで露わになったのは、人間よりも長く、それでいてエルフよりは短い耳。

「なるほど、ハーフエルフか。……なら、納得だ」

 そう言いながら、男はバトルアックスを構えるのだった。
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