剣と魔法の世界で俺だけロボット

神無月 紅

文字の大きさ
213 / 422
囚われの姫君?

212話

しおりを挟む
 慣れてくれば、軟禁生活というのは決して悪いものではない。
 毎日の食事はメローネが持ってきてくれるし、部屋の中で自由に身体を動かすことも出来るし、数日に一度はグヴィスが訓練場に連れて行ってくれる。
 難点としては、基本的に話し相手がいないということだろう。
 アランの世話をしているメローネも、アランにつきっきりという訳ではない。
 他にも色々と仕事があるためか、部屋にいないときも多い。
 ……それでいながら、用事があるときに使うようにと言われている鈴を鳴らすと、それこそ一分も経たないうちにやってくるのだから、アランにしてみれば疑問だったが。
 グヴィスとはそれなりに話すようになったが、グヴィスとその相棒は基本的にアランの監視役だ。
 部屋の中ではなく部屋の外に待機している以上、アランと話すといったようなことは出来ない。
 そして当然のように、この部屋にやって来る者は基本的にその三人以外にはいない。
 あるいは、ビッシュは顔を出すかもしれないという思いがアランの中にはあったが、幸か不幸かビッシュが部屋にやって来ることはなかった。
 ビッシュの魔眼は非常に厄介な代物で、その上ビッシュ本人も色々と普通とは違っている。
 それだけに、迂闊にビッシュに接触すればどうなるかは分からない以上、アランはある意味で助かっていたのかもしれないが。

「……暇なのは、何とかして欲しいんだけどな」

 この軟禁生活の中で、一番の敵はやはり暇潰しになるものが何もないことだろう。
 一応、アランは部屋の中である程度身体を動かしたりしているが、当然のように武器の類は存在しない。
 つまり、素振りの類は出来ないのだ。
 いや、部屋の中にある細長い何かを使えば、素振りの真似くらいは出来るだろう。
 だが……この部屋の中にあるということは、間違いなく高級品であるというのは予想出来た。
 自分を捕虜にしている相手の財産なのだから、壊しても構わないという思いがない訳でもない。
 しかし、そのような真似をした場合は、間違いなく面倒なことになるというのは、容易に想像出来た。
 それこそ、この居心地のいい部屋ではなく、地下牢といった場所に入れられる可能性すらあった。
 そのような可能性を考えれば、アランとしても馬鹿な真似は出来ない。
 もちろん、いざというときにはすぐにでも行動に移せるようにしているつもりだったが。
 部屋の中を見て暇潰しの方法を考えていると、扉をノックする音が聞こえてくる。
 この部屋の中でそれなりの時間をすごしているため……何よりも、他に何もやるべきことがないために、アランはそのノックの音の特徴から二度目以降のタイミングで、誰がノックをしたのか大体分かるようになった。
 あくまでもアランの部屋に来る者たちの中で誰なのかということなので、メローネとグヴィス、それとグヴィスの相棒――まだ名前を聞いていない――の誰かしかいないので、そこまで難しい話ではないのだが。

「入ってもいいですよ、メローネさん」

 暇を持てあましていたアランだけに、せっかく尋ねてきた誰かに部屋の中に入らないでくれと言うつもりはない。
 そんなアランの言葉に扉を開けて入ってきたのは、言葉にした通りメローネだった。

「こんにちは、アラン様。……今、少しよろしいでしょうか? アラン様と話をしてみたいという方が来てるのですが……」
「……え?」

 メローネの言葉に、アランが思い浮かべたのはビッシュ。
 外見は子供でしかないビッシュだったが、その能力や言葉遣い、考え方といったものは、明らかに子供だとは思えない。
 それこそ、大人が子供の皮を被っていると言ってもおかしくはないような人物だった。
 そんなアランの様子を見て、誰を想像したのか悟ったメローネは、安心させるように口を開く。

「安心して下さい。アラン様が想像している御方ではありませんから」
「え? じゃあ、誰が?」

 アランがこの部屋で目覚めてから会った人物は限られている。
 そんな中で、わざわざメローネに言って約束を取り付けるような相手となれば、その人物が誰なのかは容易に想像出来た。
 出来たのだが……その人物、ビッシュではないと知り、安堵すると同時に疑問を抱く。

「アラン様に興味を持った方が、ビッシュ様以外にいらっしゃっても、おかしくはないのでは? 特にアラン様は心核使いとして優れた能力を持っていると聞いていますし」
「そう言ってくれると、嬉しいんですけどね」

 実際には、心核使いとして特化している関係上、生身での戦いは決して得意ではないといった方が正しいのだが……メローネがその辺りに触れないのは、メイドだからアランの詳しい能力について知らないのか、それともアランを立てるためにその辺りについて口にしないのか。
 その辺りはアランにも分からなかったが、メローネが言わない以上、自分がわざわざその辺りについて言う必要もないだろうと、話を進める。

「それで、心核使いとしての俺に興味を持ってくれたとなると、その人も心核使いなんですか?」

 心核使いというのは、本来なら非常に珍しい存在だ。
 だが、アランの場合は幸か不幸か様々な場所で心核使いと遭遇しているので、そのような感覚は最早ない。
 それこそ、その辺にも普通にいるのではないかと、そんな風にすら思ってしまう。
 もっとも、ここはガリンダミア帝国の帝都にある城だ。
 いざというときの防衛戦力として心核使いが……それも腕の立つ心核使いがいるのは、むしろ当然と言ってもよかったが。
 そして、次にメローネの口から出た言葉は、そんなアランの予想を肯定していた。

「ええ、そうですよ。それも腕利きの方です」
「……でしょうね」

 わざわざ自分に会いに来る心核使いなのだから、それが腕利きなのは何となく予想出来た。
 大穴として、腕の立たない心核使いが心核使いとして是非ガリンダミア帝国に欲しい人材としてかなりの無茶をしてまで確保したアランに会おうと思って行動してきた……というのも、可能性としてはあったのだが。
 自分が腕の立たない心核使いであるという自覚を持っている者にしてみれば、大国と呼ばれるだけの実力を持つガリンダミア帝国であっても、そのために使った労力はかなりのものになるということが面白くないと思う者がいてもおかしくはないのだから。
 今までもガリンダミア帝国が欲しい人材を入手する時にかなりの無茶をしたことはあった。
 だが、それでもここまでの無茶をしてまで入手した人材はアランが初めてだということを、本人は全く知らなかった。
 それこそ、アランを入手するために一体どれだけの無茶をしたのか……それを考えれば、そのように思うのは当然だったのだろうが。

「腕の立つ心核使いですか。会いたいというのは、こちらは暇を持てあましていたので問題ありませんけど……心核はありませんよ?」

 心核使いに会うのに、心核使いの自分は心核を持っていない。
 それは、わざわざ自分に会いに来る心核使いにとっても、失礼な話なのではないか。
 あるいは、こう言えばもしかしたら……本当にもしかしたらの話だが、自分に心核のカロを返してくれるのかも? という期待がほんのかすかにでもなかったと言えば、嘘になるが。
 だが、当然のようにメローネはアランのそんな言葉に対して、すぐに頷いてから口を開く。

「心配いりません。もちろん、向こうもそのことは知ってますので」
「……心核使いと話すのなら、心核を持っていた方がいいんですけどね。俺の心核があれば、色々と込み入った話も出来ますよ?」

 そう告げるアランだったが、メローネもガリンダミア帝国の人間として……何より、アランの世話をするメイドとしての役割がある以上、心核使いについての諸々は知っている。
 そうである以上、ここでアランの口車に乗って心核を用意するなどといったようなことは出来ないし……そもそも、メローネはアランの心核がどこに保管されているのかといった情報を知らされていない。
 知られされていない以上、アランが何を言っても……そしてメローネが心核を返そうと考えても、それを叶えるようなことは出来なかった。

「では、お呼びしてきますので、少々お待ち下さい」
「え? ここで会うんですか?」

 ビッシュの件もあったので、てっきりアランはどこか別の部屋で会談をするのだと思っていたのだ。
 だが、メローネはこの部屋に呼んでくると言ったのだから、会談は当然のようにこの部屋で行われることになるのだろう。

「はい。ビッシュ様は……特別ですから」
「あー……うん。そうでしょうね」

 ビッシュが特別だと言われれば、アランも素直に納得せざるをえない。
 外見は子供なのに、その中身は大人。
 それも魔眼を使うといったような……どこからどう見ても、特別な存在なのは間違いない。

「では、失礼します」

 頭を下げて部屋から出ていくメローネ。
 それを見送ったアランは、一体どんな相手が来るのかと、半ば戦々恐々といった様子で待つ。
 ……何しろ、以前に会談したのがビッシュなのだ。
 今回はビッシュほどに特別な相手ではないとはいえ、それでも一体どのような相手がくるのかと、そう疑問を抱いてしまうのは当然だろう。
 メローネから話を聞いた限りでは、ビッシュのような特別な存在ではないという話だったが……それも、どこまで信じてもいいのかは、また別の話だ。
 そして十分ほどが経過し……部屋の扉がノックされる音は響く。

「入っていいですよ」

 覚悟を決めてアランがそう声をかけると、やがて部屋の扉が開く。
 そうして姿を現したのは、まずはメローネ。
 そして、もう一人……

「え?」

 その人物を見たアランの口から、若干間の抜けた声が上がる。
 当然だろう。何故なら、そこにいたのはアランと同年代……もしくは、もう少し年下に見える、若い女だったのだから。
 心核使いで自分に用があるといっていたので、てっきりもっと年上……それこそ中年くらいの男が来るだろうと、そう勝手に想像していたのだが、そんなアランの予想は完全に裏切れた形だった。

「えっと、その……よろしくお願いします! 私はレーベラ・オノラムです」

 レーベラと名乗ったその女は、アランに向かってそう頭を下げるのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

残念ながら主人公はゲスでした。~異世界転移したら空気を操る魔法を得て世界最強に。好き放題に無双する俺を誰も止められない!~

日和崎よしな
ファンタジー
―あらすじ― 異世界に転移したゲス・エストは精霊と契約して空気操作の魔法を獲得する。 強力な魔法を得たが、彼の真の強さは的確な洞察力や魔法の応用力といった優れた頭脳にあった。 ゲス・エストは最強の存在を目指し、しがらみのない異世界で容赦なく暴れまくる! ―作品について― 完結しました。 全302話(プロローグ、エピローグ含む),約100万字。

氷弾の魔術師

カタナヅキ
ファンタジー
――上級魔法なんか必要ない、下級魔法一つだけで魔導士を目指す少年の物語―― 平民でありながら魔法が扱う才能がある事が判明した少年「コオリ」は魔法学園に入学する事が決まった。彼の国では魔法の適性がある人間は魔法学園に入学する決まりがあり、急遽コオリは魔法学園が存在する王都へ向かう事になった。しかし、王都に辿り着く前に彼は自分と同世代の魔術師と比べて圧倒的に魔力量が少ない事が発覚した。 しかし、魔力が少ないからこそ利点がある事を知ったコオリは決意した。他の者は一日でも早く上級魔法の習得に励む中、コオリは自分が扱える下級魔法だけを極め、一流の魔術師の証である「魔導士」の称号を得る事を誓う。そして他の魔術師は少年が強くなる事で気づかされていく。魔力が少ないというのは欠点とは限らず、むしろ優れた才能になり得る事を―― ※旧作「下級魔導士と呼ばれた少年」のリメイクとなりますが、設定と物語の内容が大きく変わります。

クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした

コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。 クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。 召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。 理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。 ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。 これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

処理中です...