剣と魔法の世界で俺だけロボット

神無月 紅

文字の大きさ
421 / 422
ガリンダミア帝国との決着

420話

しおりを挟む
 放たれたギガクラッシュ。
 それはアランとレオノーラの息が合い、ゼオリューンという存在となって始めて使える必殺技。
 あらゆる武器の攻撃が一点に集中するその攻撃は、アポカリプスの巨体に向かって命中し……次の瞬間、その巨体の多くが爆散する。
 三つある頭部のうちの二つを失い、胴体の多くを爆散されたビッシュは、当然ながらそのような状況では反撃をするといったような真似も出来ず……地上に向かって降下していく。

「ふぅ……」
「はぁ……」

 アランとレオノーラは、それぞれに息を吐く。
 そこにある感情の色は複雑で、明確にどれといったようなことは出来ないが、それでも安堵の色が強いというのは間違いない。
 とはいえ、こうして長い間自分たちを……自分を狙っていた相手を倒したからといって、いつまでもこうしてぼうっとしているような訳にもいかなかった。

「下に行くか」
「そうね。……うん? アラン、あれ」

 下に行くかという言葉に同意したレオノーラだったが、地上の様子を映し出している映像モニタを見て、ふと気が付く。
 地上に倒れている、アポカリプス。
 その唯一残った頭部の近くに、誰かがいたのだ。

「あれは……イルゼンさん?」

 イルゼンの姿がアポカリプスの頭部の近くにあるのを見て疑問に思う。
 ましてや胴体が大きく爆散したとはいえ、まだアポカリプスは生きてるのだ。
 アポカリプスのすぐ側にイルゼンがいるのは危険極まりない。
 漆黒のブレスを放つ……いや、そこまでいかなくても唯一残っている頭部の牙でイルゼンを噛み殺そうとすれば、間違いなく出来る状況なのだ。

「レオノーラ、地上に向かう。イルゼンさんは何を考えてるんだよ!」

 慌てたようにゼオリューンを地上に向けるアランだったが、それに待ったを掛けたのはレオノーラ。

「ちょっと待って」
「レオノーラ?」
「見て」

 そう言うと、レオノーラはゼオリューンの映像を拡大する。
 普通なら画像を拡大すれば映像が荒くなってもおかしくないのだが、その辺がファンタジーといったところなのだろう。拡大された映像であっても、普通にしっかりと綺麗に映されていた。
 そして拡大してイルゼンの姿がアップになったところで、アランも何故レオノーラが自分の行動を理解した。
 何故なら、そこに表示されたイルゼンは笑っていたのだから。
 それも敵対していた相手が死ぬから安堵したような笑みではなく、ましてやざまあみろといったような嘲笑の類でもない。本当に親しい相手に向けるような、そんな笑みだった。





「全く、君は本当に馬鹿ですね」
『誰……だい……?』

 アポカリプスに唯一残った首の一つの側で、イルゼンはそう話しかける。

「僕を忘れたのかい? ……いや、そうか。すっかり忘れてた。これでどうかな?」

 そう言うと、イルゼンは右手で顔を覆い……そして右手を外すと、そこにある顔は完全に別人のものに変わっていた。
 イルゼンは中年の飄々とした男なのだが、今は二十代ほどの非常に整った顔立ちをした男の顔になっていたのだ。
 アポカリプスの頭部は、閉じつつあった目を開け……その動きを止める。

『馬鹿な……ナーラッカ? そんな彼はもう……』
「死んだはず、かい? 別に僕は幽霊でも何でもないし、普通に生きてるよ」

 気安くそう告げるイルゼン……いや、ナーラッカと呼ばれた男は、笑みを浮かべてとう言葉を返す。

『そんな……君が、君がいてくれれば、僕はこんな……ルーダーの復活にも……』
「悪いね、ドロテア。……いや、今はビッシュだったかな。僕はルーダーを復活させるつもりなんてない。それに、今更ルーダーを復活させてどうする? ルーダーの生き残りは、僕と君だけだ。そんな状況でルーダーを復活させても、それに何か意味があると思うのかい?」
『な……何故……』

 ビッシュは、ナーラッカの言葉を理解出来ないといった様子で唖然とする。
 何故自分と同じルーダーの生き残りであるナーラッカが、ルーダーの復活を拒否するのか。
 それは一体何がどうなってそのようなことになっているのか、全く理解出来ないことだった。

「ビッシュ、君はルーダーに誇りを持っている。それは私も同じだ。しかし、だからといってすでに滅びた……それもここ最近滅びたのではなく、古代魔法文明と呼ばれるくらい昔に滅びたそんな文明を復活させる必要はないだろう?」
『何故……何故、君がそんなことを言うんだ!』

 すでに死ぬ寸前であるとは思えないほどの勢いで叫ぶビッシュ。
 しかし、そんなビッシュにナーラッカは言い聞かせるように口を開く。

「いいかい? 君が生きてきたのはこの時代だ。なら、ルーダーの復活に拘るような真似はせず、この時代を生ればよかったのさ。僕のようにね」
『そんな……だって、ルーダーは……ルーダーは……』

 先程の大きな念話が、残り少ないビッシュの生命力をさらに奪ったのだろう。
 今の念話は、急速にビッシュの生命力を消費しつつあった。

「いまさら……本当にいまさらかもしれない。けど、もっと早く君の正体に気が付いていれば違う道もあったのかもしれないね。……けど、これだけの騒ぎになってしまった以上、もうどうしようもない」

 呟きつつ、ナーラッカは目の光が消えつつあるビッシュの……アポカリプスの最後に残った頭部にそっと手を触れ……

「もう休みなさい。永久の眠りを」

 その言葉と共に、ナーラッカの手がアポカリプスの頭部から生命力を吸収し……そして、アポカリプスは目を閉じ、ナーラッカが言ったように永久の眠りにつく。

「さて……これでルーダーの生き残りは私一人ですか」

 呟きつつ、ナーラッカは自分の顔に手を当て、すると次の瞬間にはナーラッカの顔は飄々とした中年といったイルゼンの顔に姿を変える。

「ビッシュ、君はゆっくりと眠るといい」

 そう言い、ビッシュ……かつてルーダーが存在したときはドロテアと呼んでいた人物が死んだのを確認すると、上空に存在するゼオリューンを一瞥してからその場を立ち去るのだった。





「……どういうことだと思う?」

 一連のやり取りは、声までは聞こえなくても空中にいるゼオリューンのコックピットではしっかりと見えていた。
 具体的にどのような話をしていたのかというのは、まだ分からない。分からないが、それでも今の状況を思えば、ビッシュとイルゼンに何らかの関係があるのは間違いない。
 そして何より……

「イルゼンは変装しているの?」

 そう、ナーラッカとしての顔を見せたイルゼンについては、当然ながら空中にいたアランたちにもしっかりと見えていたのだ。
 そうである以上、イルゼンが変装しているというレオノーラの言葉も否定は出来ない。

(いや、そもそも変装ですむのか? 完全に顔が変わっていたぞ? だとすれば、俺たちが知ってるイルゼンさんは、イルゼンさんじゃなかったってことにならないか?)

 そんな疑問を抱くも、取りあえず今はその前にやるべきことをやる必要があった。

「帝都の方からは、援軍が出て来る様子はないよな?」
「ええ。……何でかしら。こうして私たちと戦った戦力が、帝都に残っていた戦力の全てだったとか?」
「さすがにそれはないと思うけど」

 警備兵の類であったり、皇帝の近衛騎士団といった者たち、そして予備兵力の類があってもおかしくはない。
 そのような戦力があれば、ガリンダミア帝国軍がこうして殲滅――殺したのはほとんどがビッシュだが――するのを見ても、黙って見ていらえる訳はないはずだ。
 そうなると、やはり帝都の様子には疑問を抱かざるをえなかった。

「とにかく、帝都から援軍が出て来ないのなら、こっちも楽でいいでしょ。……けど、そうなるとこれからどう話を持っていくのかが問題ね」
「どうって言ってもな。帝都に戦力がなければ、それこそ降伏するしかないんじゃないか?」

 アランにしてみれば、ガリンダミア帝国軍にはもう戦力はほとんど残っていない。
 ここで降伏という選択をしない限り、それこそレジスタンス連合に……そして今も迫っているだろう周辺諸国の連合軍によって、帝都を蹂躙される可能性が高い。
 そうである以上、降伏するしかないと判断するのは当然だろう。

「ガリンダミア帝国の上層部……皇族や貴族たちが、素直に降伏すると思う? もし降伏したら、それこそ自分たちは身の破滅よ?」
「降伏しなくても、身の破滅だと思うけど?」
「それでも帝都が蹂躙されるまで、時間はかかるでしょう。その間に、何とか帝都から逃げ出すといった手段を選ぶ可能性はある」
「それは……そこまでするか? いやそこまでしてもおかしくはないのか」

 アランが今まで会ってきた貴族の中には、立派な貴族もいれば、身勝手な貴族も多かった。
 そして割合で考えた場合、身勝手な貴族の方がどうしても多くなるのだ。
 だとすれば、レオノーラが言うようなことになってもおかしくはないし、身勝手なだけに他の貴族の様子を気にする必要はないといった行動をする可能性は高かった。

「なら、いっそのこと俺達で帝都に向かうのはどうだ? 逃げ出す前に貴族の屋敷や城を占領してしまえば、向こうは妙な行動は出来ないと思うし」
「それはやりすぎよ。そうすれば、ガリンダミア帝国側で降伏する際に余計意固地になるわ」

 レオノーラの言葉に、アランはそういうものか? と疑問に思いつつも、改めて自分の会った貴族たちのことを考えれば、そう間違ってもいないのかと納得する。

「なら、一度下に下りるか? あの竜人の件もあるし」
「……動いてないわよ」

 そう告げ、レオノーラは映像モニタに竜人のいた場所を映す。
 するとそこにはレオノーラの言葉通りに全く動いていない竜人の姿。

「あれ? まだ生きてたよな?」
「ビッシュが眷属と言っていたでしょ? 眷属だというくらいだから、その主人が死ねば……」
「眷属も死ぬ、か。可能性はない訳でもないな。あれだけこっちを手こずらせた奴にしてみれば、呆気ない最後だったけど」

 そう告げ、アランは取りあえずこのまま上空にいても意味はないだろうと判断し、ゼオリューンを地上に向かって降下させるのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

残念ながら主人公はゲスでした。~異世界転移したら空気を操る魔法を得て世界最強に。好き放題に無双する俺を誰も止められない!~

日和崎よしな
ファンタジー
―あらすじ― 異世界に転移したゲス・エストは精霊と契約して空気操作の魔法を獲得する。 強力な魔法を得たが、彼の真の強さは的確な洞察力や魔法の応用力といった優れた頭脳にあった。 ゲス・エストは最強の存在を目指し、しがらみのない異世界で容赦なく暴れまくる! ―作品について― 完結しました。 全302話(プロローグ、エピローグ含む),約100万字。

氷弾の魔術師

カタナヅキ
ファンタジー
――上級魔法なんか必要ない、下級魔法一つだけで魔導士を目指す少年の物語―― 平民でありながら魔法が扱う才能がある事が判明した少年「コオリ」は魔法学園に入学する事が決まった。彼の国では魔法の適性がある人間は魔法学園に入学する決まりがあり、急遽コオリは魔法学園が存在する王都へ向かう事になった。しかし、王都に辿り着く前に彼は自分と同世代の魔術師と比べて圧倒的に魔力量が少ない事が発覚した。 しかし、魔力が少ないからこそ利点がある事を知ったコオリは決意した。他の者は一日でも早く上級魔法の習得に励む中、コオリは自分が扱える下級魔法だけを極め、一流の魔術師の証である「魔導士」の称号を得る事を誓う。そして他の魔術師は少年が強くなる事で気づかされていく。魔力が少ないというのは欠点とは限らず、むしろ優れた才能になり得る事を―― ※旧作「下級魔導士と呼ばれた少年」のリメイクとなりますが、設定と物語の内容が大きく変わります。

クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした

コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。 クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。 召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。 理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。 ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。 これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

処理中です...