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51話
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「あー……あー……あー……」
ベッドの上に横になって呻いているのは、白夜。
明らかに疲れているその様子は、現在の白夜の立場を思えば不思議でもなんでもないだろう。
一ヶ月ほど前に、突如東京の近くに開いた異世界とのゲート。
この世界と繋がった世界からやって来たと思われる何かがゴブリンを変え……とてもではないが、ゴブリンをゴブリンと呼べないような存在に変化させた。
正直なところ、それだけであれば問題は……あるにはあったが、そこまで深い問題ではない。
強力なモンスターが一匹、生み出されただけなのだから。
だが、そのゴブリン……六本腕の異形のゴブリンは、自分の下位互換とでも呼ぶべき四本腕のゴブリンを、数万匹単位で生みだした。
生み出されたそのゴブリンが、もし東京に入り込んで暴れれば……それこそ、被害は莫大なものになっただろう。
そして東京に被害が及べば、当然のように日本全土に被害が及ぶ。
基本的に各地は自給自足しているので、そこまで大きな問題ではないが、それでも現状何とか生活を出来ているような場所であれば、一気にそれが崩壊する可能性もあった。
今の時代、一度崩壊した街や村といった場所を立て直すのはかなりの労力やコストを必要とする。
それこそ、再建を諦めなければならない場所が多く出てくるほどに。
それを防いだのだから、そのような人物に皆が興味を持つのは当然だった。
ましてや、それを行ったうちの片方はゾディアックに所属し、光の薔薇の異名を持つ人物。
麗華は今まで何度となく人前に出て、雑誌の表紙を飾ったこともある。
それだけに凄いことは凄いのだが、話題性という点ではどうしても落ちてしまう。
今回の一件を出来るだけ早く収束させ、政府としての失態――トワイライトの戦力をほとんど東京の残しておかなかったこと――を隠すためにも、分かりやすいヒーローとでも呼ぶべき人物は必要となる。
そうして目を付けられたのが……ネクストでもそれなりに優秀な人物の、白夜。
新たなヒーローの誕生として、まさに英雄に祭り上げられてしまったのだ。
当初こそ、もしかしたら美人なお姉さまとの出会いがあるかもしれないと考えていた――もしくは、せめてもの慰めとしてそう思っていた――白夜だったが、実際には記者会見やらパーティに招待されるといたことやらが目白押しで、それこそ分刻み、秒刻みのスケジュールをこなすことになってしまう。
一応パーティやTV番組に出演したときには、芸能人と出会うことも少なくなかったのだが、とてもではないが口説くなどという真似をする余裕はなかった。
……それでも、アドレスを聞いたりといったことが出来たのは、白夜にとって唯一の収穫だっただろう。
ともあれ、今日は雑誌のインタビューを終え……そうして、現在は寮の部屋に戻ってくるやベッドの上で横になっていたのだ。
「あー……せめてもの救いは、インタビューをしてきた人が美人なお姉さまだったことかな」
精神的な疲労を治める意味でも、白夜はベッドに寝転がったまま呟く。
実際、白夜にインタビューをしてきた人物は、凜々しい系の美人と呼ぶに相応しい容姿をしていた。
アドレス交換も出来たので、白夜としては決して疲れただけの時間ではない。そう思い込む。
……もっとも、白夜が相手を美人なお姉さまという異性と認識しているのは間違いないが、相手が五歳以上年下の白夜を男として……異性として認識しているのかどうかは、微妙なところだったが。
「みゃー」
美人の笑みを、そして男であれば間違いなく目を奪われる巨乳思い出しながらベッドの上で寝転がっている今の白夜は、とてもではないが新しい英雄という立場にあるようには見えない。
作られた英雄だからというのは白夜本人も納得してるので、本人は特に気にしている様子はないのだが。
(それに、何だかんだと美味しい思いは出来たしな)
政府からは、半ば口止め料という形でかなり高額の報酬を受け取っている。
取りあえず、これから数年はバイトに必死になるような真似をしなくても余裕があるのは間違いない。
もっとも、白夜がバイトをするのは金稼ぎ以外にも理由がある。
特にゲートの一見で闇の能力が進化し、闇に呑み込んだモンスターを闇で構成するという真似が出来るようになった以上、モンスターとは積極的に戦って、その死体を闇に呑み込んでおきたいというのが正直なところだった。
(闇に呑み込んだモンスターの魔石や素材とかは、完全に諦めないといけないってのが、痛いけど。それに、闇がどれだけの数を呑み込めるのかも分からないし)
闇の能力について考えつつベッドの上でゴロゴロしていると……やがて、不意に扉がノックされる音が聞こえてきた。
「おーい、白夜。いるかー?」
扉の向こうから聞こえてくる、そんな声。
聞き覚えのある声は、となりの部屋の遠藤だ。
「いるぞー」
ベッドで寝転がったまま白夜が言葉を返すと、やがて扉が開く。
そうして部屋の中に入ってきた遠藤は、口元に笑みを浮かべていた。
「どうだったんだ、インタビュー」
「あー……美人のお姉さまとはアドレス交換出来た」
「……お前、インタビューに行ったんだよな? 英雄様が何をしてるんだか。爆発しろ」
呆れたように遠藤が呟く。
それだけ、白夜の口から出て来た言葉が予想外だったのだろう。
「そう言ってもな。インタビューとか、つまらなかったし。それと爆発はしない。くれぐれも、そういう能力者に相談したりはしないようにな」
あっさりと呟く白夜に、やがて処置なしと遠藤は溜息を吐く。
あとでこっそりと、その手の調査が得意な能力者に相談しようと決意しながら。
遠藤にとって、白夜は女好きではあるが恋人がいないという点で、同士でもあった。
もっとも、この年代で女に興味を持たないというのは、それはそれで色々とおかしいのだろうが。
そんな白夜が年上のお姉さまと親しくなるというのは、遠藤にとっては妬まし。
そのような幸運を独り占めにさせてたまるかという思いを抱きつつも、それを表に出さないようにしながら頷く。
「ちっ、分かったよ。……ああ、それと高木から、明日にでも学校に来るようにだってよ」
「……高木から?」
高木と言われて白夜が思い浮かべるのは、ネクストの教師だけだ。
白夜もネクストの生徒の名前全てを知ってる訳ではないが、その中に高木という人物はいない。
つまり、自分を呼んでいるのは間違いなくその教師であるということ。
「ああ。お前の能力が進化したんだろ? 多分、その件についてだと思うぞ」
「あー……なるほど」
ネクストというのは、トワイライトという組織の下部組織だ。
そしてネクストを卒業した生徒は、少数の例外を除いてほぼ全てがトワイライトに就職することになる。
そうである以上、ネクストに所属している者の能力の詳細について、トワイライトに報告しておく必要があった。
つまり、白夜の進化した能力をしっかりと把握しておきたいと、そうネクストが判断したのだろう。
もっとも、白夜もその意見には特に反対はない。
いや、むしろ現在の自分の能力がどのくらいなのか、しっかりと確認しておきたいという思いもあった。
本来なら、能力者としてその辺りはしっかりと把握しておく必要があるのだが……生憎と、ここ最近の白夜は英雄という風に持ち上げられており、表舞台に立つことも多かったこともあってそのような余裕はなかったのだ。
「分かった。じゃあ、明日はインタビューとかもしないし、問題はないと思う」
「そうか。まぁ、頑張ってくれ。……月のない晩もあるから、気をつけろよ」
「おいこら! 遠藤、お前一体何を考えてやがる!?」
あまりにも物騒なその台詞に、白夜は半ば反射的に叫ぶ。
だが叫ばれた遠藤は、そんな白夜の様子に構わずに部屋を出ていく。
あからさまに、ニヤリとした笑みを白夜に見せつけながら。
「ちょっ、おい待て! こら! ノーラ、遠藤を追え! 追って、その毛針で思いきり泣き叫ばせてやれ!」
「みゃー……」
ノーラに遠藤を追うように頼む白夜だったが、肝心のノーラはそんな白夜の言葉が聞こえてないかのように、空中を漂っている。
浮遊するマリモという、何も知らない者が見れば混乱してもおかしくない光景。
だが、白夜にしてみればすでに見慣れている光景で、そこに違和感は全くない。
それこそ、ごく普通の……そこにノーラがいて当然ですらあった。
もっとも……何かを企んでいるのが間違いない遠藤を見逃すような真似をせず、しっかりと攻撃して欲しかったという思いはあるが。
「ノーラ……そうやって呑気に浮いてないで、俺の言うことを聞いてくれてもいいと思うんだけどな」
「みゃー……」
白夜の声は聞こえないと、そう態度で示すノーラ。
そんなノーラの様子を若干不満そうに眺める白夜だったが、ノーラはそんな白夜の様子を全く気にした様子もなく、空中を浮かんでいた。
「ぐぬぬ……」
ノーラに向かって唸っていた白夜だったが、不意にPDAがメールの着信を知らせ、そちらに手を伸ばす。
誰からのメールかを見て……白夜の顔に驚きが浮かぶ。
何故なら、そのメールの差出人が南風五十鈴となっていたからだ。
南風五十鈴。白夜がファンの鈴風ラナの本名だ。
まさか、五十鈴からメールが来ると思っていなかったというのが、白夜の正直な気持ちだ。
鈴風ラナとしての活動で忙しい上に、白夜も詳しくは知らないが、五十鈴の家……南風家は何やら明らかに意味ありげな家系や血筋を持っているようだった。
ともあれ、白夜にしてみれば完全に雲の上の人と言ってもいい。
同じように雲の上の人として麗華もいるが、麗華の場合はそれでも同じネクストの生徒だ。
もっとも麗華はゾディアックという選ばれし者なのに対して、白夜は多少成績が良いが、一般の生徒でしかないという大きな違いはあるが。
それでも、やはり同じネクストの生徒……そして共に異形のゴブリンと戦ったということもあり、五十鈴よりは身近な存在と言えた。
メールの中身を見ると、そこにあるのは白夜が元気かどうかを尋ねるという内容だった。
ゴブリンとの戦いでは、結局最後には麗華と共に白夜は最後まで残り、五十鈴は他の面々と一緒に脱出した。
だからこそ、白夜が現在どのような状況になっているのかを知りこうしてメールを送ってきたのだろう。
もっとも、白夜は別にそのようなことに怒ってはいない。
あのときはあの行動が最善だったと判断しているし、白夜が望んであの場に残ったということでもある。
ただ、あの……そう、『あの』鈴風ラナからメールを貰ったということが、白夜には嬉しかった。
メールを見ながら、白夜の口に笑みが浮かぶ。
「あー……うん。ちょっとこれは嬉しいな。けど、何て返せばいいんだ?」
どのような文面にするのか、悩む白夜。
ここで迂闊な文章を返してしまえば、五十鈴が呆れてもうメールが返ってこない可能性もある。
それを考えると、やはりここは真面目な文章で返せばいいのか……もしくは、それだと固すぎて、五十鈴にとっても面白みに欠けるのか。
女好きではあるが、彼女いない歴=年齢の白夜にとって、この問題はかなりの難題だった。
そうして迷いながらも、何とか適当な文章を考え、メールで送る。
(出来れば、すぐにでもメールが返ってきて欲しいけど……その辺りは無理だよな)
そう思った次の瞬間、再びPDAがメールの着信音を鳴らす。
「え?」
まさか、こうも早く?
そう思いながらPDAを見ると、そこに南風からのメールが来ていた。
……もっとも、南風は南風でも、白夜が期待した五十鈴ではなく、その弟の音也の方だったが。
「あー……まぁ、五十鈴が知ってるんだから、音也も俺の状況を知っていてもおかしくはないよな」
何を勘違いしたのか、自分に弟子入りを志願するようなそんな人物からのメールに、白夜は苦笑を浮かべる。
もっとも、音也は立派な性格をしている人物だ。
白夜から見た場合、自分よりも人格的に立派なのは間違いないと、そう思う。
もちろん、全く何の問題もない訳ではない。
それこそ真っ直ぐすぎるような性格は、一歩間違えれば大きな失敗をもたらしかねない。
(俺がその辺を心配しても、多分意味はないんだろうけどな)
南風家が何らかの重要な意味を持つ家であるのなら、それこそ白夜が心配するよりも、他の者たちがどうにかするだろう。
そう思いつつ、白夜は特に怪我の類もなく心配はいらないという文章を送る。
そうしメールを送ると特にやるべきこともなくなり……鈴風ラナの写真集を見つつ、明日の能力調査でどうなるのかと、微妙に心配な気持ちを抱くのだった。
ベッドの上に横になって呻いているのは、白夜。
明らかに疲れているその様子は、現在の白夜の立場を思えば不思議でもなんでもないだろう。
一ヶ月ほど前に、突如東京の近くに開いた異世界とのゲート。
この世界と繋がった世界からやって来たと思われる何かがゴブリンを変え……とてもではないが、ゴブリンをゴブリンと呼べないような存在に変化させた。
正直なところ、それだけであれば問題は……あるにはあったが、そこまで深い問題ではない。
強力なモンスターが一匹、生み出されただけなのだから。
だが、そのゴブリン……六本腕の異形のゴブリンは、自分の下位互換とでも呼ぶべき四本腕のゴブリンを、数万匹単位で生みだした。
生み出されたそのゴブリンが、もし東京に入り込んで暴れれば……それこそ、被害は莫大なものになっただろう。
そして東京に被害が及べば、当然のように日本全土に被害が及ぶ。
基本的に各地は自給自足しているので、そこまで大きな問題ではないが、それでも現状何とか生活を出来ているような場所であれば、一気にそれが崩壊する可能性もあった。
今の時代、一度崩壊した街や村といった場所を立て直すのはかなりの労力やコストを必要とする。
それこそ、再建を諦めなければならない場所が多く出てくるほどに。
それを防いだのだから、そのような人物に皆が興味を持つのは当然だった。
ましてや、それを行ったうちの片方はゾディアックに所属し、光の薔薇の異名を持つ人物。
麗華は今まで何度となく人前に出て、雑誌の表紙を飾ったこともある。
それだけに凄いことは凄いのだが、話題性という点ではどうしても落ちてしまう。
今回の一件を出来るだけ早く収束させ、政府としての失態――トワイライトの戦力をほとんど東京の残しておかなかったこと――を隠すためにも、分かりやすいヒーローとでも呼ぶべき人物は必要となる。
そうして目を付けられたのが……ネクストでもそれなりに優秀な人物の、白夜。
新たなヒーローの誕生として、まさに英雄に祭り上げられてしまったのだ。
当初こそ、もしかしたら美人なお姉さまとの出会いがあるかもしれないと考えていた――もしくは、せめてもの慰めとしてそう思っていた――白夜だったが、実際には記者会見やらパーティに招待されるといたことやらが目白押しで、それこそ分刻み、秒刻みのスケジュールをこなすことになってしまう。
一応パーティやTV番組に出演したときには、芸能人と出会うことも少なくなかったのだが、とてもではないが口説くなどという真似をする余裕はなかった。
……それでも、アドレスを聞いたりといったことが出来たのは、白夜にとって唯一の収穫だっただろう。
ともあれ、今日は雑誌のインタビューを終え……そうして、現在は寮の部屋に戻ってくるやベッドの上で横になっていたのだ。
「あー……せめてもの救いは、インタビューをしてきた人が美人なお姉さまだったことかな」
精神的な疲労を治める意味でも、白夜はベッドに寝転がったまま呟く。
実際、白夜にインタビューをしてきた人物は、凜々しい系の美人と呼ぶに相応しい容姿をしていた。
アドレス交換も出来たので、白夜としては決して疲れただけの時間ではない。そう思い込む。
……もっとも、白夜が相手を美人なお姉さまという異性と認識しているのは間違いないが、相手が五歳以上年下の白夜を男として……異性として認識しているのかどうかは、微妙なところだったが。
「みゃー」
美人の笑みを、そして男であれば間違いなく目を奪われる巨乳思い出しながらベッドの上で寝転がっている今の白夜は、とてもではないが新しい英雄という立場にあるようには見えない。
作られた英雄だからというのは白夜本人も納得してるので、本人は特に気にしている様子はないのだが。
(それに、何だかんだと美味しい思いは出来たしな)
政府からは、半ば口止め料という形でかなり高額の報酬を受け取っている。
取りあえず、これから数年はバイトに必死になるような真似をしなくても余裕があるのは間違いない。
もっとも、白夜がバイトをするのは金稼ぎ以外にも理由がある。
特にゲートの一見で闇の能力が進化し、闇に呑み込んだモンスターを闇で構成するという真似が出来るようになった以上、モンスターとは積極的に戦って、その死体を闇に呑み込んでおきたいというのが正直なところだった。
(闇に呑み込んだモンスターの魔石や素材とかは、完全に諦めないといけないってのが、痛いけど。それに、闇がどれだけの数を呑み込めるのかも分からないし)
闇の能力について考えつつベッドの上でゴロゴロしていると……やがて、不意に扉がノックされる音が聞こえてきた。
「おーい、白夜。いるかー?」
扉の向こうから聞こえてくる、そんな声。
聞き覚えのある声は、となりの部屋の遠藤だ。
「いるぞー」
ベッドで寝転がったまま白夜が言葉を返すと、やがて扉が開く。
そうして部屋の中に入ってきた遠藤は、口元に笑みを浮かべていた。
「どうだったんだ、インタビュー」
「あー……美人のお姉さまとはアドレス交換出来た」
「……お前、インタビューに行ったんだよな? 英雄様が何をしてるんだか。爆発しろ」
呆れたように遠藤が呟く。
それだけ、白夜の口から出て来た言葉が予想外だったのだろう。
「そう言ってもな。インタビューとか、つまらなかったし。それと爆発はしない。くれぐれも、そういう能力者に相談したりはしないようにな」
あっさりと呟く白夜に、やがて処置なしと遠藤は溜息を吐く。
あとでこっそりと、その手の調査が得意な能力者に相談しようと決意しながら。
遠藤にとって、白夜は女好きではあるが恋人がいないという点で、同士でもあった。
もっとも、この年代で女に興味を持たないというのは、それはそれで色々とおかしいのだろうが。
そんな白夜が年上のお姉さまと親しくなるというのは、遠藤にとっては妬まし。
そのような幸運を独り占めにさせてたまるかという思いを抱きつつも、それを表に出さないようにしながら頷く。
「ちっ、分かったよ。……ああ、それと高木から、明日にでも学校に来るようにだってよ」
「……高木から?」
高木と言われて白夜が思い浮かべるのは、ネクストの教師だけだ。
白夜もネクストの生徒の名前全てを知ってる訳ではないが、その中に高木という人物はいない。
つまり、自分を呼んでいるのは間違いなくその教師であるということ。
「ああ。お前の能力が進化したんだろ? 多分、その件についてだと思うぞ」
「あー……なるほど」
ネクストというのは、トワイライトという組織の下部組織だ。
そしてネクストを卒業した生徒は、少数の例外を除いてほぼ全てがトワイライトに就職することになる。
そうである以上、ネクストに所属している者の能力の詳細について、トワイライトに報告しておく必要があった。
つまり、白夜の進化した能力をしっかりと把握しておきたいと、そうネクストが判断したのだろう。
もっとも、白夜もその意見には特に反対はない。
いや、むしろ現在の自分の能力がどのくらいなのか、しっかりと確認しておきたいという思いもあった。
本来なら、能力者としてその辺りはしっかりと把握しておく必要があるのだが……生憎と、ここ最近の白夜は英雄という風に持ち上げられており、表舞台に立つことも多かったこともあってそのような余裕はなかったのだ。
「分かった。じゃあ、明日はインタビューとかもしないし、問題はないと思う」
「そうか。まぁ、頑張ってくれ。……月のない晩もあるから、気をつけろよ」
「おいこら! 遠藤、お前一体何を考えてやがる!?」
あまりにも物騒なその台詞に、白夜は半ば反射的に叫ぶ。
だが叫ばれた遠藤は、そんな白夜の様子に構わずに部屋を出ていく。
あからさまに、ニヤリとした笑みを白夜に見せつけながら。
「ちょっ、おい待て! こら! ノーラ、遠藤を追え! 追って、その毛針で思いきり泣き叫ばせてやれ!」
「みゃー……」
ノーラに遠藤を追うように頼む白夜だったが、肝心のノーラはそんな白夜の言葉が聞こえてないかのように、空中を漂っている。
浮遊するマリモという、何も知らない者が見れば混乱してもおかしくない光景。
だが、白夜にしてみればすでに見慣れている光景で、そこに違和感は全くない。
それこそ、ごく普通の……そこにノーラがいて当然ですらあった。
もっとも……何かを企んでいるのが間違いない遠藤を見逃すような真似をせず、しっかりと攻撃して欲しかったという思いはあるが。
「ノーラ……そうやって呑気に浮いてないで、俺の言うことを聞いてくれてもいいと思うんだけどな」
「みゃー……」
白夜の声は聞こえないと、そう態度で示すノーラ。
そんなノーラの様子を若干不満そうに眺める白夜だったが、ノーラはそんな白夜の様子を全く気にした様子もなく、空中を浮かんでいた。
「ぐぬぬ……」
ノーラに向かって唸っていた白夜だったが、不意にPDAがメールの着信を知らせ、そちらに手を伸ばす。
誰からのメールかを見て……白夜の顔に驚きが浮かぶ。
何故なら、そのメールの差出人が南風五十鈴となっていたからだ。
南風五十鈴。白夜がファンの鈴風ラナの本名だ。
まさか、五十鈴からメールが来ると思っていなかったというのが、白夜の正直な気持ちだ。
鈴風ラナとしての活動で忙しい上に、白夜も詳しくは知らないが、五十鈴の家……南風家は何やら明らかに意味ありげな家系や血筋を持っているようだった。
ともあれ、白夜にしてみれば完全に雲の上の人と言ってもいい。
同じように雲の上の人として麗華もいるが、麗華の場合はそれでも同じネクストの生徒だ。
もっとも麗華はゾディアックという選ばれし者なのに対して、白夜は多少成績が良いが、一般の生徒でしかないという大きな違いはあるが。
それでも、やはり同じネクストの生徒……そして共に異形のゴブリンと戦ったということもあり、五十鈴よりは身近な存在と言えた。
メールの中身を見ると、そこにあるのは白夜が元気かどうかを尋ねるという内容だった。
ゴブリンとの戦いでは、結局最後には麗華と共に白夜は最後まで残り、五十鈴は他の面々と一緒に脱出した。
だからこそ、白夜が現在どのような状況になっているのかを知りこうしてメールを送ってきたのだろう。
もっとも、白夜は別にそのようなことに怒ってはいない。
あのときはあの行動が最善だったと判断しているし、白夜が望んであの場に残ったということでもある。
ただ、あの……そう、『あの』鈴風ラナからメールを貰ったということが、白夜には嬉しかった。
メールを見ながら、白夜の口に笑みが浮かぶ。
「あー……うん。ちょっとこれは嬉しいな。けど、何て返せばいいんだ?」
どのような文面にするのか、悩む白夜。
ここで迂闊な文章を返してしまえば、五十鈴が呆れてもうメールが返ってこない可能性もある。
それを考えると、やはりここは真面目な文章で返せばいいのか……もしくは、それだと固すぎて、五十鈴にとっても面白みに欠けるのか。
女好きではあるが、彼女いない歴=年齢の白夜にとって、この問題はかなりの難題だった。
そうして迷いながらも、何とか適当な文章を考え、メールで送る。
(出来れば、すぐにでもメールが返ってきて欲しいけど……その辺りは無理だよな)
そう思った次の瞬間、再びPDAがメールの着信音を鳴らす。
「え?」
まさか、こうも早く?
そう思いながらPDAを見ると、そこに南風からのメールが来ていた。
……もっとも、南風は南風でも、白夜が期待した五十鈴ではなく、その弟の音也の方だったが。
「あー……まぁ、五十鈴が知ってるんだから、音也も俺の状況を知っていてもおかしくはないよな」
何を勘違いしたのか、自分に弟子入りを志願するようなそんな人物からのメールに、白夜は苦笑を浮かべる。
もっとも、音也は立派な性格をしている人物だ。
白夜から見た場合、自分よりも人格的に立派なのは間違いないと、そう思う。
もちろん、全く何の問題もない訳ではない。
それこそ真っ直ぐすぎるような性格は、一歩間違えれば大きな失敗をもたらしかねない。
(俺がその辺を心配しても、多分意味はないんだろうけどな)
南風家が何らかの重要な意味を持つ家であるのなら、それこそ白夜が心配するよりも、他の者たちがどうにかするだろう。
そう思いつつ、白夜は特に怪我の類もなく心配はいらないという文章を送る。
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