才能は流星魔法

神無月 紅

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異世界へ

0010話

 ランクA傭兵団、黎明の覇者を率いてるソフィアから直々に誘われたイオ。
 イオも、それが凄いことなのは周囲にいる他の者たちの様子を見れば分かる。
 しかしこの世界に来たばかり……正確には数日が経過しているが、その数日は山の中でゴブリンと戦ったり逃げたりとしていたので、そんなイオはこの世界の人間の事情について何も分からない。
 だからこそ、ランクA傭兵団というのが具体的にどのくらい凄いのかというのもイオには分からなかった。
 また、傭兵個人ではなく傭兵団全体としてのランクという点も気になってはいる。

(何より、傭兵団だろ? 傭兵ということは、戦いで金を得ている訳で……それはつまり、俺も毎日のように参加しないといけない訳だ。それでいいのか?)

 そう思うも、この世界においてイオがどうやって生活をするのかといったようなことになれば、イオは自分がどんな仕事につけばいいのか分からない。
 剣と魔法の世界に来たのだから、どうせなら冒険者になってみれば面白いかも? と思わないでもなかったが、そもそも冒険者があるのかどうかも分からない。
 流星魔法で隕石は安定的に入手出来るのだから、それを売ったり、もしくは地球の技術を実用化して売ったりして商人として活動する……という道もある。
 あるいは傭兵のようにその日暮らしといった職業ではなく、兵士として国や貴族に雇って貰うという選択肢もあった。

(いや、最後のはないか)

 流星魔法について知られれば、それこそ戦略兵器的な存在としてイオを欲しがる者は多いだろう。
 しかし、イオとしては囚われの籠の鳥というのは遠慮したい。
 他にもいくつか自分がどう行動するのかを考え……やがて口を開く。

「その、俺はこの辺りについてまだほとんど知りません。なので、取り合えず返事は待って貰っていいですか? 近くの街で色々と見て、それから返事をしたいのですが」

 イオの口から出た言葉に、黎明の覇者の傭兵たちは信じられないといった視線を向ける。
 ソフィアが直々に勧誘するというだけでも、滅多にないことだ。
 だというのに、そんなソフィアの勧誘をイオは断ったのだから。
 実際には断ったのではなく返事を待って貰っているだけなのだが。
 傭兵たちの多くはイオの返事に驚いてはいるものの、中にはソフィアに対して深い忠誠心を抱いている者もおり、そのような者はソフィアの誘いを断ったイオに敵意を向けてすらいた。
 もしこの場でソフィアが不愉快そうな様子を見せれば、すぐにでもイオを攻撃してもおかしくはなかったのだが……

「止めなさい」

 そう言い、敵意を抱いていた者を止めるように手を伸ばす。
 その動作だけで、イオに敵意を抱いていた者は敵意を収める。
 敵意の類を感じることが出来ないイオは、一体何があったのかは分からない。
 分からないが、ソフィアのやることである以上、何らかの意味を持つのだろうというのは理解出来た。

「いいわ。なら、返事を待ちましょう。たしかにイオがこの辺りの事情について詳しくないのなら、その辺りを知らないまま勧誘するのは少し問題があるでしょうし。このままイオが黎明の覇者に所属して、そのあとで実はそんなつもりじゃなかった……と言われても面白くないしね」

 ソフィアの口から出たその言葉に、イオは素直に頭を下げる。
 ソフィアが自分のためにそのように言ってくれたのは明らかだったからだ。

「ありがとうございます」
「いいのよ。私の傭兵団に所属するのなら、全てを納得した上で来て欲しいしね。ただ……言っておくわよ? もし黎明の覇者に所属することになった場合、間違いなくイオの鍛錬は厳しくなるわ。いくら魔法が強くても、近接戦闘が出来ないのでは話にならないもの」
「それは……」

 その言葉には、イオも納得するしか出来ない。
 何しろイオは戦闘訓練をしたことはない。
 それらしいのは、それこそ高校の体育でやった柔道や剣道の授業くらいだろう。
 当然そのようなものが実戦で役に立つはずがない。
 いや、あるいは柔道や剣道を部活としてやっており、真面目に練習して全国大会に出場出来るような腕であれば、それなりに役立ったかもしれない。
 しかし、イオの場合はあくまでも授業の範囲内で少しやった程度でしかないのだ。

「そうですね。もしそうなったら、しっかりと訓練をしたいと思います」

 もし傭兵団に入らず、冒険者として活動する場合であっても、近接戦闘の能力は必要となるだろう。
 パーティを組んで後衛に専念するということになれば、また話は別だが……そうなった場合、イオは非常に使いにくい存在となる。
 何しろイオの使う魔法は流星魔法で、外でしか使えない上に、その威力も極端に大きすぎる。
 軍と軍が戦うような場合ならともかく、数匹のモンスター……たとえばゴブリンが出て来たときに使える魔法ではない。
 ましてや一度魔法を使うと杖が砕けるというデメリットもあった。
 もっとも、それに関してはもっと性能の高い杖を使えば話は別なのかもしれないが。
 つまり、イオは傭兵よりも冒険者としてやっていく方が非常に難しいということを意味していた。

(もしそうなった場合、流星魔法以外の魔法を習得する必要があるのか。もしくは、弓とかを使って? ……弓、弓ねぇ。とてもじゃないけど使えるようになるとは思えないな)

 そんな風に考えているイオに、ソフィアは声をかける。

「話は決まったようだし、ならここにいるゴブリンの剥ぎ取りを行いましょう。私たちも手伝うわ」
「え? いいんですか?」

 ソフィアの提案はイオにとってありがたいものだ。
 正直なところ、イオがまだ解体していない分のゴブリンは黎明の覇者の取り分になるのでは? という思いがあった。
 しかし、ソフィアの言葉からするとまだ解体していないゴブリンの素材や魔石も全てイオに所有権があるかのように言っていた。

「さっきも言ったけど、私たちは黎明の覇者よ。自分たちで倒したのなら所有権を主張するけど、倒したのはイオでしょう? なら、そんなみっともない真似はしないわ。……ただし、剥ぎ取りの手伝いをする以上、買い取り金額は少し割り引いてくれるかしら?」
「あ、それは構いません」

 そもそも、イオだけであればこの一帯に存在するゴブリンの素材や魔石、武器といった中で持っていける量は限られていた。
 それを黎明の覇者の者たちがここで買い取ってくれるのだから、イオとしては願ったり叶ったりだ。

「ただ、杖だけは全部俺が貰ってもいいですか?」
「杖を? 一本だけではなく?」

 イオの言葉に、ソフィアは不思議そうに尋ねる。
 ソフィアにとって、杖とは魔法を使う上で必要ではあるが、多数持つ必要がある物ではないのだから当然だろう。
 どうする? と一瞬疑問に思ったイオだったが、ソフィアは自分に友好的に接してくれているし、魔石や素材、武器の買い取りでも優遇してくれ、さらには自分がこれから街にまで連れて行ってくれる相手だ。
 そして何より、女帝という表現が相応しいカリスマ性を持っているのはともかく、絶世の美女という表現が相応しい。
 そのような相手だけに、イオも少しくらいは自分の秘密を話してもいいのでは? と思うのは当然のことだろう。
 危機感が足りないのは間違いないが、いきなり異世界にやって来て数日を山の中で暮らし、ゴブリンの大群を相手に流星魔法で消滅させ……と、ここ数日色々とあったために、半ば感覚が麻痺している点もあった。

「俺の流星魔法は、一度使うと杖が壊れてしまうんですよ。……もっとも、ゴブリンメイジから奪った杖を使ったところそんな感じだったので、他の杖だとどうなるか分かりませんけど」
「……は?」

 覇気やカリスマといった雰囲気を纏うソフィアだったが、イオのその言葉を聞いた瞬間に出たのは、若干間の抜けた声。
 当然だろう。普通であれば、魔法を一度使った程度で杖が壊れるといったことはない。
 数々の戦場を渡り歩いたソフィアであってもそのような話は聞いたことがない。

「それは、本当かしら?」

 そしてイオにしてみれば、何故ソフィアがそこまで驚きを露わにしているのかが分からない。
 イオにしてみれば、恐らく魔法発動体の杖というのは魔法の威力が高すぎた場合、杖が保たないで壊れてしまうのだと認識していたのだ。
 あるいは日本にいたときに漫画やゲームで得た知識により、そのように思っていたのかもしれない。
 だからこそ、恐る恐るといった様子で尋ねてきたソフィアの言葉に対し、素直に頷く。

「はい。あそこの山、ありますよね。あの山でゴブリンメイジから奪った杖を使って流星魔法をここに叩き込んだんですが、そのときに杖は壊れてしまいましたから。なので、俺が流星魔法を使うには予備の杖はあればあっただけ助かるんです」
「……分かったわ。なら、そうしましょう。では、それ以外の武器は私たちが買い取るということでいいのね?」
「それは構いませんけど、ゴブリンの使ってた武器ですよ?」

 イオが見た限り、黎明の覇者の持っている武器はどれもが一流の品と呼ぶに相応しい。
 イオに武器の目利きなどは出来ないのだが、そんなイオの目から見ても黎明の覇者の傭兵の武器が持っているのは、そのどれもが圧倒的な迫力を持っていた。
 そんな傭兵たちに、ゴブリンの持っていた武器が必要なのかと疑問に思うのは当然だろう。
 イオの疑問に対し、ソフィアは黄金の髪を掻き上げながら笑みを浮かべて口を開く。

「言っておくけど、ここにいるのは黎明の覇者の中でも精鋭中の精鋭よ。ゴブリンの軍勢のいる場所に星が落ちたから、それがどのような結果をもたらしたのかを確認するために、機動力のある者たちだけで来たのよ。本隊の方にはまだ多数の傭兵がいるわ」
「あー……なるほど」

 ソフィアの言葉に改めてイオが周囲の様子を見てみると、騎兵や馬車に乗っている者たちだけだ。
 実際に傭兵団として活動している以上、歩兵の類も多数いてもおかしくはない。

「分かったかしら。そして歩兵の中には、才能はあっても傭兵としてはまだまだといった者もそれなりににいるわ。そのような傭兵たちの武器としては、これくらいのがちょうどいいのよ」

 そう言われれば、イオとしても納得するしかなかった。
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