才能は流星魔法

神無月 紅

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異世界へ

0021話

 防御特化。
 それは当然ながら、言葉で言うほどに簡単なものではない。
 それこそ、本気で防御を極めるとするのなら、相手がどんな強敵でも……それこそギュンターのような強敵であっても、逃げ出すといったような真似は出来ないだろう。
 防御特化であるがゆえに、武器の類は持たせない。
 あるいは普通の傭兵ならいざというときのために何らかの武器を持たせてもいいのかもしれないが、レックスの話を聞く限りでは武器を持たせると仲間に攻撃しかねない。
 黎明の覇者としては、当然だがそのような真似は避けたかった。
 ましてや、ギュンターはレックスを防御特化の傭兵にして、イオの護衛を任せたいと考えている。
 だとすれば、レックスが間違ってイオを攻撃するといったようなことは、絶対に避けたいと思うのは当然だろう。
 ギュンターにしてみれば、表現は悪いがレックスはあくまでもイオを黎明の覇者に引き込むためのエサでしかない。
 そのような事情だけに、レックスが防御特化の傭兵として活動するのに、イオを傷つけるといったような真似は絶対に避けて欲しいのだ。

「言うのはいい。お前のやる気も分かった。だが……言葉で言うのと、実際にそんな真似が出来るのかというのは、全く話が違うぞ?」
「はい。それは分かってるつもりです」

 レックスも、黒き蛇において雑用ではあっても傭兵として活動してきた。
 それだけに、やる気に満ちあふれていてもそれが実力に結びつかず、傭兵として戦いに参加してすぐに死ぬといったような者たち何人も見てきている。
 だからこそ、やる気だけがあっても実力がそれに追い付かないと意味はないと理解しているのだろう。
 そんなレックスの表情を見て、ギュンターは小さく笑みを浮かべる。

「分かった。なら、お前の件は俺が引き受けよう。ソフィア様にもお前が黎明の覇者に入団するということを言っておく。恐らく問題はないはずだ」

 その言葉を聞いて、ふとイオは疑問に思う。
 最初に……ゴブリンの軍勢を滅ぼしたときにギュンターと初めて会った際には、イオのことを君と呼んでいた。
 だが、今こうしてレックスに声をかけている際は、お前と呼んでいる。

(いやまぁ、流星魔法を使う俺を警戒する面もあったんだし、そんな態度になるのはしょうがないか)

 それはつまり、ギュンターのイオに対する態度が以前よりも打ち解けてきたといったようなことであるのは間違いない。
 イオとしては、堅苦しい態度を取られるよりも気楽な方がいい。
 もっとも、会ったばかりのギュンターの態度も、そこまで堅苦しいといった訳ではなかったのだが。

「ありがとうございます。精一杯頑張ります」
「そうだな。……黒き蛇と接触して、レックスは黎明の覇者に所属することになったと言ってきてくれ。向こうが何かを言うようなら、仲間の扱いに気をつけろと言ってやるといい。それでも騒ぐようなら……多少の力を振るうことを許す」
「分かった」

 ギュンターの言葉に、一緒のソファに座っていた男の一人が頷くと、すぐに立ち上がって宿を出ていく。
 何をしに行ったのかは、今のやり取りを見ていたイオにとっては一目瞭然だった。

「レックスを他の雑用たちがいる場所に案内してくれ」
「了解」

 新たな命令に従い、残っていた男の一人が立ち上がる。

「レックス、ついてこい。お前と同じ雑用の連中がいる場所に案内する。これからお前はその連中といっしょにすごすことになる。その中で実力を上げて正式な戦力となれるかどうかは、お前次第だ。その辺を忘れるなよ」
「はい! 頑張ります!」

 男の言葉がレックスのやる気に火を点けたのか、レックスは元気一杯といった様子で叫ぶと、男と一緒に宿を出ていった。
 そうしてこの場に残っているのは、イオとギュンター、そしてギュンターと話していた男の中でもここに残った二人だけの合計四人となる。

「さて、イオはこれからどうするのか決めたのか?」
「えっと……いえ、今のところはまだ。ただ、このドレミナを歩き回ってみただけですし」

 当初は傭兵や冒険者になるにしろ、ならないにしろ、取りあえずギルドには顔を出してみるつもりだった。
 だが、ギルドに顔を出すよりも前にレックスの一件に遭遇したこともあって、結局はギルドに行くことは不可能となってしまう。

(黎明の覇者はともかく、黒き蛇の連中を見てしまうと……多分ギルドに行っていれば、変な奴に絡まれていた可能性もあるんだよな)

 黎明の覇者は、イオが流星魔法というとてつもない威力の魔法を使うということもあり、またそれをソフィアが気に入って仲間に引き入れようとしていることもあってか、イオに絡んでくるような者はいなかった。
 ……もちろん、中にはソフィアと気軽に話しているイオの存在が気にくわないと思っている者もいたのだろうが。
 ともあれ、ソフィアやギュンターといった黎明の覇者の中でも強い影響力を持っている者たちがイオに好意的だったこともあり、イオは絡まれるといったようなことはなかった。
 しかし、ギルドに行っていた場合、当然ながらイオと黎明の覇者の関係は知られていない以上、妙な相手に絡まれるといった可能性は十分にあっただろう。
 もちろん、イオが杖を持ってる以上、イオは魔法使いだと認識されてもおかしくはない。
 魔法使いというのはそこまで数が多くないので、自分たちの傭兵団やパーティに加えようという誘いの類もあったかもしれない。
 そのようなものがあっても、黎明の覇者に所属するかどうかで迷っているイオにしてみれば、あまり魅力はなかっただろうが。

「そうか。黎明の覇者としては、イオが俺たちに興味を持つまで待ってもいいと思っているが、傭兵団の中にはイオの力を知れば無理矢理にでも協力させる……といったような連中もいるかもしれない。その辺りについては気をつけた方がいい」
「そうですね。そうなったらちょっと困るでしょうし、気をつけます」

 ギュンターの忠告に素直に頷くイオ。
 実際、イオにとって自分の力を目当てに強引に迫られた場合、面倒なことになるのは間違いなかった。

「もっとも、個人ではその辺を気をつけるにしても限界がある。それに……イオはこの辺りについてや、そもそも常識についてもそこまで詳しくないのだろう?」
「う……」

 ギュンターの言葉に、イオは反論出来ない。
 反論しようにも、実際にその言葉は決して間違っていないのだから当然だろう。
 今の状況では、下手にイオが行動した場合、何か大きなミスをする可能性は十分にあった。
 それこそ、気が付けばイオの所属がどこかに決まっていてもおかしくはないくらいに。
 当然ながら、イオの実力がまだ知られていない今の状況においては、そのようなことが起きる可能性は少ない。

「き、気をつけます」
「ああ、気をつけてくれ。イオにはいずれ黎明の覇者に入団して貰う予定なんだからな」
「あ、あはは。……その、検討しておきます」

 イオとしては、こうして誘ってくるギュンターの気持ちは嬉しい。
 しかし、だからといってすぐに黎明の覇者に所属しようとは思わない。
 今のところは、やはりもう少し他の道がないのかと思わないでもなかった。
 それでもギュンターの優れているところは、イオが断ればその場でそれ以上しつこく誘ってきたりはしないことだろう。
 イオの機嫌を損ね、それによって黎明の覇者を疎ましく思うといったようなこといならないよう、しっかりと注意しているのだろう。

「それで……ここに来たのは、レックスの紹介の他に、魔石の代金の受け取りか? あの量だと、恐らくまだ計算は終わってないと思うが」

 イオのメテオによって、ゴブリンの軍勢の大半は、それこそ死体も残らず消滅してしまった。
 残ったのはその衝撃に耐えられる――それでも死体だったが――身体の強さを持っている個体か、あるいは仲間の後ろにいたおかげで死体が残ったような幸運な個体かといったところだ。
 そのような状況ではあったが、軍勢と呼ぶに相応しい数だったために、どうしても母数は多くなり、黎明の覇者が買い取る魔石や素材、そしてゴブリンの持っていた武器の類は最終的に結構な数となっていた。
 それを普通にギルドや商人に売るよりも高く買い取るというソフィアの指示に従い、黎明の覇者の中でも目利きの者たちは現在それらをどのくらいの値段で購入するのかといったことで話し合っていた。
 ギルドや商人よりも高く買い取るのだから、当然ながら安値で買い叩くといった真似は出来ない。
 だが同時に、高く買い取るからとはいえ、それこそ本来の値段の二倍、三倍といったような高額で買い取る訳にもいかなかった。
 黎明の覇者はランクA傭兵団ではあるし、資金的に余裕もある。
 余裕もあるのだが、だからといって無尽蔵に資金がある訳でもない。
 節約出来るところでは十分に節約したいと考えるのは当然の話だろう。

「金銭的な余裕という意味だと、ソフィアさんに貰った前払い金でまだ結構余裕はありますね。……もちろん、こういう高級な宿に泊まるようなことは出来ませんけど」
「それはそうだ。そもそも、現在この宿は黎明の覇者が借り切ってるからな。そういう意味でも、イオは現在この宿に泊まるといったような真似は出来ないだろ」
「え? ……そうなんですか!?」

 英雄の宴亭を黎明の覇者で借り切っているというのは、イオにとっても驚きだった。
 というか、そのような真似が出来るのかといった驚きも強いが。
 英雄の宴亭はドレミナの中でも最高級の宿の一つだ。
 当然ながら、そのような宿ともなれば貴族や商人……それも普通の商人ではなく、大商人と呼ぶべき者たちが泊まっていてもおかしくはない。

「ドレミナを拠点にしているときから、ずっとこの英雄の宴亭は俺たちが使っていたからな。領主に雇われる際の条件の一つとして用意した。これが俺たち黎明の覇者……あるいはランクA傭兵団とかでなければ、当然無理な話だったがな」

 そう告げるギュンターの言葉は、自分が所属している黎明の覇者という傭兵団に対する誇らしさから笑みを浮かべるのだった。
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