才能は流星魔法

神無月 紅

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異世界へ

0064話

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 傭兵の男は、自分に向かって石を投げてきたイオに向かって苛立ちの視線を向ける。
 そして暗黒のサソリの傭兵は攻撃的な性格をしていて気の短い者が集められており、それだけに今のイオの攻撃は決して許容出来るものではなかった。
 だからこそ、イオやレックスに向かって間合いを詰めて思い切り長剣を振るう。
 ギィン、という甲高い金属音が周囲に響き渡る。
 傭兵の一撃を防いだのは、レックスの持つ盾。

「な……ふざけるな!」

 傭兵にしてみれば、まさか自分の一撃をこうもあっさりと防がれるとは思わなかったのだろう。
 そんな相手の様子に、しかしレックスは厳しい表情を浮かべる。
 敵の一撃を防御したのはいいものの、盾を使って防いだその一撃はかなり強烈だった。
 相手は右腕に決して小さくない怪我をしているのだ。
 だというのに、そのような状態で振るわれた一撃は盾を持っていたレックスの腕を痺れさせるには十分な威力を持っていた。
 今のこの状況において、自分と相手の力の差は、呆れるほどにはっきりとしている。
 そう判断したレックスの考えは、決して間違っていない。

(けど……イオさんを守らないと)

 レックスにとって、イオは流星魔法の使い手で黎明の覇者にとって大きな意味を持つ人物であるという以前に、自分を救ってくれた恩人という認識の方が強い。
 漆黒の蛇という傭兵団で雑用をさせられ、傭兵たちの憂さ晴らしに殴られるのは日常茶飯事だった。
 そんな状況から救い、さらには傭兵団の中でも最高峰として知られている黎明の覇者に紹介までしてくれた。
 ……実際にはイオがしたのは紹介までの話であって、ギュンターに会って認められ、黎明の覇者に所属出来るようになったのはあくまでもレックス自身の力なのだが。
 それでも黎明の覇者に紹介して貰わなければ、そもそもギュンターに会うといったようなことは出来なかった。
 冗談でも何でもなく、今現在こうして黎明の覇者に所属することが出来ているのはイオのおかげなのだ。
 そんなイオを守るためには、ここでどうにかして踏ん張る必要がある。

「イオさん、今のように石を投げて下さい! 敵を攻撃に集中させたら駄目です!」
「分かった!」

 レックスの指示に従うイオだったが、杖を使った一撃の方がいいんじゃないか? と思わないでもない。
 それ以前に魔法が使えれば……そう思ったが、まさかこの状況で魔法を使ったら間違いなくレックスも……いや、レックス以外にも多くの者が魔法に巻き込まれてしまうだろう。
 イオもそれが分かっている以上、自分の最大の攻撃をここで行うことは出来ない。
 そう思ったイオだったが、そんな中でふと自分の中に疑問が思い浮かぶ。

(出来ない……出来ない? 本当にか? 俺は流星魔法の才能を持っている。それが具体的にどのくらいの才能なのかは分からないが。けど……呪文の詠唱を変えることによって、メテオの効果範囲や発動速度とかそういうのを変えることが出来た)

 ソフィアからは、そのような真似は普通の魔法使いには簡単に出来るようなことではないと、そうイオは聞いている。
 実際、イオがそのような真似が出来たのは、日本で読んでいた漫画のイメージが大きく影響しているのは間違いない。
 それはつまり、イオ次第では広範囲殲滅魔法としてのメテオだけではなく、個人攻撃用の流星魔法を使う……といったような真似も出来るのではないか。
 出来るかどうかは分からない。
 しかし、魔法というのはイメージする力が非常に重要だというのは、イオにとっても十分に理解出来ている。
 そういう意味では、自分のイメージ次第では出来るのではないかと、そう思わないでもない。
 ……ただし、そんなイオのイメージを邪魔するのはこれまで使った二回の流星魔法だ。
 ゴーレムの軍勢とベヒモスを倒したそれは、威力こそ非常に高かったものの、周囲にも莫大な被害をもたらしている。
 そのような魔法を使った実績がある以上、個人に向けて放つような流星魔法を本当にイメージ出来るのかといった不安を抱くのは当然だった。
 とはいえ、自分とレックスの二人だけしかいない状況なのだから、そのような手段をつかうのが最善なのは間違いない。
 そう思った瞬間、不思議なことに何故かやれるという風に認識出来た。
 何故そう思ったのかは分からない。
 分からないものの、今の状況を考えるとそう認識出来た以上はもしかしたら……そう思う。

「レックス、少し防御を頼む」
「え? ちょ……イオさん!?」

 石を投げて牽制するはずなのに、いきなり何を言うのか。
 そんな疑問を抱くレックスだったが、どのみち敵がいる以上はイオを守る必要があるのは間違いない。
 とはいえ、戦っている相手もそんなイオの言葉を聞いていたのだから、当然ながらイオが何かしようとしているのは理解出来る。

「魔法か? はっ、なら魔法を使うよりも前に殺してやるよ!」

 相手が素人同然であっても……いや、だからこそ魔法を使わせるようなことがあったら危険だ。
 そう判断した傭兵の男は、長剣を手にイオを攻撃しようとするが……

「させません!」

 そんな攻撃を、レックスが防ぐ。
 先程の一撃同様、一撃で腕が痺れるかと思うくらいの威力だったが、それでも攻撃を防ぐことにな成功した。
 そのレックスの後ろで、イオは意識を集中しながら魔法を、呪文を構成していく。

『空に漂いし小さな石よ、我の意思に従い小さなその姿を我が前に現し、我が敵を射貫け……ミニメテオ』

 その言葉と共に魔法が発動し……

(杖が壊れない?)

 イオの握っている杖は、特に壊れた様子もなくそのままだ。
 今まで使った二度の流星魔法。
 その際は間違いなく杖が砕けていたというのに、今こうしている状況ではまだイオの手の中に杖はあった。

「何だ? 何の魔法を使った?」

 イオが魔法を使ったというのは、男にも理解出来たのだろう。
 だというのに、今こうして自分は特に何も被害らしい被害は受けていない。
 これは一体どういうことなのか。
 そんな疑問を抱き……やがて、一つの推論に辿りつく。

「そうか、魔法……失敗したな」

 魔法を使って魔法が発動しなかった以上、その魔法は失敗したのだと、そう認識するのは傭兵として当然だった。
 実際、その判断は間違っていないだろう。
 しかし……それはあくまでもイオ以外の者を相手にした場合の話だ。

「さて、どうだろうな。俺の魔法は成功した。……お前がどう思おうと、それは事実。……レックス、俺の側に」
「え? あ、はい」

 イオの言葉を本当に信じてもいいのかと、多少疑問に思ったレックスだったが、それでも最終的に信じることにしたのは、レックスはベヒモスを倒したイオの魔法その目で見ていたからだろう。
 あれだけ凄い魔法を使えるのだから、今ここでイオが言ってる内容も事実なのではと考えてイオの側まで移動し……それを見た傭兵は、呆れと嘲笑が入り交じった表情を浮かべて一歩前に出て……その瞬間、轟っ、という音と共に吹き飛ばされる。

「……え?」

 レックスは何が起きたのかが全く理解出来ないといった様子で、そんな間の抜けた声を上げる。
 イオの言葉に従ったのは間違いないが、それでもいきなりこんな状況になるとは、思ってもいなかったのだろう。
 突然の衝撃と轟音。
 それと同時に倒れる傭兵。
 ……ただし、地面に倒れたその傭兵は頭部が消し飛んでおり、すでに顔を確認するといった真似は不可能だった。

「ふぅ」

 レックスが何が起きたのか理解出来ないままでいる間に、イオの口からはそんな安堵の声が漏れる。
 イオにしてみれば、不思議と今の魔法は成功するといった確認があった。
 確信はあったものの、それでも実際に成功するまでは、もし失敗したら? といったように思ってしまうこともあったのだ。
 だからこそ、今のイオはこうして安堵する。

(とはいえ……問題は色々とあるけどな)

 ミニメテオと名付けたその魔法は、その名の通り通常の……ゴブリンの軍勢やベヒモスを倒したメテオと比べると、圧倒的に規模が小さい。
 軍勢や巨大なモンスターに向かって使うような魔法ではなく、あくまでも対個人としての魔法。
 しかし、そんな魔法ではあるが、実際にそれを使ったイオにはまだ十分に納得出来る魔法ではなかったのも事実。
 相手をあっさりと殺すことが出来たのだから、威力に関しては問題ない。
 範囲も、ゴブリンの軍勢やベヒモスと戦ったときと比べるとほぼ皆無といった感じだ。
 だが……最大の問題は、発動までの速度。
 いや、正確には発動してから実際に魔法が降り注ぐまでの速度と表現するべきか。
 ミニメテオの魔法が発動してから、実際に隕石が降ってくるまでに結構な時間がかかっている。
 今回はイオが杖を持っており、魔法使いだというのを向こうも知っていたので、実際に魔法を使ったときは警戒して、動き出すようなこととはなかった。
 しかし、もしこれが相手が魔法に失敗したのならということで次の魔法を使われるよりも前に倒してしまおうと考えている者や、あるいはそもそも魔法使いなど知るかといった様子で攻撃してくるような相手だった場合、恐らく今のようにミニメテオを使った場合であっても、効果が発揮するよりも前にイオが攻撃されてしまうだろう。
 今回のように、レックスが防御をしてくれるのなら対処出来るかもしれないが。

(そう言えば、人を殺したのにゴブリンやベヒモスを殺したときと同じように、特にショックを受けたりとか、そういうことはないな)

 ふとそんなことを考える。
 人の死体を見ただけというのなら、ベヒモスの解体をしているときにその胃から出て来た死体……餓狼の牙の盗賊と思われる死体を見ても、そこまで動揺しなかった。
 しかし、今回は直接自分の手で相手を殺したのだ。
 ……もっとも、手にした武器で直接殺した訳ではなく、魔法を使って殺したという点では大きく違うのだが。
 それでも自分が殺したのは事実なのだが、イオの中には不思議と忌避感や嫌悪感の類はない。
 いや、全くない訳ではないのだが、それでもやらなければやられたという事実があるためか、人を殺した嫌悪感や罪悪感から怯えたり、吐いたりといったようなことは何もなかった。
 水晶による精神的な強化のためなのだろうと判断したイオは、不承不承ながら水晶に感謝するのだった。
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