才能は流星魔法

神無月 紅

文字の大きさ
93 / 178
異世界へ

0093話

しおりを挟む
 空から降ってくる隕石。
 今日だけで……いや、ベヒモスを倒したときから、一体何度この辺りに隕石が落ちたのか。
 それこそミニメテオを含めて考えれば、確実に十回以上の隕石が落ちているだろう。
 普通に考えれば、そのようなことは天災であっても起きない。
 そのような状況になっているのは、当然ながらイオが流星魔法を使っているからだ。
 イオの手にした杖は、ある意味で予想通りに粉々になって使い物にならなくなっている。
 そうである以上、次に流星魔法を使うには新たな杖を手にする必要があるのだが、今のイオは降ってきた隕石に視線を向けているだけで、新たな杖を手にしようとはしていない。
 黎明の覇者も含め、戦いに参加していた多くの者達が降ってきた隕石を見ていた。
 当然ながら、それぞれに隕石を見ている感情は違う。
 黎明の覇者の傭兵たちが降ってくる隕石に向ける視線には大きな希望の色がある。
 それと比べると、黎明の覇者と戦っていた者たちの視線に宿るのは、絶望。
 今までに何度か見てきた隕石の落下だったが、今回はかなり近くで見てしまった。
 それだけではなく、今ここで行われている戦いは明らかに自分たちが不利なのだ。
 そうである以上、この場にいる者たちにとって今のメテオの一撃は決定的な……心を折るには十分な威力を持った一撃。

「わ……わああああああああああ!」

 今までの戦いでは何とか痩せ我慢をし、見栄を張ってでも逃げずにいた者の一人が、不意にそう叫びながらその場から逃げ出す。
 自分の心の折れる音を聞いてしまった以上、もうここにはいられない。
 このままここにいれば、自分は間違いなく死ぬ。
 そう思ってしまい……一人がそう判断すると、当然ながら他の者たちにもその怯えは伝染する。
 それこそ普段なら部下を叱りつけ、逃げ出さないように指示をする者ですら、今の自分は危険だと判断して逃げ出し始めていた。
 何をどうすればいいのか。
 それが分からないくらい、現在の状況ではどうしようもなかった。
 それこそ、仲間が撤退……いや、逃げ出すのを見て、そのまま共に逃げ出したような者もいる。
 周囲には自信満々といった様子を見せていたものの、今の自分の状況は決してよくないと理解していたのだ。
だからこそ、今となってはまず自分のこの状況をどうにかするべきだと判断し……

「前に……前に突っ込め! 隕石を落とすにしても、味方にぐべぇ」

 何とか現在の状況を打破しようと、前に向かって進めと口にしようとした男の声は、次の瞬間には聞き苦しい音となって周囲に響く。
 何があってそのようなことになったのかは、それこそ考えるまでもない。
 必死になって指揮を執ろうとした男の存在に気が付いたソフィアが、馬を使って距離を詰め、一気に攻撃したのだ。
 魔槍を使ってその一撃は、叫ぼうとした男には一切気が付かせることなく放たれ、次の瞬間には男の頭部が砕かれていた。
 それによって、味方に指示を出すといった行為は途中のまま男は死んだ。

「敵は総崩れよ! 一気に倒すわ! ただし、降伏した相手には攻撃しないように!」

 ソフィアの口から出たその叫びは、当然ながら黎明の覇者の傭兵たちの耳に届き……同時にそれは、黎明の覇者と敵対していた相手の耳へも届く。
 正面から戦って圧倒的に押されている現状、しかも再度隕石が降ってきて、多くの者がどう行動していいのか分からなくなっている今このとき、ソフィアのその言葉は戦っている相手に対する降伏勧告でもあった。
 事実、ソフィアのその言葉を比較的近くで聞いた者たちは、すぐに武器を下ろして降伏していく。
 当然ながらそのような真似を許せない、あるいは許さないといった者もいた。
 しかし降伏するのが許容出来ないからといって、今の状況で特に何かやるべきこと、出来るべきこともない。
 もしここで降伏は許さないと言い、それこそ降伏した者を攻撃するといった真似をした場合、どうなるか。
 当然ながら、そのような真似をした者は周囲にいる他の降伏した者たちによって攻撃されてしまうのは間違いないだろう。
 結局そのような者たちに出来るのは、自分に従う者を引き連れてその場から離れることだけ。
 ……それでも今の状況で黎明の覇者に攻撃をするのが自殺行為だと判断出来る辺り、最低限の判断力は持っていたのだろう。

「こ……降伏する! 降伏するから助けてくれ!」

 不意に戦場にいた者の一人が、手にした武器を地面に落としてそう叫ぶ。
 逃げるのではなく降伏した者が出たということに、何人もの者達が視線を向ける。
 その中にはふざけるなといったように睨み付けている者もいたが、話はそれだけでは終わらない。
 一人が降伏したのを見ると、当然ながら他の者達もそれに続くように降伏し始めたのだ。
 今の状況で確実に生き残るためには、そうした方がいい。
 そう判断しての行動なのだろう。
 実際に本当にそれで助かるかどうかというのは、分からない。
 それこそ最後の最後まで逆らった相手だと認識され、降伏後に殺されるといったような可能性すらあるのだから。
 しかし、それでも今の自分達の状況を思えばそうしなければならないと、そう思う者が多いのだろう。
 これでメテオによって隕石が降ってくるといったようなことがなければ、まだ多少話は違ったかもしれない。
 しかし、今の状況を思えばまともに降伏するといったようなことは、とてもではないが口に出来なかった。
 そんな中で最初の一人が降伏したのだから、それに続く者が多数現れるのは当然だろう。
 すでにこの場から逃げている者も多いのを考えると、降伏している者も含めて結構な数となるのは間違いない。

「逃げるな、降伏するな、戦え、戦え、戦え!」

 何人かは必死にそう叫ぶも、それを聞く者はいない。
 あるいはこの勢力が元々一つの集団であれば、どうにかなったのかもしれないが……生憎と、ここにいるのは複数の勢力の寄せ集めだ。
 自分の本来の上官ならともかく、成り行きで手を組んだだけの相手から戦えと命令されても、とてもではないが話を聞こうとは思えない。
 今のこの状況を思えば、やはりここは逃げ出した方がいい。
 とてもではないが、死の未来しか待っていないような戦いに巻き込まれるのはごめんだった。

「おい、何をしている! 攻撃しろ! 攻撃しろと……」
「うるせえっ!」

 ひたすらに攻撃を命じていた男は、後ろから槍を持った兵士によって胴体を貫かれ、そのまま地面に崩れ落ちる。
 これが、決定的な出来事だった。
 戦いの中で士気が下がり、混乱し、そして指揮官を下の者が殺す。
 そのような真似をすれば当然ながら戦場は完全に崩壊する。

「逃げろ、逃げろ、逃げろぉっ!」

 誰かが叫び、そして止める者もおらず……最終的に、この場の戦いはこれで終わるのだった。





「うわぁ……ほとんどソフィアさんの言った通りになってるな」

 その戦場を見ていたイオの口からそんな声が漏れる。
 イオの側では、レックスが興奮した様子で叫んでいた。

「凄い、凄いですよ。本当にこんな風に戦場の流れ全体を読んで、その通りに動かすなんて……戦いの規模そのものはそこまで大きくはないですが、それでもここまでやるなんて……」

 元々レックスは英雄に憧れて傭兵になった経歴の持ち主だ。
 そんなレックスの目から見て、この戦場を自由に動かし、当初話した通りに終わらせたその様子は、まさに英雄と呼ぶに相応しい行動だったのだろう。
 普段の静かな様子とは裏腹に、興奮した様子を見せていた。
 いつもなら、イオが行動してレックスがそれを止めるといったようなやり取りをする。
 しかし、今は完全にそれが逆だった。

「落ち着け、レックス。今はまずこの戦いをどうにかする方が先だろ。……ここでの戦いが終わったってことは、他の場所に援軍に向かわなくてもいいんですか?」

 イオはレックスに声をかけてから、自分の側にいた弓を持つ人物に尋ねる。
 ここにやってきた敵の数が明らかに少ないと、戦いが始まる前にソフィアが言っていたのを覚えていたからだ。
 それでもここが本陣であり、他の陣地……具体的には黎明の覇者に降伏した勢力が用意した陣地に戦力が向かっているとしても、明らかにここよりは少ないはずだった。
 ここと同じくらい、あるいはこれ以上の戦力が移動していれば、その時点で察知されていただろう。
 それでも、この場で黎明の覇者が勝利したのは、あくまでもソフィアたちが強かったからに他ならない。
 降伏してきた勢力の大半は、ランクの低い――あくまでも黎明の覇者と比べてだが――傭兵団となる。
 正確にはドレミナの騎士団がいたように、流星魔法を求めてここにやって来たのはその全てが傭兵団という訳ではないのだが……それも形式は傭兵団ではないというだけで、戦力であるという点では傭兵団とそう違いはない。

「そうだな。そっちの方にも黎明の覇者から何人か派遣しているのは間違いない。であれば、問題はないはずだ。それに……ここでの戦いも勝負がついた。こちらからさらに戦力を派遣するこになれば、他の陣地を攻めている相手がいても、対処するのは難しくはないだろう」

 イオとレックスの側にいた傭兵の一人が、そう話しかけてくる。
 今の状況を思えば、何とか戦力を用意する必要があるというのは理解出来ているのだろう。
 ……正確には、何とかとまではいかずとも、容易に戦力を派遣出来るのだが。

「俺たちは、そっちに向かわなくてもいいんですか? いえ、俺が行っても殆ど役に立つとは思えませんけど」

 実際、イオがそちらに向かったとしても、出来るのは流星魔法くらいだ。
 メテオは当然のように使う訳にもいかないので、そうなると実際に使うのはミニメテオとなるだろう。
 そのミニメテオも、規模こそ小さいものの、殺傷力という点では十分以上に高い。
 だからこそ、今回の一件を考えるとイオはある意味で過剰戦力でもあった。
 ……何よりも、手加減を出来ないというのが非常に大きい。
 そんなイオを送るのであれば、それこそ普通の傭兵たちを送った方がいい。
 イオも自分の能力を冷静に判断して、傭兵にそう言うのだった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙
恋愛
剣の名家にして、国の南側を支配する大貴族フォルス家。 そこの三男として生まれたノヴァは一族のみが扱える秘技が全く使えない、出来損ないというレッテルを貼られ、辛い子供時代を過ごした。 大人になったノヴァは小さな領地を与えられるものの、仕事も家族からの期待も、周りからの期待も0に等しい。 しかし、そんなノヴァに舞い込んだ一件の縁談話。相手は国の北側を支配する大貴族。 フォルス家とは長年の確執があり、今は栄華を極めているアークゲート家だった。 しかも縁談の相手は、まさかのアークゲート家当主・シアで・・・。 「あのときからずっと……お慕いしています」 かくして、何も持たないフォルス家の三男坊は性格良し、容姿良し、というか全てが良しの妻を迎え入れることになる。 ノヴァの運命を変える、全てを与えてこようとする妻を。 「人はアークゲート家の当主を恐ろしいとか、血も涙もないとか、冷酷とか散々に言うけど、 シアは可愛いし、優しいし、賢いし、完璧だよ」 あまり深く考えないノヴァと、彼にしか自分の素を見せないシア、二人の結婚生活が始まる。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~

雪野湯
ファンタジー
王立錬金研究所の研究員であった元貴族ケントは政治家に転向するも、政争に敗れ左遷された。 左遷先は領民のいない呪われた大地を抱く廃城。 この瓦礫に埋もれた城に、世界で唯一無二の不思議な銀眼を持つ男は夢も希望も埋めて、その謎と共に朽ち果てるつもりでいた。 しかし、運命のいたずらか、彼のもとに素晴らしき仲間が集う。 彼らの力を借り、様々な種族と交流し、呪われた大地の原因である未踏遺跡の攻略を目指す。 その過程で遺跡に眠っていた世界の秘密を知った。 遺跡の力は世界を滅亡へと導くが、彼は銀眼と仲間たちの力を借りて立ち向かう。 様々な苦難を乗り越え、左遷王と揶揄された若き青年は世界に新たな道を示し、本物の王となる。

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

目つきが悪いと仲間に捨てられてから、魔眼で全てを射貫くまで。

桐山じゃろ
ファンタジー
高校二年生の横伏藤太はある日突然、あまり接点のないクラスメイトと一緒に元いた世界からファンタジーな世界へ召喚された。初めのうちは同じ災難にあった者同士仲良くしていたが、横伏だけが強くならない。召喚した連中から「勇者の再来」と言われている不東に「目つきが怖い上に弱すぎる」という理由で、森で魔物にやられた後、そのまま捨てられた。……こんなところで死んでたまるか! 奮起と同時に意味不明理解不能だったスキル[魔眼]が覚醒し無双モードへ突入。その後は別の国で召喚されていた同じ学校の女の子たちに囲まれて一緒に暮らすことに。一方、捨てた連中はなんだか勝手に酷い目に遭っているようです。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを掲載しています。

【完結】甘やかな聖獣たちは、聖女様がとろけるようにキスをする

楠結衣
恋愛
女子大生の花恋は、いつものように大学に向かう途中、季節外れの鯉のぼりと共に異世界に聖女として召喚される。 ところが花恋を召喚した王様や黒ローブの集団に偽聖女と言われて知らない森に放り出されてしまう。 涙がこぼれてしまうと鯉のぼりがなぜか執事の格好をした三人組みの聖獣に変わり、元の世界に戻るために、一日三回のキスが必要だと言いだして……。 女子大生の花恋と甘やかな聖獣たちが、いちゃいちゃほのぼの逆ハーレムをしながら元の世界に戻るためにちょこっと冒険するおはなし。 ◇表紙イラスト/知さま ◇鯉のぼりについては諸説あります。 ◇小説家になろうさまでも連載しています。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

母を訪ねて十万里

サクラ近衛将監
ファンタジー
 エルフ族の母と人族の父の第二子であるハーフとして生まれたマルコは、三歳の折に誘拐され、数奇な運命を辿りつつ遠く離れた異大陸にまで流れてきたが、6歳の折に自分が転生者であることと六つもの前世を思い出し、同時にその経験・知識・技量を全て引き継ぐことになる。  この物語は、故郷を遠く離れた主人公が故郷に帰還するために辿った道のりの冒険譚です。  概ね週一(木曜日22時予定)で投稿予定です。

処理中です...