才能は流星魔法

神無月 紅

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異世界へ

0098話

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「ソフィア様、向こうにこっちを待ち構えている集団がいます。どうしますか!?」

 馬車で移動している最中、不意に御者がそう叫ぶ。
 その言葉に、ソフィアは御者台に続く扉を開けて、進行方向を確認する。
 すると御者が口にしたように、進行方向には十人ほどの集団がいて街道を封鎖していた。

「ふむ、なるほどね。嫌な予想の一つが当たったといったところかしら。……向こうにしてみれば、まさかこの馬車に私たちが乗ってるとは思ってもいないのでしょうけど」
「嫌な予想……盗賊ですか?」

 ソフィアの呟きを聞いたイオは、先程の説明を思い浮かべる。
 あの戦場から逃げ出した者のうち、ドレミナに戻れないと思った者たち中には盗賊になる者もいるだろうという話を。
 そしてソフィアはそんなイオの言葉に、前を見ながら頷く。

「ええ。とはいえ……本来なら、こちらからドレミナに向かう馬車ではなく、ドレミナからこちらに向かう馬車や人を襲うつもりだったんでしょうね。そうでもないと、自分たちと同じく戦場から逃げてきた相手を襲うことになるもの。そうなれば……分かるでしょう?

 その言葉はイオを納得させるのに十分な説得力を持っていた。
 戦場から逃げ出してきた者たちである以上、金目の物はそう多く持っていないだろう。
 武器や防具の類や、いざというときのへそくりといったところか。
 そういう意味では、逃げてきた者を捕らえて違法奴隷として売り払った方が金になる。
 もちろん、逃げてきた者たちも今回の一件に選ばれるだけの実力の持ち主なのだから、そう簡単にはいかないだろうが。

「で、どうします? 今のこの状況だと……向こうの方が人数が多いですけど、戦いますか?」

 イオのその言葉に、ソフィアは少し考え、口を開く。

「ここで戦っていては、無駄に時間を浪費するだけよ。そうである以上、向こうに逃げて貰いましょう。イオ、ミニメテオをお願い出来る?」
「分かりました、問題ありません」

 そう言い、イオは杖を手にする。
 なお、この馬車にはイオの杖が複数本用意されている。
 ゴブリンの軍勢から奪った杖はドレミナから出るときに大量に持ってきたのだが、あの場において黎明の覇者の中で魔法を使うことが出来るのは、イオだけだった。
 そうである以上、イオがドレミナに戻るときにはその杖を持っていくの当然だろう。
 もちろん、ドレミナで流星魔法を使うことがないような状態なのが一番いいのは間違いない。
 しかし、万が一を考えると杖があった方がいいのは間違いない。
 こうして黎明の覇者から逃げ出した者たちが盗賊となって活動しているのを一撃で蹴散らすことが出来るのだから、その判断は間違っていなかった。

『空に漂いし小さな石よ、我の意思にしたがい小さなその姿を我が前に現し、我が敵を射貫け……ミニメテオ』

 杖を手に、呪文を唱えるイオ。
 当然ながら、ミニメテオであっても呪文詠唱後、即座に隕石が落ちてくるということはない。
 この辺は普通の魔法と違って流星魔法の欠点と言えるだろう。
 しかし、ミニメテオは普通のメテオよりは発動が早いし、何よりも威力は相応に強力で迫力という点でも間違いなく一級品であり……その上で、何よりもイオの使っている杖が壊れないという大きな利点がある。
 イオが流星魔法を使う上で一番苦労しているのは、言うまでもなく杖だ。
 ゴブリンの軍勢が使っていた杖なので、品質のよくない杖が多い。
 それだけではなく、中途半端にゴブリンメイジの上位種が使っている杖もあり、その杖はそれなりに使いやすい一面があった。
 その辺の諸々を考えても、ミニメテオはゴブリンメイジの杖でも恐らく壊れないだろうというのがイオの予想だった。
 もっとも、それはあくまでも予想……もしくは流星魔法を使うイオの感覚での話であって、それが本当に正しいのかどうかというのは、実際にやってみないと何とも言えないというのが正直なところではあるのだが。

「来ます」

 馬車が少し速度を落としつつも、待ち伏せ……というよりは検問を行っている者たちとの距離が詰まったところで、イオが呟く。
 するとその言葉通りに、空から隕石が降ってきた。

「うわ、完全に恐慌状態だな」

 ギュンターが進行方向を見ながら、そんな風に呟く。
 当然だろう。向こうは流星魔法が怖くて、戦場から逃げ出した者たちの可能性が高いのだ。
 そんな者たちに対してミニメテオが放たれたのだから、それで恐慌状態に起きるなという方が無理だろう。

「このまま突っ切りなさい。この状況で向こうが私たちに攻撃してくることはまずないわ」
「分かりました!」

 ソフィアの言葉に御者は大声で叫ぶと、真っ直ぐ馬車を走らせる。

「それにしても……ミニメテオを使った俺が言うのも何ですが、馬車を牽く馬がミニメテオを見ても怖がらずにいるというのは凄いですよね」
「ミニメテオだからこそ、でしょうね。もし本来のメテオを使った場合、馬も恐慌状態になっていたと思うわ」

 ミニメテオの場合は、隕石は落ちてくるものの、その規模は小さい。
 何しろ命中しても人が一人殺せる程度なのだから。
 それに比べると、普通のメテオは周辺にも大きな……非常に大きな被害を与えるのだ。
 黎明の覇者の馬はしっかりと訓練された馬ではあるものの、通常のメテオが使われた場合は間違いなくソフィアが言うように恐慌状態になるだろう。
 そうして会話をしている間にも馬車は進み、完全に恐慌状態になっている傭兵たち……いや、盗賊たちの間を突き抜けていく。
 ソフィアやギュンターは、破れかぶれにでも攻撃をしてくる相手がいるかもしれないと警戒はしていたのだが、幸いにもそのようなことはなかった。

「どうやら向こうもこっちの正体に気が付いたようね」

 遠くなっていく敵の様子を見ながら、ソフィアは笑みと共にそう告げる。
 ソフィアにしてみれば、正直なところこの程度の敵は正面から戦っても容易に倒すことは出来ただろう。
 向こうはこの場所に派遣されただけあって、精鋭かもしれない。
 しかし、それが精鋭だっても優秀な傭兵程度の実力であればソフィアが負けるはずはない。
 本人も超一流の腕を持ち、その上でダンジョンで入手したアーティファクトの氷の魔槍を持っているのだ。
 それこそ精鋭といった程度の傭兵であれば、十人が二十人でも……五十人であっても変わらない。
 この世界においては、質が量を凌駕するのは珍しい話ではないのだから。

「この調子だと、もしかしたらこの先にも同じように検問をしている連中がいるかもしれないな」

 ギュンターの面倒そうな表情で告げられた言葉は、イオに疑問を抱かせるには十分だ。

「今ここでああいう連中がいたのに、この先にも同じような連中がいるんですが?」
「ああ。お前が使ったメテオで逃げ出した人数は結構な数になるからな。その中にはああいうことをする連中も多い筈だ」
「けど、あの連中があそこでああしていたのを見れば、他の奴が同じことをしても、意味がないじゃないですか?」
「俺たちが戦った戦場となった場所からドレミナに向かうという意味では、その通りだろうな。だが、ドレミナから戦場になった場所……ベヒモスの骨がある場所に向かう連中にしてみれば、それはそれで対処が可能だろう?」
「ああ、なるほど。……でも、それだってそこまで多くの人数は必要ないと思いますけど」
「だろうな。だからこそ、主導権を握りたい者同士で争いを起こし、同士討ちをする可能性は十分にある。いやまぁ、同士討ちという言葉はこの場合だと正しくないのかもしれないが」

 ギュンターのその言葉に、イオはなるほどと納得する。
 盗賊となって検問をやられていないのが最善だったが、どうせならそうして敵同士で争ってくれていると楽なのいに、と。

(ミニメテオはドレミナから見えないと思う。だとすれば、さっき使ったのも当然見えないと思うが……それでもドレミナに近くなればなるだけ、ミニメテオを見ることが出来るようになる。そういう意味では、ドレミナの近くで検問とかをやられるのは迷惑なんだよな)

 ドレミナにはすでにイオが流星魔法の使い手であるというのは知られているはずだ。
 そのような状況でドレミナの近くで流星魔法を使うといった真似をした場合、どうなるか。
 それは考えるまでもないだろう。
 もちろん、そうなった場合……具体的にはイオを狙って多くの者が攻めて来た場合、イオとしてはそれに対処するつもりはある。
 しかし、出来ればそのようなことにはならず、素直にドレミナに残っている味方と合流し、一旦ベヒモスの骨のある場所まで引き上げるといった真似が出来るのが最善だった。
 幸いなことに、現在の状況では特に何か急いで行うような依頼はない。
 本来ならゴブリンの軍勢を相手にするために雇われたのだが、そのゴブリンの軍勢はイオのメテオによって全滅しいたのだから。
 とはいえ、そのせいで現在のドレミナには多くの傭兵がおり、それによって現在の黎明の覇者が問題に巻き込まれるといったようなことになっているのだから、その辺りも善し悪しといったところなのだろうが。

「取りあえず、俺としてはさっきのようなのがいないことを祈るだけですね。またミニメテオを使うのはいいですが、ドレミナに近付けばそれだけ隕石が落ちる光景を見られる可能性がありますし」

 イオのその言葉に、ソフィア、ギュンター、レックスの三人がそれぞれ頷いた。
 今回の一件は特に問題はなかったものの、この先の道で盗賊が行っているかもしれない検問がなければ面倒がないと思うのだから、当然の話だろう。
 とはいえ、今の状況を思えばそんなことはないだろうと思っているのだが。

「出来ればそういうのがないといいんだけどね。……けど、今の状況を思えばそんな期待は出来ないでしょうね」

 そう告げる言葉に、イオを始めとした他の面々もただ頷くことしか出来ない。
 この状況で希望的予想を持つことは、意味がない。そう思っての言葉。

「ミニメテオはいつでも使いますから、実際にその場面になったら任せて下さい」
「出来ればダイラスの近くで流星魔法は使いたくないんだけど……そうなったらお願いするかもしれないわね」

 イオの言葉にソフィアはそう返すのだった。
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