才能は流星魔法

神無月 紅

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異世界へ

0113話

 黎明の覇者が野営をしている頃……ドレミナでは、大きな騒動が起きていた。

「それは一体どういうことかな? 私は黎明の覇者にそのような人物がいるとは聞いていなかったが?」
「それは……その、申し訳ありません。ダーロット様にこの件をお知らせするまでもないかと思いまして。それにこちらで確保してから、ダーロット様にイオをお渡しすればいいかと思っていましたので」
「それで騎士団を動かした訳か」
「はい。まさか、こちらの要望を無視して、黎明の覇者があのような行動をとるとは思っていなかったので」

 そう言い、男は申し訳なさそうにダーロットに頭を下げる。
 そんな男の様子を見て、ダーロットは眉を顰めて苛立ちを表情に出す。
 当然だろう。部下によってイオが流星魔法を使うという情報が止められており、その上で部下が勝手に騎士団を動かして大きな騒動を起こしたのだから。
 その結果として、ドレミナからそう遠くない場所に隕石が落とされるといったような事態にもなっている。
 隕石による被害そのものは皆無だったが、その後に起きたミニメテオによって何人もの騎士が死ぬといった被害は起きていた。
 そうである以上、騎士が死んでしまったのはダーロットの前で頭を下げている人物の責任ということになる。

「それでも騎士団を勝手に動かしたのは、許容出来ないね。……以前までなら、そんな真似はしなかったはず。それがこのような真似をしたのは、もしかしたら私を侮っているからかな?」
「とんでもありません。そのようなことは決して」

 ダーロットの言葉を聞いて、即座にそう言う男。
 だが、その男に向けるダーロットの視線は冷たい。

「分かってるのかな? 君のせいで私は……いや、ドレミナは、ランクA傭兵団を敵に回したことになる。これがせめてランクC……いや、ランクBくらいの傭兵団であれば、まだどうにか誤魔化すことも出来ただろう。だが、ランクAとなれば、そうはいかない」

 傭兵というのは、基本的にそこまで信用はされていない。
 しかし、それがランクA傭兵団となれば、話は別だった。
 それだけではなく、黎明の覇者は高い名声と実力を持つ傭兵団だ。
 そのような者達が公の場でドレミナを非難すればどうなるか。
 当然ながら、黎明の覇者を慕っている傭兵団や情報員聡い傭兵団はドレミナに近付かなくなる。
 あるいはドレミナが平和な地であれば、そのようなことになっても何とかなるだろう。
 だが、ゴブリンの軍勢が姿を現し、それだけではなく高ランクモンスターのベヒモスが姿を現している。
 そのような場所だけに、これからも騒動がない平和な地であるとは誰にも言えないだろう。
 そのような事態になったときに、強い傭兵団が……あるいは信用出来る傭兵団がいないというのは、致命的だ。
 ……いや、そのような騒動がなくても、ランクの低い傭兵団、素行の悪い傭兵団ばかりが集まってくるといったようなことになったら、ドレミナの治安が悪化するのは避けられないだろう。
 ドレミナを含めたこの辺り一帯を治める領主として、それは到底許容出来ない。
 報告をしてきた男も、当然それは知っているはずだ。
 しかし、頭を下げてはいるものの、その声に動揺する様子はない。
 そんな男の様子を見て、ダーロットは不意に呟く。

「グスルト伯爵」
「っ!?」

 今まではどんな言葉を口にしても、あるいはダーロットに言われても全く表情を変えていなかった――頭を下げているので正確に知られることはなかったが――男が、その言葉に明らかに動揺した。
 その動揺を見たダーロットは、面倒臭そうに息を吐く。

「流星魔法を使うイオを確保したら、そのまま行方を眩ます。そうなれば、黎明の覇者の恨みは私に向けられる。そういうことか」

 その言葉に、再び男は動揺にビクリとする。
 自分の狙いが完全に読まれていたのだということを、ダーロットの言葉で理解してしまったからだ。
 それでも、その言葉を素直に認める訳にはいかない。

「い、いえ。決してそのようなことは……」
「そんな言葉で私を誤魔化せるとでも?」

 慌てて誤魔化そうとする男だったが、ダーロットはそんな相手に冷静に返す。
 こうなる前に、すでに証拠は集め終わっている。
 グスルト伯爵は、ダーロットにとってそこまで付き合いのある相手ではない。
 当然だが、長年のライバルという訳でもないし、先祖代々対立してきたといった存在でもなかった。
 だというのに、何故そのような相手が自分にこのような真似を? と思わないでもなかったが、貴族にとって相手が隙を見せればそこを攻撃するのはおかしな話ではない。
 同じ派閥にいれば話は違うのかもしれないが、ダーロットとグスルト伯爵は違う派閥だ。
 そういう意味では、ダーロットが攻撃されるのも仕方のないことではあった。
 本人が納得出来るかどうかというのは、また別の話だが。

「ともあれ、お前にはこのような状況になった責任は取って貰う必要がある。今、お前の家に人をやっている」
「家族は関係ありませんっ!」

 家に人をやっているという言葉の意味を理解したのだろう。
 男は反射的にそう叫ぶ。
 男は特筆した愛妻家という訳ではないにしろ、普通に妻を愛しているし、子供も大事に育てている。
 慌てた男のように、しかしダーロットは全く心を動かされた様子もなく口を開く。

「それを判断するのはお前ではない。私だ。お前の妻や子供も、本当に何も知らなければ大丈夫だろう。……何も知らなければ、な」

 ゾクリ、と。
 男はダーロットの言葉に背筋を冷たくする。
 男の妻は、当然だが特に荒事の類が得意な訳でもない一般人だ。
 ダーロットの部下におよる尋問……いや、あるいは拷問を受けることになった場合、間違いなく自白させられるだろう。
 それが強要された、女にとっては全く知らないことであってもだ。
 また、子供はまだ十歳くらいの年齢だ。
 そんな子供が親と引き離され、ましてや尋問をされるとなれば、一体どれだけの恐怖を抱くか……考えるまでもないだろう。

「待って下さい! さっきも言いましたが、家族は関係ありません! 尋問するのなら私を!」
「今回の一件を企んだお前の言葉が信じられるとでも? ……どうやらお前は今回の一件を軽く考えているように見えるが、お前のやったことは大きい。ああ、グスルト伯爵の攻撃は見事だったと言うしかないだろう。だが……」

 そこまで言って一度言葉を切ったダーロットは、男に向ける視線を一段と強くする。

「そのような真似をした以上、そしてそれが私に知られた以上、お前やお前の家族が無事でいられると、本当に思っていたのか?」
「待って下さい!」
「連れていけ」

 更に何かを言おうとした男だったが、ダーロットは部屋の中にいた騎士に短く呟く。
 それを聞いた騎士は、男を乱暴に連れていく。
 騎士も、今回の一件で何人かの仲間を失っている。
 上からの命令だったということだが、実際にはこの男の独断だったのだ。
 それを知っている騎士が男の扱いを乱暴にするのはおかしな話ではない。
 騎士に連れられていく男は必死に家族は関係ないといったようなことを叫んでいるが、それは完全に無視されていた。
 そんな男を見送ったダーロットは、大きく息を吐く。

「本当に面倒なことを」

 その言葉は、心の底からのものだ。
 今の自分の状況は少し洒落にならないものなのは間違いない。
 何しろ、黎明の覇者と敵対することになったのだから。
 実は部下の一人が暴走して自分の知らないところでそのように行動していたのです。
 そう言っても、現状ではとてもではないが信じて貰えないだろう。
 あるいは信じて貰えたとしても、そのようなことを公にするというのはダーロットの面子が潰れることになる。
 そうならないようにするためには、もっと別の方法で黎明の覇者と接触する必要があった。

「流星魔法の使い手が欲しいのは……間違いないのだがな」

 そういう意味では、先程の男の行動は決して間違っている訳ではない。
 とはいえ、もし先程の男がイオを捕らえるといった真似が出来ていても、イオはダーロットではなく今回の一件をしかけてきたグスルト伯爵に引き渡されていただろうが。

「流星魔法の使い手を守るだけの力を持っているかどうかを確認した。……これでいけるか?」

 最初から黎明の覇者と敵対するつもりはなく、流星魔法を使う人物を守る力があるのかどうかを確認するために、敢えて攻撃した。
 普通に考えれば、そんなことを聞かされても素直に信じられるかと一蹴されてもおかしくはない。
 しかし、イオの使う流星魔法という魔法は、それこそ普通ではない。
 ……たとえ本人が土魔法や水魔法以外の魔法は使えず、それら二つの魔法も決して才能があると言えないような存在であっても、流星魔法を自由に使いこなすというだけで大きな意味を持つ。
 何しろ、もしイオがドレミナに流星魔法を放つといったような真似をすれば、それだけでドレミナは壊滅的な被害を受ける。
 それこそ、場合によっては復興出来ないほどに大きな被害を受けるというのも、おかしな話ではない。
 だからこそ、イオのような存在が黎明の覇者のような者たちに保護されているのならともかく、その辺の盗賊や……もしくはグスルト伯爵を始めとした相手に奪われるといったようなことは絶対に避けなければならない。
 そのような事態を防ぐために、今回のような真似をした。
 そう言えば、かなり無理矢理であるのは間違いないが……筋が通る。

「こちらの行動はそれでいいとして、問題なのはどうやって黎明の覇者と接触するか、か」

 ソフィアやローザと接触さえすれば、今回の件は何とか誤解だったと知らせることが出来る。
 実際にそれを向こうが信じるかどうかは別として。
 ……それでいながら、会う対象をソフィアとローザに限定している辺り、ダーロットの女好きが示されている。
 極度の女好きでいながら、領主として有能……そういう意味では、ダーロットはある意味で始末に困る人物なのは間違いなかった。
 もっとも、それでも問題なくドレミナを治めてきた実績は、間違いなく一流と呼ぶべき人物ではあったのだが。
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