才能は流星魔法

神無月 紅

文字の大きさ
128 / 178
異世界へ

0128話

しおりを挟む
 結局ローザはこの場に残って交渉をすることになるというのは割と素直に決まったのだが、次に問題になるのはイオをどうするのかということだった。
 商人たちの交渉については、基本的にローザが請け負っている。
 しかし、研究者や学者たちの様子から隕石は金になると判断し……あるいは元からその辺については知っていたのかもしれないが、とにかく商人の中にもイオと交渉を希望する者がいる。
 そして当然ながら、研究者や学者たちの主となる交渉相手はイオだ。
 複数の傭兵団から集められてベヒモスを追ってきた者たちは、イオとの交渉はない……と思いきや、まだ接触している者はいないものの、そのような者達もイオと交渉を希望する者はいる。
 ベヒモスを倒すことが出来るのが、イオの流星魔法だ。
 そのような戦術どころか戦略魔法とも呼ぶべき魔法を使えるイオを、出来れば味方にしたいと考えるのは傭兵として当然だろう。
 もちろん、イオは現在黎明の覇者に所属する傭兵――実際には客人だが――である以上、そのようなランクA傭兵団から引き抜ける可能性は限りなく低いというのは理解している。
 しかし、それでも万が一ということもあるし、それが無理でも知り合いになっておけばメリットはあってもデメリットはない。
 そんな訳で、何気に多くの者からイオは交渉であったり面会であったりを希望されているのだが……そのような状況であっても、イオはドレミナに戻ることにする。
 今日このベヒモスの骨がある場所に戻ってきたばかりで、その日のうちにまたドレミナまで戻るのだから、かなり忙しい。
 しかし、マジックバッグを貰うのは少しでも早い方がいいというローザの意見に従い、イオも素直にその言葉に従うことにしたのだ。

「じゃあ、ローザ。よろしくね」
「ええ。ソフィアも気を付けて。……イオがいるから、向こうも滅多な真似は出来ないと思うけど、それでも中にはマジックバッグを二つも渡すのは我慢出来ないと思う相手もいるかもしれないから」

 ローザはそう言いながら、ソフィアからイオに視線を向ける。
 そう、イオがソフィアと一緒に行くのは、その辺の理由が大きい。
 ソフィアだけでも、魔槍を持っていることからその力は非常に強力だ。
 しかし、それはあくまでも対個人の戦闘力にすぎない。
 ……実際には、ソフィアの力と氷の魔槍があれば、対個人どころか数十人を相手にしても容易に対処出来るだけの力があるのだが。
 それでも限界がある以上、数十人ではなく百人……場合によっては数百人を用意することが出来れば、ソフィアを倒すなり捕らえることは可能だろう。損害はともかく。
 そんなことにならないようにするために、イオという存在がいるのだ。

「イオに対する交渉を希望する相手に対しては、基本的に断る方向でいいのよね?」
「はい。今の状況では、交渉をする時間的な余裕はないですし」
「交渉をする相手によっては、話を聞いてもいいと思うけど。本当にそれでいいの?」

 改めてこう尋ねるのは、イオとの交渉を行う際に研究者や学者の中にはイオにとって大きな利益を持つ相手もいると理解しているからだろう。
 実際、イオは交渉相手からミニメテオにとって降ってきた隕石と引き換えに魔剣を貰うという約束をしている。
 そして他の者たちにはイオがそのような取引を受け入れたというのを知っている。
 だからこそ、他の者との取引をしてもいいのではないかと、そうローザは言いたいのだろう。
 とはいえ、そんなイオを相手にソフィアと一緒に行って欲しいと口にしたのもローザなので、言ってる内容としてはかなりチグハグなのだが。

「ええ。お願いします。ただ……そうですね。もしどうしても俺と交渉をしたいという相手がいたら、戻ってくるまで待っていて欲しいと伝えて下さい。戻ってきたとき、まだその相手がいれば隕石を渡すかどうかは分かりませんが、交渉はさせて貰いますので」

 そうして、イオたちはドレミナに向かうことになる。
 二人以外のメンバーとしては、当然だがレックスがいた。
 基本的にイオの護衛を任されている人物だし、何より防御という点では才能を見せているが、普通の傭兵に必須の攻撃という点では才能がないと判断されている。
 そういう意味で、レックスがやるべきこととなるとイオの護衛しかないというのは間違いのない事実だった。
 他にも数人がソフィアと共に行動をするが、その面々はイオも顔くらいしか知らなかったり、名前は知っていても話したことがなかったりするようなものたちとなる。

「さて、ドレミナに到着したとき……向こうはどう反応するかしらね」

 馬車が用意されると、それを見ながらソフィアは笑みと共に呟く。
 ドレミナの領主であるダーロットには、散々言い寄られていた。
 その件を思えば、マジックバッグの二つくらいは自分が貰ってもおかしくないだろうと、そう思う。
 だが同時に、マジックバッグの価値を思えば……特にイオが貰う予定の方はともかく、黎明の覇者で所有することになる予定のマジックバッグはかなり高性能で、それゆえにかなり高価な代物となる。
 和平の契約を結んだのは間違いないが、ダーロットが……あるいはダーロットの部下がその契約をきちんと守るかどうか。
 ソフィアとしては、非常に楽しみだった。
 も契約を守らなかった場合、それこそ一体どうしてやろうかと。
 ……そう思いはしたし、実際に何かあったときにはイオの存在をちらつかせようとは思っていたものの、本当にイオに流星魔法を使って貰うつもりはなかった。
 あるいはもしどうしても使わなければならないにしても、ドレミナの街中に隕石を落とすといった真似はするつもりはない。
 せいぜいが、ドレミナの外にミニメテオを使うか、ダーロットの住んでいる屋敷の中庭にミニメテオを使うかといったところだろう。
 幸いなことに、イオのミニメテオは規模が小さいためか、精度という点ではかなり高い。
 イオとしてはもう少し精度……狙いを詳細にしたいとか、発動してから実際に隕石が降ってくるまでの時間を短くしたいとか、そんな風に考えてはいるのだが。
 それでもダーロットの住んでいる屋敷の中庭に隕石を降らせようとして、実際には領主の屋敷や……あるいは街中に隕石を降らせるといったようなことはない。

「じゃあ、行きましょうか。前回ドレミナに向かったときと比べると、途中に面倒はないと思うから、それなりに楽に移動出来るでしょうね

 前回の移動のときは、黎明の覇者に負けて逃げ出した者たちが盗賊となって途中で検問をしていた。
 しかし、イオたちがドレミナに向かう途中で蹴散らしたというのもあるし、グラストたち騎士がここまでやって来たし、交渉が終わって先にドレミナに向かった。
 そうである以上、もし盗賊がいても殲滅させられているだろう。

「そうですね。楽が出来るというのもいいですし、何より敵の襲撃を心配しなくてもいいのは安心出来ます」
「あら、盗賊の検問については心配いらないけど、検問以外の手段……もっと直接的に襲ってくるといったようなことになった場合は、どうなるか分からないわよ?」

 イオの言葉に、からかうように言うソフィア。
 検問をやっていればグラストたちに殲滅させられるだろうが、それなら見つからないように行動すればいいだけだ。
 グラストたちがいるときはどこかに隠れて、それ以外の相手を襲う……といった手段を取る可能性は否定出来なかった。

「そうなったら、隕石を落とすしかないでしょうね」
「出来れば私に任せて欲しいわね」

 ソフィアは真剣に言う。
 実際、今のイオにとって有効な攻撃手段は流星魔法しかないのは間違いない。
 襲撃されたときは、流星魔法で反撃するしかないのだ。
 流星魔法以外にイオの使える魔法は土魔法と水魔法だが、どちらもまだ習得したばかりで少し穴を掘る……どころか地面をへこませるといった程度や、小さめの水球を出すといった程度しか出来ない。
 流星魔法に比べると、魔法の効果は圧倒的に低い。
 そんな魔法で戦えと言われても、イオも困るだろう。
 かろうじて……本当にかろうじて、地面をへこませることが出来るのなら、相手が踏み出した先の地面をへこませてそれでバランスを崩させ、転ばせるといった真似をすれば、その転んだところに追撃するといった形でそれなりに戦えるかもしれないが。

「もちろん、何かあったらソフィアさんに任せますよ。……もっとも、そういう何かがないのが一番いいんですけど」
「そうね。それが一番いいんだし、ローザもこのタイミングで私にドレミナに向かうように言ったのは、向こうが妙なことを考えるよりも前に行動するのが最善だと思ったからでしょうけど」

 ローザにしてみれば、本来ならソフィアやイオといった面々をここから動かすといった真似はしたくなかったはずだ。
 何かあったとき、ソフィアの圧倒的な個としての強さがあれば……あるいはイオの流星魔法があれば、対処は出来るだろう。
 ソフィアやイオがいなくても、ここに残っているのは黎明の覇者の傭兵たちだ。
 以前は精鋭が揃っていたものの、数が少なかった。
 しかし今は、ここに黎明の覇者の全てが揃っている。
 それこそ、もしベヒモスが相手であっても、苦戦はするが最終的には倒せるのではないかと思ってしまうくらいに戦力は充実しているのだ。
 ……もちろん、それらの戦力が最大限に発揮出来るのはあくまでもソフィアが率いたときなので、ソフィアがいない状況では最大の力を発揮するといった真似は出来ないのだが。

「それと……レックス」
「は、はい!」

 ソフィアの視線がレックスに向けられると、向けられた本人は思わずといった様子で声を上げる。
 イオはソフィアの美貌に慣れた……という言い方はおかしいが、それでもある程度は気にせず話をすることが出来るよおうになっていた。
 それに対して、レックスはソフィアと接する機会はそれなりに多いものの、それはあくまでもイオの護衛としてだ。
 それだけに、まだソフィアと話すのには慣れていなかった。
 しかし、ソフィアはそんなレックスを気にした様子もなく口を開く。

「イオに何かあったら、問題よ。そうならないように頑張りなさい?」

 そんなソフィアの言葉に、レックスは再び大きく返事をするのだった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙
恋愛
剣の名家にして、国の南側を支配する大貴族フォルス家。 そこの三男として生まれたノヴァは一族のみが扱える秘技が全く使えない、出来損ないというレッテルを貼られ、辛い子供時代を過ごした。 大人になったノヴァは小さな領地を与えられるものの、仕事も家族からの期待も、周りからの期待も0に等しい。 しかし、そんなノヴァに舞い込んだ一件の縁談話。相手は国の北側を支配する大貴族。 フォルス家とは長年の確執があり、今は栄華を極めているアークゲート家だった。 しかも縁談の相手は、まさかのアークゲート家当主・シアで・・・。 「あのときからずっと……お慕いしています」 かくして、何も持たないフォルス家の三男坊は性格良し、容姿良し、というか全てが良しの妻を迎え入れることになる。 ノヴァの運命を変える、全てを与えてこようとする妻を。 「人はアークゲート家の当主を恐ろしいとか、血も涙もないとか、冷酷とか散々に言うけど、 シアは可愛いし、優しいし、賢いし、完璧だよ」 あまり深く考えないノヴァと、彼にしか自分の素を見せないシア、二人の結婚生活が始まる。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~

雪野湯
ファンタジー
王立錬金研究所の研究員であった元貴族ケントは政治家に転向するも、政争に敗れ左遷された。 左遷先は領民のいない呪われた大地を抱く廃城。 この瓦礫に埋もれた城に、世界で唯一無二の不思議な銀眼を持つ男は夢も希望も埋めて、その謎と共に朽ち果てるつもりでいた。 しかし、運命のいたずらか、彼のもとに素晴らしき仲間が集う。 彼らの力を借り、様々な種族と交流し、呪われた大地の原因である未踏遺跡の攻略を目指す。 その過程で遺跡に眠っていた世界の秘密を知った。 遺跡の力は世界を滅亡へと導くが、彼は銀眼と仲間たちの力を借りて立ち向かう。 様々な苦難を乗り越え、左遷王と揶揄された若き青年は世界に新たな道を示し、本物の王となる。

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

目つきが悪いと仲間に捨てられてから、魔眼で全てを射貫くまで。

桐山じゃろ
ファンタジー
高校二年生の横伏藤太はある日突然、あまり接点のないクラスメイトと一緒に元いた世界からファンタジーな世界へ召喚された。初めのうちは同じ災難にあった者同士仲良くしていたが、横伏だけが強くならない。召喚した連中から「勇者の再来」と言われている不東に「目つきが怖い上に弱すぎる」という理由で、森で魔物にやられた後、そのまま捨てられた。……こんなところで死んでたまるか! 奮起と同時に意味不明理解不能だったスキル[魔眼]が覚醒し無双モードへ突入。その後は別の国で召喚されていた同じ学校の女の子たちに囲まれて一緒に暮らすことに。一方、捨てた連中はなんだか勝手に酷い目に遭っているようです。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを掲載しています。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

母を訪ねて十万里

サクラ近衛将監
ファンタジー
 エルフ族の母と人族の父の第二子であるハーフとして生まれたマルコは、三歳の折に誘拐され、数奇な運命を辿りつつ遠く離れた異大陸にまで流れてきたが、6歳の折に自分が転生者であることと六つもの前世を思い出し、同時にその経験・知識・技量を全て引き継ぐことになる。  この物語は、故郷を遠く離れた主人公が故郷に帰還するために辿った道のりの冒険譚です。  概ね週一(木曜日22時予定)で投稿予定です。

美女エルフの異世界道具屋で宝石職人してます

網野ホウ
ファンタジー
小説家になろうで先行投稿してます。 異世界から飛ばされてきた美しいエルフのセレナ=ミッフィール。彼女がその先で出会った人物は、石の力を見分けることが出来る宝石職人。 宝石職人でありながら法具店の店主の役職に就いている彼の力を借りて、一緒に故郷へ帰還できた彼女は彼と一緒に自分の店を思いつく。 セレナや冒険者である客達に振り回されながらも、その力を大いに発揮して宝石職人として活躍していく物語。

処理中です...