才能は流星魔法

神無月 紅

文字の大きさ
135 / 178
異世界へ

0135話

しおりを挟む
 捕虜にかんしての扱いは、結局のところ棚上げとなった。
 ソフィアにしてみれば、捕虜にした際の追加報酬が安い以上、わざわざ危険を冒す必要はないと思っている。
 当然の話だが、敵を殺すのと生かして捕らえて捕虜にするのとでは、断然後者の方が難しい。
 黎明の覇者は腕の立つ傭兵が揃っているものの、意味もなく危険な真似をするといったようなことは、ソフィアにとっても本意ではない。
 それなら最初から捕虜にするということは全く考えず、全滅させるつもりで戦った方がいい。
 幸いなことに、ソフィアにはイオという協力者がいる。
 客人という扱いではあったが、黎明の覇者のために力を貸して欲しいと言えば、問題はないと思っていた。

「では、戦争についての話はこれで終わりと考えてもいいのかしら?」

 尋ねるソフィアに、騎士団長のサーゼスは素直に頷く。

「そうだな。グルタス伯爵との戦いに協力して貰えるのは感謝している。……それで、ドレミナから出た戦力は、いつになったら戻ってくる? グルタス伯爵との戦いは今日明日すぐにという訳ではないが、それでもそう遠くないうちに行われるのは確実だ」
「そちらの希望は理解するけど、だからといってこちらもすぐにはいそうですかとは言えないのよ」
「和平はもうなったはずだが?」
「あら、正確にはマジックバッグを貰って初めて和平は成立するのよ? そういう意味では、まだ今の状況では和平はなっていないと思うのだけど? それに……もうそちらも知ってるでしょうけど、私たちはベヒモスを倒したの。その素材をどうするのかということも考えないと」
「ドレミナに持ってきて売ればいいだけではないか?」

 サーゼスにしてみれば、役人のようなことを言うのは遠慮したい。
 しかし、ドレミナの税収が少なくなって困るのは自分たちも同じなのだ。
 もし税収を確保出来ないということになれば、騎士団としても動くような真似は出来なくなる。
 あるいは動く際に何らかの制約が必要なる可能性も高い。
 マジックバッグの件のように、報酬を渋るといったような真似をするつもりはないものの、それでもどうにか資金はあまり使わないようにする必要はあると思っていた。

「和平交渉が結ばれた直後はそのつもりだったのだけど、ドレミナは色々と私たちに思うところがあるようだし、そう簡単には頷けないわね。そもそも私たちに支払う報酬ですら困ってるのに、ここで私たちがベヒモスの素材を売ったりした場合、支払える金額があるのかしら?」
「ドレミナを侮らないで貰いたい。金がないというのは、そちらの思い違いだ。捕虜にした際の追加報酬の件からそのように思ったのかもしれないが、こちらには十分に余裕はある。捕虜の件はあくまでもこちらの常識で考えた場合、そちらの主張する追加報酬は出せないというものだ」
「そう。なら安心してもいかもしれないわね。こちらとしてはあとで報酬を支払えないといったように言われるのはごめんだもの」
「そのような心配はいらないので、安心して欲しい」

 サーゼスとソフィアの会話が険悪な方向に向かいそうだ。
 そう判断したグラストは、慌てて会話に割り込む。

「しかし、ベヒモスの素材は骨しか見ていませんが、かなり迫力がありました。私は錬金術に詳しくないので、あれを具体的にどのように使うのかというのは分かりませんが。騎士団としては、ベヒモスの素材を使った防具を購入出来れば面白いかもしれませんね」
「ほう、それほどか?」

 険悪になりそうだった空気は、グラストのその言葉ですぐに消えた。
 元々そこまで粘着質という訳でもないサーゼスだけに、ベヒモスの素材を使った防具というグラストの言葉に興味を持ったのだろう。
 騎士団長という立場から、ベヒモスのような高ランクモンスターの素材を使った防具に強い興味を抱くのも当然だったかもしれないが。

「ベヒモスの骨を遠くから見ただけですが、何かこう……目を惹かれるようなものがあったのは間違いありません。商人も必死になって商談をしていたようですし」

 グラストは騎士として武器や防具を見ればそれがいい武器や防具なのかというのは理解出来る。
 だがそれでも、素材を見てそれがいい武器や防具になるのかと言われれば……正直なところ、難しい。
 たとえば間違いなく上質な素材があっても、それを加工する鍛冶師によっては素材の持ち味を殺すといったようなことになってもおかしくはない。
 そういう意味では、素材を見ただけで高品質な武器や防具になるかは分からないのだが……それでもベヒモスの骨を見たグラストは、これを使えば強力な武器や防具になると理解出来た。

「そこまでか」

 サーゼスは自分の部下のグラストを信頼している。
 今までにも色々と難しい命令をこなしてきたのだから、目をかけるのは当然だろう。
 ……上司の方は、グラストをあまり評価していないようだったが。
 そんなグラストがここまで言うのだ。
 騎士団長がベヒモスの素材に興味を抱くのは自然なことだ。
 いや、ベヒモスの素材に興味を抱いているのは騎士団長だけではない。
 副騎士団長の二人もまた、ベヒモスの素材を使った武器や防具はどれだけの性能になるのかと、興味津々だった。

「ドレミナの対応次第では、ベヒモスの素材をこちらの市場に流してもいいのだけどね」
「それは事実か?」

 ベヒモスの素材を流してもいいというソフィアに、サーゼスは尋ねる。
 ベヒモスの素材が市場に流れるということを知れば、今は足が遠のいている商人たちもドレミナに戻ってくるだろう。
 いや、それどころか以前より多くの商人がやってきてもおかしくはない。
 だからこそ、サーゼスにしてみれば騎士団の武器や防具云々よりも、そちらの方が重要に思える。

「ええ。とはいえ、あくまでもドレミナの対応次第だけどね」
「具体的には?」

 繰り返しドレミナの対応次第と言うソフィアだったが、サーゼスにしてみればその対応というのが具体的にどのようなことを意味してるのかが分からない。
 もっとも、その辺については実際にはサーゼスではなく役人が対応すべきことなのだが。
 しかし、生憎なことに今この場にドレミナの役人はいない。
 和平交渉の件で一方的に自分たちが譲歩した形になったが、それだけ面白くなかったのだろう。
 それならそれで構わないが、せめて部下なりなんなりはここにいて欲しかったのが、サーゼスの正直な気持ちだ。
 そもそも一方的にドレミナ側が譲歩したという話だが、実際に非があったのはドレミナ側というのも大きい。
 ダーロットが部下の動きを完全に把握していなかったために、黎明の覇者に攻撃をすることになった。
 そうである以上、ドレミナ側が譲歩するのは仕方がない。

「それで……」

 サーゼスが何かを言おうとしたそのとき、不意に部屋の扉がノックされる。
 グラストが立ち上がり、扉の方に向かう。
 そして扉を開くと、すぐに頭を下げる。
 そんなグラストの様子を見て、イオは誰が来たのかを理解した。
 イオがソフィアに視線を向けると、予想通りそこではソフィアが不愉快そうな表情を浮かべている。
 ただ、それは数秒程度の話で、すぐにその表情は笑みに変わる。
 ソフィアがやって来た人物をどのように思っていたのか知っているからこそ、新たに浮かべた笑みが本心とは違うものだと理解出来たものの、もしそれを知らなければソフィアの笑みは心からのものだろうと、そう思えてしまう。
 そんな笑みをソフィアは浮かべていたのだ。
 この辺り、ダーロットの扱い……あるいは男の扱いに慣れているということなのだろう。
 イオに対して向ける笑みは取り繕ったような笑みではなく、普通の……ソフィア本来の笑みなのだが。

(これは、俺にとって悪いことじゃない……よな? うん、多分。きっと、恐らく)

 ソフィアほどの美女に本物の笑みを向けられるというのは、間違いなく幸運なことだろう。
 イオもそれは分かってはいる。
 流星魔法を持っているからという前提条件があるのは間違いないが、それでもイオを保護し、常識について色々と教えてくれたり、素材の買い取りをしてくれたりと、かなり助かったのは間違いない。
 そういう意味では、やはりイオにとってソフィアというのは特別な相手なのだ。
 それだけではなく、日本にいたときにはTVでも……国際的な映画コンクールで表彰されたりする女優よりも明らかな美貌。
 その美貌は現在、取り繕っているとは思えない。
 女というのは恐ろしい。
 昔から数え切れない男たちが思っていることにイオが同意していると、ようやく扉の向こうにいた人物が姿を現す。
 三十代ほどの男で、こちらも顔立ちは整っている。
 そんな男は、部屋の中にいるソフィアを見ると満面の笑みを浮かべて口を開く。

「やあ、ソフィア。今回は色々と悪かったね。こちらの不手際だったが、迷惑をかけてしまったらしい」
「いえ、お気になさらず。ダーロッド殿のことですから、最終的に問題はないと思っていました。……と、そう言うことが出来ればよかったのですが」

 作った笑みとは思えないような、そんな自然に浮かべた笑みでソフィアは告げる。
 ダーロットがそんなソフィアの様子に気が付いているのかどうかは、生憎とイオには分からない。
 あるいはソフィアほどの美人が浮かべている笑みなので、ダーロットはそれだけで満足している……といった可能性もあるのだが。

「おや、どうやらご機嫌斜めのようだね。そちらに被害はほとんどなかったと聞いてるが」

 ソフィアの笑みを見てそのような言葉が出て来る辺り、ダーロットが人を見抜く目がある証なのだろう。
 もしイオが何も知らない状況でソフィアの笑みを見ていれば、恐らく……いや、ほぼ間違いなく、それが作られた笑みだとは理解出来なかったはずだ。

「被害がなければいいというものではないと思いますか? ……まぁ、和平交渉が結ばれた以上、ここで何かを言ったりするつもりはありませんが。それで、マジックバッグは持ってきてもらえたのですよね?」
「ああ、ほら」

 そう言い、ダーロットは二つのマジックバッグをソフィアに見せるのだった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙
恋愛
剣の名家にして、国の南側を支配する大貴族フォルス家。 そこの三男として生まれたノヴァは一族のみが扱える秘技が全く使えない、出来損ないというレッテルを貼られ、辛い子供時代を過ごした。 大人になったノヴァは小さな領地を与えられるものの、仕事も家族からの期待も、周りからの期待も0に等しい。 しかし、そんなノヴァに舞い込んだ一件の縁談話。相手は国の北側を支配する大貴族。 フォルス家とは長年の確執があり、今は栄華を極めているアークゲート家だった。 しかも縁談の相手は、まさかのアークゲート家当主・シアで・・・。 「あのときからずっと……お慕いしています」 かくして、何も持たないフォルス家の三男坊は性格良し、容姿良し、というか全てが良しの妻を迎え入れることになる。 ノヴァの運命を変える、全てを与えてこようとする妻を。 「人はアークゲート家の当主を恐ろしいとか、血も涙もないとか、冷酷とか散々に言うけど、 シアは可愛いし、優しいし、賢いし、完璧だよ」 あまり深く考えないノヴァと、彼にしか自分の素を見せないシア、二人の結婚生活が始まる。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~

雪野湯
ファンタジー
王立錬金研究所の研究員であった元貴族ケントは政治家に転向するも、政争に敗れ左遷された。 左遷先は領民のいない呪われた大地を抱く廃城。 この瓦礫に埋もれた城に、世界で唯一無二の不思議な銀眼を持つ男は夢も希望も埋めて、その謎と共に朽ち果てるつもりでいた。 しかし、運命のいたずらか、彼のもとに素晴らしき仲間が集う。 彼らの力を借り、様々な種族と交流し、呪われた大地の原因である未踏遺跡の攻略を目指す。 その過程で遺跡に眠っていた世界の秘密を知った。 遺跡の力は世界を滅亡へと導くが、彼は銀眼と仲間たちの力を借りて立ち向かう。 様々な苦難を乗り越え、左遷王と揶揄された若き青年は世界に新たな道を示し、本物の王となる。

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

目つきが悪いと仲間に捨てられてから、魔眼で全てを射貫くまで。

桐山じゃろ
ファンタジー
高校二年生の横伏藤太はある日突然、あまり接点のないクラスメイトと一緒に元いた世界からファンタジーな世界へ召喚された。初めのうちは同じ災難にあった者同士仲良くしていたが、横伏だけが強くならない。召喚した連中から「勇者の再来」と言われている不東に「目つきが怖い上に弱すぎる」という理由で、森で魔物にやられた後、そのまま捨てられた。……こんなところで死んでたまるか! 奮起と同時に意味不明理解不能だったスキル[魔眼]が覚醒し無双モードへ突入。その後は別の国で召喚されていた同じ学校の女の子たちに囲まれて一緒に暮らすことに。一方、捨てた連中はなんだか勝手に酷い目に遭っているようです。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを掲載しています。

【完結】甘やかな聖獣たちは、聖女様がとろけるようにキスをする

楠結衣
恋愛
女子大生の花恋は、いつものように大学に向かう途中、季節外れの鯉のぼりと共に異世界に聖女として召喚される。 ところが花恋を召喚した王様や黒ローブの集団に偽聖女と言われて知らない森に放り出されてしまう。 涙がこぼれてしまうと鯉のぼりがなぜか執事の格好をした三人組みの聖獣に変わり、元の世界に戻るために、一日三回のキスが必要だと言いだして……。 女子大生の花恋と甘やかな聖獣たちが、いちゃいちゃほのぼの逆ハーレムをしながら元の世界に戻るためにちょこっと冒険するおはなし。 ◇表紙イラスト/知さま ◇鯉のぼりについては諸説あります。 ◇小説家になろうさまでも連載しています。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

母を訪ねて十万里

サクラ近衛将監
ファンタジー
 エルフ族の母と人族の父の第二子であるハーフとして生まれたマルコは、三歳の折に誘拐され、数奇な運命を辿りつつ遠く離れた異大陸にまで流れてきたが、6歳の折に自分が転生者であることと六つもの前世を思い出し、同時にその経験・知識・技量を全て引き継ぐことになる。  この物語は、故郷を遠く離れた主人公が故郷に帰還するために辿った道のりの冒険譚です。  概ね週一(木曜日22時予定)で投稿予定です。

処理中です...