才能は流星魔法

神無月 紅

文字の大きさ
142 / 178
グルタス伯爵との戦い

0142話

しおりを挟む
 イオたちが野営地に戻ってきた日の夜、黎明の覇者に所属する傭兵たちは話があるということで集められた。
 イオは黎明の覇者の客人であっても所属している傭兵ではない。
 本来ならそんなイオはその集まりに呼ばれるようなこともなかったのだが、今回に限っては特別だということでイオもまたその場に呼ばれていた。
 ……最悪の場合はイオが流星魔法を使う必要があるという、ソフィアの判断からの言葉だ。
 イオもまた、ドレミナでグルタス伯爵との戦いに参加するという話を聞いたときには自分が戦いに参加する可能性もあると考えていたので、この状況で自分が呼ばれるのに特に不満はなかった。
 そしてイオがここにいるということは、当然だイオの護衛としてレックスもここにいる。
 黎明の覇者に所属する百人以上の傭兵がその場には集まっていた。
 この場にいる傭兵の大半が、一流と呼ぶに相応しい実力を持っている。
 客人のイオ、その護衛のレックス、あるいはそれ以外にも新人組と呼ばれる者たちの中には素質を見込まれてはいるものの、今はまだその素質が開花していない者もいるが。
 それでも、ここにいる傭兵たちの戦力を考えると、かなり大きな街であっても陥落させることが出来るだけの戦力が揃っていた。

「イオさん、これって……やっぱりあの件ですよね?」

 イオの隣にいるレックスが、周囲に聞こえないように小声で尋ねる。
 とはいえ、傭兵たちの中には五感が鋭い者も多い。
 レックスの口から出た言葉は、周囲にいる者たちの耳には聞こえていただろう。
 あるいはレックスの言葉が聞こえなくても、情報収集が得意な者にしてみれば事情を予想出来ていたかもしれないが。

「だろうな。どういう風になるのか、俺には分からないけど……っと、来たみたいだな」

 イオがレックスと会話を交わしていると、やがてソフィアとローザ、ギュンターが姿を現す。
 瞬間、イオを含めて今まで話をしていた者たちが黙り込む。
 この辺りのカリスマ性は、ソフィアならではだろう。
 もしソフィアが来たのに話し続けている者がいれば、間違いなく周囲から冷たい視線を向けられるだろう。
 あるいは空気を読めと言われるか。

(もしソフィアさんを前にしても喋り続けていられるとなると、それはそれで度胸があるのかもしれないけど)

 そう想いうイオだったが、だからといって自分がそのような真似をしたいとは想わない。
 もしそのような真似をした場合、ただでさえイオは微妙な立場なのに、その評価はさらに下がるだろう。
 ……とはいえ、すでにイオが流星魔法を使うというのは黎明の覇者に所属する者なら全員知っているので、妙に絡まれることは……

(いや、あったか)

 何故か自分を睨んでいるドラインを見て、うんざりとした気分を味わう。
 最初からイオの存在を面白く思っていなかったドラインは、イオが流星魔法を使うというのを知っても、その態度を改めることはなかった。
 当初は隕石の落下はマジックアイテムを使って行ったと説明されており、それ理由でイオに敵意を向けていたのだが……一度敵だと認識すればそれを考え直すことが出来ないらしいと、イオはうんざりとする。

「もう知ってる人もいると思うけど、ドレミナの領主ダーロットからの依頼を受けたわ。戦う相手は、グルタス伯爵」

 イオがドラインについて面倒に思っていると、ソフィアが話し始めた。
 ざわり、と。
 話を聞いていた者たちがざわめく。
 それでいながら、何人かは不満そうな様子を見せる。
 当然だろう。ダーロットは……正確にはドレミナの騎士団は、黎明の覇者に対して明確に攻撃をしてきたのだ。
 和平交渉が無事に纏まったのは、既に多くの者が知っている。
 しかし、和平交渉が纏まったからといってダーロットに雇われるかというのは話が別だった。
 それこそ、場合によっては後ろから攻撃されるのではないかと思う者も多い。

「大丈夫なんですか? もしかしたら、こっちを嵌める罠なんじゃ……」

 ダーロットを信じることは出来ないと思っている中で、一人がそう尋ねる。
 その人物が尋ねなくても、恐らく他の者も尋ねていたのは間違いないだろう。
 それはその場にいる全員が感じていることなのは間違いなかった。
 ソフィアたちも、当然だがそのような声が出ることは理解していたのだろう。
 特に不愉快そうな様子も見せず、口を開く。

「これまでの経緯からすれば、そういう心配をするのも無理はないわ。実際、私もその可能性は完全に否定出来ないもの。ただ……私が見たところでは、ダーロットに私たちを攻撃する意思がなかったのは間違いないわ」
「今回の発端となった、グルタス伯爵と繋がっていた男の件を考えると、恐らく……いえ、ほぼ間違いなくソフィアの言葉は正しいわ」

 ソフィアに続き、ローザがそう告げる。
 そしてギュンターもまた、特に言葉に出す様子はなかったものの、無言で頷いていた。
 それはソフィアの言葉が正しいと、そう態度で示しているのは間違いない。
 そんな三人の様子に、話を聞いていた者たちの緊張も次第に解けていく。
 普通ならそう簡単に敵対した相手が自分達を裏切らない……などといったことは、そう簡単に信じることは出来ない。
 しかしそれを信じさせることが出来るのが、ソフィアのカリスマ性だった。
 ソフィアの言うことであれば、間違いなく信じることが出来る。
 そのように思わせるだけの何かがソフィアにはあった。

「あの、そうなるとベヒモスの骨のはどうするんですか? 今は降伏してきた面々に任せていますけど、私たち全員がいなくなったらベヒモスの骨を奪ってしまえと思う者は出て来ると思いますけど。それ以外にも、商人や研究者、傭兵……山を越えてきた人たちのことを思うと……」

 とてもではないがベヒモスの骨を放っておくことは出来ない。
 そう告げる女の傭兵の言葉は、他の物たちにとっても同様だった。
 正式にローザと交渉を終えた商人がベヒモスの骨を持っていくのはいい。
 しかし、交渉も何もしていない者が自分の利益のためにそのような真似をするのは許容出来ない。
 そう女の傭兵が言ったのは、女の傭兵が新人組として実際にベヒモスと戦ったからだろう。
 本来なら黎明の覇者に所属する傭兵であっても、ベヒモスのような高ランクモンスターと戦うのは命懸けだ。
 事実、新人組も本来であれば死んだ……あるいは瀕死の重傷を負う者が少なくなかったはずなのだから。
 しかし、イオの存在がそれを覆した。
 そうして苦労して倒したベヒモスだけに、他人に奪われるというのは許容出来ない。
 それはソフィアに尋ねた女だけが思っていることではなく、ベヒモスとの戦いに参加した多くが思っていることだ。
 それこそイオを憎んでいるドラインですら、その言葉には頷いている。
 そのような者たちを見ながら、ベヒモスとの戦いに参加していなかった……つまり黎明の覇者の中では新人ではなくきちんとした戦力であると認められている傭兵たちは様々な表情を浮かべていた。
 中にはそんなことに拘るとはと呆れている者もいたが、それ以外にも微笑ましいものや、自分たちも以前はああだったと懐かしむ者といった風に、様々だ。
 新人組の何人かはそのような視線を向けられているのに微妙な表情を浮かべていたものの……そのような者たちが何か口を開くよりも前に、ソフィアが口を開く。

「ベヒモスの骨の護衛については心配しなくてもいいわ。ドレミナから護衛用の兵士たちがやってくるから」
「それって……グルタス伯爵とやらの戦いには参加させないでベヒモスの骨の護衛をして、俺たちにはグルタス伯爵と戦えってことですか?」
「そうね。見方を変えればそうなると思うわ。けど、それは問題ではないでしょう? 私たちは元々傭兵。戦場で生きる者なのだから」

 その言葉は紛れもない真実。
 ここにいる者たちは黎明の覇者という傭兵団に所属する傭兵たちなのだから。
 ……イオ以外は、だが。
 話を聞いていた者たちが納得した様子を見せたところで、ソフィアはさらに言葉を続ける。

「グルタス伯爵との戦いだけど、決して気を抜かないように」
「ソフィア様、俺たちが戦いで気を抜くような真似をすると思いますか?」

 ソフィアの言葉にそう返す男がいたが、それは口にした男だけではなく、他の者たちにとっても同様に思っていた言葉だろう。
 黎明の覇者に所属する自分たちが、戦いで気を抜くはずがないだろうと。
 そう言ってきた相手に対し、ソフィアは頷く。

「貴方たちの気持ちは分かってるわ。けど、それでもより一層注意をして欲しいの。でないと……死ぬでしょうし。未確認情報だけど、鋼の刃がグルタス伯爵に雇われているらしいから」

 ざわり、と。
 鋼の刃と聞いた傭兵たちがざわめく。
 自分たちと同じ、ランクA傭兵団の鋼の刃。
 当然だがランクA傭兵団ともなれば、その辺の有象無象の傭兵団とは全く違う存在だ。
 その辺の傭兵団……それこそベヒモスの素材やイオを狙って襲ってきた者たちと戦ったときに比べ、圧倒的に厳しい戦いになるのは間違いない。

「ソフィア様、それって本当なんですか?」

 団員の一人がソフィアに尋ねる。
 とはいえ、その口調は心配や不安といったものではない。
 強敵の戦いがあるのなら、むしろ望むところだと表情で示していた。
 そのような表情を浮かべているのは一人ではない。
 他にも何人か、強敵との戦いを楽しみにしているといった表情を浮かべている者は多かった。

「ええ、本当よ。……もっとも、この情報をもたらしたのはドレミナの人間ではないし、かといってグルタス伯爵の人間でもないわ。山を越えた向こうからやって来た人よ。そう考えると、あくまでもそういう情報があると考えておいた方がいいでしょうね」
「え? じゃあ、嘘なんですか?」

 先程鋼の刃の件で本当かと尋ねた男が、ソフィアの言葉に驚きと共にそう返す。
 何も関係のないところからの情報だけに、本当なのかどうか分からなかったのだろう。
 しかし、そんな男の言葉にソフィアは首を横に振る。

「いえ、恐らくだけど鋼の刃がいるのは間違っていないと思うわ。ただ……そうね。グルタス伯爵との戦いの最中、第三者の横槍があるかもしれないというのは、考えておいた方がいいと思うわ」

 そう、告げるのだった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙
恋愛
剣の名家にして、国の南側を支配する大貴族フォルス家。 そこの三男として生まれたノヴァは一族のみが扱える秘技が全く使えない、出来損ないというレッテルを貼られ、辛い子供時代を過ごした。 大人になったノヴァは小さな領地を与えられるものの、仕事も家族からの期待も、周りからの期待も0に等しい。 しかし、そんなノヴァに舞い込んだ一件の縁談話。相手は国の北側を支配する大貴族。 フォルス家とは長年の確執があり、今は栄華を極めているアークゲート家だった。 しかも縁談の相手は、まさかのアークゲート家当主・シアで・・・。 「あのときからずっと……お慕いしています」 かくして、何も持たないフォルス家の三男坊は性格良し、容姿良し、というか全てが良しの妻を迎え入れることになる。 ノヴァの運命を変える、全てを与えてこようとする妻を。 「人はアークゲート家の当主を恐ろしいとか、血も涙もないとか、冷酷とか散々に言うけど、 シアは可愛いし、優しいし、賢いし、完璧だよ」 あまり深く考えないノヴァと、彼にしか自分の素を見せないシア、二人の結婚生活が始まる。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~

雪野湯
ファンタジー
王立錬金研究所の研究員であった元貴族ケントは政治家に転向するも、政争に敗れ左遷された。 左遷先は領民のいない呪われた大地を抱く廃城。 この瓦礫に埋もれた城に、世界で唯一無二の不思議な銀眼を持つ男は夢も希望も埋めて、その謎と共に朽ち果てるつもりでいた。 しかし、運命のいたずらか、彼のもとに素晴らしき仲間が集う。 彼らの力を借り、様々な種族と交流し、呪われた大地の原因である未踏遺跡の攻略を目指す。 その過程で遺跡に眠っていた世界の秘密を知った。 遺跡の力は世界を滅亡へと導くが、彼は銀眼と仲間たちの力を借りて立ち向かう。 様々な苦難を乗り越え、左遷王と揶揄された若き青年は世界に新たな道を示し、本物の王となる。

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

目つきが悪いと仲間に捨てられてから、魔眼で全てを射貫くまで。

桐山じゃろ
ファンタジー
高校二年生の横伏藤太はある日突然、あまり接点のないクラスメイトと一緒に元いた世界からファンタジーな世界へ召喚された。初めのうちは同じ災難にあった者同士仲良くしていたが、横伏だけが強くならない。召喚した連中から「勇者の再来」と言われている不東に「目つきが怖い上に弱すぎる」という理由で、森で魔物にやられた後、そのまま捨てられた。……こんなところで死んでたまるか! 奮起と同時に意味不明理解不能だったスキル[魔眼]が覚醒し無双モードへ突入。その後は別の国で召喚されていた同じ学校の女の子たちに囲まれて一緒に暮らすことに。一方、捨てた連中はなんだか勝手に酷い目に遭っているようです。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを掲載しています。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

母を訪ねて十万里

サクラ近衛将監
ファンタジー
 エルフ族の母と人族の父の第二子であるハーフとして生まれたマルコは、三歳の折に誘拐され、数奇な運命を辿りつつ遠く離れた異大陸にまで流れてきたが、6歳の折に自分が転生者であることと六つもの前世を思い出し、同時にその経験・知識・技量を全て引き継ぐことになる。  この物語は、故郷を遠く離れた主人公が故郷に帰還するために辿った道のりの冒険譚です。  概ね週一(木曜日22時予定)で投稿予定です。

美女エルフの異世界道具屋で宝石職人してます

網野ホウ
ファンタジー
小説家になろうで先行投稿してます。 異世界から飛ばされてきた美しいエルフのセレナ=ミッフィール。彼女がその先で出会った人物は、石の力を見分けることが出来る宝石職人。 宝石職人でありながら法具店の店主の役職に就いている彼の力を借りて、一緒に故郷へ帰還できた彼女は彼と一緒に自分の店を思いつく。 セレナや冒険者である客達に振り回されながらも、その力を大いに発揮して宝石職人として活躍していく物語。

処理中です...