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誘拐
応急処置1
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なんだかやたらと指を絡めてくる王子の手を引いて、馬と共に待つジルさんの元へ向かった。
ジルさんはマルコルたる私の姿を見るやいなや、「丁度あちらに」と後方から上がってくる馬車をさしていて。私は引き続き王子の手を強く引っ張っていった。
停車する馬車に急いで駆け込む。
勢いよく扉を開ければ、そこにはリドーさんと王子の身体があった。
王子の身体は、城を出た時よりも更にぐったりと弱々しい様子になっていて。
顔は苦しそうに歪められ、冷や汗が額から頬から無数に伝っていた。
緩められた首元からは激しく上下する胸があらわれて、そこにもまた汗で濡れた艶めきがあった。
王子の手を離す。リドーさんの横にあったハンカチを取り、王子の汗をポンポンと叩くように拭い取った。
「マルコルが突然倒れてしまったんです。それでジルさんに聞いたら、魂が器の魔力に耐えきれていないからだって。このままだと、魂が器に飲み込まれてしまうから、早く戻った方が良いということなんです」
道中、ジルから入れ替わりの実態を聞いていた。
まさか、マルコルが魔法に失敗して、王子の中にマルコル、マルコルの中に私、私の中に王子が入っている、なんてことになっているとは思わなかったけど。
「……なるほどね」
話せば、王子は軽い口調でそういった。それから、馬車の前で控えるジルさんを見ているようだった。
「真偽の望眼は?」
「こちらに」
ジルさんが上着の内側から、首飾りを煌めかせた。王子は手を差し出して、ジルさんが手渡す。
「ちなみに、これ、どうやって連れてきたの?」
王子の視線は、装衣を乱し苦しさに喘ぐ自身の身体に向けられていた。
「え……。普通に馬車でですが」
「じゃなくて、その……。介抱とか……」
モゴモゴと言う。
「あ……。えっと、一応ジルさんに頭の振動を抑えた方が良いからって、途中までは頭を膝に乗せてきましたけど」
けど、一足先に早馬で追いかけてたジルさんが、すぐに王子たちの馬車を見つけて戻ってきて。意外と近くにいたので、私も一緒にって、王子を呼びにいったんだよね。
あの時は咄嗟に従ったけど、普通にジルさんがそのまま呼びにいった方が早かったよね……?
そんなことを今更考えていれば、王子は何故か目を大きく見開いていて。身体なんかも小刻みにワナワナと揺らしているかと思えば、
「――っ! それだけ⁉︎」
突然、肩を掴んできた。
な、なに……?
唖然としながらも、少し記憶を辿りながら口にしていった。
「えっと……、後は、そうですね。適当に服を緩めたりもしましたけど……。あっ、そういえば、城を出る前に汗で服が濡れてしまっていたので、僭越ながら一度脱がして身体を拭かせていただきました。後は、お着替えを……って、そんなことは後でちゃんとお話ししますから!」
「そ……、そんなことじゃない!」
叫んだら、それを上回る迫力で叫び返された。まるで、子供が駄々をこねるように王子はムスッとそっぽを向いた。
なんだこれ?
私が無理解に眉を顰めれば、
「…………僕だってまだ、膝枕はまだなのに。その上、君に脱がされるとか」
王子はボソボソ嘆きながら頬を赤らめていた。
「そ、そんなこと言ったって……。でも、身体は王子じゃないですか」
「でも、中身は君だ!」
め、めんどくさいな……。
めんどくさいから謝っとこ、そう思った。
「ごめんなさい……。けど、とりあえず早く戻してあげて貰えませんか? 私がやるって言ったのに申し訳ないですが……」
事を急かせば、王子は更にムスッとした。
「お、お願いします……」
王子を覗く。なかなか目が合わなかったけど、少しすると横目で私を一瞥した。
「…………君がそこまで言うなら別に良いけど。それ、かなりガタが来てるから、このまま戻したら入れ替え時に壊れるかもね」
「えっ……⁉︎ 壊れ……って?」
「魂が消えるかもね。知らないけど」
し、知らないけどって……。
「そんな……。どうにかならないのですか?」
「ならないこともないけど」
「けど……?」
「なにしても怒らない?」
ここにきて王子がやっと私に顔を向けた。
けれど、それは瞳の奥が笑っているような気がして。
……嫌な予感するなぁ、と大体当たる直感を得てしまう。
でも、まぁ。今は私の身体じゃないしな……。
魂が危機に瀕するマルコルの前では、結局答えは決まっているわけで。私は、そう割り切って小さく頷いた。
「……まぁ、はい」
「例えばちょっと入れ替わるとかも?」
なんだちょっとって。
「別に構いません」
ていうか誰と誰がだ……? 後から引っ掛かる。
果たして王子はにまりと口角を上げ。
「じゃあ、遠慮なく」
私の身体で自身の身体へと近づくのだった。
『発動――我望む偽り世・我が身にその魂を』
なんかボソボソ言ってた……?
ジルさんはマルコルたる私の姿を見るやいなや、「丁度あちらに」と後方から上がってくる馬車をさしていて。私は引き続き王子の手を強く引っ張っていった。
停車する馬車に急いで駆け込む。
勢いよく扉を開ければ、そこにはリドーさんと王子の身体があった。
王子の身体は、城を出た時よりも更にぐったりと弱々しい様子になっていて。
顔は苦しそうに歪められ、冷や汗が額から頬から無数に伝っていた。
緩められた首元からは激しく上下する胸があらわれて、そこにもまた汗で濡れた艶めきがあった。
王子の手を離す。リドーさんの横にあったハンカチを取り、王子の汗をポンポンと叩くように拭い取った。
「マルコルが突然倒れてしまったんです。それでジルさんに聞いたら、魂が器の魔力に耐えきれていないからだって。このままだと、魂が器に飲み込まれてしまうから、早く戻った方が良いということなんです」
道中、ジルから入れ替わりの実態を聞いていた。
まさか、マルコルが魔法に失敗して、王子の中にマルコル、マルコルの中に私、私の中に王子が入っている、なんてことになっているとは思わなかったけど。
「……なるほどね」
話せば、王子は軽い口調でそういった。それから、馬車の前で控えるジルさんを見ているようだった。
「真偽の望眼は?」
「こちらに」
ジルさんが上着の内側から、首飾りを煌めかせた。王子は手を差し出して、ジルさんが手渡す。
「ちなみに、これ、どうやって連れてきたの?」
王子の視線は、装衣を乱し苦しさに喘ぐ自身の身体に向けられていた。
「え……。普通に馬車でですが」
「じゃなくて、その……。介抱とか……」
モゴモゴと言う。
「あ……。えっと、一応ジルさんに頭の振動を抑えた方が良いからって、途中までは頭を膝に乗せてきましたけど」
けど、一足先に早馬で追いかけてたジルさんが、すぐに王子たちの馬車を見つけて戻ってきて。意外と近くにいたので、私も一緒にって、王子を呼びにいったんだよね。
あの時は咄嗟に従ったけど、普通にジルさんがそのまま呼びにいった方が早かったよね……?
そんなことを今更考えていれば、王子は何故か目を大きく見開いていて。身体なんかも小刻みにワナワナと揺らしているかと思えば、
「――っ! それだけ⁉︎」
突然、肩を掴んできた。
な、なに……?
唖然としながらも、少し記憶を辿りながら口にしていった。
「えっと……、後は、そうですね。適当に服を緩めたりもしましたけど……。あっ、そういえば、城を出る前に汗で服が濡れてしまっていたので、僭越ながら一度脱がして身体を拭かせていただきました。後は、お着替えを……って、そんなことは後でちゃんとお話ししますから!」
「そ……、そんなことじゃない!」
叫んだら、それを上回る迫力で叫び返された。まるで、子供が駄々をこねるように王子はムスッとそっぽを向いた。
なんだこれ?
私が無理解に眉を顰めれば、
「…………僕だってまだ、膝枕はまだなのに。その上、君に脱がされるとか」
王子はボソボソ嘆きながら頬を赤らめていた。
「そ、そんなこと言ったって……。でも、身体は王子じゃないですか」
「でも、中身は君だ!」
め、めんどくさいな……。
めんどくさいから謝っとこ、そう思った。
「ごめんなさい……。けど、とりあえず早く戻してあげて貰えませんか? 私がやるって言ったのに申し訳ないですが……」
事を急かせば、王子は更にムスッとした。
「お、お願いします……」
王子を覗く。なかなか目が合わなかったけど、少しすると横目で私を一瞥した。
「…………君がそこまで言うなら別に良いけど。それ、かなりガタが来てるから、このまま戻したら入れ替え時に壊れるかもね」
「えっ……⁉︎ 壊れ……って?」
「魂が消えるかもね。知らないけど」
し、知らないけどって……。
「そんな……。どうにかならないのですか?」
「ならないこともないけど」
「けど……?」
「なにしても怒らない?」
ここにきて王子がやっと私に顔を向けた。
けれど、それは瞳の奥が笑っているような気がして。
……嫌な予感するなぁ、と大体当たる直感を得てしまう。
でも、まぁ。今は私の身体じゃないしな……。
魂が危機に瀕するマルコルの前では、結局答えは決まっているわけで。私は、そう割り切って小さく頷いた。
「……まぁ、はい」
「例えばちょっと入れ替わるとかも?」
なんだちょっとって。
「別に構いません」
ていうか誰と誰がだ……? 後から引っ掛かる。
果たして王子はにまりと口角を上げ。
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