ぎゃっぷ!びーすと!!

石ノ森椿

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借金と獣街(ビーストスラム)

競売

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ものの数分経つと、私は10人の列のままステージに上がることになった。
「では1021を前へ。」

「いや、離してよ!!」
どうやら、番号の早い順から競りにかけていくらしい。
ということは私はあとだな、すごく。

煽り建てるような進行するピエロのような赤と白の燕尾服を着た狐。
屈強な牛2人によって柱に縛り付けられる少女。
それを見て興奮する観客。

自慰を始める客さえもいる、止めるものなどいないしむしろ高揚する雰囲気に皆流される。
正に、獣人の本来の姿を見ているようで吐き気がした。
でもここで折れるわけにもいかない。

私には借金が重くのしかかっているんだから。


「次、1029をm……。」
私は抵抗もしないでさっさと自分でステージ前面の柱の前に立ち、両手を後ろで組んだ。
牛もいつ音も驚いた顔をしたものの、慌てて己の仕事に目を向けた。

「さて、今回のメインディッシュの登場です。急遽入ってきた料理しがいのある17歳の女の子だ!健康的な肌の色にちょっと小ぶりなお胸。下の毛はきちんと生えそろっていますね~。」
私の思っていた通り、狐は長い爪でひょいと私の服を捲りあげ、吟味するように実況を入れた。

「なんとこの年で両親が夜逃げ、あぁ膨れ上がっていた借金はなんと1460万。そんな話を聞いてワタクシ……なんて親思いなのだろうと、今回奮起しまして!!」
よし、これでやっと借金がチャラに出来る。

「500万から。」
「は!?」

そんなの全然金額に足りないじゃない!!
「もし安値でも、墜人の子供……やむを得ない!!でもきっと優しい皆様なら高く買ってくれますよ。」
ここで狐は私の価値を一気に弾き落とした。
その瞬間に、獣人たちの目の色が変わった。

「ここで、もし安く買えばその浮いた分でこいつを好きなだけ食い物に出来る。」
すぐ前のウサギと豚の獣人が口々にこんな感じの言葉を吐いた。
もうきちんと聞き取ろうなんて思えなかった。

「さぁ、それでは張った張った!!」

「6!」
「6.5!」
「8!!」

私は涙も出せないまま、場内の一番後ろの扉を見つめていた。そしてこの中の誰かから買われる恐怖をどうにか胸の奥に押しやった。

その時、バンッと壁を叩いた音が聞こえた。
「3。」
「?」
「お客様ぁ~、下の数字を言われても困りますよ。」

「単位をつけないとわからないのかい、バカ狐。…億だ。」

「ッ!?!?!?」
場内が静まり返った。
「さ、3億!?」

流石の狐もぎょっと目を向いた。そして向いた眼のまま、競りの掛け声をつづけた。
「3億~……3億……。」

これ以上出すものはここにはいなかった。
木槌が叩かれると、静まり返った会場内がどんよりと曇った。

皆、私を安値が買う予定だったのかため息や悪態を並べ、中には帰っていくものまでいた。
そんな中、買取が決まった私は別室に通され床に座らされた。

数分もしないうちに、先ほどの狐の後を獣人3人が部屋に案内されてきた。
その姿は、足元を見る限りだとみんなただの人にしか見えない姿に感じた。
「それでは、金額の方を頂戴いたします。」

すると先ほどの3億と叫んだ獣人は思いがけない言葉を口にした。
「そのことなんだがね、困ったことに……3億円を持ってきていないんだ。」
「!?!?」

「はぁい!?では嘘の競売をしたというわけですかぁ!」

獣人の一言に狐は、目を剥いて獣人に詰め寄った。
それを弾くように2人の獣人が前に出た。

「あぁ!?この人を嘘つき呼ばわりすんのかよ、皮被り野郎。」
「馬鹿馬鹿しい、第一あなたも回りくどいんですよ。」
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