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選択後 壱
蛇(オロチ) ①
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「私は……蛇さんを選ぶ。」
「……後悔はなさいませんか?」
「え?」
「……いえ……。」
たまちゃんの不安そうな再確認が、私の不安を煽った。すると私の表情を見たのか、たまちゃんがもう一度口を開いた。
「……蛇様は、気難しいお方なので。」
そう言う事か……、元々機嫌悪そうだったけど……。
「……うん、気をつけるね。」
私は蛇さんの名前の入った婚姻届にサインをして筆を置いた。
すると、婚姻届けはさらさらと砂のように崩れて消えてしまった。
「それでは、蛇様のお部屋にご案内いたします。」
「うん、お願いします。」
部屋を出ると、広々とした廊下が続いていて一体どこまで続くのかと考えてしまう。
たまちゃんの先導についていくと、一番奥の一室の前でたまちゃんの足が止まった。
「ここが、蛇様のお部屋でございます。」
「そう。」
私が頷くと、たまちゃんの軽快なノックが廊下に響いた。
しかし返事がなく、扉も微かに開いていた。
「留守?」
「またそのようですね、”また”!」
「……また?」
私が訪ねると、たまちゃんは尻尾と頭の毛を逆立ててこちらを振り向いた。
「そうです!ま!た!蛇様は一人の時は自室にこもることが多いですが、祖木時もう一つの部屋におられることもあって……。」
「もう一つ?なら「その部屋に行こうとか思っちゃいけません!!」ッえ?」
「悠智様が来る前にも同じことがあって、はじめのうちはわからないままその部屋を開けようとしたんです。その時に蛇様の方から扉をお開けになって、その時の鬼の形相と言ったら!!」
「へ、へぇ……。」
「とにかく!!絶対にもう一つの部屋を教えられませんし、知ったとしてもその部屋の中に入ろうなんて考えちゃいけませんよ!」
「う、うん……分かった……そうするね。」
その話をするたまちゃんの形相ほどではないんじゃないかな……とは言わないでおこうと決めた。
やっぱり猫だから起こるとあぁいう顔するよね……。
私は、そのあとたまちゃんに案内されて先に部屋に入った。
蛇さんの部屋は、驚くほどに殺風景で、窓の近くにベッドと手元を照らすランプがあるのみ。
これだけ何もないと逆に掃除はしやすそうだけど。
部屋に唯一ある窓は、とても大きいけどエンドウなのか藤なのか蔓のようなものがびっしり貼り付いていて光を入れられる状態でもなかった。
それにしてもこれじゃジメッとしすぎていて息もできない。
私は恐る恐る窓を開いた。
窓は私が全体重をかけるとぎぃと音を立ててやっとのことで微かに開いた。
それ以上開けようにも蔓が手に巻き付いてきたからあきらめた。
蔓自体もちょっと引っ張っただけでとげが浮き出てうねり動いて抵抗するなんて……ここは本当に何もかもが不思議な事ばっかりだ。
思い返してもきっと完全に異世界に来たってわけではないんだと思う。獣街に来る方法も大きめのワゴン車だったし。
すると、ふと開いている窓の隙間から冷たい空気が入ってきた。
今まで開けても無風だった……誰か来たんだ。
私はチラッと目だけを動かした。
「動くな。」
「ッ……!」
その澄んだ冷たすぎる声はさっき私を蔑む目で見ていた蛇さんのものだ。
私は、恐怖に体が固まる感覚がした。
「なぜ人間が私の部屋にいる?」
「たまちゃん……、メイドさんに先に入っているようにと言われました。」
「」
蛇さんはわざとらしく舌打ちとため息を吐いた。
「目を閉じて3歩後ろのベッドに腰を掛けろ。」
「……?」
「聞こえなかったのか?従え。」
その冷たい声は私のすぐ耳元で発せられているものだった。
おかしい……さっき聞いた声は扉の方から聞こえていた。
そんなに大きく踏み出していれば足音が聞こえるはず……それに後ろに誰かが立っている感覚もなかった。
私は不審すぎる状況に身を任せるほかなく、言われたとおりにベッドに腰を掛けた。
するとすぐに私の手をザラッとした冷たい枝のようなものが掬った。
しかしその枝のようなものはゆっくりと動いて私の感触を確かめるように私の袖を捲った。
その動きで私は今、蛇さんに触れられているのだと気が付いた。
それと同時にあまりに冷たすぎる体温と残った粘液質に息が震えた。
この人は“人”でないんだ。
蛇さんは私の腕を触ると、気が済んだのか離れていった。
「目を開けろ。私は別室で眠る。」
バタンッっとわざとらしい扉を閉める音に、私はびくついて目を開けた。
あたりを見渡すと既に蛇さんの姿はなく、腕には水分一つも残ってはいなかった。
それなのに、触れられたところは恐ろしいほど冷たさが残って、心まで冷え震えあがった。
私は、布団を頭までかぶって体の震えが止まるのを待って眠りについた。
「……後悔はなさいませんか?」
「え?」
「……いえ……。」
たまちゃんの不安そうな再確認が、私の不安を煽った。すると私の表情を見たのか、たまちゃんがもう一度口を開いた。
「……蛇様は、気難しいお方なので。」
そう言う事か……、元々機嫌悪そうだったけど……。
「……うん、気をつけるね。」
私は蛇さんの名前の入った婚姻届にサインをして筆を置いた。
すると、婚姻届けはさらさらと砂のように崩れて消えてしまった。
「それでは、蛇様のお部屋にご案内いたします。」
「うん、お願いします。」
部屋を出ると、広々とした廊下が続いていて一体どこまで続くのかと考えてしまう。
たまちゃんの先導についていくと、一番奥の一室の前でたまちゃんの足が止まった。
「ここが、蛇様のお部屋でございます。」
「そう。」
私が頷くと、たまちゃんの軽快なノックが廊下に響いた。
しかし返事がなく、扉も微かに開いていた。
「留守?」
「またそのようですね、”また”!」
「……また?」
私が訪ねると、たまちゃんは尻尾と頭の毛を逆立ててこちらを振り向いた。
「そうです!ま!た!蛇様は一人の時は自室にこもることが多いですが、祖木時もう一つの部屋におられることもあって……。」
「もう一つ?なら「その部屋に行こうとか思っちゃいけません!!」ッえ?」
「悠智様が来る前にも同じことがあって、はじめのうちはわからないままその部屋を開けようとしたんです。その時に蛇様の方から扉をお開けになって、その時の鬼の形相と言ったら!!」
「へ、へぇ……。」
「とにかく!!絶対にもう一つの部屋を教えられませんし、知ったとしてもその部屋の中に入ろうなんて考えちゃいけませんよ!」
「う、うん……分かった……そうするね。」
その話をするたまちゃんの形相ほどではないんじゃないかな……とは言わないでおこうと決めた。
やっぱり猫だから起こるとあぁいう顔するよね……。
私は、そのあとたまちゃんに案内されて先に部屋に入った。
蛇さんの部屋は、驚くほどに殺風景で、窓の近くにベッドと手元を照らすランプがあるのみ。
これだけ何もないと逆に掃除はしやすそうだけど。
部屋に唯一ある窓は、とても大きいけどエンドウなのか藤なのか蔓のようなものがびっしり貼り付いていて光を入れられる状態でもなかった。
それにしてもこれじゃジメッとしすぎていて息もできない。
私は恐る恐る窓を開いた。
窓は私が全体重をかけるとぎぃと音を立ててやっとのことで微かに開いた。
それ以上開けようにも蔓が手に巻き付いてきたからあきらめた。
蔓自体もちょっと引っ張っただけでとげが浮き出てうねり動いて抵抗するなんて……ここは本当に何もかもが不思議な事ばっかりだ。
思い返してもきっと完全に異世界に来たってわけではないんだと思う。獣街に来る方法も大きめのワゴン車だったし。
すると、ふと開いている窓の隙間から冷たい空気が入ってきた。
今まで開けても無風だった……誰か来たんだ。
私はチラッと目だけを動かした。
「動くな。」
「ッ……!」
その澄んだ冷たすぎる声はさっき私を蔑む目で見ていた蛇さんのものだ。
私は、恐怖に体が固まる感覚がした。
「なぜ人間が私の部屋にいる?」
「たまちゃん……、メイドさんに先に入っているようにと言われました。」
「」
蛇さんはわざとらしく舌打ちとため息を吐いた。
「目を閉じて3歩後ろのベッドに腰を掛けろ。」
「……?」
「聞こえなかったのか?従え。」
その冷たい声は私のすぐ耳元で発せられているものだった。
おかしい……さっき聞いた声は扉の方から聞こえていた。
そんなに大きく踏み出していれば足音が聞こえるはず……それに後ろに誰かが立っている感覚もなかった。
私は不審すぎる状況に身を任せるほかなく、言われたとおりにベッドに腰を掛けた。
するとすぐに私の手をザラッとした冷たい枝のようなものが掬った。
しかしその枝のようなものはゆっくりと動いて私の感触を確かめるように私の袖を捲った。
その動きで私は今、蛇さんに触れられているのだと気が付いた。
それと同時にあまりに冷たすぎる体温と残った粘液質に息が震えた。
この人は“人”でないんだ。
蛇さんは私の腕を触ると、気が済んだのか離れていった。
「目を開けろ。私は別室で眠る。」
バタンッっとわざとらしい扉を閉める音に、私はびくついて目を開けた。
あたりを見渡すと既に蛇さんの姿はなく、腕には水分一つも残ってはいなかった。
それなのに、触れられたところは恐ろしいほど冷たさが残って、心まで冷え震えあがった。
私は、布団を頭までかぶって体の震えが止まるのを待って眠りについた。
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