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2章 嫉妬の炎が燃え盛る
24. それぞれの思い
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【本文】
シャーロットはノアに連れられ、魔導塔の入り口まで転移魔法で帰ってきた。
魔導塔の中には転移魔法で入って来られないよう結界が張られており、直接月の塔に飛んだりすることはできないようだ。
ノアは用事があるらしく、シャーロットに部屋に戻るよう促した後どこかへと足早に去っていった。
シャーロットは一人で魔導塔の内部を歩いていた。昼前に連れ出されたが、もう大分日が落ちかけている。
いつもならこの時間はそこそこ人通りがあるのだが、今日は疎らで殆ど人を見かけない。
少し落ち着きたい気分だったので有り難かった。
サクサクと落ち葉を踏みしめながら歩く。
まだ秋の初めなので昼は暖かいが、この時間になると流石に少し冷え込む。
確か部屋に暖炉があった。薪を貰ってきたら使えるだろうか。冬になれば重宝するだろう。
(冬になれば……ね。私は、いつまでここに居られるのかしら)
エスメはシャーロットのことを「聖女のところから逃げ出してきた」と言っていた。
恐らくラヴィニアから何かを吹き込まれてシャーロットを追い出しに来たのだろう。
ラヴィニアはまだシャーロットを諦めていない。
ノアに庇護してもらってはいるが、ノアの目的を果たした後にそのまま置いてもらえるかはわからないし、シャーロットの意に沿わないことをやらされそうになる可能性もある。
現在の平穏は危うい均衡の上に成り立っていた。
様々なことを考えながら、シャーロットは月の塔の入口まで戻ってきた。
そこに、エスメが一人で立っていた。
今までの威勢はどこへ行ったのか、大分意気消沈した様子である。
噛みつかれることはなさそうだが、下手に触らない方が良いだろう。
シャーロットがエスメの横を通り過ぎようとした瞬間、エスメが視線を落としたまま口を開いた。
「待ちなさいよ」
「……なんでしょうか」
エスメはシャーロットに向かって無造作に手を突き出す。そこには、シャーロットから取り上げた腕輪が握られていた。
「……悪かったわね。返すわ」
シャーロットは無言で受け取ってそれを嵌めた。
用事は済んだようなので、エスメに背を向けて歩き始める。
すると、再び背後からエスメの声が聞こえた。
「ジョセフに叱られたの。……一方の話だけ聞いてそれを真実だと思い込むのは、上に立つものとして相応しくないって言われちゃったわ」
最近見かけなかったが、ジョセフが魔導塔に戻ってきたらしい。
エスメはジョセフに雷を落とされて沈み込んでいるようだ。
ノアやカイに諫められてもまるで堪えた様子のなかったエスメが反省している。普段優しい人間が怒ると恐ろしいというのは真実らしい。
「そうですか」
「……だから、シャーロットの話を聞かせて欲しいわ。どういう経験をしてきて、今何故ここにいるのか。何を考えているのか……」
エスメがどれだけ反省していたとしても、シャーロットには関係のないことである。
放っておいてくれたらそれで良かったし、大人しくしてくれるなら尚良い。
だが、シャーロットはエスメの方を振り向き答えた。
「まあ、……少しずつ、話をするくらいなら」
正直なところ、シャーロットはエスメのことがそこまで嫌いでもなかった。面倒ではあったが。
嫌がらせは対して困らないような小さなものだったし、神殿で虐げられていたことに比べれば大したことはない。
今日の横暴は流石に少し困ったが、実際に何か危害を加えられた訳でもなかった。
エスメはシャーロットの返事を聞き、ぱあっと輝くような笑顔を見せた。
(それに……本来の「シャーロット」なら、これくらい、許すはずだわ)
◆◆◆
泉のほとりにノアは立っていた。水からはほのかに聖力が感じられる。
見習い魔導士たちが投げ込んだ銅貨を除去したお蔭で、泉に大分力が戻ってきていた。
元々、ここは聖なる泉として信仰の対象になっていた。この泉があるから魔導塔をここに設立したのだ。
「ノア様、シャルちゃんが部屋に帰るところちゃんと確認しましたよ」
背後からカイの声がした。
返事をせずに、ノアはそのまま泉の中にじゃぶじゃぶと歩みを進めた。
清涼感がノアの全身を包み込む。
それは水が冷たいからというだけではなく、泉の聖力によって清められているからだった。
「よく転移魔法なんて派手な魔法を連続で使いましたね? それでまた魔力暴走起こしかけてるんですか。正直見てられないですよ」
「……うるさいよ」
ノアが気怠げに返事をする。
魔王というのは魔族の長というだけでなく、世界で発生する負のエネルギーを受け止める器としての役割を持つ。
世界全体の負のエネルギーを集めるからこそ強大な魔力を得ることができるのだ。
勿論、そこまで巨大なエネルギーの循環にいつまでも耐えられる訳ではない。
器としての限界が近づけば負の感情に支配され、魔力暴走を起こす。そしてそれを聖女が封印する。幾度となく繰り返されてきたことだった。
ノアが魔力暴走を起こし完全な魔王として覚醒すれば、他の魔族たちも影響され理性を失ってしまう。
せっかく魔族たちが平和に暮らせる基盤を作り上げてきたのだ。ここで魔力暴走を起こし、すべてを水の泡にする訳にはいかない。
しかしノアの身体は限界が近く、定期的に聖力で魔力を中和し清める必要があった。
「俺に任せてくれれば良かったんですよ。連絡だけさせて、わざわざノア様が迎えに行かなくても」
「カイは何かあったらすぐ殺して解決しようとするだろう」
カイはいつもと変わらない軽薄な笑みを浮かべたまま答えた。
「いけませんか?」
「揉め事の種は作りたくないんだ。シャルに変にショックを与えたくも無いし」
とはいえ、自分の身くらい自分で守れるようになってもらう必要はありそうだ。
「本格的に魔力の扱い方を学ばせよう。それに、そろそろ聖女としても覚醒してくれないと困る……」
ノアはため息をついて続けた。
「僕が暴走する前に、封印してもらわないといけないからね」
シャーロットはノアに連れられ、魔導塔の入り口まで転移魔法で帰ってきた。
魔導塔の中には転移魔法で入って来られないよう結界が張られており、直接月の塔に飛んだりすることはできないようだ。
ノアは用事があるらしく、シャーロットに部屋に戻るよう促した後どこかへと足早に去っていった。
シャーロットは一人で魔導塔の内部を歩いていた。昼前に連れ出されたが、もう大分日が落ちかけている。
いつもならこの時間はそこそこ人通りがあるのだが、今日は疎らで殆ど人を見かけない。
少し落ち着きたい気分だったので有り難かった。
サクサクと落ち葉を踏みしめながら歩く。
まだ秋の初めなので昼は暖かいが、この時間になると流石に少し冷え込む。
確か部屋に暖炉があった。薪を貰ってきたら使えるだろうか。冬になれば重宝するだろう。
(冬になれば……ね。私は、いつまでここに居られるのかしら)
エスメはシャーロットのことを「聖女のところから逃げ出してきた」と言っていた。
恐らくラヴィニアから何かを吹き込まれてシャーロットを追い出しに来たのだろう。
ラヴィニアはまだシャーロットを諦めていない。
ノアに庇護してもらってはいるが、ノアの目的を果たした後にそのまま置いてもらえるかはわからないし、シャーロットの意に沿わないことをやらされそうになる可能性もある。
現在の平穏は危うい均衡の上に成り立っていた。
様々なことを考えながら、シャーロットは月の塔の入口まで戻ってきた。
そこに、エスメが一人で立っていた。
今までの威勢はどこへ行ったのか、大分意気消沈した様子である。
噛みつかれることはなさそうだが、下手に触らない方が良いだろう。
シャーロットがエスメの横を通り過ぎようとした瞬間、エスメが視線を落としたまま口を開いた。
「待ちなさいよ」
「……なんでしょうか」
エスメはシャーロットに向かって無造作に手を突き出す。そこには、シャーロットから取り上げた腕輪が握られていた。
「……悪かったわね。返すわ」
シャーロットは無言で受け取ってそれを嵌めた。
用事は済んだようなので、エスメに背を向けて歩き始める。
すると、再び背後からエスメの声が聞こえた。
「ジョセフに叱られたの。……一方の話だけ聞いてそれを真実だと思い込むのは、上に立つものとして相応しくないって言われちゃったわ」
最近見かけなかったが、ジョセフが魔導塔に戻ってきたらしい。
エスメはジョセフに雷を落とされて沈み込んでいるようだ。
ノアやカイに諫められてもまるで堪えた様子のなかったエスメが反省している。普段優しい人間が怒ると恐ろしいというのは真実らしい。
「そうですか」
「……だから、シャーロットの話を聞かせて欲しいわ。どういう経験をしてきて、今何故ここにいるのか。何を考えているのか……」
エスメがどれだけ反省していたとしても、シャーロットには関係のないことである。
放っておいてくれたらそれで良かったし、大人しくしてくれるなら尚良い。
だが、シャーロットはエスメの方を振り向き答えた。
「まあ、……少しずつ、話をするくらいなら」
正直なところ、シャーロットはエスメのことがそこまで嫌いでもなかった。面倒ではあったが。
嫌がらせは対して困らないような小さなものだったし、神殿で虐げられていたことに比べれば大したことはない。
今日の横暴は流石に少し困ったが、実際に何か危害を加えられた訳でもなかった。
エスメはシャーロットの返事を聞き、ぱあっと輝くような笑顔を見せた。
(それに……本来の「シャーロット」なら、これくらい、許すはずだわ)
◆◆◆
泉のほとりにノアは立っていた。水からはほのかに聖力が感じられる。
見習い魔導士たちが投げ込んだ銅貨を除去したお蔭で、泉に大分力が戻ってきていた。
元々、ここは聖なる泉として信仰の対象になっていた。この泉があるから魔導塔をここに設立したのだ。
「ノア様、シャルちゃんが部屋に帰るところちゃんと確認しましたよ」
背後からカイの声がした。
返事をせずに、ノアはそのまま泉の中にじゃぶじゃぶと歩みを進めた。
清涼感がノアの全身を包み込む。
それは水が冷たいからというだけではなく、泉の聖力によって清められているからだった。
「よく転移魔法なんて派手な魔法を連続で使いましたね? それでまた魔力暴走起こしかけてるんですか。正直見てられないですよ」
「……うるさいよ」
ノアが気怠げに返事をする。
魔王というのは魔族の長というだけでなく、世界で発生する負のエネルギーを受け止める器としての役割を持つ。
世界全体の負のエネルギーを集めるからこそ強大な魔力を得ることができるのだ。
勿論、そこまで巨大なエネルギーの循環にいつまでも耐えられる訳ではない。
器としての限界が近づけば負の感情に支配され、魔力暴走を起こす。そしてそれを聖女が封印する。幾度となく繰り返されてきたことだった。
ノアが魔力暴走を起こし完全な魔王として覚醒すれば、他の魔族たちも影響され理性を失ってしまう。
せっかく魔族たちが平和に暮らせる基盤を作り上げてきたのだ。ここで魔力暴走を起こし、すべてを水の泡にする訳にはいかない。
しかしノアの身体は限界が近く、定期的に聖力で魔力を中和し清める必要があった。
「俺に任せてくれれば良かったんですよ。連絡だけさせて、わざわざノア様が迎えに行かなくても」
「カイは何かあったらすぐ殺して解決しようとするだろう」
カイはいつもと変わらない軽薄な笑みを浮かべたまま答えた。
「いけませんか?」
「揉め事の種は作りたくないんだ。シャルに変にショックを与えたくも無いし」
とはいえ、自分の身くらい自分で守れるようになってもらう必要はありそうだ。
「本格的に魔力の扱い方を学ばせよう。それに、そろそろ聖女としても覚醒してくれないと困る……」
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