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4章 赤い月が昇る
42. 神官と街歩き
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シャーロットはアルストルの街を歩いていた。
大分この街にも慣れてきて、何がどこにあるかは大体わかるようになってきた。
忙しなく人が行き交うこの街は、多様な人間を受け入れる包容力がある。
様々な要因で目立ちやすい魔導塔組やエスメも、このアルストルでは奇異な目で見られることは少ないだろう。
よって、この街に来てからこんなに道行く人の注目を集めるのは初めてのことだった。
「シャーロット様、大丈夫ですか? 少し冷えてきております。私の外套をお貸ししましょうか?」
「いえ、大丈夫です……」
原因はシャーロットの周りでちょこまかと世話を焼きたがるこの神官にあった。
高位の神官が、何故か少女に侍っている。傍から見れば異様な光景だ。
オーガからラウルを助けた後、お礼だといってシャーロットに大量の金貨や宝石を渡してこようとするラウルを制し、食事を御馳走してもらうことで妥協してもらった。
ちなみにラウルが取り出した金目のものはきっちりランドルフが受け取っていた。
ラウルを助けたのは間違いなくランドルフなので筋は通っていると言える。ラウルはかなり微妙な顔をしていたが。
現在は、普段だと足を踏み入れないような高級そうな店で昼食を済ませた帰り道だった。
なんだかオシャレな料理が出てきて、なんだかオシャレな味がした。
(美味しかった、ような気もするけど……。色んな味がしてよくわからなかった……)
粗食育ちのシャーロットに複雑な味は難しかった。
街は明日の『赤月祭』に向けてその装いを変えていた。
多くの建物で色とりどりの水晶のような石が飾られている。
思い思いに飾られた建物や露店を眺めているだけでも目に楽しい。
また、それまで見たことの無いシャーロットの背丈ほどの高さの石柱があちらこちらに置かれていた。
石柱のてっぺんには小鳥を模した小さな像があしらわれており、口を大きく開けて空を見上げている。
まるで、親鳥から餌を貰うのを待っているかのようだ。
「ルミナリアの祭りとは随分様子が違いますね。あちらの祭典は、民が楽しむもの、というよりはルミネ様を称える意味合いが強いので、そういった性質の違いがあるのでしょうか」
街並みを見ているシャーロットに気づいたのか、ラウルがそう呟く。
ラウルはルミナリアの神官だ。『赤月祭』に対してあまり良い印象が無いのではないだろうか。
シャーロットは言葉を選ぼうとラウルの様子を伺った。
それに気づいたのか、ラウルは軽く首を振って言葉を続ける。
「ああ――別に私に含むところはありませんよ。私個人の考えはウィンザーホワイト派に近いのです」
「それは……ちょっと意外です」
魔導塔がウィンザーホワイトに設立されるまではルミナリアとウィンザーホワイトは活発に交流しており、様々な大陸の文化が海を渡ってこの島に持ち込まれた。
勿論、ルミネ教もそのうちの一つだった。
人間の平和を重視し、それ以外は必要なら滅ぼしても構わないという態度を取るのが元々のルミネ教の在り方だ。
しかし、大陸に比べ魔力持ちがそこまで珍しくなく、また、人間以外の異種族も多く暮らしていたこの島に持ち込まれたルミネ教は、土着の宗教と混じり合って独特の発展を遂げた。
魔力持ちや異種族も含んだありとあらゆるヒトの平穏を重んじるようになったのだ。
信仰する神は同じだが、その実態はもはや別物だと言えた。
同じルミネ教でも、ルミナリアの教会とウィンザーホワイトの教会はかなり仲が悪く、国交の断絶にはそういった背景もあった。
高位の神官であり、次期教皇と目されているラウルの考えがウィンザーホワイト派に近いというのは、驚くべきことだった。
「歴史や教義を読み込んで学ぶにつれ、ルミネ様はもっと懐の大きいお方なのではないかと思うようになったのです。そこでウィンザーホワイトの神官とこっそり交流を持つようになりまして。今回の滞在でも、教会に間借りさせていただいているのです」
「そうなんですね……。そういえば、ラウルさんは何故ウィンザーホワイトに?」
「ちょっと人探しを頼まれましてね……。こちらの教会に捜索依頼をしているのです。……一応お聞きしますが、栗色の髪に、気弱そうな雰囲気の美青年を見たことはありますか?」
「うーん……。それだけだとなんとも……」
「そうですよねぇ……」
話しながら歩いていると、以前エスメと出会った広場まで来ていた。
広場の中心には大きな鳥の石像が設置されている。
そして、それを囲むように――
「う、うおぉぉぉ!」
「頑張ってください! まだまだいけます!」
「もっと気合入れなさいよ!」
見知った顔が謎の儀式を行っていた。
中心で何故か鳥の像に向かって大量の魔力を注いでいるのがヴィクター。
限界が近いのか、顔が真っ赤だ。
そしてそれを左右から応援しているのがランドルフとエスメだった。
かなり謎の組み合わせだ。
思わず見入っていると、ぱっと勢いよく振り返ったエスメと目が合った。
瞬間、ぶんぶんと手を振ってシャーロットを呼ぶ。背中に目でもついているかのような反応だ。
「良いところに来たわね! シャーロットもこっちに来て!」
「え、ええ……?」
見つかってしまったからには仕方ない。
シャーロットは心底不思議そうな顔を浮かべているラウルを引き連れ、大騒ぎしている三人の元へと歩みを進めた。
大分この街にも慣れてきて、何がどこにあるかは大体わかるようになってきた。
忙しなく人が行き交うこの街は、多様な人間を受け入れる包容力がある。
様々な要因で目立ちやすい魔導塔組やエスメも、このアルストルでは奇異な目で見られることは少ないだろう。
よって、この街に来てからこんなに道行く人の注目を集めるのは初めてのことだった。
「シャーロット様、大丈夫ですか? 少し冷えてきております。私の外套をお貸ししましょうか?」
「いえ、大丈夫です……」
原因はシャーロットの周りでちょこまかと世話を焼きたがるこの神官にあった。
高位の神官が、何故か少女に侍っている。傍から見れば異様な光景だ。
オーガからラウルを助けた後、お礼だといってシャーロットに大量の金貨や宝石を渡してこようとするラウルを制し、食事を御馳走してもらうことで妥協してもらった。
ちなみにラウルが取り出した金目のものはきっちりランドルフが受け取っていた。
ラウルを助けたのは間違いなくランドルフなので筋は通っていると言える。ラウルはかなり微妙な顔をしていたが。
現在は、普段だと足を踏み入れないような高級そうな店で昼食を済ませた帰り道だった。
なんだかオシャレな料理が出てきて、なんだかオシャレな味がした。
(美味しかった、ような気もするけど……。色んな味がしてよくわからなかった……)
粗食育ちのシャーロットに複雑な味は難しかった。
街は明日の『赤月祭』に向けてその装いを変えていた。
多くの建物で色とりどりの水晶のような石が飾られている。
思い思いに飾られた建物や露店を眺めているだけでも目に楽しい。
また、それまで見たことの無いシャーロットの背丈ほどの高さの石柱があちらこちらに置かれていた。
石柱のてっぺんには小鳥を模した小さな像があしらわれており、口を大きく開けて空を見上げている。
まるで、親鳥から餌を貰うのを待っているかのようだ。
「ルミナリアの祭りとは随分様子が違いますね。あちらの祭典は、民が楽しむもの、というよりはルミネ様を称える意味合いが強いので、そういった性質の違いがあるのでしょうか」
街並みを見ているシャーロットに気づいたのか、ラウルがそう呟く。
ラウルはルミナリアの神官だ。『赤月祭』に対してあまり良い印象が無いのではないだろうか。
シャーロットは言葉を選ぼうとラウルの様子を伺った。
それに気づいたのか、ラウルは軽く首を振って言葉を続ける。
「ああ――別に私に含むところはありませんよ。私個人の考えはウィンザーホワイト派に近いのです」
「それは……ちょっと意外です」
魔導塔がウィンザーホワイトに設立されるまではルミナリアとウィンザーホワイトは活発に交流しており、様々な大陸の文化が海を渡ってこの島に持ち込まれた。
勿論、ルミネ教もそのうちの一つだった。
人間の平和を重視し、それ以外は必要なら滅ぼしても構わないという態度を取るのが元々のルミネ教の在り方だ。
しかし、大陸に比べ魔力持ちがそこまで珍しくなく、また、人間以外の異種族も多く暮らしていたこの島に持ち込まれたルミネ教は、土着の宗教と混じり合って独特の発展を遂げた。
魔力持ちや異種族も含んだありとあらゆるヒトの平穏を重んじるようになったのだ。
信仰する神は同じだが、その実態はもはや別物だと言えた。
同じルミネ教でも、ルミナリアの教会とウィンザーホワイトの教会はかなり仲が悪く、国交の断絶にはそういった背景もあった。
高位の神官であり、次期教皇と目されているラウルの考えがウィンザーホワイト派に近いというのは、驚くべきことだった。
「歴史や教義を読み込んで学ぶにつれ、ルミネ様はもっと懐の大きいお方なのではないかと思うようになったのです。そこでウィンザーホワイトの神官とこっそり交流を持つようになりまして。今回の滞在でも、教会に間借りさせていただいているのです」
「そうなんですね……。そういえば、ラウルさんは何故ウィンザーホワイトに?」
「ちょっと人探しを頼まれましてね……。こちらの教会に捜索依頼をしているのです。……一応お聞きしますが、栗色の髪に、気弱そうな雰囲気の美青年を見たことはありますか?」
「うーん……。それだけだとなんとも……」
「そうですよねぇ……」
話しながら歩いていると、以前エスメと出会った広場まで来ていた。
広場の中心には大きな鳥の石像が設置されている。
そして、それを囲むように――
「う、うおぉぉぉ!」
「頑張ってください! まだまだいけます!」
「もっと気合入れなさいよ!」
見知った顔が謎の儀式を行っていた。
中心で何故か鳥の像に向かって大量の魔力を注いでいるのがヴィクター。
限界が近いのか、顔が真っ赤だ。
そしてそれを左右から応援しているのがランドルフとエスメだった。
かなり謎の組み合わせだ。
思わず見入っていると、ぱっと勢いよく振り返ったエスメと目が合った。
瞬間、ぶんぶんと手を振ってシャーロットを呼ぶ。背中に目でもついているかのような反応だ。
「良いところに来たわね! シャーロットもこっちに来て!」
「え、ええ……?」
見つかってしまったからには仕方ない。
シャーロットは心底不思議そうな顔を浮かべているラウルを引き連れ、大騒ぎしている三人の元へと歩みを進めた。
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