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4章 赤い月が昇る
46. 会いたかった
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絹糸のように柔らかそうで、繊細に輝く銀色の髪。
長いまつ毛に縁取られた神秘的な瑠璃色の瞳は、目が離せなくなるような不思議な魅力を放っている。
口元では、ほんのり差した朱が控えめに主張していた。
大神殿に飾られている女神の絵画のような、完成された美貌だった。
シャーロットはメロディの手により整えられた己の姿をみて思わず唖然とした。
(前に化粧してもらったときより、完成度が上がってる……)
言葉を失っているシャーロットを見て、メロディは得意げに笑った。
「ふっふ~。街中の視線を独り占め間違いなしだね~! こんな凶悪な美貌を世に放つなんて、さすがメロ、罪な女……」
『赤月祭』の日の朝、まだ日も昇りきっていないような時間にシャーロットは叩き起こされた。
寝ぼけ眼でぼんやりしている間に、あれよあれよと顔が出来上がっていき、覚醒した頃には女神が降臨していたという訳である。
うんうん頷きながら完成したシャーロットを眺めるメロディは、大変ご満悦である。
だが……シャーロットは言いづらそうにおずおずと切り出した。
「あの……とっても有り難いですが、ランドルフさんに仮面をいただいているので、大部分は隠れちゃうかと……」
「え~! そんな~! ……その貰った仮面ってどこにあるの?」
「あそこに置いてあります」
シャーロットが指を差した瞬間、メロディは信じられない速さでそれを引ったくり身に着けた。
「えっ?」
「じゃ、これはメロが借りるね! 仮面ちゃんもメロに付けられたいって言ってるよ! じゃあ、シャルちゃん、健闘を祈る!」
言うが早いかメロディは飛び出していった。……一体何の健闘を祈られたのだろう?
シャーロットは溜息をついた。
以前シャーロットに化粧をしたときは、ノアの指示ですぐ落とすことになってしまい、随分不満そうだった。
前回の鬱憤もあり、どうしても自分の完成品を世に出したいのだろう。
(まあ、いいわ。ランドルフさんには会った時に謝っておきましょう)
実際には、ノアとの二人で過ごすのに他の男から貰ったものを身に着けていくのはどうなんだ、と思ったメロディの斜め上の気遣いだったのだが、それにシャーロットが気付くことはなかった。
◆◆◆
<月の光亭>を出て、港を目指し歩く。
メロディの言う通り、確かに人の視線をいつもより多く感じた。
何回か男性に声をかけられさえしたが、「恋人と待ち合わせをしている」と伝えれば皆引き下がってくれたので良かった。
実際、恋人どうかは微妙なところだが、嘘も方便だ。
『赤月祭』当日を迎えた街はいつにもまして賑やかで、一体どこにこんなにいたのかと思うくらい人が多い。
食べ物を扱っている露店も多く出ていた。バターを焦がしたような香ばしい香りや、肉の焼ける香りがしてきて、歩いているだけでお腹が空いてくる。
ふと、前方で如何にもたちの悪そうな男達が数人、なにやらキョロキョロとしているのが視界に入った。
騎士団が巡回していることもあり普段はそこまで治安は悪くないのだが、今日は外部からの流入も多いのだろう。こういった人間が居てもおかしくはない。
シャーロットは男達の目に止まらぬよう早足で脇を通り抜けようとし――思わず足を止めてしまった。
男の一人が、大変不釣り合いなかわいらしいゾウのぬいぐるみを持っていたのである。
そしてシャーロットはそれに見覚えがあった。
(あれって、メロディさんの作った『なんとかゾウさん』……?)
メロディの作った魔道具の筈だ。なんで見知らぬ男が持っているんだろう。
「どうしたの、お嬢ちゃん。これが気になるの? もしかして、これを落としてった子の知り合い?」
声をかけられてしまった。
どうやらこの男はメロディが落としていったゾウさんを拾ったのだろう。
その下卑た表情から察するに、ただの親切心という訳ではなさそうだった。
「お友だちのもの、返して欲しいよね? ちょっと俺たちと遊んでくれたら返してあげるよ」
「うわ、すげー上玉じゃん。わざわざさっきのピンクの子探さなくて良くなったな」
ニヤニヤと笑う男達。
まずいことになったな、とシャーロットは思った。
(まあ、最悪ぶん殴ればいっか)
以前は街ごと破壊しかねなかったが、身体強化して殴れば穏便に――穏便に?――解決できるだろう。
そう考え、シャーロットはふと既視感を覚えた。
「……あの、前あったことあります?」
「あるある、どこだったかな、ノインの娼館だったかなあ」
ふざけた調子で一人がいい、他の男もぎゃははと笑う。
「そう、ノインの、スラム街の裏路地で……私のこと追いかけてきましたよね?」
怪訝な表情でシャーロットを見る男達。
そう、彼らは以前、エスメに置き去りにされたスラム街で、しつこくシャーロットを追い回した男たちだった。
やがて一人がそれに気づいたのか、青褪める。
「ま、まさかノアさまの――?」
「そうだよ。僕の大事な人だ」
背後から聞き覚えのある声。
振り返ると、闇を溶かしたような髪にルビーの様に紅い瞳の美貌の青年がそこに居た。
シャーロットと目が合うと、ノアは軽く肩を竦ませた。
「ちょっと遅いから迎えに来てあげたよ。シャル、いっつも何かに巻き込まれてない?」
「気の所為です!」
やっぱり生身のノアは安心する。
シャーロットは無意識に顔を綻ばせた。
長いまつ毛に縁取られた神秘的な瑠璃色の瞳は、目が離せなくなるような不思議な魅力を放っている。
口元では、ほんのり差した朱が控えめに主張していた。
大神殿に飾られている女神の絵画のような、完成された美貌だった。
シャーロットはメロディの手により整えられた己の姿をみて思わず唖然とした。
(前に化粧してもらったときより、完成度が上がってる……)
言葉を失っているシャーロットを見て、メロディは得意げに笑った。
「ふっふ~。街中の視線を独り占め間違いなしだね~! こんな凶悪な美貌を世に放つなんて、さすがメロ、罪な女……」
『赤月祭』の日の朝、まだ日も昇りきっていないような時間にシャーロットは叩き起こされた。
寝ぼけ眼でぼんやりしている間に、あれよあれよと顔が出来上がっていき、覚醒した頃には女神が降臨していたという訳である。
うんうん頷きながら完成したシャーロットを眺めるメロディは、大変ご満悦である。
だが……シャーロットは言いづらそうにおずおずと切り出した。
「あの……とっても有り難いですが、ランドルフさんに仮面をいただいているので、大部分は隠れちゃうかと……」
「え~! そんな~! ……その貰った仮面ってどこにあるの?」
「あそこに置いてあります」
シャーロットが指を差した瞬間、メロディは信じられない速さでそれを引ったくり身に着けた。
「えっ?」
「じゃ、これはメロが借りるね! 仮面ちゃんもメロに付けられたいって言ってるよ! じゃあ、シャルちゃん、健闘を祈る!」
言うが早いかメロディは飛び出していった。……一体何の健闘を祈られたのだろう?
シャーロットは溜息をついた。
以前シャーロットに化粧をしたときは、ノアの指示ですぐ落とすことになってしまい、随分不満そうだった。
前回の鬱憤もあり、どうしても自分の完成品を世に出したいのだろう。
(まあ、いいわ。ランドルフさんには会った時に謝っておきましょう)
実際には、ノアとの二人で過ごすのに他の男から貰ったものを身に着けていくのはどうなんだ、と思ったメロディの斜め上の気遣いだったのだが、それにシャーロットが気付くことはなかった。
◆◆◆
<月の光亭>を出て、港を目指し歩く。
メロディの言う通り、確かに人の視線をいつもより多く感じた。
何回か男性に声をかけられさえしたが、「恋人と待ち合わせをしている」と伝えれば皆引き下がってくれたので良かった。
実際、恋人どうかは微妙なところだが、嘘も方便だ。
『赤月祭』当日を迎えた街はいつにもまして賑やかで、一体どこにこんなにいたのかと思うくらい人が多い。
食べ物を扱っている露店も多く出ていた。バターを焦がしたような香ばしい香りや、肉の焼ける香りがしてきて、歩いているだけでお腹が空いてくる。
ふと、前方で如何にもたちの悪そうな男達が数人、なにやらキョロキョロとしているのが視界に入った。
騎士団が巡回していることもあり普段はそこまで治安は悪くないのだが、今日は外部からの流入も多いのだろう。こういった人間が居てもおかしくはない。
シャーロットは男達の目に止まらぬよう早足で脇を通り抜けようとし――思わず足を止めてしまった。
男の一人が、大変不釣り合いなかわいらしいゾウのぬいぐるみを持っていたのである。
そしてシャーロットはそれに見覚えがあった。
(あれって、メロディさんの作った『なんとかゾウさん』……?)
メロディの作った魔道具の筈だ。なんで見知らぬ男が持っているんだろう。
「どうしたの、お嬢ちゃん。これが気になるの? もしかして、これを落としてった子の知り合い?」
声をかけられてしまった。
どうやらこの男はメロディが落としていったゾウさんを拾ったのだろう。
その下卑た表情から察するに、ただの親切心という訳ではなさそうだった。
「お友だちのもの、返して欲しいよね? ちょっと俺たちと遊んでくれたら返してあげるよ」
「うわ、すげー上玉じゃん。わざわざさっきのピンクの子探さなくて良くなったな」
ニヤニヤと笑う男達。
まずいことになったな、とシャーロットは思った。
(まあ、最悪ぶん殴ればいっか)
以前は街ごと破壊しかねなかったが、身体強化して殴れば穏便に――穏便に?――解決できるだろう。
そう考え、シャーロットはふと既視感を覚えた。
「……あの、前あったことあります?」
「あるある、どこだったかな、ノインの娼館だったかなあ」
ふざけた調子で一人がいい、他の男もぎゃははと笑う。
「そう、ノインの、スラム街の裏路地で……私のこと追いかけてきましたよね?」
怪訝な表情でシャーロットを見る男達。
そう、彼らは以前、エスメに置き去りにされたスラム街で、しつこくシャーロットを追い回した男たちだった。
やがて一人がそれに気づいたのか、青褪める。
「ま、まさかノアさまの――?」
「そうだよ。僕の大事な人だ」
背後から聞き覚えのある声。
振り返ると、闇を溶かしたような髪にルビーの様に紅い瞳の美貌の青年がそこに居た。
シャーロットと目が合うと、ノアは軽く肩を竦ませた。
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