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1章 受難
2. ティアナの選択
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ティアナを疑うような言葉を投げかけたのは、銀に菫の色彩を持つ少女だった。
憂いているような口調だが、その声音に僅かに嘲りと怒りを感じ取りティアナはぞっとした。
彼女の色彩と、纏う神官服には聞き覚えがある。
「聖女ユーリア……?」
思わず漏れた声に、銀の少女は肯定するかのように微笑んだ。
ユーリアはユースティアで活動している神官で、年若い可憐な少女ながら強力な光の魔力を持ち、四肢の欠損さえも治すことが可能らしい。
民衆の支持も厚く、またユースティアの王子と仲睦まじいことから次期王妃と目されており、王族に匹敵するような発言力を持つという――。
住んでいた森で殆どを過ごし、たまに近くの町で売買をする生活をしていたため、ユーリアを直接見るのは初めてだった。
「では、偽物だというのか? 召喚の儀はやはり失敗だったと?」
「そんな馬鹿な! 確かに伝承通りに儀式を行われた筈だ」
ユーリアがおっとりと口論を遮った。
「もしかしたら、魔王の罠、という可能性もあります。こちらの召喚に合わせて、向こうの手のものを送り込んだのかもしれませんわ。判断がつくまで、牢に隔離してはいかがかしら……?」
「怪しいのであれば、ユーリア様の仰るとおり一旦閉じ込めるのも有りなのでは?」
「確かに、この娘はなんの力も持っていないように見える……」
人々が口々に言い募る内容に、ティアナは愕然とした。
「ま、待ってください! 私は普通の人間です! 魔王とは何の関係も――」
ティアナは慌てて主張するが、誰もティアナの言葉には耳を傾けない。
ただ、自分たちが喚んだ、都合の悪い存在をどう処理しようかを考えている。
おそらく、ティアナがどういう存在かなんて、彼らはどうでも良いのだ。
ユーリアが偽物だというのなら、そういうことになる。
自覚は全く無いものの、ティアナが本当に『救世の乙女』であるならば、世界を救うのに必要となるかもしれないのに。
ユーリアの不況を買わないようにすることの方が彼らには大事なのだ。
(なんて、なんて……身勝手なの?)
こちらの事情を無視して無理やり召喚しておいて、ティアナの話は何も聞かず、都合が悪そうだからと幽閉しようとしている。
震えるティアナを、クラウスがそっと抱き起こした。
「私には人間の少女に見えるし、魔の者の禍々しさも感じないが。突然呼び出して閉じ込めるのはいくらなんでも哀れだろう。この娘は私が預かろう」
黒髪の青年がそう言うと、場の空気がまた少し変わる。
「クラウス殿下がそういうなら、お任せ致しましょう」
「仮に魔のものだったとしても、お強い殿下なら問題ありますまい」
ユーリアがいくら力を持っていても、さすがに王族のほうが上ということか。
クラウスがティアナを庇うと、貴族たちは次々に賛同する。なんとも調子の良いことだ。
様子を見ていたユーリアは、少し拗ねたような表情をした。
「まあ、クラウス様はお優しいのね。わたくしの意見は聞いてくださらないの?」
「すぐに偽物だと判断するのは早計だろう。エーファ様も、初めは常人と変わらなかったが、努力を重ねて魔王を倒すほどの力をつけられたと言うではないか」
「……まあ、いいですわ。わたくしは下がらせていただきます」
そう言うとユーリアは踵を返す。
去り際、ぞっとするような冷たい眼差しでティアナを睨みつけて。
魔王は強い瘴気を放つ。何の力も持たない人間だと近づくことすらままならない。
強力な光の魔力を持っていれば多少は抵抗できるだろうが、無傷で魔王に近づくことができるのは、かつて魔王を封じた勇士の子孫であるユースティアの王族と『救世の乙女』だけ。
そしてその『救世の乙女』がティアナなのだという。
そうクラウスに聞かされるも、ティアナは正直信じることは出来ない。
あのユーリアの言うように、自分は何かの間違いで喚ばれてしまっただけなのではないだろうか。
そう漏らすと、クラウスは真剣な表情をした。
「同じ光の力を持つものとして、なんとなく分かる。君は本物の『救世の乙女』だ。どうしてもとは言わないが、魔王を倒すための訓練を受けてみては貰えないだろうか。どうしても嫌になってしまった場合は、いつでも、私が責任を持って君を家に送り届けると誓うから。――頼む」
「そんな、あの、頭を上げてください……」
王族に頭を下げられ、ティアナは焦った。
「わかりました! 自信はないですが、やるだけやってみるので……」
「本当か! ありがとう!」
ティアナが思わず承諾すると、クラウスはパッと顔を輝かせる。
深く考えず承諾してしまったが、まあ、いい経験になるかもしれない。
もし自分が『救世の乙女』でなかったとしても、戦う力を身に着けておくのは悪い選択肢ではないだろう。
ティアナ自身は無自覚だったが、昨年一緒に暮らしていた祖母を亡くしたばかりのティアナは、人のぬくもりに飢えていた。
だから、深く考えずに頷いてしまったのだ。
その選択が自身を、より強い孤独へ追い込むとは知らずに。
憂いているような口調だが、その声音に僅かに嘲りと怒りを感じ取りティアナはぞっとした。
彼女の色彩と、纏う神官服には聞き覚えがある。
「聖女ユーリア……?」
思わず漏れた声に、銀の少女は肯定するかのように微笑んだ。
ユーリアはユースティアで活動している神官で、年若い可憐な少女ながら強力な光の魔力を持ち、四肢の欠損さえも治すことが可能らしい。
民衆の支持も厚く、またユースティアの王子と仲睦まじいことから次期王妃と目されており、王族に匹敵するような発言力を持つという――。
住んでいた森で殆どを過ごし、たまに近くの町で売買をする生活をしていたため、ユーリアを直接見るのは初めてだった。
「では、偽物だというのか? 召喚の儀はやはり失敗だったと?」
「そんな馬鹿な! 確かに伝承通りに儀式を行われた筈だ」
ユーリアがおっとりと口論を遮った。
「もしかしたら、魔王の罠、という可能性もあります。こちらの召喚に合わせて、向こうの手のものを送り込んだのかもしれませんわ。判断がつくまで、牢に隔離してはいかがかしら……?」
「怪しいのであれば、ユーリア様の仰るとおり一旦閉じ込めるのも有りなのでは?」
「確かに、この娘はなんの力も持っていないように見える……」
人々が口々に言い募る内容に、ティアナは愕然とした。
「ま、待ってください! 私は普通の人間です! 魔王とは何の関係も――」
ティアナは慌てて主張するが、誰もティアナの言葉には耳を傾けない。
ただ、自分たちが喚んだ、都合の悪い存在をどう処理しようかを考えている。
おそらく、ティアナがどういう存在かなんて、彼らはどうでも良いのだ。
ユーリアが偽物だというのなら、そういうことになる。
自覚は全く無いものの、ティアナが本当に『救世の乙女』であるならば、世界を救うのに必要となるかもしれないのに。
ユーリアの不況を買わないようにすることの方が彼らには大事なのだ。
(なんて、なんて……身勝手なの?)
こちらの事情を無視して無理やり召喚しておいて、ティアナの話は何も聞かず、都合が悪そうだからと幽閉しようとしている。
震えるティアナを、クラウスがそっと抱き起こした。
「私には人間の少女に見えるし、魔の者の禍々しさも感じないが。突然呼び出して閉じ込めるのはいくらなんでも哀れだろう。この娘は私が預かろう」
黒髪の青年がそう言うと、場の空気がまた少し変わる。
「クラウス殿下がそういうなら、お任せ致しましょう」
「仮に魔のものだったとしても、お強い殿下なら問題ありますまい」
ユーリアがいくら力を持っていても、さすがに王族のほうが上ということか。
クラウスがティアナを庇うと、貴族たちは次々に賛同する。なんとも調子の良いことだ。
様子を見ていたユーリアは、少し拗ねたような表情をした。
「まあ、クラウス様はお優しいのね。わたくしの意見は聞いてくださらないの?」
「すぐに偽物だと判断するのは早計だろう。エーファ様も、初めは常人と変わらなかったが、努力を重ねて魔王を倒すほどの力をつけられたと言うではないか」
「……まあ、いいですわ。わたくしは下がらせていただきます」
そう言うとユーリアは踵を返す。
去り際、ぞっとするような冷たい眼差しでティアナを睨みつけて。
魔王は強い瘴気を放つ。何の力も持たない人間だと近づくことすらままならない。
強力な光の魔力を持っていれば多少は抵抗できるだろうが、無傷で魔王に近づくことができるのは、かつて魔王を封じた勇士の子孫であるユースティアの王族と『救世の乙女』だけ。
そしてその『救世の乙女』がティアナなのだという。
そうクラウスに聞かされるも、ティアナは正直信じることは出来ない。
あのユーリアの言うように、自分は何かの間違いで喚ばれてしまっただけなのではないだろうか。
そう漏らすと、クラウスは真剣な表情をした。
「同じ光の力を持つものとして、なんとなく分かる。君は本物の『救世の乙女』だ。どうしてもとは言わないが、魔王を倒すための訓練を受けてみては貰えないだろうか。どうしても嫌になってしまった場合は、いつでも、私が責任を持って君を家に送り届けると誓うから。――頼む」
「そんな、あの、頭を上げてください……」
王族に頭を下げられ、ティアナは焦った。
「わかりました! 自信はないですが、やるだけやってみるので……」
「本当か! ありがとう!」
ティアナが思わず承諾すると、クラウスはパッと顔を輝かせる。
深く考えず承諾してしまったが、まあ、いい経験になるかもしれない。
もし自分が『救世の乙女』でなかったとしても、戦う力を身に着けておくのは悪い選択肢ではないだろう。
ティアナ自身は無自覚だったが、昨年一緒に暮らしていた祖母を亡くしたばかりのティアナは、人のぬくもりに飢えていた。
だから、深く考えずに頷いてしまったのだ。
その選択が自身を、より強い孤独へ追い込むとは知らずに。
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