ティアナはそれでも世界を救いたかった

玉菜きゃべつ

文字の大きさ
3 / 19
1章 受難

3. ティアナの才能

しおりを挟む
 次の日からティアナの訓練が始まった。
 住んでいた森に出る魔物は角ウサギや魔鹿がせいぜいで、まともに剣を握るのも、戦闘魔法を学ぶのも初めてだった。
 
 剣の教師としてつけられたのは一人の下級騎士だった。
 平民上がりだという彼がティアナにつけられたのは、腕が立つということもあるが、他に誰も引き受ける人間がいないからだった。
 
 ティアナは年齢の割に小柄で体が薄く、魔術に精通している訳でもない。
 ユーリアの言葉がなくても、ティアナが魔王を倒せるなどとは誰も信じておらず、身分あるものは皆貧乏くじを引くのを嫌がった。
 表面上はクラウスの酔狂にあわせるが、それ以上関わりたくないというのが共通の見解だった。
 
 彼もただ、上からの命令で仕方なくティアナの指導を行うことになったのだ。
 よってその態度はお世辞にもいいとは言えなかった。
 初めてティアナと会ったとき、彼は馬鹿にしたように鼻で笑った。
 
「おいおい、こんなちっこいのが魔王を倒せる訳ねえだろ。殿下はこういうのが趣味なのか?」

 ティアナは何も言い返さず、ただ、よろしくお願いします、とだけ言って頭を下げた。
 彼の言うことは最もだ。やるだけやってみるが、クラウスの期待に応えられるとは自分でも思っていない。
 
 兵士は、ティアナに訓練用の模擬剣を渡した、
 
「ほら、構えろ。じゃあ、適当に打ち込むから。動けなくなったら終わりだ」
「え? そんな……。私、剣の経験なくて」
「いいから。打ち合ってればそのうち覚えるだろ。無理だと思ったら諦めて帰りな」
 
 兵士は真面目に教える気などなかった。
 適当に打ちのめして終わりにすれば良いと思っていた。
 無理なものは無理なんだとわからせて、さっさと元いた場所に帰らせる。
 それが自分の仕事だと思っていたし、周りからもそう思われていた。
 
 兵士は軽く振りかぶり、ティアナに向かって剣を振り下ろす。
 小娘を痛めつけるのはさすがに気が引け、急所は外し力も抜く。
 とはいえ普通の娘に避けられる筈もないのだが――。

 思いがけず剣から衝撃が伝わり、兵士は驚いた。
 ティアナが防いだのだ。
 ティアナ自身も防げるとは思っておらず、ただ唖然とした。
 
「……お前、剣の経験ないんじゃなかったのか?」
「無いです……。けど、なんか反射的に……」

 兵士は気を取り直して再び打ち込むが、やはりティアナはそれを防いだ。
 何度やっても同じことだった。
 兵士はだんだんと余裕をなくし、いつしか本気でティアナを倒そうとし始めた。
 
 彼は焦っていた。
 何故こんな娘が、こんな細い腕で、自分の剣を止めることができるのか。
 
 ティアナの方も驚いていた。
 反射的に体が動くし、それに慣れると頭もついてくるようになる。
 
 段々と動きが洗練されていくのを感じた。
 まるで、一度習得したことを思い出すかのように。
 体が慣れると、兵士の動きもよく見えるようになる。
 
(あ、隙が――)

 ティアナは思わず斬りかかった。
 
 次の瞬間、兵士は倒れ伏していた。彼には何が起こったのかわからなかった。
 兵士の中でも腕が立つ方だった彼は、訓練で倒れることなど、新兵時代を除きほぼ無い。
 多少油断していたとはいえ、自分がこんな少女に負けるなんて。そんな馬鹿な。
 
 兵士はただ、目の前の少女の底知らぬ力を感じ震えた。
 
 
 
 ◆◆◆
 
 
 
 魔術も同じことだった。
 初めは初歩の精霊魔法である《火矢》さえ覚束なかったが、それも一瞬。
 一月のうちに魔道士を名乗れるほどの実力を身に着けた。
 回復魔法にはそこまで適正がなかったようで、簡単に傷を塞ぐ程度のことしか出来なかったが、そもそも攻撃魔法も回復魔法も両方扱えること自体が稀だ。
 
 ティアナは驚異的な才能を持ちながらもそれに驕らず、ひたむきに努力を重ねた。
 
 そんなティアナを細かくサポートしてくれたのがクラウスだった。
 何か困っていることは無いかと気にかけ、疲れているようであれば無理やり休ませる。
 ときには城下町に連れ出し、休暇を楽しませることもあった。
 
 半年経つ頃には、ティアナは誰よりもクラウスを信頼するようになっていた。
 
「殿下が気にかけてくれて、すごく有り難いです。私、殿下がいなければ、きっと頑張れなかった。こんなに殿下に良くしてもらえるなら、『救世の乙女』も悪くないかなって、ちょっと思っちゃうんです」

 ティアナはそう言ってはにかんだ。
 
「……私が君を気にかけるのは、君が『救世の乙女』だから、ではない。いや、初めはそうだった、しかし――」

 いつもはっきりと物を言うクラウスにしては珍しく口ごもった。
 
「多分、私は……君に惹かれているのだと思う。その純真さに、ひたむきさに……」
「殿下……嬉しいです」
「……名前で呼んでくれないか、クラウス、と」
 
 
 そうして二人は恋人になった。
 甘い雰囲気の二人の関係は、すぐに城の人々の知るところとなる。
 
 しかし、それを歓迎しないものがいた。
 聖女ユーリアだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

老け顔ですが?何かあります?

宵森みなと
恋愛
可愛くなりたくて、似合わないフリフリの服も着てみた。 でも、鏡に映った自分を見て、そっと諦めた。 ――私はきっと、“普通”じゃいられない。 5歳で10歳に見られ、結婚話は破談続き。 周囲からの心ない言葉に傷つきながらも、少女サラサは“自分の見た目に合う年齢で学園に入学する”という前代未聞の決意をする。 努力と覚悟の末、飛び級で入学したサラサが出会ったのは、年上の優しいクラスメートたちと、ちょっと不器用で真っ直ぐな“初めての気持ち”。 年齢差も、噂も、偏見も――ぜんぶ乗り越えて、この恋はきっと、本物になる。 これは、“老け顔”と笑われた少女が、ほんとうの恋と自分自身を見つけるまでの物語。

隠された第四皇女

山田ランチ
恋愛
 ギルベアト帝国。  帝国では忌み嫌われる魔女達が集う娼館で働くウィノラは、魔女の中でも稀有な癒やしの力を持っていた。ある時、皇宮から内密に呼び出しがかかり、赴いた先に居たのは三度目の出産で今にも命尽きそうな第二側妃のリナだった。しかし癒やしの力を使って助けたリナからは何故か拒絶されてしまう。逃げるように皇宮を出る途中、ライナーという貴族男性に助けてもらう。それから3年後、とある命令を受けてウィノラは再び皇宮に赴く事になる。  皇帝の命令で魔女を捕らえる動きが活発になっていく中、エミル王国との戦争が勃発。そしてウィノラが娼館に隠された秘密が明らかとなっていく。 ヒュー娼館の人々 ウィノラ(娼館で育った第四皇女) アデリータ(女将、ウィノラの育ての親) マイノ(アデリータの弟で護衛長) ディアンヌ、ロラ(娼婦) デルマ、イリーゼ(高級娼婦) 皇宮の人々 ライナー・フックス(公爵家嫡男) バラード・クラウゼ(伯爵、ライナーの友人、デルマの恋人) ルシャード・ツーファール(ギルベアト皇帝) ガリオン・ツーファール(第一皇子、アイテル軍団の第一師団団長) リーヴィス・ツーファール(第三皇子、騎士団所属) オーティス・ツーファール(第四皇子、幻の皇女の弟) エデル・ツーファール(第五皇子、幻の皇女の弟) セリア・エミル(第二皇女、現エミル王国王妃) ローデリカ・ツーファール(第三皇女、ガリオンの妹、死亡) 幻の皇女(第四皇女、死産?) アナイス・ツーファール(第五皇女、ライナーの婚約者候補) ロタリオ(ライナーの従者) ウィリアム(伯爵家三男、アイテル軍団の第一師団副団長) レナード・ハーン(子爵令息) リナ(第二側妃、幻の皇女の母。魔女) ローザ(リナの侍女、魔女) ※フェッチ   力ある魔女の力が具現化したもの。その形は様々で魔女の性格や能力によって変化する。生き物のように視えていても力が形を成したもの。魔女が死亡、もしくは能力を失った時点で消滅する。  ある程度の力がある者達にしかフェッチは視えず、それ以外では気配や感覚でのみ感じる者もいる。

望まない相手と一緒にいたくありませんので

毬禾
恋愛
どのような理由を付けられようとも私の心は変わらない。 一緒にいようが私の気持ちを変えることはできない。 私が一緒にいたいのはあなたではないのだから。

プロローグで主人公が死んでしまう話【アンソロジー】

おてんば松尾
恋愛
プロローグで主人公が死んでしまう話を実は大量生産しています。ただ、ショートショートでいくつもりですので、消化不良のところがあるみたいです。どうしようか迷ったのですが、こっそりこちらでアンソロジーにしようかな。。。と。1話1万字で前後で終わらせます。物語によってはざまぁがない物もあります。 1話「プロローグで死んでしまうリゼの話」 寒さに震えながらリゼは機関車に乗り込んだ。 疲労と空腹で、早く座席に座りたいと願った。 静かな揺れを感じながら、リゼはゆっくりと目を閉じた。 2話「プロローグで死んでしまうカトレアの話」 死ぬ気で城を出たカトレア、途中馬車に轢かれて死んでしまう?

毒姫の婚約騒動

SHIN
恋愛
卒業式を迎え、立食パーティーの懇談会が良い意味でも悪い意味でもどことなくざわめいていた。 「卒業パーティーには一人で行ってくれ。」 「分かりました。」 そう婚約者から言われて一人で来ましたが、あら、その婚約者は何処に? あらあら、えっと私に用ですか? 所で、お名前は? 毒姫と呼ばれる普通?の少女と常に手袋を着けている潔癖症?の男のお話し。

【完結】無罪なのに断罪されたモブ令嬢ですが、神に物申したら上手くいった話

もわゆぬ
恋愛
この世は可笑しい。 本当にしたかも分からない罪で”悪役”が作り上げられ断罪される。 そんな世界にむしゃくしゃしながらも、何も出来ないで居たサラ。 しかし、平凡な自分も婚約者から突然婚約破棄をされる。 隣国へと逃亡したが、よく分からないこんな世界に怒りが収まらず神に一言物申してやろうと教会へと向かうのだった… 【短編です、物語7話+‪α‬で終わります】

6回目のさようなら

音爽(ネソウ)
恋愛
恋人ごっこのその先は……

伝える前に振られてしまった私の恋

喜楽直人
恋愛
第一部:アーリーンの恋 母に連れられて行った王妃様とのお茶会の席を、ひとり抜け出したアーリーンは、幼馴染みと友人たちが歓談する場に出くわす。 そこで、ひとりの令息が婚約をしたのだと話し出した。 第二部:ジュディスの恋 王女がふたりいるフリーゼグリーン王国へ、十年ほど前に友好国となったコベット国から見合いの申し入れがあった。 周囲は皆、美しく愛らしい妹姫リリアーヌへのものだと思ったが、しかしそれは賢しらにも女性だてらに議会へ提案を申し入れるような姉姫ジュディスへのものであった。 「何故、私なのでしょうか。リリアーヌなら貴方の求婚に喜んで頷くでしょう」 誰よりもジュディスが一番、この求婚を訝しんでいた。 第三章:王太子の想い 友好国の王子からの求婚を受け入れ、そのまま攫われるようにしてコベット国へ移り住んで一年。 ジュディスはその手を取った選択は正しかったのか、揺れていた。 すれ違う婚約者同士の心が重なる日は来るのか。 コベット国のふたりの王子たちの恋模様

処理中です...