ティアナはそれでも世界を救いたかった

玉菜きゃべつ

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3章 幸福

18. ヴァーリの諦念

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 この日々を何周したかわからないが、初めてティアナと出会ってから、日数的には数ヶ月経った頃だった。
 幾度となく訪れるクラウスを殺めたが、最近はここに来ずにどこかで死んでいるようで、不規則に時間が巻き戻るようになっていた。
 
 ヴァーリは別に永遠にこの生活が続いたって構わなかった。
 同じ生活を繰り返していても一向に飽きないし、そもそも長命なエルフは人間では考えられないほど気が長い。
 愛する人と送る日々は、幸せだった。
 
 
 ティアナは、雨の降る日はよく窓辺でぼんやりしていることが多かった。
 そういう時の彼女は、とても穏やかな顔をしていて、ああ、やはりエーファとは違うんだな、と思わされる。
 エーファは晴れが好きで、天気が悪いと一日機嫌が悪かったから。
 
 ぼんやりしているティアナに、蜂蜜をたっぷり入れた温かい紅茶を持っていくと、本当に嬉しそうに顔を綻ばせお礼を言う。
 出来ればずっとその顔を見ていたかったけれど、ヴァーリには終わりが近いことが分かっていた。
 
 
 見計らったように、コンコン、と控えめなノックの音が響いた。
 
「はーい! ……誰かな? ちょっと出てきますね」
 
 慌ててティアナが立ち上がり、来訪者を迎えに行く。
 ――彼が、ノックをするのは初めてだった。
 
「ティアナ、久しぶりだな」
「クラウス……」

 ティアナは、怯えたように少し後ずさる。
 それを見たクラウスは、ひどく傷ついたように、その端正な顔を歪ませた。
 
「ティアナ、君は……。私と、ユーリアとの距離が近いから嫌だったのか? それが辛くて、寂しい思いをさせてしまったから、私の元に帰ってこなくなってしまったのか?」
「……違う、違うよ、クラウス……」

 どこかズレたクラウスの問いかけに、ティアナが絞りだすように答えた。
 その声音には、微かに怒りが滲んでいる。

「確かに、ユーリア様のことは苦手。だけど、私が辛かったのは……貴方の、そういうところだよ、クラウス」
「……そういうところ?」
「貴方は、私を手元に置きたがるだけで、私のことを分かろうともしなかった。……私に興味が無いんだよ」
「そんなことはない!」
「そうだよ、だって」

 ティアナはヴァーリの方を一瞬見て、それからクラウスに向き直った。
 
「ねえ、クラウス、私はね、星空を見上げるのが好きなの」
「……」

 面食らったようにクラウスが黙り込むが、ティアナは構わずに続けた。
 
「窓辺で雨音を聞くのが好き。小さな花が好き。蜂蜜をたっぷり入れた紅茶が好き。大きな音と、真っ暗な闇が苦手。……クラウスは、知ってた?」
 
 何が言いたいのかが理解できないクラウスは、ただ首を振った。
 ティアナは少し寂しそうに笑う。
 
「私も自分では気付いてなかった物もあるんだけどね。……ねえ、何が好きかで何が嫌いかにも気付かない相手のこと、興味があるって、好きだって言えるのかな?」
「それは……」

 クラウスはそれ以上言葉が出てこないようで、悔しそうな表情で黙った。
 
「ただ側に居ることと、寄り添うこととは違うんだよ。ヴァーリと過ごして、それが分かった。貴方は私を思い通りにしたいだけだった。……私は貴方が側にいても、ずっと孤独だったんだって」
「ティアナ……」
「……でもね、貴方がこうやって歩み寄ってくれたことは、嬉しいと思ってる。だから、私も、逃げるのはやめるね」

 そう言ってティアナはヴァーリの方を向いた。
 強い意思が表れたルビーの瞳は、キラキラと輝いていて、ヴァーリは思わずどきりと胸が鳴るのを感じる。
 
「私はやっぱり、世界を救いたいみたい。……ヴァーリも手伝ってくれますよね?」

 ティアナがそう言うなら是非もない。
 それはこの生活の終わりを意味していた。
 多少はクラウスも成長したようだし、潮時だろう。
 ……もしかしたら、ティアナはクラウスの元へ戻ってしまうかもしれないけど、でも、それも仕方ないことだ。
 
 一息ついて、ヴァーリは演技がかった口調で言った。
 
「勿論。賢者ヴァーリが助力するんだ。絶対負けることは無いさ」
  
 
 
 ◆◆◆
 
 
 
 ティアナとクラウス、そしてヴァーリが力を合わせれば、魔王は苦戦していたのが嘘のように倒すことが出来た。
 エーファは仲間を守る際に普段の何倍も力を発揮する戦士だった。
 クラウスが直接戦闘の役に立ったようには見えなかったが、居るだけでも効果はあったのだろう。
 
 魔王を倒すと同時に魔王城は音を立てて崩れ落ち、急いで脱出すればそこにはただ平穏な草原が広がるばかりだった。
 こうして世界に平和は訪れたのだ。
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