君は魔法使い

悠木全(#zen)

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2.本物の魔法

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 マジシャンの男の子の元から立ち去ろうとして、身をひるがえしたら。

 突然、手を掴まれた。

 思わずぎょっとして振り返ると——そこには男の子の真面目な顔があった。

「ちょっと待って」

「なに?」

「もうちょっとだけ……話がしたいんだけど」

「何を?」

「実は俺、この町に来たばかりで……」

 窺うように見つめてくる男の子は、まるで迷子の子供のような顔をしていた。

 こういうのを、母性本能をくすぐられるっていうのかな?

 私はしょうがないなぁと思いながらも、悪い気はしなかった。

「ああ、なるほど。町のことを教えてほしいんだね。じゃあ、お婆ちゃんにお弁当を届けてからでもいいかな?」

「お婆ちゃん?」

「うん。私のお婆ちゃんが、この公園のどこかにいるんだ」

「そう……なんだ。わかった、待ってる」

 どうやら私は、この綺麗な男の子に懐かれてしまったらしく、男の子はマジックの道具を片付けると、お婆ちゃんを探す私の後ろをついてまわった。

 それから広い公園をあちこち探すうち——大きな銀杏の木の下にいる、ワンピースを着たお婆ちゃんの姿を見つけた。
 
「あ、お婆ちゃん見つけた」

「おや、結菜ゆいなじゃないか」

「お婆ちゃん、お弁当を届けにきたよ」

「まあ、ありがとう」

「今日は寒いし、帰ったほうがいいんじゃない?」

「そんなわけにはいかないよ。私はあの人が来るまでここにいないといけないんだ」

「あの人? あの人って誰?」

「おや、結菜には言ってなかったかい」

「うん。詳しく教えてほしいけど……今日は連れがいるから……」

 お婆ちゃんにマジシャンの男の子を紹介すると、男の子は控えめに告げる。

「俺のことはいいから、君のお婆ちゃんの話を聞きなよ」

「でも、お婆ちゃんの話って長いんだよ」

「かまわないよ」

 彼もなぜか聞きたがったので、結局私はお婆ちゃんの話を聞くことにした。

 長時間立っていて疲れたのだろう。お婆ちゃんは寄り掛っていた木から離れると、近くにあるベンチに座った。

 そして私たちもお婆ちゃんを囲むようにして座ると、お婆ちゃんはゆっくりと思い出を言葉に乗せた。

「実はね。お婆ちゃんには若い頃、小説家の恋人がいたんだよ。でも、安定しない仕事についている彼のことを家族に反対されてね。無理やり他の人と結婚させられそうになって……駆け落ちすることにしたの。でも、待ち合わせ場所にあの人は来なくて、その翌日……彼が死んだことを知らされたんだよ」

 お婆ちゃんの突然の告白に驚いた私は、大きく見開くと——とっさに訊いていた。

「え? じゃあもしかして、お爺ちゃんとは無理やり結婚させられたの?」

「違うわよ。そのあとにまた恋愛して、今度は家族にも認められて結婚したのよ。……でもね、私が結婚して間もない時、町であの人の姿を見かけたの。だから……もしかしたら、死んだなんて嘘だったんじゃないかと思って」

「それでお婆ちゃんはその人を待ってるの? 生きてるかどうかもわからないのに?」

「そうだよ。毎年この時期になると、待ちたくなるのよ。あの時の気持ちが蘇って……」

「お爺ちゃんよりも好きなの?」

「ふふふ、心配しないで。私が一番大切なのはお爺ちゃんだよ。けど、あの人にどうしても言いたいことがあってね……」

「そっか……その人に、会えるといいね」

 生きているかどうかもわからない人を待つなんて、バカバカしいかもしれないけど……いつまでも待つお婆ちゃんの姿が素敵に見えて、会えたらいいなと思った。

 それにお婆ちゃんは待つのも楽しそうだし……私が邪魔しない方がいいかな?

 なんて、そんなことを思っていると——ふいに、男の子が呟く。

「——結菜は変わらないね」

「え?」

 まるで私のことを知っているくちぶりに、目を瞬かせていると、男の子は思い立ったように立ち上がって告げる。

「よし、じゃあ僕がその願いを叶えてあげるよ」

「どういうこと?」

「ちょっと来て」

「え、ちょ、ちょっと!」

 男の子に手を引かれて、私はベンチの後ろにある茂みに回りこんだ。

 直後、男の子は手のひらに黒いボールペンで何かを書き始める。

 そして何かを書き終えた男の子は、手のひらに口付けをしながら囁いた。

「あなたに幸運を」

 すると次の瞬間、辺りが真っ白な光に包まれたかと思えば——光は一瞬で消えた。

 何が起きたのかわからなくて、私が瞠目する中、お婆ちゃんの方から小さな悲鳴があがる。

 慌てて視線をやると、お婆ちゃんのベンチの前には、知らない男の人が立っていた。

 三十代前半くらいだろうか? くたくたのシャツに紺のパンツを履いたその人は、お婆ちゃんを見てにっこりと笑っていた。

「——あなたなのですね?」

 お婆ちゃんが震えた声で訊ねると、男の人は穏やかに笑って肯定する。

「君は、ずっと変わらないね」

「いいえ。私は老いてしまったわ」

「いや、君の心はずっと変わらない。透明な色をしているんだ」

「透明な色……?」

 驚いた顔をするお婆ちゃん。

 茂みで見守っていた私は、思わず男の子の袖を引っ張る。

「もしかして、本当に会えたわけじゃないよね?」

 私が目をぱちぱちさせて訊くと、男の子は得意げに笑う。

 男の子の笑みを意味深に思いながらも、私は再びお婆ちゃんに注目する。

 お婆ちゃんはハンカチで目頭を押さえていた。

「ずっと、お会いしとうございました」

 お婆ちゃんの言葉に、向かいにいる男の人は苦い笑みを浮かべた。

「君が幸せで良かった」

「私はあなたにずっと言いたいことがありました。私はあなたといて……幸せでした。ありがとうございました」

 そんな風に言ってお婆ちゃんが笑うと、男の人は消えてしまった。

 その後は、まるで何もなかったかのように、遊具で遊ぶ子供の声だけが響いた。

 なんだか夢みたいだけど、泣いているお婆ちゃんを見たら、夢じゃないことを知る。

 私は茂みに隠れたまま、マジシャンの男の子に訊ねる。

「今のはいったい何? どういうこと? あなたはいったい何者なの?」

「ふふふ……今のは『遠い日に会えなくなった恋人の本心を聞いちゃおう』っていう魔法だよ」

「魔法? あなた……魔法使いなの? 本当に?」

、信じてくれるよね?」

「よくわからないけど、あなたは私を知っているの?」

「それは内緒」

 人差し指を口に押して当てて、綺麗に笑う男の子。

 これが、私と彼との出会いだった。
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