君は魔法使い

悠木全(#zen)

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6.凄腕のマジシャン?

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 ***



「えっと、自販機は……ん?」

 自販機を探して食堂にやって来た私は、ふいに、中性的な顔立ちの男の子に目を奪われる。

 オレンジ色に髪を染めたその子は、人気ひとけのない食堂の片隅でハンカチを広げて何かしていた。

 気になって近づいてみると——彼は左手にかぶせたハンカチを勢いよく取り払う。

 すると、拳の上に一本のバラが出現した。

「すごい! 本物のマジックだ」

 思わず声に出してしまった私は、手のひらで口を押さえる。

 盗み見していたことがバレてしまった。

 そんな私を見て、男の子は驚いた顔をしていたけど、そのまま何も言わずに立ち去った。

 小さくなる背中を見送りながら、私は思わず小さなため息を落とす。

「あんな人がいれば、きっと真紀先輩も喜ぶだろうな。むしろ上手すぎてショックを受けるかな?」

 なんて呟いていると、ふと後ろから声がした。

「すごい……魔法みたいだ」

 振り返ると、大迫くんがそこにいた。

「あれ? 大迫くんは素振りやってたんじゃ……?」

「お茶代をもらってきたよ。真紀先輩が、歓迎会もかねて出してくれるって」

「ありがとう」

「それより、今の人は誰?」

「え?」

「今、そこで花を出した人」

「私も知らないよ。他のクラスの人じゃない?」

「さっきの人、魔法使いなのかな?」

「魔法使いはそういないと思うけど……」

「さっきの人も奇術同好会に入ってくれないかな」

「うーん……本格的な手品がしたい人だったら、奇術同好会はないんじゃない?」

「どうして?」

「……どうしてって……」

 まさか真紀先輩が下手だからとは言えず、言葉を濁す中、大迫くんはオレンジ頭の彼が去った場所をじっと見つめていた。



 ***



「真紀先輩!」

 自販機で買ったジュースを持って空き教室に帰るなり、大迫くんは興奮気味に口を開いた。

 すると、真紀先輩は丸い目をさらに丸くする。

「大迫くん、どうした?」

「さっき、同好会に入るべきメンバーを発見しました」

「おお、同好会に入会希望か?」

「いえ、これから説得しようと思って」

「そうか。どんなやつだ?」

「魔法使いみたいなやつでした」

 嬉しそうに言う大迫くん。

 けど、魔法使いみたいなやつってもしかして……。

「魔法使い?」
 
 事情を知らない真紀先輩が首を傾げていると、大迫くんは大袈裟に手を広げて説明した。

「はい。手からパッと花を出したんです」

「それは教えてほし……いや、俺の次に有望なマジシャンだな」

「だから、俺がなんとかして連れてきます!」

「頑張れよ」

結菜ゆいなも行こう」

「え? 私も?」

「こっちきて」

 大迫くんに手を引かれて教室を出た私は、マジシャンの男の子がいた食堂に連れて行かれた。

 無人の食堂は、電気もほとんどついてなくて、閑散としていた。
 
「魔法使いみたいな人って、さっきのオレンジ頭の人のことだよね? ここにはもういないみたいだよ? どうするの?」

「そうだね。呼びだしてみようか」

「呼びだす? クラスもわからないのに?」

「ちょっと待ってて」

 大迫くんは手のひらにボールペンで何かを書き込むと、小さくつぶやく。

「あなたに幸運を」

 すると、目の前に光が集まったかと思えば——光はくねくねと動いて人間の形になり、男の子の姿になる。

 それは、さっきのオレンジ頭の男の子だった。

「え」

 男の子は現れるなり、誰よりも動揺した顔をしていた。

 私は思わず大迫くんに耳打ちする。

「もしかして大迫くん、魔法使ったの?」

「うん。これは『気になる男の子を呼びだしちゃうぞ♡』っていう魔法だよ」

「こんな場所で……魔法が他人にバレると困るんじゃないの?」

「え? バレる?」

「こんなの、自分からバラしてるようなものでしょ?」

「そっか……じゃ、あとで」

「記憶を消すの?」

「いや、見なかったことにしてもらおう」

 行き当たりばったりの大迫くんに、私は頭が痛くなる。

 そんな中、オレンジ頭の男の子は、状況が飲み込めない様子で、呟くように告げる。

「……俺はどうしてここに?」

「ど、どうしたんですか?」

「俺は家に着いたはずだったのに……」

 どうやら、帰宅したばかりだったらしい。

 男の子の話を聞いて、焦った私は思わずフォローするけど……。

「寝ぼけて学校に戻ってきたんじゃないですか? ははは」

「え? 違うよ、俺がまほ……」

 自分からバラしかけた大迫くんの口を、とっさに押さえていた。
 
 なんなの……大迫くんってもしかして天然なの?

 なんだか呆れてしまった私は、躊躇いながらも、仕方なくオレンジ頭の男の子に告げる。

「あのよければ、話を聞いてもらえませんか?」

「なんですか?」

「実は私たち、奇術同好会の者なんですが……」

「え? この学校には奇術部はないって聞いたけど」

「部はないです。まだ小さな同好会なので、部費ももらえないですが……よければあなたのような、凄腕マジシャンに入ってもらいたいな、と思って」

「悪いけど……俺、手品は嫌いなんだ」

「え? あんなに上手なのに?」

「だから、奇術同好会には入れない」

 厳しい表情で言うオレンジ頭の男の子だけど、大迫くんはまるで空気を無視して告げる。

「嫌いっていうのは嘘だよね? だってさっき手品してたし」

「嫌いなものは嫌いなんだ。悪いけど、他を当たってくれる?」

 結局、彼は冷たい顔をして、去っていった。

「あーあ、機嫌を損ねちゃったみたいだね」

 私が少しだけ残念に思っていると、大迫くんがぼんやりとした顔で口を開く。

「あの人……」

「どうしたの?」

「マジックしてた時だけ、笑ってたんだ」

「そうだった?」

「うん。だからきっと、嫌いなわけない」

 そう言って大迫くんは、オレンジ頭の男の子が去った場所を見つめながら笑みを浮かべた。
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