君は魔法使い

悠木全(#zen)

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14.禁忌の魔法

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 ***



 学校の帰り道。同じ方角に住んでいることがわかって、一緒に帰るようになった私と大迫くんだけど——今日の大迫くんはどこか元気のない様子で俯いていた。
 
「結局、今日も学園祭でやることが決まらなかったね」

「……うん」

「どうしたの? 大迫くん。今日はやけに静かだね」

「そうかな?」

「ごめんね。私ばっかり喋って」

「……結菜は先輩と仲いいよね」

「ああ、それは……私の交友関係が狭いから」

「結菜は……先輩のこと、好き?」

「え? いきなり何? そりゃ、先輩のことは嫌いじゃないけど……まあ、好きだと思うよ。友達として」

「……そっか」

「大迫くん、どうしたの?」

「実は俺……ひとつだけ使えない魔法があるんだ」

「へぇ……どんな魔法?」

 訊ねると、大迫くんは真っ直ぐ前を見つめる。

「恋の魔法だよ」

 大迫くんが苦い顔で告げる中、すぐ近くから視線のようなものを感じた気がした。



 ***



「おはようございます、三木みき結菜ゆいなさん」

 ——翌朝。

 登校途中の住宅地で、藤間ふじま先輩に遭遇した。

 先輩とは家が逆方向なはずだけど、今日は何か事情でもあるのだろうか。

 なんだか意味深にニヤニヤしている先輩に、とりあえず私は挨拶をする。

「あ、おはようございます。藤間先輩はこんなところで何をしているんですか?」

「あなたをずっと待っていました」

「私を?」

「ええ。ちょっとお話がありますので、一緒に来てくれませんか?」

 そう言って、藤間先輩に案内されたのは、学校の裏庭だった。

 誰もいなくて静かな裏庭に連れて来られた私は、違和感を覚えながらも、気にしないふりをする。

「それで、話ってなんですか?」

「私の目を見てください」

 私は言われた通りに藤間先輩の大きな目を見つめた。

 すると、世界がねじれるような感覚に陥って……頭がぼんやりとする。

「あなたは大迫様のことが好きですか?」

「……はい、友達として好きです」

「それではいけません。あなたの眠っている感情を大迫様に向けていただかなくては」

「眠っている感情?」

「恋心ですよ。あなたは、大迫様のことを——」

 その時だった。

「何してるの?」

 大迫くんが裏庭にやってきた。

 どうして私たちがここにいることがわかったのだろう。

 そんな風にぼんやりと考えていると、大迫くんは藤間先輩にいつになく厳しい目を向ける。

「ねぇ、今何してたの? 藤間先輩」

「いえ……その……大迫様の恋のお手伝いを、と」

「今、結菜によくない魔法をかけてたよね?」

「……はい。ですがこれは大迫様のためで……」

「悪い魔法は使っちゃダメだよ——結菜、聞こえる?」

 大迫くんに顔を覗き込まれて、私は目を瞬かせる。

「……大迫くん?」

「良かった……間に合ったみたいだね」

「私、いったい何してたんだっけ?」

 確か、藤間先輩に呼び出されて、変なことを聞かれた気がするんだけど——なんだか頭にモヤがかかって、思い出せなかった。

 そんな風に私が必死になって思い出そうとしていると、藤間先輩が固唾を飲んで口を開いた。

「大迫様」

 すると、大迫くんはいつになく厳しい口調で告げる。

「先輩、人の心を操る魔法は、誰も幸せにできないんです」

「ですが私は——」

「だったら、先輩が身をもって体験しますか?」

「申し訳ありませんでした」

「もう二度とこんなことしちゃだめですよ?」

 大迫くんが怒った顔で念を押すと、藤間先輩はこくりと小さく頷いた。

「……二人とも、どうかしたの?」

 ようやくハッキリしてきた頭で訊ねると、大迫くんは心配そうに私の顔を覗き込む。

「結菜、大丈夫? どこか苦しかったりしない?」

「うん、大丈夫だよ」

「良かった」

「今、何があったの?」

「実は藤間先輩が結菜に——」

 言いかけた大迫くんに、藤間先輩がかぶせるようにして告げる。
 
「未遂ですから、いいじゃありませんか!」

「……未遂って、藤間先輩は私に何をしようとしたんですか?」

 なんだか怪しい藤間先輩に私が詰め寄っていると、ふいに足音とともに聞き慣れた声がした。

「——なんだなんだ。裏庭から声が聞こえると思ったら……こんなところで何やってるんだ? みんな早く校舎に入れよ」

 風紀委員の腕章をつけた真紀先輩だった。

 どうやら校舎の見回りをしているらしい。

 真紀先輩は私たちを見つけるなり、教室に入るよう促した。

「真紀先輩、本当に風紀委員だったんですね」

「なんだよ、疑ってたのか?」

「いえ、似合わないと思って」

「結菜は正直者だな」

「先輩は嘘くさい人ですよね」

「言ったな~」

「ひょ、ひょっとへんはい! はめへくらはいよ!」

 真紀先輩に口の端を引っ張られて、私は手足をぶんぶん振り回す。

「よく伸びる顔だな」

「ちょっと! 何するんですか!」

「いて!」 

 私が真紀先輩の足を踏んづけて威嚇する中——それを見ていた大迫くんは、どこか悲しそうに笑っていた。

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