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20.決意
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全ての授業を終えて、廊下を歩いていた私——結菜は、大迫くんと学園祭の話で盛り上がっていた。
中学の時と違って、クラスや部活の出し物にも参加するし、ワクワクが止まらない中、大迫くんもさっきの憂鬱そうな顔はどこへ行ったのか、いつもの元気を取り戻していた。
そして二人で談笑するうち、あっという間に部室にたどり着いたところで、大迫くんが勢いよくドアを開ける。
「こんにちは!」
大迫くんが挨拶すると、真っ先に窓際の長谷部くんがこちらに笑顔を向けた。
「お、二人とも、ようやく来たか」
「なんだか今日も暗いね、真紀先輩。まだ沈んでるの?」
私が小声で長谷部くんに訊ねると、長谷部くんはやれやれとため息を吐いた。
「仕方ない。学園祭が終わるまではあの調子じゃない?」
「そこまで学園祭に賭けてたんだね——先輩!」
相変わらず三角座りで部屋の隅にいる真紀先輩に声をかけると、先輩は泣きそうな顔でゆっくりと立ち上がる。
「なんだよ結菜……俺の青春は終わったんだ」
「何を言ってるんですか。ステージならとれましたよ」
「え?」
真紀先輩は大きく見開くと、私の肩を揺さぶりながら確認した。
「それは本当か? 結菜」
「は、はい。学園祭の前に、ステージ借りました」
「学園祭の前?」
「大迫くんの提案で、学園祭じゃない日にステージを借りたんです」
「学園祭じゃない日にステージって……観客どうするんだよ」
「それは大迫くんがなんとかしてくれるらしいですよ」
「……」
学園祭前という提案に、真紀先輩が困惑して考え込む中、素振りをやめた藤間先輩が手を叩きながらやってくる。
「さすが大迫様! 名案ですね。観客でしたら、私もお力になれるかと」
……そういえば藤間先輩も魔法使いなんだよね……けど、この人ちょっとアレだし、頼っても大丈夫なのかな?
「結菜さん、ご心配には及びません」
「あ、聞こえてた!?」
「私は大迫様のためでしたら、たとえ火だるまの海でも飛び込んでみせましょう!」
「火だるまの海ってなんですか」
「ご存じではありませんか? その昔、大魔法使い様が——」
藤間先輩が言いかけた時、かぶせるようにして大迫くんが告げる。
「藤間先輩、余計なことは言わないで」
「……どうしてですか? 大魔法使いが英雄と呼ばれるゆえんとなったあの出来事を言ってはいけないなんて」
不機嫌な顔を見せる大迫くんに、藤間先輩は目を白黒させていた。
「藤間先輩、なんでそんな説明口調なんですか」
「まあ、とにかく。大迫様はすごい御方なのですよ」
「そんな凄い人に、藤間先輩はよくケンカを売りましたね」
「なに? 大迫のやつ、そんなに強いの?」
私が苦笑していると、長谷部くんも話に加わってくる。
藤間先輩と大迫くんの話に、長谷部くんも興味津々のようだった。
「長谷部くん」
「どっちも弱そうに見えるけど、二人とも武闘派なんだ?」
「そ、それより、ステージで何をするか決めようよ——って、真紀先輩! 机で寝ないでください! ステージで大きなマジックやるんでしょ?」
「結菜……そこまでして、俺の手品が見たいのか?」
「ええ、見たいですよ。約束したでしょう? 私が最前列で見てるって」
「え? 約束って……夢じゃなかったのか?」
「夢じゃありませんよ。だから、練習してください」
「……わかった。結菜がそういうなら、練習する! じゃあ、素振り百回だ!」
「なんでそこからなんですか……」
「素振りも大事なことだからな! 皆の呼吸を合わせるんだ」
やる気を取り戻した真紀先輩の傍ら、大迫くんはなぜか暗い顔をして視線を落とす。
その違和感に気づいた私が、声をかけると——
「大迫くん?」
「ごめん……今日はちょっと、調子が悪いから……先帰ります」
いつも率先して素振りをやる大迫くんが帰り支度を始めた。
「大迫様、大丈夫ですか? なんなら、私も一緒に帰りますが」
心配そうに顔を覗き込む藤間先輩に、大迫くんは苦笑いを浮かべる。
「大丈夫です。みんなは素振り頑張ってください」
「いやですよ、大迫様がいないのに素振りだなんて」
「なんだと。じゃあ、誰が素振りやるんだよ」
誰も素振りをやりたがらない様子を見て、ふてくされる真紀先輩に、私は呆れた目を向ける。
「先輩がやればいいんじゃないですか?」
「俺は毎日家でやってるからいいんだよ」
真紀先輩がドヤ顔で言う中、大迫くんは静かに教室を出て行った。
「なんだか心配だな……大迫くんが元気ないなんて。やっぱり私、大迫くんと一緒に帰ります。家も近いし」
私も帰る支度をすると、真紀先輩は手をひらひらと振ってみせた。
***
「大迫くん!」
帰り道の住宅街。
早足の大迫くんにようやく追いついた私が呼び止めると、大迫くんは振り返って不思議そうな顔をする。
「え? 結菜? どうして?」
「大迫くんが心配で、私も奇術部さぼっちゃった」
「……いいのに」
「私が一緒に帰りたいと思っただけだから、気にしないで」
「結菜……ごめん」
「ふふっ、大迫くんは遠慮しすぎだよ。たまには頼ってくれたっていいのに」
「……ねぇ、結菜……結菜は先輩のことが好きなの?」
「またそれ聞くの? もう、明美といい、うんざりだよ」
「でも……結菜は先輩と仲いいから」
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「俺は……手品をする時の輝いてる先輩が好きで……俺もそうなりたいと思って」
「手品してる時、大迫くんだって輝いてるよ」
「……そんなことないよ。俺なんかが先輩と手品をする資格なんてないんだ」
「どうしてそう思ったの?」
「俺は、先輩に悪いことをしたから」
「悪いこと? どんなこと?」
「先輩と結菜の邪魔をしたんだ」
「邪魔? なんのこと? よくわからないけど……後悔したことがあるなら、それを挽回するくらい頑張らなきゃ」
「……でも」
「誰だって、間違うことなんてあるし……本当に悪い人は、悪いことをして悩んだりしないと思うよ」
「結菜……ありがとう。そうだね……今度こそ、先輩のために動かなきゃ」
そう言って大迫くんは、強い眼差しを遠くに向けた。
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