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64.先代の大魔法使い
しおりを挟む「まだ……結菜が覚醒してないのに……」
燃えるような目をした大迫くんは、そう言って自分を抱きしめる。
その体からは火花のようなものが散っていた。
「大迫くん!」
私は大迫くんに近づこうとするけど、それを拓未くんが手で止める。
「結菜ちゃんは下がって! 啓太さんの様子がおかしい」
「ゆ……いな……逃げて」
絞りだすように告げる大迫くんの周囲から、湯気のような揺らめきが立ちのぼっていた。
「大迫くん?」
「——あああああ!」
悲鳴をあげた大迫くんの体が、青い炎を纏う。
その異様な光景に、私は言葉を失くしていた。
そんな中、拓未くんが私に告げる。
「結菜ちゃん、ひとまずここを離れよう」
「どうして? 大迫くんを放置なんて出来ないよ」
「死にたいの!?」
「私は絶対、大迫くんを守るんだから」
「本当に君は……頑固だな」
やれやれといった感じでため息を吐く拓未くんを見て、私は違和感を覚える。
「拓未くん?」
一瞬、拓未くんの姿に、大迫くんが重なって見えた気がした。
なんだろう……この感じ。
とても懐かしい匂いがする。
そんなことを思っていると、ずっと黙っていた藤間先輩が、我に返ったように拓未くんに訊ねた。
「これはどうなっているのですか?」
「他の魔法使いに刺激されて、啓太が暴走しちゃったみたいなんだ」
「なるほど」
「どうする? 二人とも、戦う気満々の顔してるけど」
茶化すように言った拓未くんに、私はムッとした顔を向ける。
「私は戦いたいんじゃない、大迫くんを元に戻したいの」
「だったら、君の力も解放するしかない」
「私の力の解放?」
「結菜ちゃん、ちょっとだけ痛いかもしれないけど——」
そう言って、拓未くんは手のひらにボールペンで何かを書き込んだ。
その瞬間、拓未くんの姿に再び大迫くんの姿が重なって見える。
なんだか別人のような拓未くんに、私はおそるおそる訊ねた。
「あなた……いったい?」
すると、拓未くんが答える前に、藤間先輩が口を開く。
「大魔法使い様……?」
これでもかと見開く藤間先輩を見て、拓未くんは楽しそうに笑った。
「啓太は僕に似て、魔力が不安定だな……ねぇ、結菜ちゃん。目を閉じて」
「……え?」
いつもと違う拓未くんに目を閉じるように言われて、なんとなく不安になる私だったけど……どうしてだろう。今の拓未くんなら頼ってもいいような気がして、私はためらいがちに目を閉じる。
すると、額に何か温かいものが触れた。拓未くんの手のひらだろう。
それはだんだんと熱くなり——全身が火だるまのような熱さになる。
「うっ……」
思わず逃げ出したい衝動にかられる私だけど、ぐっと堪えてその場に立っていた。
「さぁ……結菜ちゃん、思い出して」
「思い出す……?」
「そうだよ。本当の君を思い出すんだ」
拓未くんが言った直後、私の視界は暗転した。
***
「ねぇ、鏡……聞いてくれるかい?」
気づくと、私の前で大迫くんが難しい顔をして立っていた。
しかも今よりもずっと大人びた顔をした大迫くんは、レースでひらひらしたシャツを着ていて、なんだか悲しげな表情で私をじっと見つめていた。
————違う……これは大迫くんじゃない。
そう気づいて、私は何か言おうとするけど——気持ちとは裏腹に、意図しない言葉が口を飛び出した。
『どうしたんですか? 大魔法使い様』
その言葉で気づいた。
目の前にいるのは先代の魔法使いで、大迫くんじゃないってこと。
そう知った時、大魔法使いはいっそう悲しい顔をして告げた。
「また僕の未来が見えたんだ。本当に嫌になるよ……知りたくもないのに、眠るたびに未来の夢を見てしまうんだ」
ため息ばかりつく大魔法使いに、私は他人事のように告げる。
『未来を先に知れて、良かったではないですか』
「全然よくないよ。先に未来を知って得なんてないよ」
『そうでしょうか』
「ああ、そうだとも」
『それで、どんな夢をご覧になられたのですか?』
「鏡のくせに、気になる?」
『はい、気になります。私は夢というものを見ないので』
「そうかい。じゃあ、特別に教えてあげよう。といっても、面白い話でもないけどね」
それから大魔法使いは、自分の未来について語った。
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