アンチ悪役令嬢の私がなぜか異世界転生して変人王子に溺愛される話

悠木全(#zen)

文字の大きさ
28 / 80
第二章

28.魔王がいるってか

しおりを挟む


 それから私とグクイエ王子は、執務室に移動した。初めて入ったジンテール王子の仕事場は、私室と変わらない本ばかりの部屋で、窓際には大きな執務机が据えられていた。

 そして執務机の前にある豪華な応接セットにグクイエ王子と私が座ると、ジンテール王子も執務机に腰を落ち着かせた。

 なんだろう。この物々しい雰囲気は。

 私が何かしたのだろうか? などと思っていると、ジンテール王子がため息混じりに告げる。

「実は、ケイラにお願いがあるんだ」

「私に?」

「キウイ王国が魔王に乗っ取られた。だから、聖女メラニンとともに魔王を倒してほしい」

「はあ!?」

 私が心底驚いていると、向かいに座っていたグクイエ王子も声を上げた。

「ちょっと待ってよ! 魔王がいるなんて——そんな危険な場所に恋人を送り込むなんてどうかしてるよ」

「このまま放っておけば、こちらの国にキウイ王国が再び侵攻してくる可能性があるんだ」

「だからって——」

「何もケイラ一人を送るわけじゃない。魔王を倒せるのは聖女だけだ。各国の聖女が集まり、ともに戦ってもらう」

 そのジンテール王子の抑揚のない声に違和感を覚えて、私は彼の目をじっと見据えた。するとまるで深い水底のような暗い何かをその目に見たような気がした。

 なんて悲しい目。それは、私に行かないでほしいってこと? でも、そういうわけにはいかないのよね、きっと。

 私と会わなかったのは、このことを言うのが怖かったから?

 全ては想像でしかないけれど、きっとジンテール王子は私を戦地に送ることを良くは思ってないわよね。

 私も行きたくはないけど、でも行かないといけないようなそんな気がするし……。
 
 この場合、素直に従った方が国交のためにもなるのだろうか?
 
 私は面倒なことになったと思いながらも、ジンテール王子の意思に従って手を上げようとする——けど、そこでグクイエ王子が立ち上がった。

「ケイラ、行かなくてもいいよ、そんなの。キウイ王国がどうなったっていいじゃないか。うちを襲った国をわざわざ助けに行く必要なんてないよ」

 グクイエ王子はそう言うけど、なんとなくモヤモヤした私は静かにかぶりを振った。

「けど、放っておけばグレープ王国にだって何があるかわからないわけだし、見過ごすわけには行かないと思うよ? またこの国が侵攻されたらと思うと私も嫌だもの」

「それって、ケイラはもう行くことを決めてるってこと?」

「私にしかどうにかできないなら、どうにかするしかないじゃない」

「他の国の聖女だっているんだし、何もケイラが行かなくても——」

「グクイエ」

 グクイエ王子の言葉を、ジンテール王子が遮った。その顔はとても怖い顔をしていて、いつものジンテール王子とは違っていた。

 そしてグクイエ王子もそんなジンテール王子の形相に驚いた顔をしていて、困惑気味に目をうろうろさせていた。

 けど、グクイエ王子は何かを覚悟したように告げる。

「ケイラが行くなら、僕も行く」

「何を言ってるんだ、お前は」

「だって、ケイラはこの国を救ってくれた恩人だよ? こんな時に助けなくて、誰が助けるんだよ」

「ダメだ。お前はこの国の大事な王子だろう」

「王子なら兄さんがいるじゃないか」

「だが、俺は——いや、俺よりもお前に何かあっては困るんだ」

「どうして? 俺は王位を継がないし、これまでも戦場に行くことだってあったよね?」

「だが、今回はお前が思っている以上に危険な状態なんだ。そんなところにお前をやるわけにはいかない」

「そんな危険なところに彼女を送りこむつもりなの? 兄さんは平気なの?」

 私が思っていることを、いつの間にかグクイエ王子がジンテール王子に訊ねていた。

 そこは私も聞きたいと思っていたところなのよね。ジンテール王子も私を行かせたくないと思ってくれていると思うけど……。

 などと考えてモヤモヤしていると、ジンテール王子はいつになく冷酷な目で静かに答えた。

「ああ。この場合、ケイラを行かせるべきだと俺は思っている。運命に抗うことはできないからな」

「それってどういう意味? 兄さんが何を言っているのかわからないよ」

 グクイエ王子の言葉に、ジンテール王子は目を閉じてため息を落とす。そして誰にも聞こえないような声で小さく落とした。

「たとえケイラが全てを知って俺から離れたとしても、それも運命だ——」

 けど、私って地獄耳だから、その言葉を完全に拾っていた。

 ジンテール王子が言う意味は私にもわからなかったけど——ジンテール王子が私から離れたがっていることはなんとなくわかった。





 ***





 結局、キウイ王国の魔王の元に、刺客として送り込まれる私は、出発の日までなんとなくぼんやりとした日々を送っていた。

 本当ならカエルのルーも連れて行きたいところだけど、存在感が大きすぎて連れていけないらしい。

 予定としては、見つからないよう魔王の元に忍び寄らなくてはいけないのだとか。そんな暗殺者みたいなこと、本当にできるかわからないけど、行くしかないと思っていた。

 ジンテール王子に言われたからじゃない。なんとなく行かなきゃいけないような気がしていたから。

 自分でも不思議な感覚だけど、行きたくないのに、今すぐにでも行かなきゃいけないような気がしていた。

 ゴォフにそのことを話したら、それは物語の強制力だと言われたけど——それってどういう意味なんだろう。

 でもゴォフも世話役として一緒に行ってくれるし、きっと大丈夫よね?

 ただ、私が素直に行くと言う中、グクイエ王子だけは今も反対していて。なぜかすごく怒っている彼は、ジンテール王子とは口も聞かないという。

 こんなケンカは初めてだとリビが言っていたけど、このまま放っておくのも良くないわよね。

 だから——キウイ王国に出発の前日、私は挨拶がてらゴリラン大司教の元を訪ねた。

 大司教なら、魔王をどうやって倒せばいいか教えてくれるに違いないと思うし、ついでにジンテール王子やグクイエ王子のことも頼むつもりだった。


しおりを挟む
感想 101

あなたにおすすめの小説

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

異世界もふもふ死にかけライフ☆異世界転移して毛玉な呪いにかけられたら、凶相騎士団長様に拾われました。

和島逆
恋愛
社会人一年目、休日の山登り中に事故に遭った私は、気づけばひとり見知らぬ森の中にいた。そしてなぜか、姿がもふもふな小動物に変わっていて……? しかも早速モンスターっぽい何かに襲われて死にかけてるし! 危ういところを助けてくれたのは、大剣をたずさえた無愛想な大男。 彼の緋色の瞳は、どうやらこの世界では凶相と言われるらしい。でもでも、地位は高い騎士団長様。 頼む騎士様、どうか私を保護してください! あれ、でもこの人なんか怖くない? 心臓がバクバクして止まらないし、なんなら息も苦しいし……? どうやら私は恐怖耐性のなさすぎる聖獣に変身してしまったらしい。いや恐怖だけで死ぬってどんだけよ! 人間に戻るためには騎士団長の助けを借りるしかない。でも騎士団長の側にいると死にかける! ……うん、詰んだ。 ★「小説家になろう」先行投稿中です★

【完結】夜会で借り物競争をしたら、イケメン王子に借りられました。

櫻野くるみ
恋愛
公爵令嬢のセラフィーナには生まれつき前世の記憶があったが、覚えているのはくだらないことばかり。 そのどうでもいい知識が一番重宝されるのが、余興好きの国王が主催する夜会だった。 毎年余興の企画を頼まれるセラフィーナが今回提案したのは、なんと「借り物競争」。 もちろん生まれて初めての借り物競争に参加をする貴族たちだったが、夜会は大いに盛り上がり……。 気付けばセラフィーナはイケメン王太子、アレクシスに借りられて、共にゴールにたどり着いていた。 果たしてアレクシスの引いたカードに書かれていた内容とは? 意味もなく異世界転生したセラフィーナが、特に使命や運命に翻弄されることもなく、王太子と結ばれるお話。 とにかくツッコミどころ満載のゆるい、ハッピーエンドの短編なので、気軽に読んでいただければ嬉しいです。 完結しました。 小説家になろう様にも投稿しています。 小説家になろう様への投稿時から、タイトルを『借り物(人)競争』からただの『借り物競争』へ変更いたしました。

『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』

透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。 「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」 そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが! 突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!? 気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態! けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で―― 「なんて可憐な子なんだ……!」 ……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!? これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!? ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

猫に転生したらご主人様に溺愛されるようになりました

あべ鈴峰
恋愛
気がつけば 異世界転生。 どんな風に生まれ変わったのかと期待したのに なぜか猫に転生。 人間でなかったのは残念だが、それでも構わないと気持ちを切り替えて猫ライフを満喫しようとした。しかし、転生先は森の中、食べ物も満足に食べてず、寂しさと飢えでなげやりに なって居るところに 物音が。

処理中です...