アンチ悪役令嬢の私がなぜか異世界転生して変人王子に溺愛される話

悠木全(#zen)

文字の大きさ
27 / 80
第二章

27.他国の聖女というポジション

しおりを挟む


 タナカの息子を撃退して以来、ジンテール王子は私の部屋に全く近づかなくなった。

 あの日はあんなに怒っていたし、私のことを想ってくれているとばかり思っていたけど——私の勘違いだったみたい。

 ジンテール王子とは城の中で会うこともなくなって、不安ばかりが募る一方だった。

 ていうか、私って恋人じゃなかったの? あんなに色んな場所へ連れていってくれたりしたのに、今では顔すらまともに見ないなんて。

 それとも私は飽きられてしまったのだろうか? 

 あなたにとって私は面白い生き物じゃなくなったのね、きっと。

 そんな風に悶々とする日々が続くもの、私は聖女アコリーヌの日記を読むことで、なんとか気を紛らわせていた。

 けど、理由もなく顔を合わせないジンテール王子に痺れを切らした私は、とうとう自分から会いに行った。

 ————それなのに!

 執務官のタナカが会わせてはくれなかった。

 ……ああ、やっぱり、ジンテール王子は私に対して興味を失ったんだ。

 なんて思いながら自室の前でため息をついていると、グクイエ王子に遭遇する。

 相変わらず童顔のグクイエ王子は、企むような笑みを浮かべて私に声をかけてきた。

「どうしたの? こんなところで。あ! もしかして、兄さんに振られたとか?」

「……はあ」

「え? 嘘? 本当に?」

 私の反応が意外だったらしい。冗談のつもりで言ったようだけど、あながち嘘ではないかもしれないので、私はため息しか出なかった。

 するとグクイエ王子は慌てて取り繕うように言った。

「に、兄さんはしつこい性格だから、ケイラから興味を失うなんてあり得ないと思うよ?」

「正確には、〝面白い生き物〟ですけどね。気を遣わなくていいわよ。こんな日が来るような気がしてたし」

「でも、恋文をもらって恋人になったんでしょ? 兄さんが恋文を渡すなんてこれまで一度もなかったし、ましてや他国の聖女に手紙を渡すなんて、簡単な覚悟じゃなかったと思うんだけど」

「ん? 他国の聖女? ——ちょっと待って、私聖女なの?」

「そうなんでしょ? キウイ王国の聖女がそう言ってたし」

「じゃあ、なんで私は聖女の棲む神殿には行かないの? 聖女って聖域でしか長生きできないんじゃないの?」

 ——って、アコリーヌの日記には書いていたけど、時代の流れで変わったとかじゃないわよね?

「そんなこと、よく知ってるね。そうだよ。だから兄さんはこの城に結界を張って、ケイラが過ごしやすいようにしてあるんだよ」

「え? そうなの?」

「だから言ったじゃん。聖女に恋文を渡すのは、覚悟がいるって。ずっと一緒にいるために、兄さんは魔力を消耗し続けているんだよ」

「そうなんだ……」

「ちょ、ちょっと! 泣かないでよ」

「え?」

 気づくと私は、自分でも知らないうちに涙を落としていた。きっとジンテール王子のことが信じられなくなっていたんだと思う。

 けど、グクイエ王子の話を聞いて、少しくらいは愛されていることがわかった。

 でなければ、私みたいな面倒くさい女を城に置くはずがないものね。

 だったら、どうして私のことを無視するんだろう。私が何かしたのだろうか?

 それとも、やっぱりタナカの息子に触られたことが気になるとか? 意外と潔癖そうだしね。

 私があれこれ考え込んでいると、グクイエ王子は咳払いをして告げる。

「……兄さんが何をしたのか知らないけど、あの人はマイペースだから、深く考えない方がいいよ」

「グクイエ殿下……慰めてくれるの?」

 そう言ってグクエイ王子は私の目元をそっと拭うと、優しい笑みで見下ろした。

「ケイラはやっぱり、笑っている方が面白いよ」

「そこは可愛いでしょ」

「はは」

「——でもありがとう。おかげで安心したわ」 

「それは良かった。でももし、兄さんに振られるようなことがあれば——」

「え?」 

 グクイエ王子は何か言おうとして、言葉を飲み込んだ。そして困ったような笑みを浮かべた。

「ううん。なんでもない。噂をすればほら——兄さんが来たよ」

 言われて、私は振り返る。

 すると、そこには確かにジンテール王子がいて、相変わらず不遜な態度で立っていた。

「——ケイラ」 

 こうやって会うのは半月ぶりだった。

 なんの予告もなく私の部屋にやってきたジンテール王子を見て、私はまた泣きそうになる。

 ジンテール王子に会えることがこんなに嬉しいなんて、自分でも思わなかった。

 あまり多くは語らない人、だけど優しい人だということは知っている。

 だって、いつも私が言った些細なことにも笑わずに答えてくれるんだから。そんな人が私を忘れたりするわけないし、きっと会えない事情があったんだ。

 久しぶりの再会に胸を高鳴らせる中、ジンテール王子は淡々と告げた。

「ケイラ、執務室に来てほしい」

「え? どういうこと」

 私が目を白黒させているのを見て、グクイエ王子が口を挟んだ。

「兄さん、恋人に対してそんな怖い顔しちゃダメだよ」

「グクイエ、お前も来るんだ」

「え? 何?」

「大切な話がある」

 そのジンテール王子の真剣な顔つきに、私とグクイエ王子は顔を見合わせた。


 
しおりを挟む
感想 101

あなたにおすすめの小説

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

異世界もふもふ死にかけライフ☆異世界転移して毛玉な呪いにかけられたら、凶相騎士団長様に拾われました。

和島逆
恋愛
社会人一年目、休日の山登り中に事故に遭った私は、気づけばひとり見知らぬ森の中にいた。そしてなぜか、姿がもふもふな小動物に変わっていて……? しかも早速モンスターっぽい何かに襲われて死にかけてるし! 危ういところを助けてくれたのは、大剣をたずさえた無愛想な大男。 彼の緋色の瞳は、どうやらこの世界では凶相と言われるらしい。でもでも、地位は高い騎士団長様。 頼む騎士様、どうか私を保護してください! あれ、でもこの人なんか怖くない? 心臓がバクバクして止まらないし、なんなら息も苦しいし……? どうやら私は恐怖耐性のなさすぎる聖獣に変身してしまったらしい。いや恐怖だけで死ぬってどんだけよ! 人間に戻るためには騎士団長の助けを借りるしかない。でも騎士団長の側にいると死にかける! ……うん、詰んだ。 ★「小説家になろう」先行投稿中です★

【完結】夜会で借り物競争をしたら、イケメン王子に借りられました。

櫻野くるみ
恋愛
公爵令嬢のセラフィーナには生まれつき前世の記憶があったが、覚えているのはくだらないことばかり。 そのどうでもいい知識が一番重宝されるのが、余興好きの国王が主催する夜会だった。 毎年余興の企画を頼まれるセラフィーナが今回提案したのは、なんと「借り物競争」。 もちろん生まれて初めての借り物競争に参加をする貴族たちだったが、夜会は大いに盛り上がり……。 気付けばセラフィーナはイケメン王太子、アレクシスに借りられて、共にゴールにたどり着いていた。 果たしてアレクシスの引いたカードに書かれていた内容とは? 意味もなく異世界転生したセラフィーナが、特に使命や運命に翻弄されることもなく、王太子と結ばれるお話。 とにかくツッコミどころ満載のゆるい、ハッピーエンドの短編なので、気軽に読んでいただければ嬉しいです。 完結しました。 小説家になろう様にも投稿しています。 小説家になろう様への投稿時から、タイトルを『借り物(人)競争』からただの『借り物競争』へ変更いたしました。

『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』

透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。 「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」 そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが! 突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!? 気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態! けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で―― 「なんて可憐な子なんだ……!」 ……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!? これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!? ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

猫に転生したらご主人様に溺愛されるようになりました

あべ鈴峰
恋愛
気がつけば 異世界転生。 どんな風に生まれ変わったのかと期待したのに なぜか猫に転生。 人間でなかったのは残念だが、それでも構わないと気持ちを切り替えて猫ライフを満喫しようとした。しかし、転生先は森の中、食べ物も満足に食べてず、寂しさと飢えでなげやりに なって居るところに 物音が。

処理中です...