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第二章
33.物語の食い違い
しおりを挟む「あのさ……ケイラの護衛を森の中に捨ててきたわけだし、この先は僕が護衛をしてもいいかな?」
向かいの椅子に座ったグクイエ王子が、覚悟を決めた様子で告げた。
そのまっすぐな目に、ちょっとだけ気圧される感じがしたけど、私も負けじと強い目で見返す。
「それって……私の遠征について来るってこと?」
「うん」
「それはダメ。仮にもあなたは一国の王子様でしょう?」
「けど、大切な大聖女に何かあれば、それこそ一大事だから」
「……はあ」
確かにこの先、キウイ王国に行くまでに何かあれば、それは大変なことだろう。
本来なら、盗賊なんて私の歌で撃退したいところだけど、それじゃあ目立つことこの上ないし……そのために護衛をつけてもらったはずだった。
けど、ジンテール王子がつけてくれた護衛は使い物にならないどころか、私に刃を向けた。
そもそもなんで兎村を私につけたのか、ジンテール王子の考えがよくわからないんだけど。
……きっと何か事情があったに違いない。
私が色々考えていると、そのうちグクイエ王子が痺れを切らしたように畳み掛けた。
「ぼ、僕は——ケイラがなんと言おうとついていくから!」
「はあ!?」
「じゃあ、そういうことで、明日も早いからおやすみなさい!」
そう言って、グクイエ王子は部屋を出て行った。その時、入れ替わりで部屋に入ってきたゴォフが不思議そうな顔をして私の元にやってくる。
「大きな声が聞こえましたが、どうかなさいましたか?」
「それが、グクイエ殿下がついてくるって言うのよ」
「なるほど。これも物語の強制力でしょうか」
「どういうこと? また強制力って——」
「ケイラ様の本来のお相手の話をしたでしょう?」
「私がジンテール殿下じゃなくて、別の相手に助けられるはずだったって話?」
「そうです。小説内では隣国の王子という表現でしたが、その容姿はジンテール殿下ではなく、グクイエ殿下のようでした」
「……そういうこと?」
私はなんとなく納得して、ため息をこぼした。
最近やたらグクイエ王子が絡んでくるのは、そのせいなのね? 物語で決まっていることだから? じゃあ、私のこの気持ちもそのうち変わってしまうということなの?
「物語の強制力って、どれくらい力があるの? 抗えないの?」
「そうですね。自分の運命を捻じ曲げることは容易ではないかと」
「容易じゃないっていうことは、抜け道があるってことね?」
「前例がないので、なんとも言えませんが。いや、すでに運命の輪から外れているケイラ様なので、物語の外であれば可能ではないでしょうか?」
「物語の外……つまり、この小説で描かれていない部分でなら、自由にできるってことね? そのためには本筋のストーリーを知らなければいけないけど、本筋のストーリーってどうなってんの? グクイエ殿下とはどこで会うの?」
「グクイエ殿下とは、舞踏会で会うはずでした……が、そういえば」
「今度は何?」
「グクイエ殿下が第一王子だったはずです。名前こそ出てきませんでしたが、容姿も性格も一致していますし」
「どういうこと?」
「そうです。すっかり忘れておりました。どうしてでしょうか。こんな大切なことを見落とすなんて——」
「じゃあ、最初から運命はおかしな方向にまわっていたってことなのね?」
キウイ王国の王子に婚約破棄をつきつけられた時、私を助けようとしたのは確かにジンテール王子だった。
けど、それが実はグクイエ王子のはずだったって?
でもグレープ王国につれてきてくれたのはジンテール王子だったし、婚約破棄の場にグクイエ王子はいなかった。それどころか、第一王子がグクイエ王子だなんて——。
どういうことかしら? なんだか嫌な予感がするけど、私はその不安から目を逸らして、窓の外を見た。窓の外には、日本でいう月に似た星のようなものが浮かんでいた。
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