アンチ悪役令嬢の私がなぜか異世界転生して変人王子に溺愛される話

悠木全(#zen)

文字の大きさ
34 / 80
第二章

34.聖女のお出迎え

しおりを挟む


 ————翌朝。

 結局、意地でもついて行くと言ってきかないグクイエ王子に折れて、護衛をお願いすることになった。

 グクイエ王子が怪我でもしたらどうしようかと思ったけど、なぜか不思議なほど旅は落ち着いていた。まるで誰かに守られているような——まさかね。

 そして商人夫婦のふりをして国境の検問を通過した私たちは、キウイ王国の城下町に入った。

 キウイ王国は思っていたほど荒んだ様子はなくて、魔王に乗っ取られた感じもなかった。

 てっきり、もっと建物が崩れていたり、人が避難しているかと思ったけど、まるで何もないみたいに屋台が出ているし、ちっとも魔王に乗っ取られているようには見えなかった。

「グクイエ殿下……いえ、クイエさん。この国は本当に魔王の支配下にあるの?」

 表向き商人夫婦とその護衛という設定なので、グクイエ王子のことはクイエと呼んでいた。呼び慣れていないから、なんだか言いにくいけど。

「ああ、キウイ国王から受け取った書簡には、そう書いてあったけど……どうなんだろう。表向きは何もないように見えるね」

「ちょっと聞き込みしてみようかしら?」

「それよりも、この国の聖女と合流して確認した方がいい。下手に動いて、怪しまれても困るし」

「……わかった」

「それで、この国の聖女とはどこで落ちあう予定なの?」

 グクイエ王子の問いに、ゴォフが代わりに答えた。

「街の外れに、オットーという大衆酒場があるはずです。そこで合言葉を言えば聖女と合流できます」

「え? 合言葉が必要なの? 合言葉って何よ。初耳なんだけど」

「護衛さんが何者かわからない以上、言うのを控えていたんです」

「ゴォフは護衛の正体がラビットソンだって知ってたの?」

「いえ、ラビットソン様とは存じ上げませんでしたが、何か嫌な予感がしましたので」

「ふうん。本当は知ってたんじゃないの?」

 私がうろんげな目を向ける中、グクイエ王子が口を挟む。

「それより、合言葉って何?」

「向こうが『ここは相変わらず寒いな』と言ったら、『白い女神が降り立つのも間近だから』と答えればいいんです」

「白い女神?」

「雪を降らせる女神のことですよ。ケイラ様はご存じありませんか?」

「うん、知らないわ。ケイラから受け継いだ知識にはないみたいだけど……」

「そうですか」

「ケイラから受け継いだ?」

 ふいに、グクイエ王子がうさぎのような目を細めて私を見る。

 どうやら、私の『受け継いだ』という言葉が引っかかったらしい。

 けど、異世界転生とか説明するのも大変だし、混乱を招いても困るよね……?

 なんて言って誤魔化せばいいんだろう。

 密かに私が狼狽える中、ゴォフが落ち着いた声で告げる。

「ケイラ様の教育係の先生がケイラ様と同じ名前だったんですよ。だから正確には、ケイラ先生から受け継いだ知識です」

「なるほど、ケイラの先生がケイラという名前だったんだね」

 グクイエ王子はニコニコしながら頷いていたけど、納得していない顔にしか見えなかった。ジンテール王子と違って、グクイエ王子はわかりやすいから。

 でも私も上手く誤魔化す方法が思いつかなくて、ゴォフの話に合わせるしかなかった。

「実はそうなのよ。ケイラ先生から教わってなかったから、不思議に思って」

「へぇ、そうなんだ」

 胡散臭い顔で笑うグクイエ王子は、ジンテール王子に少しだけ似ていた。

 嘘をつくのが苦手な私は、滝のように汗をかくけど、そのうちゴォフが私とグクイエ王子の間に入って言った。

「ほら! そろそろ街に入りましたし、馬車を降りましょう。街中でこんな豪華な馬車は目立ちますから、徒歩で街外れに行きましょう!」

「そうね。早く聖女たちと合流しましょう」

 私が両手を合わせて告げると、ゴォフが合図して馬車を止めた。するとグクイエ王子は諦めたようにため息を吐いて、馬車を降りた。

 それから大衆酒場オットーの看板を発見した私たちは、木造二階建ての大きな酒場にあるスイングドアを恐る恐る開いた。

 中はスキンヘッドの男たちや筋肉質な傭兵が酒盛りをしていて、なんだか場違いな感じがしたけど、とりあえずゴォフを先頭にしてカウンターに向かった。

 カウンターに立っているおじさんは、顔じゅう傷だらけの、いかにも歴戦の勇士という風貌で、なんとなく怖い感じがした。

 私が周囲を見てビクビクしながらゴォフの肩を押さえていると、そのうちカウンターの怖いおじさんが口を開く。

「ここは相変わらず寒いですか?」

 その言葉に、ゴォフはすかさず答える。

「——ちろい女神が降りたちゅのも間近だきゃら!」

 鎮まりかえる大衆酒場。

 なんでこんな大事な時に噛むのかな?

 周りの屈強な男たちが立ち上がるのを見て、私はアワアワしてしまう。

 やっぱり、噛んだのはよくなかったわよね? 

 ゴォフがいざという時に弱いのはわかった。

「大丈夫、何かあっても僕が守るから」

 私が怯えていることに気づいたグクイエ王子が、小さく告げた。

 けど、どう見たって、周りのおじさんたちの方が強そうだし、グクイエ王子一人で勝てるとは思わないんだけど……。

 私が青ざめる中、カウンターの一番猛者っぽいおじさんは大きな声で笑う。

「あっはっは! ようこそお越しなすった。お待ちしてましたよ」

 猛者のおじさんはウィンクすると、私たちについてくるように促した。

 私たちはこわごわといった感じでついて行くと、猛者のおじさんが裏戸に案内してくれた。

 そして扉を開けると、そこには聖女メラニンがいて、にこやかに出迎えてくれたのだった。

しおりを挟む
感想 101

あなたにおすすめの小説

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

異世界もふもふ死にかけライフ☆異世界転移して毛玉な呪いにかけられたら、凶相騎士団長様に拾われました。

和島逆
恋愛
社会人一年目、休日の山登り中に事故に遭った私は、気づけばひとり見知らぬ森の中にいた。そしてなぜか、姿がもふもふな小動物に変わっていて……? しかも早速モンスターっぽい何かに襲われて死にかけてるし! 危ういところを助けてくれたのは、大剣をたずさえた無愛想な大男。 彼の緋色の瞳は、どうやらこの世界では凶相と言われるらしい。でもでも、地位は高い騎士団長様。 頼む騎士様、どうか私を保護してください! あれ、でもこの人なんか怖くない? 心臓がバクバクして止まらないし、なんなら息も苦しいし……? どうやら私は恐怖耐性のなさすぎる聖獣に変身してしまったらしい。いや恐怖だけで死ぬってどんだけよ! 人間に戻るためには騎士団長の助けを借りるしかない。でも騎士団長の側にいると死にかける! ……うん、詰んだ。 ★「小説家になろう」先行投稿中です★

【完結】夜会で借り物競争をしたら、イケメン王子に借りられました。

櫻野くるみ
恋愛
公爵令嬢のセラフィーナには生まれつき前世の記憶があったが、覚えているのはくだらないことばかり。 そのどうでもいい知識が一番重宝されるのが、余興好きの国王が主催する夜会だった。 毎年余興の企画を頼まれるセラフィーナが今回提案したのは、なんと「借り物競争」。 もちろん生まれて初めての借り物競争に参加をする貴族たちだったが、夜会は大いに盛り上がり……。 気付けばセラフィーナはイケメン王太子、アレクシスに借りられて、共にゴールにたどり着いていた。 果たしてアレクシスの引いたカードに書かれていた内容とは? 意味もなく異世界転生したセラフィーナが、特に使命や運命に翻弄されることもなく、王太子と結ばれるお話。 とにかくツッコミどころ満載のゆるい、ハッピーエンドの短編なので、気軽に読んでいただければ嬉しいです。 完結しました。 小説家になろう様にも投稿しています。 小説家になろう様への投稿時から、タイトルを『借り物(人)競争』からただの『借り物競争』へ変更いたしました。

『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』

透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。 「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」 そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが! 突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!? 気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態! けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で―― 「なんて可憐な子なんだ……!」 ……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!? これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!? ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

猫に転生したらご主人様に溺愛されるようになりました

あべ鈴峰
恋愛
気がつけば 異世界転生。 どんな風に生まれ変わったのかと期待したのに なぜか猫に転生。 人間でなかったのは残念だが、それでも構わないと気持ちを切り替えて猫ライフを満喫しようとした。しかし、転生先は森の中、食べ物も満足に食べてず、寂しさと飢えでなげやりに なって居るところに 物音が。

処理中です...